種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

忍村

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「な、何とか辿り着いたでござる……」
「凄い汗だけど大丈夫?」
「なんでレノ殿は汗1つ流していないでござるか⁉」
「森人族だから」


何とか無数の狼の群れを振り切り、カゲマルの故郷である樹海の中に存在する里に到着する。里の周囲には魔獣たちが渡れない様に大きな堀と木製の柵で囲まれており、唯一の出入口には大きな橋が掛けられている。レノはカゲマルに肩を貸しながら橋の上を移動していると、門番役らしき黒装束の男達が立っている事に気が付く。


「そこで止まれ‼ 何者だ‼ 名を名乗れ‼」
「おお、あれも忍者?」
「そうでござるよ……ちょっと待っててほしいでござる」


カゲマルはよろよろと懐から木製の割符を取り出し、見張り番を行っている男二人組に見せつけ、


「拙者は城塞都市の隠密部隊隊長の任を請け負っているカゲマルでござる‼ これがその証明の証でござる‼」
「カゲマル様だと⁉」
「確認させてもらう‼」


男たちはすぐにカゲマルから割符を受け取り、しばらくの間は何事か話し合って割符を凝視していると、すぐに態度を改めて大きく頭を下げる。


「こ、これは失礼いたしました‼ よくぞお戻りになられましたカゲマル様‼」
「大変な失礼をいたしました‼」
「4年ぶりでござるからな……拙者の顔も忘れていてもしょうがないでござる」
「というか顔が隠れていて分からないだろ」


忘れがちだがカゲマルは常に黒装束で全身を覆っており、身体付きから女性だとは分かるが誰もその素顔を見たことがない。何度か力ずくで彼女の顔を探ろうとした人間もいたが、それらの者達は何時の間にか消息を絶っており、王城の七不思議のひとつとして彼女の顔を探ろうとした人間は消え去るという噂まで持ち上がっている。


「カゲマル様、そちらの御方は……?」
「こちらは拙者の友人の……あ、いや同僚のレノ殿でござる」
「レノ……? まさか、あの雷光の英雄の⁉」
「動物好きで女性の胸が大好きという有名なハーフエルフの御仁ですか⁉」
「世間で俺がどんな風に噂されているのか気になる」


唐突なカゲマルの帰還と雷光の英雄の来客に門番は慌てふためき、扉を開いて里の中に入れてくれる。彼等は任務があるので見張り役を離れられないが、代わりにカゲマルが案内を行う事となる。


「ここが隠れ里か……なんというか、予想通りというべきか、予想以上というか……」
「雰囲気はレノ殿が収めているレノノ村と似ているでござるよ?」



――眼前に広がる「隠れ里」のレノが抱いた第一印象は大昔の日本に存在した田舎であり、こちらの世界では珍しい和式の建物や水車、さらには農場が広がっており、事前に予測していた光景が視界に広がる。



「あはは~」
「待て待て~」
「クォオオンッ♪」


浴衣のような服を纏った子供達が牛と馬の特徴を持つ生物を追いかけ回しており、よくよく見れば放浪島でも見かけた家畜用の魔獣であり、どうやらこちらの里にも存在するらしい。


「全員が黒装束を覆っている訳じゃないんだ……」
「なんで少し残念そうでござるか……里の人間全員が忍びという訳ではないでござるし、あの服は仕事の時しか着用が認められていないでござるよ」


黒装束を纏った子供たちが手裏剣を片手に走り回っている想像をしていたが、里の中の人間は殆どが普通の恰好をしており、何処となくこの世界では珍しい和風な装いをしている。


「結構珍しい造りの建物でしょ?」
「そうでござるな。外の世界の建築物とは根本的に建築方式が違うでござるからな」


基本的にこの世界の建築物は洋風だが、この隠れ里に存在する建物は和式であり、滅多に見られない造りだった。以前に立ち寄った事があるポチ子の実家の温泉宿も似たような構造だったが、それでも珍しい事に変わりはない。旧世界の古の時代の日本の建築技術が残っている事に驚く一方、まるで自分がタイムスリップしたようにも感じられてレノは内心興奮していた。


「あ、もしかして寿司とか天ぷらとかいう名前の食べ物もあったりする?」
「おお、寿司と天ぷらまで知っているとは中々の博識でござるな‼もちろん存在するでござるよ」
「やった‼」


どうやら建物だけでなく、日本産の料理も伝わっているらしく、少しだけ期待感が高まる。まさかこの世界で寿司や天ぷらを拝めるなど想像していなかったため、久しぶりに食せる機会が訪れたのかと興奮していると、


「おっと、待ってもらおうか」
「ん?」
「な、お主は……⁉」


突然、二人の前に立ち塞がるようにガラの悪い男が立ち止まり、見ると巨人族を想像させるほどの巨躯であり、顔面部分だけを黒い布で覆っている。その姿を見てカゲマルの視線が険しくなり、レノは不思議そうに男を見上げると、彼はカゲマルに頭を下げる。


「お久しぶりですなカゲマルさん。俺の事は知っていますね?」
「ハンゾウ殿……どうしてここに」
「ハンゾウ?」


忍者といえば「服部半蔵」という名前は有名ではあるが、目の前の男も「ハンゾウ」という名前であり、彼は顔面を覆っていてよく分からないが恐らくは笑みを浮かべ、カゲマルに話しかけてくる。


「例の話を忍頭から聞いていると思いますが、俺との結婚の件は考え直してくれましたか?」
「はて?その件はちゃんと断ったはずでござるが?」
「それはつまり、例の外の世界で出来たという恋人を連れてきたという事ですな? まさか、この男が?」


ハンゾウと呼ばれた男がレノに視線を向け、すぐに笑い声を漏らす。その反応に苛立ちよりも不気味さが感じられ、レノが何が起きているのかカゲマルに視線を向けると、


「……レノ殿、こちらの御方はハンゾウ殿と言い、拙者と同じく王族の影として育てられた忍びでござる」
「へえ……それは凄い」
「ふんっ……こんな男が英雄だと? ただの子供ではないか」


彼の反応が薄かったことに半蔵は眉を顰め、ゆっくりとレノの肩に手を伸ばす。あわよくばからかうつもりで掴み上げて持ち上げようとしたのかも知れないが、レノは寸前で後ろに引いて躱す。そんな反応が気に入らなかったのか彼は舌打ちを行い、


「カゲマル殿‼ 俺は諦めませんぞ‼ 其方と結婚し、そして里を収めるのはこのハンゾウであることをお忘れなく‼」


一方的にそれだけを告げるとハンゾウは立ち去り、そんな彼の後姿を見送りながらカゲマルは深いため息を吐きだし、レノは何が起きているのか尋ねるように視線を向けると、


「……ハンゾウ殿は拙者の元婚約者でござる」
「え、カゲマルって筋肉好きだったのか……けど、あんなのよりもゴンちゃんの方が格好いいし、優しいよ?今度、紹介しようか?」
「いや、婚約者と言っても親同士が勝手に決めただけで拙者にそのような趣味はないでござるよ⁉ それに拙者の好みの男性は年下でござる‼」
「分かった分かった……少し落ち着け」


心外だとばかりに首を振るカゲマルを落ち着かせると、先ほどの反応から考えるにハンゾウという男はカゲマルの婚約者だったらしいが、彼女との婚約は既に破棄されているにも関わらずに見合い話を持ち込んでいるらしい。


「ハンゾウ殿は昔は頼れる逞しい御方でござったが……先代の頭首が死んでから自分がこの里を治めるのだと主張をし始めて変わってしまったでござる……」
「頭首?……忍頭とは違うの?」
「確かに忍頭は忍者を統率するお方でござるが、この里を治める者は別でござる。忍頭よりも偉いのが頭首であり、今現在は空席なので代理として拙者の祖母がこの里を治めているのでござる」


レノは隠れ里を収めているのはカゲマルの祖母である「忍頭」だと思い込んでいたが、どうやら色々と複雑な事情があるらしい。
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