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冒険者の試験

第19話 補助役の重要性

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「――あれ、ここは……」


レノは目を覚ますと自分の部屋ではなく、学園の医療室である事に気が付く。時間帯はどうやら深夜らしく、自分がどうしてこんな場所にいるのかを思い出す。


「ああ、そうだ。思い出した……試験が終わったのか」


色々と大変な目に遭ったがレノは自分が試験をやり通せたことを思い出して安堵し、試験の結果は生徒が全員戻るまでは発表されないので分からないが、とりあえずは安全な場所に戻ってきた事に安堵する。

王都に帰還したのは朝方だったが昨晩は碌に眠れなかったせいで半日以上も眠ってしまったらしい。ベッドを見渡してもレノ以外の人間は眠っておらず、同行していた第二学園の生徒の姿もない。


(あいつらはいないのか。自分達の学園の方に送られたのかな)


第一学園の生徒であるレノだけが第一学園の医療室に送り込まれた可能性が高く、昨日までは共に行動していた第二学園の生徒がいない事に気付いた彼は妙な気分を抱く。


(あいつら……意外と良い奴等だったな)


最初のうちはレノは第二学園の生徒の補助役を任される事に嫌気を差していたが、実際に他の人間と行動して分かった事がある。補助役は想像以上に難しく、決して簡単な仕事ではない。

レノは心の何処かで他人の補助など簡単にできると思っていた。実際に今回の試験ではレノの活躍が大きく、もしもダン達だけが行動していたら魔物に殺されていた可能性が高い。しかし、試験の時はレノも危うい場面があった。


(補助役があんなに大変だなんて思いもしなかったな。隠すつもりだったはずの戦闘法まで全部使い切ったし……)


ダン達と行動を共にする間、レノは彼等が危険な目に遭わないように立ち回った。魔物に襲われた時は真っ先に助けだし、それ以外の場面でも色々と世話を行う。初めて他の人間の補助を行った事で色々と苦労させられた。


「……補助役をやっている人間はこんな大変な思いをしているのか」


世の中の収納魔術師の殆どは他の人間の支援に立ち回る事が多く、初めて補助を経験した今だからこそレノは彼等の大変さを理解した。他人の補助を行うだけの人生など冗談ではないと思ったが、実際に体験すると彼等の苦労が嫌でも分かる。

収納魔術師は「支援職」であり、他の人間の支援を行う事で本領を発揮する。彼等がいるのといないのでは大きな差があり、収納魔術師は支援に徹する事で他の人間の負担は減る。その代わりに収納魔術師の負担は大きくなるので補助役の仕事も決して楽ではない。


(俺、勘違いしていた。収納魔術師は補助役しかできないんじゃない……支援に最も優れた職業なんだ)


自分が補助役になった事でレノは収納魔術師が任される仕事の苦労さを理解し、どうして攻撃魔法が覚えられないの収納魔術師の評価が高いのか理由が分かった。彼等は補助しかできないのではなく、あくまでも補助に特化した職業なのだと知る。


「……でも、俺は違う」


補助役がどれほど大変で重要な仕事なのか理解したレノだったが、それでも彼は夢を諦めて支援職として生きていくつもりはない。レノが目指すのは魔術師にとっては最高の称号である「大魔導士」になるため、彼は戦う道を選ぶ。

他の人間の支援に専念して生きていく道ではなく、自分の力で戦って生きていく道を選ぶ。そうしなければレノは大魔導士にはなれず、彼は改めて誓う。


「俺は必ず大魔導士になってみせる……だから、それまでは待っててよ婆ちゃん」


レノは祖母と別れてから5年も経過しており、大魔導士になるまでは祖母の元へ訪れるつもりはなかった――





――同時刻、学園長のイーシャンの元にとある人物が訪れていた。その人物はレノと同じく黒髪の女性で年齢は70代前半の老婆だった。彼女はイーシャンと向き合う形で座り、机の上には酒とグラスが置かれていた。


「くぅ~……やっぱり都会の酒は違うね、あたしがいつも飲んでいる酒とは全然違うね」
「……久しぶりに会いに来たと思ったら酒が目的か?相変わらずだな


イーシャンの元に訪れたのはレノの祖母であるマリアという名前の老婆だった。実はマリアはイーシャンとは子供の頃からの付き合いであり、年に数回彼の元に訪れていた。


「それにしても本当にうちの孫が冒険者になるとはね。昔のあの子は弱虫ですぐに泣く子供だったのに……随分とたくましくなったね」
「そうなのか?ダガンによれば昔から人一倍努力家で根性のある少年だと聞いていたが……」
「そいつは本当かい?やれやれ、子供ってのは親が見ていない所で育つもんなのかね……」


マリアはレノの祖母だが早くに両親を失った彼の育て親でもある。自分が傍に居た時のレノは今とは違って甘えん坊ですぐに泣く子供だったが、彼女の傍から離れて色々と経験を積んだ事でたくましく育った。


「それにしてもまさかお前の孫が儂の学園に訪れる日が来るとは夢にも思わんかったな」
「あたしだってレノがまさか本当に冒険者になるために王都まで来るとは思わなかったよ。荷物運びの仕事をして日銭を稼いでいる噂は聞いていたんだけどね……それがまさか冒険者になるための資金稼ぎだなんて夢にも思わなかったよ」


イーシャンはマリアからレノの話を聞いていたため、まさか自分の学園に彼が訪れた時は心底驚いた。マリアもレノが出て行った後も彼の動向は把握していたが、まさか知り合いが経営する教育施設に自分の孫が入るとは夢にも思わなかったという。

レノは知らなかったがマリアは彼が出て行った後も彼を心配していた。子供のレノがあっさりと荷物運びの仕事に就けたのは実は裏からマリアが手助けしてやり、彼女が若い頃に世話を見てやった人間が商人になっていたので彼に事情を話してレノに雇ってもらう。

大魔導士になると言い出して出て行った孫を心配して彼の能力に合わせた仕事を与え、しばらくの間はレノは真面目に働いてると知って安心した。もう大魔導士になるなどという夢を諦めて自分の能力に最適な仕事に就いて生きていくのかと思った時、いきなりにレノが仕事を辞めて冒険者になるために王都へ向かったと聞いた時は驚いた。


「お前さん、本当にレノと会うつもりはないのか?」
「会えるわけないだろう。あの子は大魔導士になるとあたしに言い張ったんだ。その言葉を果たすまではあの子はあたしに会いにくるつもりはないだろうね」
「しかし、収納魔導士が大魔導士になったという前例はないぞ」
「前例がないから何だってんだい?あの子は私の孫なんだよ、必ず夢を果たしてみせるさ」
「……ふっ、そういえばそうだったな。あの子の意志の硬さはお前譲りったわけか」


マリアの事を昔からよく知っているイーシャンは彼女が一度決めた事は決して諦めずにやり遂げる事を知っており、そんな彼女の孫であるレノならば大魔導士になるという夢を果たせるかもしれないと思う。


「しかし、これからあの子は大変な目に遭うぞ」
「分かってるよ。あんたの話を聞く限り、あの子はもうただの収納魔術師ではない事は知られたんだね」
「すまない……せめて卒業までは隠し通すつもりだったが、儂の力が足らんかった」
「何を言ってんだい、あんたは良くやってくれたさ。ここからはあの子次第さ……」


今までレノは実力ちからを隠して生きてきた。しかし、先の試験でレノの秘密は知られてしまい、必ずやレノの力を利用しようとする人間やあるいは暴こうとする人間が現れる。そんな者達から上手く切り抜けなければレノに未来はない。


(何があろうと挫けるんじゃないよ。あんたは私の孫だ……だから大丈夫さ)


今は会えないがマリアはどんなに遠くにいてもレノを愛しており、彼が夢を果たす日を心待ちにしていた――
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