種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

コウシュン

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――コウシュンという男は元々はアトラス大森林に生まれたエルフであり、彼は生まれた時から「風の精霊の加護」を受けていた。彼は幼いときから風の精霊を自分の意のままに操り、自分の風の魔力と組み合わせることで「不可視」の衝撃波を生み出せる能力を持っていた。

彼は18歳を迎えると、大森林の外の世界に興味を抱き、周囲の反対を押し切ってアトラス大森林から抜け出す。その後は闘人都市に訪れて冒険者の職業を志願すると、優れた能力を持っていた彼は数年の時を経てA級冒険者に昇格し、当時はそれなりに社交性があったので周囲の者達からも尊敬されていた。

エルフの中では珍しく、彼は人種差別を行わず、たとえ相手が魔人族だろうがハーフエルフであろうが態度を改めずに接した。自分が気に入った相手ならば友人として迎え入れ、例え目上の存在だろが気に入らない相手ならば喧嘩を売り、冒険として順風満帆に過ごす。

そんな中、彼はあるA級冒険者で統一されたパーティに誘われ、5年ほど共に活動していた時期があった。そのパーティには当時冒険者を勤めていた若かりし頃のミキも存在し、人間でありながら美しい彼女にコウシュンは惹かれた。



だが、そんな彼の想いとは裏腹にミキはとある男性冒険者に恋をし、更にはパーティの中で最も早くS級冒険者に昇格した彼女と距離が生まれてしまい、結局彼は失恋を機会に闘人都市に居座るのを止めて放浪の旅に出る事になった。

旅の途中でミキが冒険者を止めて聖導教会に入った事や、その理由が彼女が恋焦がれた男性冒険者の裏切りによる物だと知り、コウシュンは誰よりも優れた彼女を冒険者の道から追放した男性冒険者に怒り狂い、彼の所在を突き止めて殺害してしまう。何故か彼が到着した頃には既に男性冒険者は致命傷に近い大怪我を負っていたが、躊躇なく彼に止めを刺す。



――だが、冷静になった彼はいくら初恋の人を追いやった存在とはいえ、既に冒険者の職を辞した男性を殺してしまった事に罪悪感を抱き、自ら出頭して人殺しの罪を吐露した。結局、彼の処遇は当時は森人族と争い事を避けた王国が人間の領土から追放、というあまりにも軽い処分でアトラス大森林に強制送還させ、その後はずっと大森林の「護衛長」として過ごしていた。



しかし、魔王の出現によってミキが闘人都市で命を散らしたという報を聞いた時は大粒の涙を流し、相当に荒れてしまう。追放処分を受けながらも大森林を抜け出しては冒険者の真似事を行い、昔のように各地に彷徨っていたいたのだが、ある時に彼を迎えにきたレフィーアの使者から、彼女ミキの弟子であるというハーフエルフの少年が剣乱武闘に参加するという話を聞く。

ミキが誰とも結婚せず、また数十年にも渡って弟子を取っていなかったという話は有名であり(ジャンヌとカトレアは聖導教会から抜け出した際に破門され、表の世界には知られていない)、そんな彼女の教えを受けたというハーフエルフが気にかかり、どんな存在なのか確かめるために参加した。



――だが、レノを最初に見た時からコウシュンは落胆してしまう。確かに優れた能力の持ち主なのは間違いないが、それでもミキの弟子と聞いていたが彼女の若かりし頃の戦闘方法とはあまりにも違い、何一つ彼女の面影を想像させない戦い方だった。




その事に対して彼は異様なまでに苛立ち、ミキの弟子でありながら彼女の力を何一つ受け継いでいるようには思えないレノに無性に腹が立ち、その事がより一層にミキという存在がいなくなったことを思い知らされたようで気に喰わなかった。

彼の抱いた想いはただの八つ当たりであり、ミキに「似ていない」という理由だけでレノに敵意を抱く。だからこそ試合前にも関わらずに攻撃を仕掛け、そして今尚も彼を追い詰めようとする。



「紫電‼」



バチィイイイッ‼



自分に向けて紫色の電流を解き放つレノに対し、コウシュンはこの魔法もミキが扱っていなかったという理由に苛立ちを覚え、彼は掌を構える。


「失せろ‼」


ビュオォオオオッ‼


一声を発しただけでコウシュンの身体に風の防護壁が発生し、レノの放出した紫電が周囲に拡散する。相性的には風属性は雷属性を掻き消す力があり、生半可な電撃は通用しない。


「地雷‼」


ドォオオオンッ‼


続けてレノは地面に掌を押し当て、電撃を放出する。そんな彼の行動に訝し気な表情を浮かべたが、すぐにコウシュンは足元の異変に気が付き、舌打ちする。


「ちぃっ‼」


ズドォオオオンッ‼


瞬時に後方に下がると、先ほど立っていた地面から凄まじい雷撃が天空に向かって打ち上げられ、その規模に目を見張る。本来ならば森人族が覚えられるはずながい雷属性の魔法に対し、流石は英雄と呼ばれるだけの器と判断し、コウシュンは剣の刃に手を押し当てる。


「衝風‼」


ゴォオオオオンッ‼


彼の長剣が振動し、レノはその光景にアルトのデュランダルが浮かび、咄嗟に両腕を交差させる。その直後、コウシュンを中心に足元の石畳に亀裂が走り、衝撃波が周囲に拡散される。


ドォオオオンッ……‼


「ぬぐぐっ……⁉」
『うひぃっ⁉ 耳が痛いっす‼』



実況席にいるカリナが悲鳴を上げ、彼女以外もコウシュンの手に握りしめる長剣の振動音によって観客達も耐え切れずに耳を塞ぎ、特に優れた聴覚を持つ森人族や獣人族は堪ったものではない。


「くっ……‼」


アルトのデュランダルと比べればたいした威力ではないが、レノは全身に押しかかる衝撃波に後退り、嵐属性の魔力で押し返そうとするが、先ほどのやり取りでコウシュンには嵐属性の魔法は喰らわないのは間違いなく、雷属性も相性が悪いとなるとレノの残す手は1つしかない。


「上手くいくか……水刃‼」


ドパァアアンッ‼


レノは右手に水属性の魔力を発現し、左手に風属性の魔力を纏わせ、そのまま合成させて剣を構えながら仁王立ちしているコウシュンに放つ。まるで乱刃のように三日月状の水の刃が放出され、彼は驚いた表情を浮かべる。


「なにっ……ちぃっ‼」


水属性の魔法も扱えたことに驚いたのか、彼は振動している剣を振るい、向い来る水刃を迎え撃つ。衝撃波と水の刃が衝突し、周囲に水飛沫が舞う。


「3つの属性を操るだと……まるであいつ……いや、違う‼」


嵐属性、雷属性、さらには水属性の魔法を操ったレノに対し、様々な属性を操っていた若かりし頃のミキを思い出し、コウシュンは頭を振る。


「よそ見すんな‼」
「なっ……⁉」


ドォンッ‼


そんな彼の一瞬の隙を逃さず、レノは瞬脚で接近し、彼が剣を振るう前に右腕を突き出す。


「ガキが‼」


何の策も立てずに自分に対して腕を突き出してきたレノに対し、コウシュンは激昂しながら剣を振るう。例え肉体強化で限界まで拳を固めていようと、彼が半生も共にした名剣に斬り裂けぬものはないという自信があり、そのまま彼の腕ごと切り落とそうとした瞬間、



「魔鎧‼」
「ほのっ――⁉」



レノの右腕に「紅色の炎」が発生し、そのまま彼の腕を包み込むと正面からコウシュンの名刀の刃に触れ、奇妙な手ごたえに襲われる。まるでゴムのように弾力性が高い青の炎に阻まれ、腕を切り裂くどころか逆に押し返され、弾かれる。


メキィイッ……‼


体勢を崩したコウシュンに対し、レノは左拳を握りしめ、彼の身体を覆う風の防護壁を突破するには魔法を打ち消す特性を持つ魔鎧だけであり、紅の炎を纏わせて振り抜く。


ドォオンッ‼


地面を強く踏み込み、足の裏、足首、膝、股関節、腹部、胸、肩、肘、腕、拳の順で身体を回転、及び加速させ、勢いを乗せた拳をコウシュンの腹部に貫く。



――ズドォオオオオンッ‼



「がっはぁっ……⁉」
「あぁあああああっ‼」



ビキィイッ……‼



地面に亀裂が入るほどに強烈な一撃が放たれ、コウシュンの纏っている不可視の風の防護壁を魔鎧が打ち払い、そのままレノの拳が彼の肋骨を幾つか粉砕し、そのまま吹き飛ばした。



ドガァアアアアアアアンッ‼



『決まったぁっ‼ 兄貴、いや、レノ選手の一撃が炸裂だぁあああっ‼』



――ウワァアアアアアッ‼



派手に土煙が舞い上がり、観客達が歓声を上げる。レノの渾身の一撃によってコウシュンは吹き飛ばされ、誰もがレノの勝利を確信したが、土煙の中から動く影が存在し、



「ぐ、がぁあっ‼」



ボフゥッ……‼



腕を振り払う動作のみで土煙を消し飛ばし、血反吐を吐きながら長剣を杖代わりに起き上がるコウシュンの姿に観客達が動揺し、レノも身構える。


「ぶへっ……げほげほっ‼」


口から血液交じりの唾を吐きだし、コウシュンは脇腹を抑えながらレノに視線を向け、彼の右腕に未だに纏っている紅の炎を見て笑みを浮かべる。彼が「嵐」「雷」「水」そして「火」の属性を操ったことに対し、コウシュンは満足げに目を細め、


「……なんだよ……ちゃんと受け継いでいるじゃねえか……」


――レノの姿に若かりし頃のミキが重なり、彼女も風、火、水、雷を属性を操っていた事を思い出させる彼の姿に対し、コウシュンは立ち尽くしたまま笑みを浮かべながら気絶した。
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