種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
802 / 1,095
真章 〈終末の使者編〉

偵察不可能

しおりを挟む
「ご主人様、偵察ならば私が行います」
「デルタ?」
「呪詛というデータはありませんが、私の装備ならば問題なく忍び込めます」


デルタは任せろと言わんばかりに胸を叩き、最初の頃と比べると随分と人間らしい行動を取るようになったが、確かにアンドロイドである彼女ならば呪詛を物ともせずに侵入できるかもしれない。それでも危険であり、彼女はアンドロイドの中でも最も人間に近いペースで開発されており、呪詛に侵される可能性も否定できない。

だが、終末者の装甲を取り入れた事で性能が格段に上がっており、もしかしたら呪詛に対する対抗策も搭載しているかも知れない。


「大丈夫なのか?」
「私のセンサーでは部屋の内部を感知する事は出来ても、空洞に充満している魔力の正体までは解りませんが、仮に何らかのウィルスが含まれていても私ならば問題ありません」
「うぃるす?」


ウィルスという言葉に部屋の中の何人かが首を傾げるが、いちいち説明している暇もないのでレノは考え込む。確かにデルタの言葉には信憑性があるが、それでも絶対という保証はない。だが、現状では彼女以外に部屋の内部に侵入できる者はおらず、念のためにあらゆる対策を施してから彼女を送り込むのが一番だろう。


「よし……分かった。1人で大丈夫か?」
「問題ありません」
「ちょ、ちょっと待ってくれレノ⁉ まさか、本当にデルタさんだけを行かせる気か?」
「幾ら何でもそれは……」
「危険すぎますよ⁉」
「こちらを所持していてください。私の視界を通して映像を配信します」


ガポォンッ……


彼女は右耳に装備しているイヤホン型の機器に手を伸ばし、そのまま何事も無いようにに取り外す。まさかの取り外しが可能だったことに驚きながらも、そのままレノに手渡してくる。彼がイヤホンを手にすると、機械の中心部には宝石のような物が取り付けられており、試しに触れてみると、


「ソリットビジョン発動します」
「おおうっ⁉」


次の瞬間、机に置かれたイヤホン型の機器が輝き出し、空中に映像が浮かび上がる。SF映画などではよくある光景だが、実際に目の当たりにすると驚きを隠せない。他の面々も同様であり、突然に空中に浮かび上がった映像に腰を抜かすものまでいた。


「こ、これは……?」
「何が起きているんだ?」
「あ、レノさんが映ってます⁉」


イヤホン型の機器から空中に放映されている映像には驚いた表情のレノが浮かんでおり、どうやらデルタの言う通りに彼女の視界に入った映像が配信されるらしく、デルタが視線を変えただけで映像が切り替わる。


「鍵を渡してください。偵察には必要な物です」
「し、しかし……やはり一人では危険すぎます。私も同行を……」
「猶予はありません。対策を施すためにも、最小限の人員で尚且つ確実に情報を得るには私一人が動くのが確実です」


デルタの意思が固いのを確認すると、センリは一度だけレノに視線を向け、彼を頷くと深いため息を吐きながら、オルトロスの封じている扉の鍵を差し出す。


「……決して無理はしないで下さい」
「善処します」


黒箱をセンリから受け取り、彼女はメイド服の姿のまま装甲を解放し、全身をわずかに発光せると、


「簡易転移発動」



――ブゥンッ‼



「「はっ⁉」」



デルタの身体から発光し、次の瞬間には彼女の姿が消えて無くなっており、全員が呆気に取られる。すぐに机の上に置かれたイヤホン型の機器に皆が視線を移し、空中に映し出されている映像が何時の間にか切り替わっているた。どうやら既にオルトロスが封印されている地下空洞にまで移動をしており、彼女に転移系の能力が搭載されている事などレノでさえも初めて知った。


「い、今のは高位転移⁉ この教会内で、しかも無詠唱で一瞬で移動したのですか?」
「すご~い……ホノカちゃんの転移みたい」
「ホノカ以上だと思うけど」


ホノカの場合は転移の聖痕を所持していたとしても、生物を転移させることはできない。特別な魔水晶を使用すればある程度の人数ならば移動できるが、デルタの場合は一瞬にして転移魔方陣すら展開させずに移動している。


「……便利そう、教えてほしい」
『申し訳ありません。この能力は人間の方が扱う事は不可能です』
「うわっ⁉」
「で、デルタさんの声が聞こえてきます⁉」
「念話か⁉」


部屋の内部にいないはずのデルタの声が響き渡り、全員が混乱するがすぐにレノは机の上に置いた機器からデルタの声が聞こえてくることを確認し、どうやら会話まで出来るらしい。


「そ、そっちの方はどう?」
『問題ありません。オルトロスは未だに休眠中です。今から扉を解放します』
「危なくなったら、さっきのようにこっちに戻ってこれる?」
『簡易転移の事を申しているとしたら、不可能です。一度使用したら30分は再使用はできません』
「それを先に言えよ……」


事前に知っていたならばこの場で転移させず、封印する場所に移動させてから、いざという時に退避できるようにしておけたが、もう発動した以上は遅い。それとも今から30分の休憩を取らせようべきかと考えるが、既にデルタは飛行ユニットを展開させてセンリから受け取った鍵を取り出し、そのまま扉の窪みに接近する。


『扉を解放します』
「だ、大丈夫かな……」
「気を付けろ」


デルタを心配する声が上がるが、ここまで来た以上は開けるしかなく、彼女がゆっくりと鍵を窪みに設置させる。



ガコォンッ……‼



黒箱が窪みに完全に嵌まり、やがて数秒の間の後、扉に異変が訪れる。



ゴゴゴゴゴゴッ――‼



扉がゆっくりと左右に開かれ、その振動は空洞だけではなく、聖導教会総本部全体に伝わる。まるで軽めの地震を想像させ、周囲の物が揺れ動く。


「うわわっ⁉」
「わぅうっ⁉ じ、地震です⁉」
「お、落ち着け皆‼ 冷静におへそを守って縮こまるんだ‼」
「それ、雷の時の対処法じゃない?」


唐突に起きた地震に慌てて皆が机の下に潜り込み、その際に巨人族であるゴンゾウが机につっかえてしまったが、レノだけは机の上の機器を確認し、映像には扉が10メートルの幅まで開いた途端に停止し、地震も収まった。


「お、収まったか……」
「今の地震はオルトロスせいなのでしょうか……」
「いや、単純に扉の影響だと思うけど……デルタ、そっちの様子はどう?」
『今のところ、扉の内部からはウィルスらしき物は噴出していません』


映像には扉の内側には巨大な階段が存在し、しかも階段の素材は明らかに石や煉瓦製ではなく、旧世界の遺物だと思われる金属製の螺旋階段が広がっていた。


「随分と明るいですね……」
「蛍光石が埋め込まれているのか?」
「いや、それにしては明るすぎるような……まるで真昼のようだ」


扉の内側にはどういう事か異様なまでの明るさであり、天井に蛍光灯等の類が存在しないにも関わらずに明るい。陰湿な空間が広がっていたと思っていた分、逆にその明るさが不気味に感じられるほどだった。旧世界の技術で階段を照らしているのだろうが、今は気にせずに先に進ませる。事前の予想通り、オルトロスが封印されているこの場所は旧世界の時代に生み出された事が証明される。

デルタは飛行ユニットを展開させたまま降下し、ジェットコースターに乗り込んだように映像が切り替わり、このまま一気に最下層まで移動するのかと思った時、



『っ……⁉』



唐突にデルタが階段の降下中に急停止を行い、映像が激しく揺れる。何か起きたのかとレノが口にする前に映像には異様な光景が映し出され、全員が息を飲む。



「な、何だこれは……⁉」
「す、スライム……? いや、何かが可笑しい」
「ぐ、ぐねぐね動いています……」
「これは……まさか?」



――前方の階段から、黒色且つ半透明であり、スライム状に蠢く物体が沸きだしており、通路を完全に塞いでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!

林優子
ファンタジー
二人の子持ち27歳のカチュア(主婦)は家計を助けるためダンジョンの荷物運びの仕事(パート)をしている。危険が少なく手軽なため、迷宮都市ロアでは若者や主婦には人気の仕事だ。 夢は100万ゴールドの貯金。それだけあれば三人揃って国境警備の任務についているパパに会いに行けるのだ。 そんなカチュアがダンジョン内の女神像から百回ログインボーナスで貰ったのは、オシャレながま口とポイントカード、そして一枚のチラシ? 「モンスターポイント三倍デーって何?」 「4の付く日は薬草デー?」 「お肉の日とお魚の日があるのねー」 神様からスキル【主婦/主夫】を授かった最弱の冒険者ママ、カチュアさんがワンオペ育児と冒険者生活頑張る話。 ※他サイトにも投稿してます

グラティールの公爵令嬢

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
ファンタジーランキング1位を達成しました!女主人公のゲーム異世界転生(主人公は恋愛しません) ゲーム知識でレアアイテムをゲットしてチート無双、ざまぁ要素、島でスローライフなど、やりたい放題の異世界ライフを楽しむ。 苦戦展開ナシ。ほのぼのストーリーでストレスフリー。 錬金術要素アリ。クラフトチートで、ものづくりを楽しみます。 グルメ要素アリ。お酒、魔物肉、サバイバル飯など充実。 上述の通り、主人公は恋愛しません。途中、婚約されるシーンがありますが婚約破棄に持ち込みます。主人公のルチルは生涯にわたって独身を貫くストーリーです。 広大な異世界ワールドを旅する物語です。冒険にも出ますし、海を渡ったりもします。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

〈本編完結〉ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編として出来るだけ端折って早々に完結予定でしたが、予想外に多くの方に読んでいただき、書いてるうちにエピソードも増えてしまった為長編に変更致しましたm(_ _)m ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいです💦 *主人公視点完結致しました。 *他者視点準備中です。 *思いがけず沢山の感想をいただき、返信が滞っております。随時させていただく予定ですが、返信のしようがないコメント/ご指摘等にはお礼のみとさせていただきます。 *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...