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スラム編

格上との戦闘

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「くそっ!!」
「ありっ?」


レナは「魅了耐性」のスキルの効果で相手の魅了の能力に抗い、少女と向かい合う。彼は相手の少女に鑑定のスキルを発動した事で相手が「サキュバス」と呼ばれる魔人族だと見抜き、硬貨を取り出して前回のヴァンパイア戦の時の様に先に目晦ましを仕掛けようとした時、蝙蝠の翼を背中に生やした少女の姿が消え去る。


「やっほ~」
「っ!?」


後方から少女の声が響き、レナは背後を振り返るが既に少女の姿は見えず、左側の方向から再び少女の声が聞こえてきた。


「こっちこっち~」
「何時の間に……!?」


左に視線を向けると少女が煙突の上に座り込んでおり、笑顔を浮かべたままレナに視線を向ける。目にも止まらぬ速度で移動を行った事は分かるが、唐突に現れたサキュバスの少女に対し、レナは硬貨を握りしめたまま身構える。相手が先に魅了のスキルを仕掛けてきたのは事実だが、もしも相手が殺す気ならば既にレナは何度も少女に命を落とす機会を与えている。


「ふ~んっ……可愛い男の子だから僕にしてあげようと思ったけど、魅了耐性を持っているなんて……もしかしてサキュバスの御友達がいるの?」
「……ヴァンパイアの知り合いは居たよ」
「ヴァンパイア……?」


レナの返答にサキュバスの「カトレア」は首を傾げ、一方でレナは前回のヴァンパイアは油断していたからこそ勝利を掴めたが、今回の相手は余裕を保ったままレ彼を見下ろしていた。相手がヴァンパイアではない事から聖属性の付与魔法が弱点なのかも分からず、今現在のレナの熟練度が低い鑑定の能力では相手の弱点までは見抜けない。


「くそっ!!」
「逃がさないよ~」


既にレナは聖属性の付与魔法は肉体に発動しており、身体能力は限界まで強化されているので逃走を計ろうとしたが、少女は翼を羽ばたかせて接近する。明らかに物理法則を無視した速度で接近するカトレアに対し、レナは跳躍しながら硬貨を握りしめた掌を構える。


聖属性エンチャット!!」
「わあっ!?」


空中を浮揚中に硬貨から閃光を放ち、少女は驚いた声を上げて空中で停止すると、レナは別の建物に着地して急いで距離を取る。今回の相手はヴァンパイアとの戦闘のように勝てる保証はなく、本能が逃走を誘導する。相手が視界を奪われている間に距離を取ろうとするが、レナの気配感知のスキルが発動する。


「なっ!?」
「待て待て~」


背後を振り返るとカトレアが瞼を抑えながら近づいており、どういう事なのかレナの正確な位置を把握して接近してくる。視力が復活した訳ではなさそうだが、少女はレナの居場所を確実に見抜いているのかのように接近し、僅かに彼女の鼻が動いている事をレナは気付き、相手が犬のように嗅覚を頼りに自分の居場所を把握している事を見抜く。


「ひっさつ~……回転蹴り!!」
「うわぁっ!?」


戦技なのか、それとも彼女がふざけて名付けただけなのかは不明だが、カトレアは空中で回転しながら踵落としを放つ。咄嗟にレナは「回避」を発動して攻撃を躱すが、カトレアの足が建物の屋根に衝突し、派手に土煙を舞い上げながら屋根の一部を崩壊させる。


「なんて馬鹿力……!?」
「あ、そこだぁっ!!」
「うひゃっ!?」


今度は声に気付いてカトレアが掌を伸ばし、咄嗟にレナは後方に移動して彼女の腕を避ける。もしも捕まっていたら外見からは想像できない握力で肉体の一部が握り潰されていた可能性が高く、視界が塞がれてもカトレアは聴覚と嗅覚を頼りに彼の正確な位置を把握し、攻撃を仕掛ける。


「このっ、このぉっ」
「くそっ!!」


掛け声は子供の様に可愛らしいが、確実に急所に狙い定めて攻撃を仕掛けてくるカトレアにレナは回避と幸運のスキルだけを頼りに攻撃を躱し続ける。普通ならば反応すら出来ない速度の攻撃なのだが、スキルのお蔭で何とか対応する。しかし、幸運は何度も続かず、遂にカトレアの手がレナの右足を掴み、片腕だけで持ち上げる。


「捕まえたぁっ!!」
「うわぁっ!?」


右足首を掴まれ、空中に浮き上がったレナは悲鳴を上げ、カトレアは腕を振り回す。遠心力を加えて投げ飛ばすつもりのようだが、レナは反対の足で先ほど習得した戦技の「反撃」を発動し、カトレアの首に蹴り付ける。


「このぉっ!!」
「あうっ!?」


予想外の反撃にカトレアはレナの右足首を離してしまい、彼の身体が空中に浮揚する。飛ばされた先には別の建物の壁が存在し、レナは建物の窓を突き破って室内に吹き飛ばされる。


「ぐあっ!?」


窓の硝子の破片が身体に食い込みながらレナは床に転がり込み、同時に聖属性の付与魔法が切れたのか身体に疲労感と激痛が走り、苦痛の表情を浮かべながら自分の鞄から「聖水」を取り出す。カトレアに掴まれていた右足首が異様な方向に曲がっており、すぐに治療を施さなければならない。


「くっ……あぐぅうううっ!?」


聖水を傷口に降り注ぎ、激痛を我慢して傷の治療を施す。この世界の回復薬は消毒の役割も存在し、傷口の負傷を治療するのと同時に生き残る手段を考える。
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