種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

緊急会議

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――黒狼と刀狼、さらには100を超える魔獣の襲撃を乗り越え、レノ達は陣営内の会議室に集まり、事態の深刻に頭を悩めていた。


「……まさか、魔獣が陣内の転移魔方陣を破壊するとはね」
「これでは援軍どころか、帰還する方法がないぞ。転移魔方陣の修復にはどれくらい掛かる?」
「あの術式は書き込むのに半月も要したんだ……それに専門の魔術師もいない以上、徒歩で王都まで戻り、救助を待つしかない」
「やれやれ……こういう時に魔導電話があれば便利だというのに」


獣人国の領土はまだ交易都市で流通されている魔導電話は介入しておらず、連絡手段は伝書鳩や、ミラークリスタルを利用した王族専用の通信機器しかない。


「まあ、転移魔方陣が発動しない事に僕たちの国の人間も異変には気付いているだろうね。ただ、ここは獣人族の領土である以上、余計な誤解を生みかねない」
「俺達を人質に取ったと思われるという事か?」
「だろうね。もしかしたら先に帰ったレフィーアさん辺りが早とちりして同盟を破棄しかねないかも知れないね」
「怖い事を言わないでくれ……」


ホノカの言う通り、この場所には各種族代表の数名が集まっており、獣人族が彼らを誘き寄せて人質として捕えたと判断されかねない。そうなる前に自国と連絡を取って誤解を生む前に事情を説明しなければならないが、転移魔方陣が使えない以上はどうしようもない。


「なんだか大変だね~」
「そうそう、大変なんだよヨウカ。だから君は大人しくしててくれよ」
「は~い」




――会議室に沈黙が訪れ、やがてホノカを除く全員がゆっくりと会議室の席に座っている巫女姫(ヨウカ)に視線を向け、どうして彼女がここにいるのかを問い質す。




「……一つ聞いていいか?」
「だが、断るよ」
「な、何故だ⁉」
「冗談だよ。どうしてここにヨウカがいるのかについてだね? 前の時にも言ったかもしれないが、僕の知り合いが訪れるというのは彼女の事だよ」
「皆、久しぶり~フライングシャーク号で来たよ~」


ひらひらとヨウカが手を振りながら挨拶を行い、現在の砦の上空に見慣れたサメ型の飛行船が存在している理由に納得すると、何時の間にか獣人族の領土に彼女も訪れていたらしい。


「仕事はどうしたのヨウカ?」
「ちゃんとしてるよ~こっちの方にも魔除けの儀式が殺到してるから、ちゃんとやり終えてからきたんだもんねっ」
「ええ子ええ子」
「わぁいっ♪」


適当にヨウカの頭を撫でまわしながら、レノはホノカに視線を向け、彼女はわざとらしく視線を反らして口笛を吹く。


「……飛行船があるなら、ここにいる皆が乗れるんじゃないの? 獣人族の王都まで戻れば転移魔方陣は使えるんでしょ?」
「そ、そうだ‼その手があるじゃないか‼」
「……僕に無賃乗車を強要させる気かい?」


レノの提案に代表達が賛同するが、ホノカは心底面倒臭そうな顔を浮かべ、どうやらただで300人を超える人間達を飛行船に乗車させたくないらしい。


「な、なら金を払えばいいのか? いったい幾らだ?」
「そうだね……1人当たり、金貨10枚かな」
「ぼったくりすぎるんじゃないか⁉」
「僕の飛行船は観光船も兼ねているからね。これでも安くしたんだよ?」


全員が飛行船で移動するとしたら約4000枚の金貨を必要とし、当然ながらにこの場に居る誰もがそんな大金を所有しているはずがない。


「く、国に戻ってから支払うのでは……」
「だめだね。僕の所は先払い制が厳守だ」
「ええいっ‼ならば、必要最低限の人員を選出して送り込めばいいのだろうが‼このまま陣営内に残る者と、自国に戻る物に別れればいい‼」
「まあ、それが賢明だね」
「となると……僕達はどうすればいいのか」


最も人数が少数の王国組は5人の内の1人が帰還することになり、妥当なのはアルトかリノンだろう。戦力的に考えればアルトが残って欲しいが、立場的には種族代表である彼を残して専属騎士のリノンだけが帰還するのもおかしな話だが。


「レノたんは転移魔方陣で帰れないの?」
「いや、流石に距離が遠すぎるし……試したけど戻れなかった」


頻繁に転移魔方陣を使用するレノだが、彼が移動できる距離は約3000キロ程度であり、試しに黒猫酒場や王国に帰還を試みたが失敗した。


「でも、十字架鍵を使えば教会には戻れるんじゃないの?」
「教会に戻れても、ここに戻ってくる手段がない」


聖導教会総本部に直接通じる「十字架鍵」を使用すれば転移する事は可能だが、この転移方法は片道専用であり、転移する前の場所に戻ってくることはできない。また、十字架鍵は送り込める人数が限られているため、大人数での転移はできない。


「仕方ない……ホノカを人質に飛行船ジャックするか」
「おいおい、止めてくれよ。君が言うと洒落に聞こえないから」
「喧嘩はだめだよ⁉」


拳を鳴らすレノにホノカは冷や汗を流し、彼女は自分の指に付けた魔水晶の指輪を向ける。そんな2人にヨウカが割って入り、こんな状況でも何処かふざけているようにしか見えない3人組の姿に会議室に居る全員が溜息を吐く。


「……この状況では調査は難しいな」
「ああっ……今は一刻も早く連絡手段を確保するしかない」
「仕方ない……こうしよう。代表である僕たちは飛行船に乗船し、僕(獣人族)の王都に帰還して転移魔方陣で自国に帰還しよう。そして、事情を説明しだい、すぐにこの場所に新しい転移魔方陣を設置させるんだ」
「なに? まだ調査を続けるのかい?」
「別に強要はしない。だが、今回の件であの大迷宮の恐ろしさを認識された。もう、調査なんて言っていられない……僕はあの場所を封印したい」
「封印?何をする気だ?」
「そういえば、ここに残っている森人族の戦士の中に封印魔法を得意とする者はいるんですか?」


アルトは自分の隣に座る金髪のエルフに問いかける。この場に居るのは各種族の代表だけでなく、唯一帰還したレフィーアの側近である女性のエルフが残っていた。彼女の名前は「ミア」であり、この場に残った森人族の戦士たちの隊長格を勤める。


「い、いえ‼私を含め、この地に残った者達の中で封印魔法を施せる者はいません‼」
「そ、そうか」


急に声を掛けれられたミアは慌てて返事を返し、森人族ではあるが人間であるアルトに対して見下すような態度を取らない。


「いや、僕の言う封印とは魔法の類ではなく、正確に言えば封鎖というべきかな。この大迷宮を囲むように囲いを造り、軍を駐在させる」
「そんな方法よりも出入口を塞いだらどうだ?」
「その方法は何度も試したが、結局いつも突破されてしまう。それならば敢えて出入口を解放し、外に出たところを狙い撃つ」
「つまり、大迷宮を隔離するわけかい? 別に文句を付けるわけじゃないが、その方法だと常にこの場所には相当数の軍隊を駐在する必要があるのじゃないかい?」
「勿論、この方法はもっとちゃんとした解決策が見つかるまでの時間稼ぎでしかない。調査事態は続行するよ」
「あの、その事なんですが……1ついいでしょうか」


獣王の言葉にアルトは挙手し、レノに視線を向けて彼が頷くのを確認すると、


「獣王、貴方の考えは良く分かった。だが、僕たちはこのまま調査を実行したい」
「何だって?」
「つまり、このまま予定通りに調査を実行しろというのか?」
「はい……危険は承知ですが、僕達はあの大迷宮の存在を確かめたいんです」
「いや、だが……」
「ふむっ……」




――アルトの発言に全員が考え込み、確かに今回の調査隊の目的は大迷宮の正体を掴むために結成されたが、侵入する前に被害が出た以上、このまま調査を続行させるのは危険すぎる。だが、だからと言ってこのまま退散すれば何の情報も得られずに帰還する事は避けたい。
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