上 下
7 / 53
少年の過去 《冒険者養成学園》

第7話 攻撃法「黒射」

しおりを挟む
「黒射」と名付けた攻撃法を思いついてからしばらくの時が経過し、練習を繰り返す事で黒射の性質をレノは理解する。


「こいつは魔法を解除するタイミングが重要だな……」


夜間にレノは学生寮を抜け出し、誰もいない訓練場で密かに練習を行う。今はまだ他の人間に自分が収納魔法を利用した新しい攻撃法を思いついた事を知られたくはなく、誰もいない時間帯を狙ってレノは黒射の練習を行う。


(今はまだ他の奴等にこの魔法ちからを知られるわけにはいかない……)


黒射を完璧に使いこなすまでは他の人間に知られる事は避けなければならず、レノは自分が納得するまでは隠す事にした。いずれは人前で黒射を扱う日も来るかもしれないが、それはまだ先の話である。

既にレノが入学してから一年が過ぎており、二年後には冒険者になるための試験を受ける。試験に受ける日までにレノは黒射を実戦で使えるレベルまで極める必要があった。


「まずはこの距離からだな」


10メートルほど離れた距離にレノは木造人形を設置すると、右手で黒渦を作り出して狙いを定める。レノは事前に異空間に本物の短剣を収納し、木造人形に向けて掌を構えた。


「当たれっ!!」


黒渦から短剣の剣先だけを出現させると、木造人形に狙いを定めてレノは収納魔法を解除した。黒渦の中から短剣が飛び出し、木造人形の胸元に突き刺さった。


「うん、これぐらいの距離なら当てられるようになったな」


10メートルは離れていても短剣程度の大きさの武器ならば黒射で狙い撃ちができるようになり、木造人形の胸元に突き刺さった短剣の回収を行う。短剣の刃が深々と突き刺さっており、もしも生身の人間に使用したら確実に心臓を突き刺せる。

相手がただの人間ならば十分な威力だが、魔物の中には岩石のように硬い肉体を持つ種も存在する。そんな相手と戦うのであれば今のレノの黒射は明らかに威力不足だった。


「もっと早く撃てるように練習しないとな……」


冒険者になるまでにレノは黒射を極め、魔物にも対抗できるだけの攻撃速度と威力を上昇させるために地道に練習を続ける――





――入学してから二年目を迎えると訓練の内容も変化し、本格的に実戦形式の訓練も行われるようになった。冒険者は魔物との戦闘以外にも盗賊などの討伐や護衛の仕事を任せられる事もあり、対人戦の技術を教えられる。


「やああっ!!」
「甘い!!足元が隙だらけだぞ!!」
「うわっ!?」


魔術師であろうと生徒であるならば訓練に参加させられ、毎日のようにレノは教師や他の生徒を相手に素手で戦わされた。最初のうちは武器には頼らずに戦う術を教えられ、実戦に慣れてきた生徒から武器の使用を許可される。


「どうした!!俺はまだ本気じゃないぞ、早く立てっ!!」
「くそっ……まだまだ!!」
「根性だけは一人前だな!!だが、気合だけではどうしようもならんぞ!!」
「ぐふぅっ!?」


レノの相手を勤める教師は名前は「ダガン」と言い、身長が2メートル近くもあり、筋骨隆々の体型でとてもレノが勝てる相手ではない。訓練が始まってから未だにレノはダガンに一撃を喰らわせた事はなく、いつも一方的に痛めつけられていた。


「魔術師だからと言って身体を鍛える必要はないなどという甘い考えは捨てろ!!冒険者ならば自分の身を守れるぐらいの力は身に着けておけ!!そうしないと魔法が使えない状況に追い込まれた時に何もできなくなるからな!!」
「先生!!レノ君は収納魔術師だから魔法なんか使えませんよ~!!」
「おっと、それもそうだったな」
「はあっ、はあっ……」


ダガンは訓練の際は他の生徒よりもレノを集中的に扱き、彼がダガンのしている間は他の生徒は休めるので茶々を飛ばす輩もいた。教師でありながらダガンはレノをからかう生徒に注意もしない。


(ちくしょう、完全に舐められてるな……こんな時に黒射が使えれば)


散々にダガンに痛めつけられたレノは悔しい思いを抱き、もしも黒射を使用すればダガンを倒せるのではないかと考える。いくらダガンが強いといっても生身の肉体に黒射で短剣を撃ち込めば致命傷を与えられるだろう。

だが、こんな人前で黒射を使うわけにはいかない。黒射はまだまだ発展途上であり、他の人間にはまだ知られるわけにはいかない。それにいくらなんでも教師を刃物で刺すのはまずい。


(今は耐えるんだ、こんな所で挫けたら大魔導士になんかなれない!!)


どれだけ痛めつけられようと他の生徒から馬鹿にされようがレノは諦めず、果敢に教師に挑んだ――





――数時間後、レノはボロボロの状態で学園にある医療室に赴いていた。現在の訓練が始まってから彼は頻繁に怪我をするようになったので医療室の先生とも顔なじみになってしまった。


「やれやれ、また来たのかね。君も懲りない奴だね」
「……どうも」


医療室の先生は40年以上も学園で勤務する老人であり、王都でも有名な薬師でもあった。名前は「イーシャン」であり、彼の作り出す薬は市販で販売されている薬とは比べ物にならないくらいに回復効果が高い。

今日も教師に痛めつけられて顔面が腫れあがったレノが訪れると、イーシャンは呆れた様子で彼に座るように促す。怪我の具合を確認した後に治療に必要な薬を速やかに取り出す。


「今日は一段と酷いな。仕方ない、薬草を煎じて作った塗薬を提供しよう。これを顔に塗れば明日は完璧に治るだろう」
「いつもすいません……でも、回復薬ポーションならすぐに治るんじゃ」
「甘ったれるな!!何でもかんでも回復薬で治そうと考えるな!!」


回復薬とは特殊な薬草を調合して作り出される薬であり、一流の薬師が作り出した回復薬は骨折などの怪我も一口飲むだけで完治できる。即効性に優れて回復効果も高いが、基本的には高級品として取り扱われている。

市販の回復薬でも普通の薬と比べて高価で販売されており、一般人が気軽に購入できる代物ではない。レノが通う学園にも回復薬は常備されているが、余程の大怪我をした人間でなければ回復薬が使用される事はない。


「ほれ、大目に薬を分けてやるから後は自分で治せ!!全く、最近の若いもんは……」
「す、すいません。いつもありがとうございます」
「いいからさっさと帰れ!!」


治療を終えたレノはイーシャンから予備の薬を分けて貰い、お礼を告げて医療室を後にした。イーシャンが薬草を調合して作った塗薬は回復薬ほどではないが普通の薬と比べても回復効果は高く、有難くレノは受け取る。


(これさえあれば夜の訓練で怪我をしても治せるな)


実を言えばレノはダガンに散々に痛めつけられたのはわざとであり、敢えて大怪我を負う事でイーシャンの元に赴く口実を手に入れるためだった。


(たくっ、わざと怪我をするなんてもう懲り懲りだ……それにこうまで一方的にやられると気分も悪いな)


薬を手に入れるためとはいえ、わざとダガンに痛めつけられるのは屈辱だった。そこでレノはどうにかダガンに一矢報いたいと思う。。


(流石に勝てはしないだろうけど、せめてあいつに一発はやり返したいな)


ここまでの訓練でレノは一度もダガンに攻撃を当てた事はなく、一度でいいからやり返したい気持ちはあった。しかし、正攻法ではダガンに敵うはずがなく、どうすればレノはダガンに一泡吹かせるのか考えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

処理中です...