種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈後半編〉

第三階層

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――螺旋階段を昇り続け、遂に出入口の扉にレノは辿り着く。だが、今回の扉は今までと違い、豪華な装飾が施された大理石製の扉であり、扉を押し開くには巨人族並の怪力を必要とした。ゴンゾウ達を呼び寄せて扉を開くよりも自分の力だけで先に何が待ち受けているのか確認するため、肉体強化を使用して押し開く。


ギィイイイイッ……!!


推定数百キロは存在する大理石の扉を押し開き、目の前に広がった光景にレノは眉を顰める。第一階層は闘技場のような構造、第二階層は密林を想像させる構造だったが、今度の階層は見渡す限りの「荒野」が広がっていた。


「ここは……随分と厄介そうな場所だな」


上空を見上げると、そこには空中を飛来する巨大な影が発見し、間違いなくこの塔に突入する際に対峙した「黒竜」の群れが飛行していた。



――シャギャァアアアアッ……!!



雄叫びを上げながら10体近くの個体が上空を旋回しており、一体一体が10メートルを超える巨体であり、さらには黒竜以外にも色違いの竜が確認される。向い側の方角には全身が赤色の竜が存在し、他にも黒竜とは別の場所で飛行する嵐水竜のような東洋風の竜も存在し、予想以上に厄介な場所に辿り着いたようである。


「竜の楽園、か」


地上では滅多に姿を現さないという竜種がこの階層を支配しているらしく、今までの中でも一番厄介な場所に辿り着いたのかも知れない。竜種はスライムと同じく第一級危険種に指定されている最強の魔物であり、放浪島でさえも存在しない種である。

危険種の楽園である放浪島でさえも、地上や地下迷宮には竜種の類は存在しない。原因は不明だが、竜種は生態系を大きく乱す程の獰猛性と力の持ち主のため、管理者であるベータが関わっている可能性が高い。


「さてと……どうするべきかね」


テレピアを使用して眼の前に広がる光景を皆に伝える必要があるが、この先をどのようにして進むのかが問題である。何しろ、周囲に広がる荒野には今までの階層と大きく違う点が存在し、この階層にだけ上の階に続く黒柱が存在しないのだ。


「まさかここが最終階層という訳じゃないよな……」


上空を確認すると第二階層の時の様に無数のパネルが擬似的な青空を映し出しており、今までの事を考えても大分登り詰めたのは事実だが、これほど巨大な建築物がたったの三階層までしか分けられていないというのは信じ難い。

だが、大迷宮の目的は勇者達を育て上げる施設であり、普通に考えれば過酷すぎる環境を与え続ければ育成するはずの勇者達が死亡してしまう可能性も存在し、この第三階層に地上でも最強種である竜種だけが存在する事を考えても、この第三階層が最終地点である可能性も否定できない。

だが、仮に巨大迷宮に突入する際に出現した黒竜がこの階層にいた個体だとしたら、今まで巨人族が相対した大型の魔物達も塔内の何処かで育成されているはずであり、まだ他に別の階層が存在する可能性もあると考えるべきだろう。


「一先ずは全員を呼ぶ……わけにはいかないだろうなぁ」


あまりに大人数を呼び寄せれば空を飛行している竜種に気付かれる恐れもあり、黒柱の傍でも安全とは言えない。第二階層では黒柱の傍にはあらゆる魔物は近付かなかったというが、相手が竜種の場合は確実性はない。竜種は本能に従って暴れ狂う個体が多く、餌を見つければ容赦なく襲撃してくる。


「ゴンちゃんやライオネルだとでかすぎて目立つな……ハヤテとフウカとリノンだけ連れて行こうかな。ウルは……流石に無理か」


ウルがいれば捜索は捗るだろうが、あの巨体では目立ちすぎるため、ここはハヤテとフウカが追い付くまで待機するべきかと考えた時、



――ズドォオオオンッ……!!



何処からか砲撃を想像させる轟音が響き渡り、瞬時にレノは聴覚を頼りに右方向に視線を向けると、こちらに向けて巨大な火球が接近している事に気付く。


(なんだ!?)


下級の規模は10メートルを超えており、下手に避けてもノヴァ級の威力を誇る砲撃魔法ならば周囲一帯を焼き尽くす可能性もあり、レノは両手を構えて迎撃準備を行う。


「水流刃!!」


ゴポォオオオッ……!!


右手に3メートル程の大きさの水球を形成し、左手に嵐属性の魔力の塊を形成すると、両手を重なり合わせて合成魔術を行い、通常よりも巨大な水刃を放つ。



ドパァアアアアンッ!!



接近してくる火球にレノの放出した水流刃が衝突し、炎と水の塊の衝突で蒸気が湧き上がり、何とか地面に衝突する前に防ぐ事が出来た。だが、どこから砲撃が行われたのかは分からず、少なくとも竜種の仕業ではない。


(確かに魔力を感じたけど……何処だ?)


砲撃が放たれる瞬間に強い魔力反応を感知しており、レノは火球が放たれた方角に視線を向け、肉体強化で視力を底上げするが砲撃魔法を放った物の姿は確認できない。

少なくともこの階層の広さは第二階層と比べると密林が存在しない分に広く感じられ、障害物となる岩山が数多く存在し、一先ずは瞬脚でその場を移動する。


「何処にいる……?」


一際大きい岩山の上に降り立ち、周囲を伺うが火球を砲撃した者の存在は確認できず、竜種の類が地上に見えるが彼等が放つ吐息(ブレス)は魔力ではなく可燃性のガスを発火させた減少であり、魔力を感じるはずがない。

火球の大きさから考えても相当な魔力の持ち主なのか、それとも複数人で合成魔術を発動させているのかは不明だが、相手の正体が確かめられない以上は迂闊に仲間達を呼び寄せる事は出来ない。人数が増えれば恰好の的であり、守り切れるとは限らない。



――ドォオオオオン……!!



再び轟音が響き渡り、今度は上空の方角に異変を感じて顔を向けると、そこにはこちらに向けて電撃が降り注ぐ光景が確認され、レノは掌を構えて防御魔法陣を展開する。


「五芒星魔方陣(プロテクト)!!」



ドゴォオオオオンッ!!



空中に翳した掌から五芒星の防御魔法陣が展開され、降り注ぐ電撃を正面から受け止めて試算させる。今までは事前に地面や壁に魔方陣を書き込むことで発動させた防御魔法陣だが、今現在のレノは凝縮解放で蓄積した魔力を魔方陣に変換する事も可能であり、一瞬で展開出来る。

但し、事前に書き込んだ魔方陣と違って掌から展開された魔方陣の持続時間は非常に短く、電撃を消散させるとガラスのように罅割れて消散してしまう。マドカは魔方陣を自在に幾つも使用して扱ったことがあるが、今のレノでは彼女の領域に至らず、すくなくとも数年は修行しなければ自在に魔方陣は扱えない。


「危なかったな……それにしても、何処から狙ってる?」


上空から放たれた電撃を確認し、何者が自分を狙っているのかは未だに分からないが、不意に上空の方角で何かが光り輝いたのを見逃さず、レノは視覚を肉体強化で高めると、上空に浮揚している存在に気付く。


「……あれは、魔水晶(クリスタル)?」


空中に浮揚していたのは鏡のように光り輝く魔水晶であり、電撃が放たれた場所に固定されたように浮かんでおり、先ほどの電撃はあの魔水晶が放出したのかと考えるが、すぐに別の可能性に気付く。


「反射か」


鏡のように光り輝く魔水晶を確認した瞬間、レノの脳裏に魔水晶に放たれた電撃がレーザーのように反射して方向を変化したのではないかという予想が思い浮かび、何者かが魔水晶を利用して魔法を反射させて自分を狙い撃ったのではないかと気づいた。
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