上 下
57 / 207
ゴブリンキング編

閑話 〈コトミンの秘密〉

しおりを挟む
※題名通りに閑話です。後々の本編にも関係する内容です。


――自称スライム少女のコトミンは元々は帝都から遠方の森の中に暮らしていた1匹のスライムだった。彼女は他のスライムと共に森の中で平和に暮らしており、お腹が減ると川の水を飲み、他の魔物に襲われそうになった時は姿を小動物に変化して逃げる事で生き延びてきた。そんな森の中で平和な日々を過ごしていたコトミンはある少女との出会いで彼女の運命が大きく変化する。

ある日、森の中に1人の少女が倒れていたのをスライムのコトミンが発見する。彼女は既に命が尽きかけており、コトミンはそんな彼女の元に近寄り、何故か放っておけずに治療を施そうとした。スライムは回復液を生み出す能力を所持しており、彼女は大怪我を負った少女の治療を施そうとしたが、既に少女の命は尽きかけていた。


『はっ……何ですか貴方、私を喰うつもりですか?』


自分の身体に押し掛かるスライムに少女は悪態を吐くが、コトミンが回復液を生み出して自分の治療を施そうとしている事に気付き、少女は不思議そうにスライムを抱き上げる。


『変わってますね……まさか、人間のあたしを治そうとしてるんですか?』


コトミンもどうして人間の彼女を救おうと考えたのかは分からないが、徐々に少女の肉体が冷たくなり、間もなく彼女の命が終わりを迎えようとしている事に気付く。少女は自分が助からないと考えたのか、彼女は自分の左腕に刻まれた「水滴」を想像させる紋様を確認し、コトミンを抱き上げたまま呟く。


『……最後の賭けになりますね。あいつらに奪われるより、魔物に渡す方がマシですか……』


少女はコトミンを抱きしめ、次の言葉がコトミンが最後に聞いた彼女の言葉となった。




『――受け継げ』




その言葉を聞いたコトミンは意識を失ってしまう――






――次に目を覚ました時、彼女は自分の肉体の変化に気付く。どういう事なのか意識を失う前までは存在しなかったはずの手足が存在し、頭を触れると人間のような髪の毛が存在する事に気付く。不思議に思いながらもお腹が空いた彼女は川の水を飲もうとした時、水面に映し出された自分の姿に戸惑う。


『……おおうっ?』


最初の第一声が少女らしからぬ声を上げてしまったが、コトミンは自分の肉体が治療を施そうとした少女と瓜二つの容姿に変化している事に気付く。最初の内は戸惑ったが、すぐに自分の肉体を自由に変化出来る事に気付き、彼女は人間の姿とスライムの姿を自由に切り替える能力が芽生える。そして少女の落とし物の中に回復薬や魔石が存在し、彼女はそれらを自分が食して肉体の栄養に変換する事が出来るようになった事を知る。そして彼女は自分の体内に存在する魔力を感じ取れるようになり、この魔力を消費する事で人間の姿に変化できる事を理解した。

しかし、人間の姿に変化できるようになってから数日後、平和だった森の中に盗賊が訪れる。彼等は少女の姿に変化していたコトミンを発見すると、彼女を拘束するために襲い掛かる。コトミンは逃走しようとしたが、彼等は奇妙な魔道具の鎖を用意しており、コトミンは捕縛されてしまう。彼女は捕まる際に盗賊が「指名手配」や「大金」という言葉を耳にしており、どうやら自分が変化していた少女が人間の世界では指名手配犯だと知る。

一度だけ、コトミンは盗賊が誰かと話している場面を見かけ、その時に彼女は盗賊と帝国の兵士が仲睦まじげに話しているのを見た。だから彼女にとっては帝国の兵士も「敵」であり、信用できない存在だと判断した。

その後は何日も木箱の中に閉じ込められ、栄養となる物を何も接種できなかったため、彼女は肉体の維持も難しくなり、魔道具の拘束を解除されてもコトミンは逃げ出す事は出来ず、やがて帝都のスラム街にまで送り込まれた時、偶然にも遭遇したレナに救出された――





コトミンにとってレナという存在は自分に人間の中では優しくしてくれた初めての人間であり、自分の為に回復薬や魔力を分け与える彼に惹かれた。最近では自分と同じように本当の姿は異形な外見のアイリィも加わり、彼女は2人と過ごす事で自分が人間として生きている事を実感する。

今の所は故郷に戻りたいという気持ちは湧かず、ずっと2人と一緒に楽しく過ごしたいと考えていた。だが、彼女の意思に関係なく、後に彼女は自分と大きく関わる存在と遭遇する事になる――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...