種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

調査(二回目)

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翌日、初日の時よりも人数を減らした調査部隊が大迷宮に再度突入し、事前の打ち合わせ通りに大広間で待機する組と迷宮の探索組に別れる事にした。


「やはり、予想はしていたがこの時間帯はどういう事か奴等は姿を現さないようだな……」
「死骸まで消えてる……誰かが動かしたのか、それとも共食いでもしたのか……」


大広間に到達して早々、調査部隊は異変に気付く。昨日は至る箇所に横たわっていた魔獣達の死骸が全て消えており、血の跡だけが不気味に地面に残っていた。レノはすぐに魔力感知を行い、周囲を伺っても魔獣の気配を感じられない。

現在の時間帯は昨日と同じ時間帯であり、予測では約1時間後に昨日のように鐘の音が鳴り響き、魔獣達が姿を現すと思われる。誰が何の目的でこのような構造の迷宮を造り上げたのかは不明だが、魔獣達が出現していない今のうちに調査を行うのが得策だろう。


「んじゃ、ここは俺達に任せな‼」
「皆さん、早く帰ってきてくださいね~」
「隊長、お気をつけて」


この大広間には巨人部隊、獣人部隊、そして半数の森人部隊を待機させ、残りの者達は昨日にダイアが挑んだ迷宮に繋がる通路に脚を進める。戦闘を進むのはライオネルとレノであり、後方に部隊が続く。


「何か感じるかレノ?」
「今のところは……そっちは何か臭わないの?」
「生憎と獣人族と違って、俺はそれほど鼻は強くない……そっちの犬っ子と猫娘に聞いたらどうだ?」
「……妖怪みたいな呼ばれ方された気がする」
「すんすん……太陽の匂いがします‼」
「それは俺の匂いだ」


レノの後ろに張り付くように移動するコトミとポチ子にライオネルは視線を向け、コトミは特に何も感じないのか首を振り、ポチ子はレノの匂いを嗅いで尻尾をぱたぱたと振る。部隊は通路を抜けると、複雑に入り組んだ迷宮に辿り着く。


「ここか……」
「……やっぱり、ダイアの言う通りに構造が変化している」
「そうなのか?」


昨日の彼の話を思い出し、レノは昨日の時と通路の構造が大きく変化している事に気付き、ダイアの話通り、この迷宮はやはり普通ではない。どんな仕掛けがあるのかは不明だが、これでは地図を製作しても何の意味もない。


「どうする? このまま皆で行動するのか?」
「いや、先に進むのならばここは別行動を取るべきだろう。まだ奴等も姿を現していないし、仮に迷ったとしてもこの紙切れで戻る事はできる」
「転紙ね」


ライオネルはレノから受け取った転紙を取り出し、一応は各部隊に1つずつ配布しているため、何時でも大広間に帰還する事は出来る。現在の通路は最初に三つに路に別れており、ここで三つの部隊に別れて行動するのが妥当だろう。


「では、俺の部隊は正面を行く。行くぞお前たち」
「キュロロロッ」
「ああっ」


ライオネルの背後にはサイクロプスとミノタウロスが後に続き、その内の1人はレノも見覚えがある相手であり、剣乱武闘でゴンゾウと死闘を演じたギュウキと呼ばれた黒牛のミノタウロスだった。


「では、私達は左に向かいます。無事だったら、後で会いましょう」
「どうぞ」


ミア率いる森人部隊は左の通路を選び、残されたレノ達は最後に残った右の通路に移動を開始する。先行するのはレノであり、周囲を警戒しながら進み続ける。


「それにしても不思議な場所だな……地下迷宮や以前に立ち寄った大迷宮と似ているが、雰囲気というのか?なにかが違う気がする……」
「……不思議な場所」
「ここの壁は変わった素材で出来てるね……煉瓦に似せているが、明らかに違う」
「お宝見つからないねホノカちゃん」
「いたのか君たち」


今まで喋る機会が無かったので気付かなかったが、先日のようにホノカとヨウカも付いてきており、レノ達はそのまま通路を進み続ける。


「あれ?ここってさっきも通らなかった?」
「いや、確かに似たような所を通ったが、別の場所だね。さっきは地面に魔獣の血の跡が残っていたはずだよ」
「なんだか同じところをぐるぐる回ってるみたい……」
「作為的にそういう意識が埋め込まれるような構造として造られているのかもしれない……誰が何の目的で生み出したのかは分からないが、趣味が悪いね」


通路を移動しながら周囲に気を配り、慎重に進んでいる間にも時間は経過していく。レノが時計を確認すると、残り時間30分程で昨日の鐘の音のような轟音が鳴り響いた時間帯となり、どうするべきか悩む。


「ここまで来て何の進展も無しか……魔獣が出てこないのはいいが、先に進める手掛かりも見つからないか……」
「……歩き続けて疲れた」
「ウルでも連れて来ればよかったかな……」
「困ったね~……やっぱり、私達が通ったあの赤色の煉瓦の鍵穴に嵌まる鍵を探せばいいのかな?」
「どうかな……通路は他にもあったし、もしかしたら他の通路にも同じような煉瓦があるかも知れない」
「定番だとしたら通路をクリアしていく事で次の通路への道を開くアイテムが出てきて、最後の通路にボスとかが潜んでそう」
「くりあ……?よく分かんないけど、面白そうだね‼」
「ただ、その理論が正解だとしてもこの広い迷宮でどうやって鍵を見つけるのか……なにか手掛かりくらいないのかい?」
「……あそこ」


雑談をしている最中にコトミがある方向を指差し、全員が視線を向けるとそこには今までとは違う通路が姿を現す。


「なんだこれは……?」
「水晶壁か?」
「これは……」



レノ達の前には強化ガラスで造り出されたと思われる通路が発見され、ガラスといっても向こう側は暗闇で何も見えず、迷宮の壁にガラスが嵌め込まれているだけのようにしか思えない。明らかに怪しいが、今まで通過してきた通路とは大違いであり、レノ達は調べる事にした。


コンコンッ……


「……ただの水晶壁じゃないね。厚さは20センチくらいあるかもしれない」
「一体、どうしてこんな場所に……」
「レーザーとか出てこないだろうな……」


とあるバイオ映画ではガラスからレーザーが無数に放射されて主人公の仲間達が無残な姿に成り果てたが、レノはいざという時に皆を守れるように気を付けながら調べる。


(……ただのガラスか? )


センサーの類が仕掛けられている可能性もあるが、用心しながら足を踏み入れる。予想に反し、特にガラス張りの通路は何の反応を示さず、そのまま全員が突き進んでも何も起きない。


「ねえねえレノたん、ここに何か書いてあるよ‼」
「ちょ、勝手に先に行かないで……どれどれ?」


何時の間にか先行していたヨウカがガラスの壁を指差し、全員が視線を向ける。そこには確かに文字のような物が書き込まれており、レノ以外の全員が首を傾げる。


「これは……古代文字なのか?」
「僕も見た事がないな……こんな変な文字は初めてだ。しかも明らかに違う種類の文字が縦に並べて書き込まれている……どんな意味があるんだ?」
「……読めん」
「わふぅっ……」
「なんて書いてあるんだろ?」


リノン達は文字を解読できずに首を傾げるが、レノだけはその意味を理解できた。彼の視界には「旧世界」に存在した様々な国家の文字が存在し、その内容はこう告げていた。


(……セーフエリア? )


日本語の片仮名で書き込まれた文字を読み終え、英語で言い直すのならば「safe area」であり、日本語では「安全地帯」という意味だ。他にも中国語、ロシア語、フランス語等々、様々な国家の文字で同じ内容が書き込まれており、レノは考え込む。


「ここが……安全地帯?」


ガラス張りの通路を確認し、横幅は2メートル広さは10メートルほど存在し、どうしてここが安全地帯なのかが不明だが、旧世界の文字が書き込まれている以上は無視できない。
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