種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

芝居

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レノがテラノと意外な再会を果たして世間話を行っている間、カゲマルとシャドは厨房ではなく屋敷の大広間に移動し、そこには先ほどまでレノが遭遇していた人間が勢ぞろいで待機していた。



「おお、遅かったな2人とも」



襖を開いて最初に迎えたのは先ほどは険悪な雰囲気を纏っていたハンゾウであり、彼はカゲマルたちに対して打って変わって朗らかな笑みを浮かべて迎え入れる。


「ハンゾウ殿、先ほどの名演技はお見事でござる」
「なに、あの程度の芝居など問題ない。むしろ、英雄殿に見抜かれないか冷や冷やしたぞ」
「今のところは気付いている様子は無いでござる」
「兄貴~怖かったっす~」
「全く、戦闘が得意という訳でもないのに試練役を引き受けるからこうなるのだ」
「だって噂に聞く英雄って人を間近で見たかったから~」


ハンゾウにカゲマルは深々と頭を下げ、彼の隣にシャドが座り込む。この2人は兄妹であり、そしてカゲマルにとってハンゾウは自分の師匠に近い存在である。


「それにしても演技とは言え、お前と婚約関係を破棄された男を演じるのは奇妙な感じだったな……娘同然に思っていた相手にフラれたような気分だ」
「それは申し訳なかったでござる」



――実はカゲマルが説明したハンゾウに対する人物像には一部偽りが混じっており、まず彼とカゲマルは元々婚姻関係など結んでいない。半蔵この里の重要人物であることは間違いないが、決して「忍頭」や「頭首」の座を狙ってはいない真面目な忍であり、いずれは正式に頭首と認められるほどの人格者だった。



彼がどうして演技を行っているのかというと、レノの「第三番目の試練」を担当している忍だからであり、明日にはカゲマルとの婚約の座を賭けて勝負を行い、レノが勝利した場合は彼を本格的に客人として迎える手筈であり、負けた場合はをレノを王国へと帰還させるつもりだった。


「それにしてもレノ殿を呼び出すとは言え、拙者が実家にレノ殿と恋仲の関係だと伝えているという虚偽の報告を行うのは恥ずかしかったでござるな……レノ殿でなければ変な勘違いをされそうでござる」
「まあ、仕方がないだろう。王国に仕える忍として、英雄殿を試す必要があるからな」
「でも、あの人って相当に凄い人ですよね~三人衆も呆気なく散ったし」
「我等を‼」
「勝手に‼」
「殺すな‼」
「あ、いたんだ……」


ハンゾウの向い側にはボロボロの姿の三人衆が正座しており、彼等はレノに敗れた状態でここに訪れたらしく、1人は電流を喰らって髪型がアフロのようになってしまった状態で座り込んでいた。


「あの者」
「相当な手練れ」
「我等には手に余る……」
「おい、すまないが普通に喋ってくれ」
「あ、はい」


ハンゾウの言葉に三人衆は素直に従い、上下関係としては三人衆はハンゾウの部下であり、普段は彼の配下として任務を行っている。三人衆と言っても常に三人一組で行動しているわけではなく、今回のような外界から訪れた者の試練のために三人組は呼び出された。


「世間話はそこまでにしなさい。まずは現状を報告しなさい」
「「はっ‼」」


大広間の一番奥には先ほどまでの給仕服姿ではなく、立派な正装に着替えた静江が座り込んでおり、先ほどまでとは打って変わった冷静沈着な雰囲気で忍達を見下ろし、現時点での「試練」の結果報告を尋ねる。



――実はこの「静江」こそが王国に仕える影の一族を纏め、普段は給仕役として過ごしているが、実際は裏で全ての忍達を纏める「忍頭」として行動を行い、現時点での忍の里の「頭首」の代役を務めている。



静江がどうして給仕役を演じ、異世界人の演技をしているのかというと、彼女が忍頭であることは極一分の者達にしか知らされておらず、普段は給仕として過ごす事で忍達の生活を管理し、場合によっては不穏分子を見つけるために行動しているからだ。

今回、彼女がカゲマルたちを呼び集めたのは当然「レノ」が関係しており、常々から王国内では重要人物の一人として信頼されている彼を見極めるため、この里に呼び寄せて実力を見計らい、万が一に彼が国王アルトの隣に立てる人間ではないと判断した場合は内密に処理(左遷)するつもりだった。


「それで、現時点での試練を通して各々が抱いた感想はどうなのですか?」
「私はまだ短い間しか応対していないが、武人とは違った威圧感というか、雰囲気を纏っていたな。普通の人間なら気付かないでしょうが、迂闊に仕掛けるのは危険だと判断しました」
「あっしの場合は簡単に見抜かれた時は自信を無くしましたね~……手元の部分まで変装を忘れていたのはあっしの盲点だったっすけど、それを踏まえた上でも相当な観察眼の持ち主でしたよ」
「我等の場合は不意打ちを仕掛けたにも関わらず、結果としては恥を見せる形になってしまって申し訳ない……ですが、初めて見たと思われる土属性の攻撃をああも見事に対処するとは……やはり、噂通りの御仁のようですな」
「うむ‼ 無詠唱であれほどの魔法を乱発して疲労も見せないとは……流石は魔力容量が種族位置と言われるハーフエルフなだけはあるな」
「それに迂闊に接近戦に持ち込もう物なら、間合いに入ったら容赦なく捻り潰すと言わんばかりの雰囲気を纏っていたな……まるで大型の獣と相対している気分だった」
「あ、普通に喋れるんですか貴方達……」


静江は忍達の報告を聞き終え、よく耳にしているハーフエルフの英雄の噂が真実であると判断する。世間ではアルトに並んで王国内に影響力がある人物として知られており、実際にレノに憧れて兵士を志願する民衆も多い。

王国は現在は世代交代の状態であり、歴戦の強者として他種族にも名前が知れ渡っていたテラノやギガノが大将軍を辞任し、それに伴って大勢の年老いた騎士や将軍も引退している。その反面にソフィアとゴンゾウが大将軍に後任として選ばれたのを切っ掛けに続々と若い世代の人間達が奮起し、前国王の時代にも劣らぬ戦力が完成しつつあった。

だが、その一方であまりのレノの功績に疑いを抱く者も存在し、そもそも本当に彼は英雄と呼ばれるほどの実力と人望を兼ね備えているのかと疑問が浮かび上がり、その真偽を確かめるためにわざわざ一芝居を売ってここまで彼を連れてきたが、現在の報告では静江は彼が噂通りの人物であるだろうと判断していた。



――しかし、静江はそれでも直接この目で彼の実力を試さない限りは気が済まず、里の中でも一番を誇る実力者のハンゾウに彼と決闘を行わせ、これが最後の試練としてレノを見極める事を決意した。



「ハンゾウ、試練とは言え手加減は許しません。いえ、話を聞く限りでは貴方の方が油断を許されないでしょう。決して侮ってはなりませんよ」
「ふっ……お任せください。彼の実力、この手で確かめて見せましょう」
「おおっ……やけに自信たっぷりですけど、何か奥の手があるんすか?」
「それは明日のお楽しみだ……」


静江の言葉にハンゾウは笑みを浮かべながら頷き、その姿に頼もしさと同時に彼ならば期待通りの働きをしてくれると信じ、彼女は安心すると同時に笑みを浮かべる。


「それにしても……私と対応した時の彼の反応、やはり私が忍である事には気が付いてはいませんでしたか」
「それは無理も無いでござる。あの時の忍頭は完全に異世界人の静江殿としてなり切っていたでござるからな。事情を知っている拙者も本当に忍頭なのかと疑ったでござる」
「ですが、英雄と謳われている人物に私の演技が通じた事は喜ぶべき事なのか、それとも評価を見直すべきなのか悩みどころですね……ふふふっ」
「世間から英雄と言われていても、忍頭から見ればまだまだ見直す点が多い子供、彼が試練を突破した暁には我らがしっかりと影から指導しましょう」
「そうですね……では、そろそろ戻りましょうか。夕餉の支度をしなければなりませんし……」
「拙者たちもお手伝いするでござる」
「味見役なら任せてほしいっす‼」


自分の正体が気付かれなかったことに静江が上機嫌に立ち上がり、そろそろ給仕係の静江の姿に戻るために皆を解散させ、カゲマルとシャドを引き連れて夕食の支度にむかった――






その一方、レノ達はお茶おかわりを啜りながらこれまでの経緯を話し合い、不意にテラノは思い出したようにレノに告げる。


「そう言えばこの里の忍頭の静江殿には会ったか? あの方も先ほど見かけたから、顔を合わせたら挨拶をしておくべきだろう」
「え、静江さんが忍頭なんですか? 確かに最初に会った時から只者ではない雰囲気を纏っていたけど……」
「なんじゃ、知らなかったのか? てっきり教えられているものと思っていたが……ううむ、後で儂から改めて紹介するから挨拶するんじゃぞ」
「うわ~……知らなかったとはいえ、失礼な態度を取っていたのか……すいません、よろしくお願いします」



――静江の思惑とは裏腹に予想外の人物から正体を晒され、数十分後の夕食の時間にテラノから改めてお互いに紹介され、何とも微妙な雰囲気の中で食事を行うことになるのは後の話である。
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