上 下
6 / 53
少年の過去 《冒険者養成学園》

第6話 収納魔法の攻撃利用

しおりを挟む
「はあっ!!」


気合を込めた声でレノは右手を伸ばすと、黒渦から石ころが飛び出す。しかし、飛び出した石ころは十数センチも離れていない地面に落ちてしまう。それを見たレノは何とも言えない表情を浮かべた。


「……も、もう一度!!」


今度こそ石ころを遠くに飛ばそうとするが、再び黒渦から飛び出した石ころは同じように十数センチ離れた地面に落ちるだけで有り、それを見たレノは項垂れてしまう。


「全然駄目だ……こんなの手で投げる方がもっと遠くに飛ばせるぞ」


異空間に取り込んだ物体を勢いよく射出する事ができれば遠距離攻撃に利用できると考えたが、現実はそんなに上手くはいかなかった。石ころ程度の軽さの物体でもせいぜい十数センチ離れた場所にしか飛ばせない事にレノは落胆する。

その後も何度か練習を繰り返したが石ころは1メートルも離れた場所に飛ばす事もできず、流石にレノも諦めかけた。


「駄目だ!!こんなの使えねえよ!!」


何度試しても石ころを遠くに飛ばす事もできず、いい加減に飽きてきたレノはその場に座り込む。やはり収納魔法を攻撃に利用するのは不可能かと思いかけた時、不意にレノは昔の出来事を思い出す。


「待てよ、そういえばあの時……」


2年前、まだレノが祖母の家を飛び出したばかりの頃、生活費を稼ぐために彼は荷物運びの仕事を行った。収納魔術師の能力を生かして荷物運びの仕事に就いたレノだったが、実は最初の頃は何度か仕事で失敗した事があった。

当時のレノはまだ未熟で満足に収納魔法も扱えず、運搬用の荷物を異空間に預けようとした時に失敗した事があった。異空間に取り込める物体の質量は術者の魔力に作用され、10才の頃のレノは魔力は今よりも少なく技術も未熟だった。そのせいで事故を引き起こしてしまう。


『おい、これも運んでくれ』
『ちょ、ちょっと待ってください。もうこれ以上は取り込めそうにないので……』
『あん?あと少しぐらいいけるだろ。ほら、入れるぞ!!』


10才のレノは両手を使用しなければ黒渦を展開する事もできず、荷物は他の人間に運んでもらっていた。当時の彼は黒渦を開いて他の人間に異空間に荷物を預けて貰ったが、限界以上の荷物を無理やりに異空間に押し込まれそうになって事件が起きた。


『ほら、入れるぞ!!』
『む、無理です!!これ以上は……うわぁっ!?』
『うぎゃっ!?』


従業員が荷物を無理やりに黒渦の中に押し込もうとした瞬間、レノは黒渦を維持できずに荷物を入れる途中で魔法を解除した。その結果、途中まで黒渦に取り込まれていた荷物は勢いよく、荷物を入れようとした男ごと吹き飛ぶ。


『だ、大丈夫ですか!?』
『うぐぐっ……!?』
『おい、白目を剥いてるぞ!!』
『やばい!!早く医者を呼べ!!』


吹き飛ばされた男はあまりの衝撃に意識を失い、しばらくの間は目を覚まさなかった。このような事故もあったせいでレノが荷物を運ぶ際は限界を超える荷物を無理に入れる事を禁じた――





「――そうだ、思い出したぞ。あの時のように魔法を途中で解除させれば……異空間から弾き出されてもっと遠くに飛ばせるんじゃないのか!?」


限界以上の荷物を異空間に押し込まれそうになった時、レノは黒渦を解除してしまった。その結果、異空間に途中まで取り込まれていた荷物は強制的に弾き出され、商会の従業員ごと吹き飛ばした。

荷物運びの仕事を任されるだけはあってレノに無理やりに荷物を押し込もうとした男はがたいもよく、荷物の重さを加えれば重量は100キロを軽く超えるはずだった。そんな重さの相手を弾き飛ばすだけの力を利用できればと考えたレノは周囲を見渡す。


「何かないか……おっ、いいのを発見!!」


レノは訓練場を見渡すと誰かが置き忘れたと思われる木剣を発見した。木剣を拾い上げると彼は黒渦の中に差し込み、完全に取り込まないように気を付ける。


「これぐらいでいいかな……よし、狙いはあれだ」


先ほど石ころを当てる際にも利用した木造人形を狙いに定め、レノは黒渦に木剣を差し込んだ状態で構える。狙いを外さないようにしっかりと見極め、緊張しながらも魔法の解除を行う。


(さあ、どうなる!?)


両手を構えた状態でレノは黒渦を解除した瞬間、異空間内に取り込まれていた木剣は黒渦が消失する寸前に異空間から弾き飛ばされ、10メートルは離れた木造人形の元へ向かう。

勢いよく飛び出した木剣は木造人形の頭部に衝突し、あまりの威力に人形の頭部は砕けて木剣もへし折れた状態で地面に落ちる。それを見たレノは唖然とするが、自分の掌を確認して身体を震わせる。


「す、凄い……これ、使えるんじゃないのか!?」


想像以上の結果にレノは興奮を抑えきれず、収納魔法を利用した攻撃法を見出す。彼は急いで頭が破壊された木造人形の元へ向かい、折れた木剣を拾い上げた。


「こんなに硬い人形の頭を吹き飛ばすなんて……これなら魔物との戦闘でも利用できそうだな」


訓練用の木造人形は非常に頑丈にできており、生半可な攻撃力では壊す事もできない。しかもこれほどの攻撃を繰り出したのにレノ自身は殆ど体力も魔力も消耗していない。


(これぐらいの木剣を異空間に収納するだけなら全然魔力は使わないし、もしも木剣じゃなくて本物の剣でやったとしたら……想像するだけで怖いな)


木造人形に当たっていたのが木剣ではなく、鉄製の剣だとしたら頭が吹き飛ぶどころではなく、刃が確実に突き刺さっていた。つまりは人間が相手だとしたら十分に殺傷できるだけの威力はある事を意味する。


「……怖いけど、使えるなこれ」


壊れた木造人形と木剣を目にしてレノは冷や汗を流し、遂に収納魔法を利用した攻撃法を見出す。黒渦から発射させて攻撃を行うため、この攻撃法は「黒射」と名付ける事にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。  しかし、ある日―― 「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」  父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。 「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」  ライルは必死にそうすがりつく。 「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」  弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。  失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。 「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」  ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。  だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。

再生の星のアウレール

ぽとりひょん
ファンタジー
 人類社会が滅んで、新人類国家が生まれて100年後、各都市は軍隊を持つようになるが争いの火種になる。少年アウレールは、砲弾の雨の中、ファーストフレーム・ワルカに乗り込み戦に身を投じる。彼は人を殺すことに悩みつつも最強の戦士になっていく。  この小説は、「戦場で死ぬはずだった俺が、女騎士に拾われて王に祭り上げられる(改訂版)」の100年後を描いた作品です。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...