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ゴブリンキング編
ホノカからの贈り物
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サキュバスであるカトレアのスラム街の騒動から数日後、レナは久しぶりに魔道具店に尋ねていた。やっとホノカが用事を終えて帝都に戻り、本日から店を再開する事になったと聞いて早朝から彼女の元を訪れる。流石に前回の件で店の警備も必要かと考えたのか店内には彼女以外の従業員の姿も存在し、冒険者と思われる武装した女性も存在した。レナは改めてホノカがいない間に仲間になったアイリィを紹介し、どちらも商売人なのであっさりと打ち解け、これまでに街で起きた出来事を話し合う。
「なるほど……僕がいない間に帝都では色々と騒ぎがあったようだね」
「そうなんですよ。まあ、今は落ち着いてますけどね……それはそうとホノカさんは大量の回復薬を購入する機会はありますか?」
「ほう……興味深そうな話だね」
「……2人とも悪巧みしている顔になってる」
「商売人同士、気が合うみたいだね……だけど今回は違う用事だろうが」
「あうちっ!?」
ホノカを相手にレナが生成した回復薬の売却の交渉を行おうとするアイリィに対し、彼は後方から彼女の頭部に手刀を食らわせて2人の間に入り込む。彼女の元を尋ねたのは久しぶりに顔を見たいだけではなく、ホノカが帝都を発つ前に頼んでいた話を聞くために訪れた。
「ホノカさん」
「分かっているよ。君たちの身元保証人の話だろう?」
この帝国で生活するにはレナ達にも「身分証」が必要であり、この世界の住民ではない彼や魔物であるコトミンやアイリィ(?)は当たり前だが帝国の身分証を所持していない。この国では他の街に移動する際、あるいは職に就くためには身分証が必要不可欠であり、それが原因でレナ達は未だに働く事も街の外に移動する事も出来ない。
身分証を失くした場合、再発行を行うには身元保証人と高額な金銭が必要であり、レナ達はこの数日の間に発行に必要な資金を回復薬の売却金で稼ぎ、後は身元を保証してくれる人間がいれば発行が出来るのだが、身元保証人と言っても3人は親兄弟どころか親類も存在せず、一番頼りになりそうなホノカが街から離れていたので今まで身分証の発行を実行できなかった。
だが、レナは事前にホノカが街を離れる前日に身元保証人を引き受けてくれるように頼み込んでおり、彼女も承諾してくれた。そして帰還したホノカの元に訪れたのだが、彼女は机の上に二人分のスマートフォンを想像させる形状の水晶製の身分証を置く。
「約束通り、これが君達の身分証だよ」
「えっ……」
「……本当に?」
「本当さ。いちいち面倒な手続きは僕の方が勝手ながら終わらせたよ。ほら、手に取って確認して見たらどうだい?」
ホノカの言葉にレナとコトミンは机の上に置かれた身分証を手にすると、確かに表面には2人の名前が刻まれており、ご丁寧に似顔絵まで彫られていた。これが帝国の身分証である事は間違いなく、以前にホノカに見せて貰た彼女の身分証と同じ物で間違いない。
「あっ……これ、俺の名前がレノになってる……」
「ん?どうかしたのかい?」
だが、レナの受け取った身分証の方には名前の項目が「レノ」になっており、しかも身分証として登録された以上はこれからはこちらの名前で彼は過ごさねばならず、まさか自分の名前を間違えて覚えられたのを強く否定しなかった結果がこのような事態を招いた事に彼は溜息を吐きだす。
「……でも、アイリィの分がない」
「私の方は気にしないでいいですよ。実は最近、商業ギルドにも通っていましてね。そちらの方で登録できればギルドカードが貰える手筈なのでどうにかなりそうなんですよ」
「商業ギルド……?」
「名前の通りに商業を専門としたギルドさ。冒険者ギルドとは違う組織だけど、こちらの方も登録できれば身分証の代わりになるギルドカードが貰えるよ」
ホノカの説明を聞き終え、いつの間にかアイリィがそのような組織に関わっていた事にレナは驚くが、確かに彼女の商売の際の交渉の手際は見事であり、彼女は治癒魔導士よりも商売人の方が向いているのかも知れない。最も正式に登録した訳ではないのでギルドカードの発行はまだのようだが、ホノカが口を挟む。
「そういう事なら僕の方からこの帝都の商業ギルドにアイリィ君の登録の件を認めるように伝えて置くよ。今日中にはきっと発行されるよ」
「え、本当ですか?というか、ホノカさんはこの街の商業ギルドに所属しているんじゃ……」
「僕は帝国とは別の国の商業ギルドに所属しているよ。だけどこの帝都の商業ギルトとも親交があるから、僕の方から話をして置けばアイリィ君も登録して貰えると思うよ」
「それは助かりますね!!お礼は滅多に手に入らない聖水で如何でしょうか?」
「ほうっ……詳しい話は奥で聞こうじゃないか」
「……また悪い顔を浮かべてる」
「もう、放っておきなよ」
予想外に相性が良いのかアイリィとホノカは本当に店の奥に移動し、残されたレナとコトミンは自分の身分証を確かめながらこれからの行動を考える。
「なるほど……僕がいない間に帝都では色々と騒ぎがあったようだね」
「そうなんですよ。まあ、今は落ち着いてますけどね……それはそうとホノカさんは大量の回復薬を購入する機会はありますか?」
「ほう……興味深そうな話だね」
「……2人とも悪巧みしている顔になってる」
「商売人同士、気が合うみたいだね……だけど今回は違う用事だろうが」
「あうちっ!?」
ホノカを相手にレナが生成した回復薬の売却の交渉を行おうとするアイリィに対し、彼は後方から彼女の頭部に手刀を食らわせて2人の間に入り込む。彼女の元を尋ねたのは久しぶりに顔を見たいだけではなく、ホノカが帝都を発つ前に頼んでいた話を聞くために訪れた。
「ホノカさん」
「分かっているよ。君たちの身元保証人の話だろう?」
この帝国で生活するにはレナ達にも「身分証」が必要であり、この世界の住民ではない彼や魔物であるコトミンやアイリィ(?)は当たり前だが帝国の身分証を所持していない。この国では他の街に移動する際、あるいは職に就くためには身分証が必要不可欠であり、それが原因でレナ達は未だに働く事も街の外に移動する事も出来ない。
身分証を失くした場合、再発行を行うには身元保証人と高額な金銭が必要であり、レナ達はこの数日の間に発行に必要な資金を回復薬の売却金で稼ぎ、後は身元を保証してくれる人間がいれば発行が出来るのだが、身元保証人と言っても3人は親兄弟どころか親類も存在せず、一番頼りになりそうなホノカが街から離れていたので今まで身分証の発行を実行できなかった。
だが、レナは事前にホノカが街を離れる前日に身元保証人を引き受けてくれるように頼み込んでおり、彼女も承諾してくれた。そして帰還したホノカの元に訪れたのだが、彼女は机の上に二人分のスマートフォンを想像させる形状の水晶製の身分証を置く。
「約束通り、これが君達の身分証だよ」
「えっ……」
「……本当に?」
「本当さ。いちいち面倒な手続きは僕の方が勝手ながら終わらせたよ。ほら、手に取って確認して見たらどうだい?」
ホノカの言葉にレナとコトミンは机の上に置かれた身分証を手にすると、確かに表面には2人の名前が刻まれており、ご丁寧に似顔絵まで彫られていた。これが帝国の身分証である事は間違いなく、以前にホノカに見せて貰た彼女の身分証と同じ物で間違いない。
「あっ……これ、俺の名前がレノになってる……」
「ん?どうかしたのかい?」
だが、レナの受け取った身分証の方には名前の項目が「レノ」になっており、しかも身分証として登録された以上はこれからはこちらの名前で彼は過ごさねばならず、まさか自分の名前を間違えて覚えられたのを強く否定しなかった結果がこのような事態を招いた事に彼は溜息を吐きだす。
「……でも、アイリィの分がない」
「私の方は気にしないでいいですよ。実は最近、商業ギルドにも通っていましてね。そちらの方で登録できればギルドカードが貰える手筈なのでどうにかなりそうなんですよ」
「商業ギルド……?」
「名前の通りに商業を専門としたギルドさ。冒険者ギルドとは違う組織だけど、こちらの方も登録できれば身分証の代わりになるギルドカードが貰えるよ」
ホノカの説明を聞き終え、いつの間にかアイリィがそのような組織に関わっていた事にレナは驚くが、確かに彼女の商売の際の交渉の手際は見事であり、彼女は治癒魔導士よりも商売人の方が向いているのかも知れない。最も正式に登録した訳ではないのでギルドカードの発行はまだのようだが、ホノカが口を挟む。
「そういう事なら僕の方からこの帝都の商業ギルドにアイリィ君の登録の件を認めるように伝えて置くよ。今日中にはきっと発行されるよ」
「え、本当ですか?というか、ホノカさんはこの街の商業ギルドに所属しているんじゃ……」
「僕は帝国とは別の国の商業ギルドに所属しているよ。だけどこの帝都の商業ギルトとも親交があるから、僕の方から話をして置けばアイリィ君も登録して貰えると思うよ」
「それは助かりますね!!お礼は滅多に手に入らない聖水で如何でしょうか?」
「ほうっ……詳しい話は奥で聞こうじゃないか」
「……また悪い顔を浮かべてる」
「もう、放っておきなよ」
予想外に相性が良いのかアイリィとホノカは本当に店の奥に移動し、残されたレナとコトミンは自分の身分証を確かめながらこれからの行動を考える。
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