種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

本戦前日

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いつも通りに予選を終え、黒猫酒場にいつものメンバーが集合し、朝まで派手に飲み明かし、結局全員が昼まで就寝してしまう。レノは昔自分が使っていた部屋で目を覚まし、何時の間にか潜り込んでいたコトミとポチ子を引き剥がす。


「……ほら、離れなさいポチタマ」
「……すぴぃっ」
「ごろごろ……」
「返事がない、ただのペットのようだ」


起きる様子の無い2人に毛布を掛けると、レノは両腕に浮かんだ紋様を確認する。既にアイリィ仕込みの解放術式の準備は整えており、よく眠ったお蔭で体長は万全だった。これならば明日の本戦では全力で挑めるが、強敵との連戦を考えてしっかりと準備を整えなければならない。

明日の試合は「A」「B」「C」「D」の四ブロックに選手たちが分かれ、闘技場内では改装工事が行われ、4つのリングが設けられている。全ての試合が同時に開始され、初日は64人の選手たちが16人になるまで試合が終わらない。

さらには剣乱武闘側の要請により、本戦からは休息日が存在せず、初日の翌日には16人から4人まで減らされ、最終的に最終日には4人の選手のバトルロワイヤル方式に変更されたという通知が送られた。



「さてと……組み合わせの番号は何番かな」



レノは自室に立て掛けられているミラークリスタル(タブレットのように四角形に削られており、木枠に嵌め込まれている)を確認し、時間帯的にも選手たちの組み分けが発表されるので、ミラークリスタルに触れて闘技場の映像を配信する。


『はいは~い‼ CMも終わったので、そろそろ皆さんのお待ちかねの剣乱武闘本戦のトーナメントを発表したいと思うっす‼』
『いぇ~いっ』


ミラークリスタルに出現したのは昨日は夜遅くまで飲んでいたはずのカリナと、人魚族代表のミズナであり、丁度トーナメントの対戦表が放映されるらしい。


『それでは注目の第一回戦‼ なんと初手から優勝候補筆頭のレノ選手の出場っすよ‼』
『おお~』


いきなり自分の名前が呼ばれたことに机の上に置いていた葡萄酒を噴き出しそうになり、レノが慌ててミラークリスタルに視線を向けると、カリナが対戦相手の発表を行う。


『最初の試合の組み合わせはレノ選手と、巨人族の異端児と呼ばれるダイゴロウ選手っす‼2人の体格差は約5倍であり、賭け率はレノ選手が7、ダイゴロウ選手が3です‼』
『あれ? 意外とダイゴロウ君に賭ける人が多いね』
『まあ、巨人族の中でもダイゴロウ選手は別格のデカさっすから、大番狂わせがあるのではないかと噂されているようですね。続いて二回戦の対戦は――』


レノはミラークリスタルを見ながら、予選の際に一際目立っていた巨大な巨人族の男を思い出し、ゴンゾウの倍以上の巨体であり、一回戦から面倒な相手と当たった事になる。


「まあ、いいや」


普通ならば対策を考えたり、相手の情報収集を行う所だろうが、レノはミラークリスタルを切ると、窓を開いて新鮮な空気を味わう。


「おおっ……凄いな」


窓の下から見える景色にレノは言葉を漏らし、街路には数多くの種族が入り乱れ、わざわざ剣乱武闘の見学のために世界中から人が集まっていると聞いていたが、予想以上に人々が密集していた。


「昨日の試合見たかよ? やっぱ、優勝はあのソフィア大将軍だな‼」
「お前、聞いてねえのかよ? ソフィア大将軍は昨日のうちに棄権したらしいぜ。なんでも、城塞都市の方で危険種指定されている魔物が発見されて討伐に向かってるとか……」
「はあっ⁉嘘だろ⁉俺、あの人が優勝するのに金貨30枚も賭けようとしたのに……」
「いやいや、優勝はやっぱりゴンゾウ大将軍だろ‼巨人族の中でも一際目立ってたぜ‼」
「巨人族と言えば、あのでっかい奴も気になるが……雷光の英雄って奴もどれほどのもんかな」
「お前、知らねえのかよ? あの人は前にも大会で活躍してたんだぜ。俺はあの人に全財産を賭ける‼」


行き交う人々も剣乱武闘の話題で盛り上がっており、歴史上でも恐らく最も人気が高く、そして実力者が集結した大会であり、だからこそ種族間の立場の影響が出やすい。


(アルトが言っていた事もあながち大袈裟じゃないのか……)


大会の前に彼が告げた言葉を思い出し、今回の剣乱武闘の優勝者によっては大きく種族間の力関係に影響が及ぶ。レノの場合は人間とエルフの血を受け継ぐハーフエルフのため、優勝した場合はどうなるのかは分からないが、世界中で迫害されているハーフエルフ達にも影響が及ぶだろう。


『友人としては皆を応援したいが……王としての立場では君かリノン、ジャンヌかレミアに優勝して欲しい』


昨夜の宴の席でアルトから告げられた言葉であり、彼の本心はポチ子やゴンゾウも応援したいところだろうが、今の王国の立場を守るためにも巨人族のゴンゾウと獣人族のポチ子が優勝するのは出来るだけ避けたい。王という立場で無ければアルトも2人を心の底から応援できたのだろうが、人間という種族の代表の立場に位置する以上はそういうわけにはいかない。

レノは厳密に言えば人間の血は受け継いでいないが、世間ではハーフエルフとして認識されているため、優勝すれば人間側と森人族側が有利となるだろう。但し、あくまでも彼の所属は王国のため、人間側が圧倒的に有利だろうが。




――ちなみにソフィアが出場するのは問題があり、昨日の内に危険を申し込んでいる。彼女の正体を知っているレフィーアの件もあり、流石に一人二役で本戦に出場するわけにはいかない。ソフィアの枠は大会側と他の種族代表の相談の上、適当な人材が厳選されるらしい。




「さてと……墓参りでも行くか」



この都市にはレノにとって大切な2人の墓場が建てられており、1人は恩人でもあり師でもあるミキ、もう1人は大切な義弟のディンであり、2人の墓は聖導教会に建てられている。レノは準備を整え、教会に向かうために移動しようとした時、不意に机に置かれている写真を確認する。


「……あっ」


写真に写っているのはまだ健在だったころのアイリィと若い頃のレノ達であり、無理やり彼女が魔王との最終決戦の前に撮った写真だった。この時は彼女がいなくなるとは考えておらず、いきなり写真を残そうと言ってきた彼女に戸惑っていたが、きっと自分が死ぬ前に思い出を残しておきたかったのだろう。



「じゃ、行ってきます」



無意識に写真のアイリィに両手を合わせ、良くも悪くもレノがここまで来れたのも彼女の存在が大きく、彼女も恩人の1人と言える。彼女に挨拶を行うと、そのままレノは教会に向けて移動した――
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