種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

シュンの目的

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『さあ~大会も大詰め‼遂に本日最終試合となるDブロックの選手が集まって着たっすよ~』
『皆頑張れ~』



――ウワァアアアアアッ‼



レノ達が話し込んでいる間にも試合は進行し、最終試合であるDブロックの選手たちが試合場に終結し、その中にはジャンヌとレミアの姿があり、観客達が声援を送る。流石はバルトロス王国の大将軍と、最強の騎士団であるテンペスト騎士団の団長を務める2人に期待値が上がり、その一方でコトミの姿がいないことに疑問を抱く者もいる。


『尚、この試合に出場する予定だった聖導教会のコトミ選手は試合を危険すると報告が入ったっす。理由は聖導教会の総本部の方で異変が生じたらしく、その対応に試合を終えたレノ選手と共に帰還したとの事です。問題が解決次第は都市に戻るようですが、最悪の場合はレノ選手は大会に復帰できないかもしれないとの事です……』


ざわざわっ……


カリナの言葉に観客達が動揺が走り、特に聖導教会総本部の異変という話に不安を抱く。前回も前々回も大会の途中で途轍もない騒動が発生し、中断させられたことが余計に観客達の不安を煽る。


(……まあ、嘘なんすけどね)


観客達の反応を伺いながら、実況席のカリナは事前に打ち合わせした言葉を反復し、ここで彼等に悟られない様に演技を続ける。


『あ、今入った情報によりますと、どうやら総本部の方で起きた異変は解決したようです‼ 流石は雷光の英雄、問題を解決するのも雷光の如くっすね‼』


ウワァアアアアッ……‼


わざとらしくカリナが明るい口調で答えると、観客達が安堵したように表情が打って変わる。臭い芝居ではあるが、あの雷光の英雄が問題を解決したと聞くだけで安心し、試合の観戦に集中できる。これまで勝ち続けたコトミが棄権したというのは残念だが、大会を中断するほどの問題が起きなかったことに安堵する。


(単純な人たちっすね……まあ、こっちとしてもいちいち面倒な説明するよりは楽ですけど)


予想外にあっさりと騙された観客達に呆れる一方、事前に用意した説明文を読まずに済んだことにカリナは安堵し、その一方でどうしてこんな芝居までさせてコトミを棄権させたのか疑問を抱く。


(本当に何か問題でも発生したんすかね……? まあ、兄貴がいるなら大丈夫だと思うっすけど……)


カリナの中でレノはどんな問題であろうと解決できる頼れる存在であり、彼の言う事ならばどんな事でも信じられ、だからこそここは何事も問題なく試合を進める事にする。


『それではDブロックの選手の入場っす――‼』


カリナの言葉に呼応するかの如く、試合場の全ての門が開閉し、選手たちが入場してきた――




――その一方、聖導教会総本部には試合を棄権したコトミとセンリを引き連れ、レノはワルキューレ騎士団に見張りを差せている監禁室のシュンの前に訪れる。念のためにテンと試合を終えたホノカも引き連れ、彼等は牢屋の前でまるでミノムシのように布で顔以外の部分を覆われたシュンの様子を伺う。彼は椅子に座り込み、顔色が悪いがレノの顔を見て笑みを浮かべる。


「……良かったですよ。どうやらこのまま監獄に送り込まれるわけじゃなさそうですね」
「それは話の内容によるかな」


シュンの前にレノが向い合う形となり、他の者達は一定の距離を保って様子を見守る。一応は身体を拘束し、魔法を封じていると言っても用心し、迂闊に近づかない様に気を付ける。


「それで……僕の処分はどうなりますか?」
「一応はカオリとカナから事情は聞いた。まさか、ベータたち以外に旧世界の事を知っている人間がいるとは思わなかったけど」
「旧世界……?ああ、僕たちの前の世代の世界ですか……その反応だと、どうやら僕の想像は正しかったんですね」
「そうだよ。俺にもあれが埋め込まれている」


レノは自分の頭をつつき、その答えにシュンは顔を上げ、今までとは違う笑顔を浮かべる。これまで何度も彼の笑みを見てきたが、今回は演技臭さがない朗らかな笑顔であり、どうやらこちらの顔が素らしい。


「やはり……貴方は、いえ貴方様は管理者の関係者だったんですね」
「まあ、そういう事になるのかな」


一応はレノも地下迷宮の研究施設で生み出された存在であり、管理者の関係者というのは間違いない。だが、既に放浪島の管理者はデルタを除いて消えて無くなった事を告げねばならない。


「単刀直入に言うけど、もう管理者は存在しない。あの研究施設はもう機能を果たせない状態だよ」
「……どういう意味ですか?」
「だから……もう管理者に従う必要はないって事」


レノの言葉に対してシュンは考え込む素振りを行い、1000年以上も待ち望んでいた管理者が存在しないという事実に取り乱すかと思っていたが、随分と冷静な反応だった。


「……そうですか。いくつかのパターンは考えていましたが、最も最悪の予測が当たってしまったようですね」
「その割には冷静だね」
「こう見えても1000歳ですからね……正直に言えば諦めていた感は否めません」


シュンは随分と疲れた表情を浮かべ、やはり内心は衝撃的だったらしく、そのまま椅子に背もたれる。


「……管理者はどのように滅びたのですか?」
「自殺、かな? 色々と理由はあったけど、最後は自分の意思で消えたよ」


アンドロイドであるベータは自分の意思で自らを爆破し、研究施設内の内部を焼却して旧世界の科学を利用されないようにした。彼女はきっと何千年という時を過ごしたことで自分の役割に疲れを感じ、レノの協力の下でこの世から消え去った。


「自殺ですか……最期は看取りましたか?」
「いや……でも、あんまり期待しない方が良い」


実際にレノはベータが爆破した瞬間を見たわけでも無く、施設自体は地上部分を除いて閉鎖されたため内部がどのような結果になったのかは分からないが、地下迷宮から抜け出した際に激しい地震が一度だけ起きたので、きっとベータが爆発した衝撃で間違いないだろう。


「形見なら一応あるけど見てみる?」
「……それは?」
「陽気な管理者の贈り物だよ」


レノはベータに別れの間際に受け取ったイヤホン型の機器を取り出し、シュンに見せつける。彼は食い入るように見つめ、危うく椅子から転げ落ちそうになる。


「そうですか……僕たちに関しては何も言ってなかったのですか?」
「生憎と聞いてないかな。まあ、聞く暇もなかったし……それどころじゃなかったから」


あの時は色々と問題が山済みであり、ゆっくりと会話する時間もなかったため、ベータからは旧世界と現在の世界に繋がる過程ぐらいしか聞いておらず、地上にシュンたち「調整者」がいるなどは教えてもらっていない。


「そうですか……ならば僕の目的は果たせないようですね。まあ、育ちすぎたこの世界に「調整者」としての役割を果たせるとは思えませんが……」
「調整者ね……具体的にどんな事をする存在なの?」
「そうですね……管理者から指示を仰ぎ、その目的を果たすために行動するという記録が僕の頭の中に埋め込まれているチップにインプットされています。過去に何度か増えすぎた各種族の削減や、最悪の場合は終末者と協力して世界を破滅リセットさせ、再構築するプログラムが埋め込まれています」
「予想以上にやばい返答だった」
「まあ、管理者がいなくなった今となってはどうしようもありませんが……僕たちは自分の意思で行動はできません」


どうやらレノの想像よりも厄介な存在だったらしく、つくづく放浪島が魔王の手によって隔離されていたことが運が良かったかもしれない。
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