種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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追想編

英雄だった少女

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――1000年前、アリア平原に甲冑に覆われた騎士が立っていた。傍には騎士を乗せていたと思われる黒馬が横たわっており、既に息絶えているのか微動だにしない。黒馬の胴体には無数の傷が存在し、甲冑の騎士の鎧にも多数の傷跡が残っている。



「……ここは、そうか。私は……」

ガシャンッ……‼



『甲冑の騎士』はそのまま膝を着き、自分の身体を確認するように掌を動かし、東部の部分に触れる。ゆっくりと地面に座り込み、頭を抑える。


「どうしてこんな事に……私は、お姉さまを救いたかっただけなのに……」


――この甲冑の騎士は、先ほど魔王と呼ばれる存在から逃げ延びる事に成功した。だが、代償はその非常に大きく、自分の元の肉体を奪われた「少女」は涙さえも出ない鎧の身体に項垂れる。今現在の彼女は「デュラハン」の肉体に乗り移った状態であり、元の肉体は既に消失してしまっている。


「私があの時、油断していなければ……こんな力があっても、もう何も出来ない」


世間では原初の英雄と謳われながら、今の彼女には魔王を打ち倒す力や、大陸を支配した魔人族に抗う術はない。だが、それでも彼女の鎧の掌には「鉄球」を想像させる紋様が浮かんでおり、彼女はこの紋様を聖痕と呼んでいた。

この身体に変化した後でも何故か聖痕だけは残っており、少女は掌を向けると、自分の目の前の地面に異変が生じる。


ズズゥウウンッ……‼


少女の前方の地面に円形状の窪みが生じるが、大きさはせいぜい3メートルにも満たず、彼女は溜息を吐いて掌を戻す。この身体では聖痕の能力も弱体化しており、せいぜい鎧の重量を操作する程度の能力しか残っていない。


「……お姉様を取り戻さないと」


それでも彼女は起き上がり、自分の最愛の姉の肉体を奪った魔王を打ち倒すため、草原を歩み続ける。間違っても今現在の彼女の力では魔王には及ばない。相手も彼女の「魂」が抜け出す際に全ての聖痕を消失してしまったが、それでもまだ魔王の傍にはセンチュリオンと呼ばれる側近たちが存在する。

最初に彼女が行うべき事は世界各地に散った自分の力の欠片である「聖痕」の回収であり、同時にこの身体から抜け出す術を考えなければならない。魔人族のデュラハンの肉体に乗り移れたのは運が悪く、この身体では今の世界では不都合すぎる。

現在、大陸の大部分を支配している魔人族ではあるが、魔王という主柱を失った彼等ではすぐに他の種族に反乱が起きれば対処しきれないだろう。そして、魔人族の身体に憑依した少女も無事では済まない。


「何処かに逃げる場所は……あれは」


上空を見上げると、そこには小さな点のような物が視界に入り込み、彼女はすぐに空中に浮かぶ物体の正体に気付く。魔王が最も恐れる存在達が潜んでいる地下迷宮が存在する島国であり、何十万もの浮揚石の原石を埋め込んだことで空中に隔離した国家の海上王国である事に気が付く。



「……あそこなら」



魔王が最も恐れる場所であり、同時に今の少女が安全に暮らせる場所でもある。現在のあの島には人は済んでいないため、見つかる恐れもない。彼女は重力の聖痕を発動して、自分の肉体に掛かる重力を遮断し、空中に浮き上がって後に「放浪島」と呼ばれる浮揚島に逃げ延びる――





――長い時が経過し、少女は空中に浮かぶ島で過ごしていた。最初の頃はどうやって聖痕を回収するのかを考えていたが、やはり現在の肉体では不便であり、他の生物に憑依する事が出来ないのか試してみたが、この島には運が悪く彼女以外の人間はいない。



 それでも彼女は世界中に散らばった自分の聖痕の力を感じ取るため、長い時間を費やして聖痕の魔力だけを感知する能力を身に着ける。だが、やはり自分だけの力では世界に散らばった聖痕の回収は不可能であり、彼女は協力者となる人間を見つけ出す必要があった。

 時が流れていく内に地上の方でも激しい戦乱が何度も繰り返され、大陸を支配していたはずの魔人族は各種族の反乱に遭遇して大陸から撤退し、現在は基の大陸から離れた島国に閉じ籠っている。また、反乱に成功した種族達もお互いに信用できず、激しく領土を巡って争い合う。



だが、ここで地上の方に「伝説獣」と呼ばれる存在が唐突に目覚め、世界は幾度も彼等によって危機に瀕する。六種族は一時的に力を合わせ、原初の英雄の片割れが残した聖遺物を使用して伝説獣の撃破に成功するが、その被害は大きく、死傷者の数は数億人を超したという。



しかし、空中を移動し続ける少女によっては地上の異変など遠方の出来事の話であり、彼女は比較的に無事に生活を送っていた。最初はデュラハンの身体に不便さを抱いていたが、特に食事や休息を必要としない身体のため、長い時を過ごす分には便利な肉体だった。

この島には独自の生態系が存在し、地上とは比べ物にならないほどの危険性の高い魔物が生息しているが、デュラハンの少女は基本的に彼等からは生物としては判断されず、彼女は餌としては不適格なせいなのか滅多に襲われる事は無かった。それが逆に都合がよく、彼女は自由に行動出来た。

やがて、数百年の時が流れると地上ではある王国が建国し、放浪島と呼ばれるようになった少女が住んでいる島にも王国の人間達が訪れる。彼等はこの広大肥沃な土地を利用して北部に存在する山岳を除き、東、西、南に監獄を造り上げ、死刑宣告が言い渡された死刑囚を収監する。彼等には死ぬまでの間、この島で労働を行わせて死刑囚達が造り上げた農作物を回収する。

少女はどうにかしてやっと訪れた人間達に接触できないかと考えるが、魔人族である彼女が迂闊に近付けば警戒されるだけであり、少女は偶然にも死刑囚の中から比較的に以前の自分と年齢が重なる女囚を見つけ出す。

偶然にも女囚は不慮の事故によって死亡し、比較的にも無事に残っていた死体に少女はデュラハンの身体から身体を乗っ取る。幸いにも無事に憑依は成功し、彼女は女囚に演じる事で人間達に接触に成功する。デュラハンの肉体(鎧)に関してはまだ使い道がある事を予測し、誰にも見つからない場所に保管を試みた。



その後は女囚に成りすましながら、偶然にも女囚の身体が聖属性を習得していたことも幸いし、彼女は医療魔導士として振る舞う。囚人たちを治療する一方、彼等から定期的に情報を伺い、時には取引を交わす事で金目の物になる道具を入手する。



気が付けば放浪島に訪れてから数百年以上の時が流れ、魔王軍も殲滅され、それなりに金銭を入手した彼女は地上に向けて降りようとした時、とある人物と出会った。彼女との出会いが良くも悪くも少女の運命を大きく変えた。



――その人物の名前は「レイア」後にレノとホムラの基となったダークエルフであり、彼女は放浪島の主人として放浪島に送り込まれた。
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