種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈後半編〉

世界樹とは

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オークから回収した武器と薬草はハヤテによれば、間違いなく世界で5つしか存在しないはずの「神樹」の素材である事は間違いないらしく、休憩も兼ねて守護戦士達を見張りをさせ、ハヤテは神樹の由来と聖導教会の世界樹の秘密を語り始める。


「レノさんは知らないでしょうが、実は聖導教会が管理している世界樹は元々はわっし等が神樹(神木)と呼んでいる古代から存在する樹木の事でやんす」
「知ってる。随分前に聞いたことがある」


昔の話になるが、聖導教会が世界樹と呼ばれる存在を所有している事は聞いており、詳しい話は聞いていないがこの世界樹から聖遺物に必要な原材料も取り出されているらしく、殆どの聖剣は世界樹の素材を使用されている。


「流石は聖導教会の巫女姫さんと良い仲のレノさんでやんすね。ですが、世界樹がどうして森人族ではなく、人間が仕切っている聖導教会が管理しているのかは聞いたことがありやすか?」
「それはないけど……」


確かに冷静に考えればおかしな話であり、幾ら森人族と聖導教会が良好な関係を築いているとしても、世界に5つしか存在しない神樹の1つを聖導教会が管理しているのかが気にかかり、以前にセンリの話によれば神樹には複数の属性に別れた力を宿しているとだけ聞いたことがある。


「わっし等は神樹、今は神木と呼ばれている大樹をアトラス大森林で管理しているが、実を言えば世界樹に関しては1000年以上前、ある医療魔導士がアトラス大森林に訪れた時に神樹の種子を受け取り、遠方の土地で育て上げた樹木でやんす」
「へえ……」
「その人物の名前はセインと言い、彼は人間でありながら歴史上で森人族(エルフ)と和解した存在であり、彼のお蔭で当時の疫病で悩まされていたエルフ達が大勢救われたと聞いていやす」




――1000年以上前、まだ原初の英雄が誕生するよりも古の時代、セインと名乗る医療魔導士が存在した。彼は魔法による治療手段だけではなく、あらゆる薬学に精通しており、バルバロス帝国の専属医療魔導士を勤めていたが、帝国から離れて各地を旅する事が多々あった。




当時、大陸の西部では謎の疫病が蔓延しており、数多くの死傷者が生まれていた。この疫病は治癒魔法では治療する事は出来ず、そもそもこの世界の生物は非常に病気に掛かりにくい存在だったため、病気関連の治療法は発展しておらず、疫病による被害者はどんどんと広まっていた。

その疫病の正体は後に伝説獣と恐れられる「腐敗竜(ドラゴンゾンビ)」であり、この腐敗竜はバルバロス帝国の軍隊が討伐する事には成功したが、体内に蔓延していた呪詛は広範囲に広がってしまい、数多くの人間に感染してしまう。

レノ達が打ち倒した個体は活性化の影響を受けていたからこそ強力な呪詛を宿していたが、当時の腐敗竜はそれほどの力は存在せず、広がった呪詛も人間をアンデットに変化させるほどの力は存在しなかった。だが、それでも聖導教会が造り出される以前の時代では治療法も限られており、日々死傷者の数が増えていた。

しかし、ある一人の医療魔導士の出現によって疫病の治療法が確立される。その人物こそがセインであり、彼は呪詛に対抗できるのは聖属性の力だけではなく、森人族が育てている薬草を特殊な割合で他の野草と混ぜ合わせれば特効薬が生み出せることを発見する。

すぐにセインはアトラス大森林に赴き、当時は結界も存在しなかったのでエルフ達に自分が見つけ出した治療法を説明し、最初の頃は疑っていたエルフ達だったが、彼等も呪詛の影響を受けて体調を崩した者達も続出しており、セインの言葉を信じて薬草を提供する。



結果としてセインの発見した治療法は呪詛に対して非常に強い効果を示し、一気に疫病の拡大化を引き留める。特殊な配合で生み出された薬草は森人族の協力もあり、疫病に侵された者達を治療する。



治療法を発見した彼は数多くの人々に感謝され、バルバロス帝国からだも多大な恩賞を受け取り、森人族も同胞を救ってくれた礼としてセインのアトラス大森林の入場を許可する。その後、彼は森人族と親密な関係を築き上げ、そして彼等が管理している神樹の元にまで案内される。

森人族が育て上げた4つの神樹はそれぞれの魔法の属性を宿しており、セインはこの神樹の種子を受け取れないのかと相談する。普通の人間では到底育てきれず、ましてや神樹は数百年の時を掛けて育て上げる植物のため、到底彼の世代だけでは育ちきれないのは目に見えていたが、大恩がある彼の頼みのため、森人族は種子の提供を承諾する。



セインは受け取った種子を育て上げるため、世界各地を旅していた時、まるでアトラス大森林のように巨木で形成された土地を発見し、彼は仕事を辞して家族を連れて移動する。森人族から受け取った大切な種子を埋め込み、彼は深い愛情を込めて神樹を育て上げる。それでも森人族の言葉通り、いくら水や肥料を与えようと種子が芽生える様子は見えず、成長が遅いと事前に聞いていた彼は決して諦めずに種子の面倒を見守る。



――数十年後、セインが老衰で家族に見守られながら命を終えた時、彼が管理していた神樹がやっと芽生える。まるでセインの魂が乗り移ったように芽を出した神樹に対し、残された家族は大切に扱い、死んでしまったセインの生まれ変わりと信じて植物を育て上げる。



数世代の時が流れ、セインが森人族から受け取った種子も大樹に成長し、彼の子孫である一人の女性が異変に気付く。それは大樹から時折漏れ出る樹液が非常に回復効果を促す液体である事を発見し、先祖のセイン同様に腕利きの医療魔導士だった彼女は大樹を調べ上げる。

彼女の名前は「セイナ」であり、先祖のセインが森人族から受け取った神樹の種子は明らかに既存の神樹とは違う属性の力を宿しており、間違いなく大樹からは「聖属性」の魔力が満ち溢れていた。セイナは大樹から抽出した樹液を飲料水に混ぜ込んだ瞬間、世界で初の「回復薬(ポーション)」が生み出された。

セイナは大樹から湧き出る樹液を利用して様々な薬を生み出し、魔力草と呼ばれる魔力を回復させる野草と飲料水を混ぜ合わせた「魔力回復薬(マナ・ポーション)」大樹の葉を磨り潰して粉末状に変化させ、回復薬と混ぜ合わせる事で怪我の治療どころか魔力さえも回復させるという「精霊薬(エリクサー)」を生み出したという。

セインの家系が育て上げた神樹は森人族が管理している神樹とは全く違う成長を果たし、まるで医療魔導士だったセインの力を受け継ぐように「治癒」の能力が芽生えた大樹を、セイナは世界中の人々を救う事が出来る希望の大樹だと崇め、彼女はこの大樹を「世界樹」と名付けたという。



その後、セイナは世界樹を利用して様々な薬を生み出し、世界中の医療魔導士を呼び集めて研究を行う。その研究を利用するために魔術協会が彼女達を受け入れ、セイナは研究が続けるという条件で魔術協会の専属医療魔導士となり、生涯の間を大樹の研究を行い続けたという。



後々に魔術協会は帝国と対立し、原初の英雄姉妹によって二つの組織は和解し、帝国が魔王によって滅ぼされた、そして魔王が姿を消した後に「聖導教会」と名前を改め、現在では医療機関として世界中に貢献しているという。
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