種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

調査開始

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伝説獣であるリバイアサンを討伐してから数日の時が経過し、大雨期の影響も収まり、王国は魚人によって破壊された漁村や港の修繕を行う一方、ある問題に突き当たる。

問題とは剣乱武闘の際に焼失したオリジナルのカリバーンの捜索であり、盗難したと思われるロスト・ナンバーズは既に殲滅され、更には彼らの配下は全て魔王討伐大戦によって全滅しており、仮に生き残った者がいたとしても既に潜伏しているだろう。

剣乱武闘から大分日数が過ぎている事もあり、更には大雨期の影響で各所で問題が山積みであり、あまり人手は割けられない。それでも聖剣の悪用を避けるため、アルトは闘人都市にテンペスト騎士団を派遣し、調査を行わせる。



――その一方では聖導教会ではセンリが正式に教皇に就任し、彼女の代わりとして聖天魔導士の位が空席となり、選抜が行われる。今後は世界中に存在する魔導士の査定が行われ、次代の聖天魔導士が決定する。



闘人都市に派遣された調査メンバーはレノ、コトミ、ポチ子、ジャンヌ、おまけとしてカゲマルと彼女の配下の数十名規模の団員であり、当時の剣乱武闘の開催者の関係者から地道に聞き込みを始める。しかし、前回の剣乱武闘の時から随分と時間が経過しており、捜索は困難かと思われたが、意外にもレノがカゲマルと共に最初に聞き込みを行った受付員から有力情報を得られた。



「ああ、もしかしてあの剣の事かしら?」
「知ってるんですか?」
「ええ、あの日は私もこの闘技場に居ましたから……」
「本当でござるか?」


狸型の獣人族の女性の受付員によると、彼女は剣乱武闘が崩壊する当日に闘技場に残っており、色々な業務を行っていたらしい。その日は朝早くから当時の人魚族の代表「アクア(リーリス)」が朝から訪れ、彼女から今回の優勝賞品の追加の品を持ち込まれ、宝物庫まで案内したという。

普通は宝物庫には大会関係者以外は案内してはならない規則だが、相手は人魚族の代表であり、しかも優勝賞品の追加の品物まで持参しているため、本人からも他にどのような優勝賞品が用意されているのか尋ねられ、彼女は宝物庫まで案内したらしい。


「でも、どういう事か可笑しなことが起きたんです……」
「可笑しなこと?」
「はい……基本的には人魚姫(人魚族代表の通称)様は普段はお一人のはずなのに、その日に限っては護衛の方も連れていました。ですが、宝物庫に案内した時に奇妙な現象が起きたんです……」


彼女の話によると宝物庫はこの闘技場の地下に存在するらしく、前回の剣乱武闘で優勝賞品を奪われた事を考慮し、今回は厳重な結界を施していた。結界の内容は聖導教会が施した魔方陣が宝物庫に繋がる通路に仕掛けられており、仮に正式な手順で宝物庫の代物を持ち込もうとしたいが居た場合、容赦なく魔方陣が発動して相手を拘束するという術式が仕掛けられていた。


「私は護衛の方は待機してもらい、人魚姫様を宝物庫の中に案内しようとしたのですが……どういう事か既に通路の方から騒々しい音が聞こえたんです」


宝物庫に繋がる地下の通路までアクアを伴って辿り着いた時、どういう事か通路の方に異変が生じ、結界式の魔方陣が発動していたという。すぐに彼女は何者かが宝物庫に忍び込み、中身の代物を持ち出して逃走を図っているのかと判断し、慌ててその場を離れようとした時にアクアが豹変したという。


「人魚姫様に避難するように告げようとしたんですが、唐突に私の目の前で人魚姫様の身体が変化して、見たこともない女性に変わり果てて……」
「リーリスか……」
「どうやら、その時に正体を現したようでござるな」


正体を隠すことを辞めたリーリスは真の姿を現し、唐突な彼女の変化に驚愕しながら後退る受付員を一瞥しただけで特に何も行わず、先に通路の異変を確かめるために彼女は駆け出したという。受付員の女性はリーリスの威圧感に腰を抜かし、その場にへたり込んだらしい。


「その後は私、怖くて動けなくて……気が付いたら、通路の方から音がしなくなってたんです」


最初は通路の方から聞こえていた激しい戦闘音に怯えていたのだが、リーリスが入り込んでから十数秒後に突然に凄まじい発光が地下通路の方から放たれ、戦闘音が止んだという。その後、階段を上がる音が聞こえ、彼女は慌てて逃げ出そうとしたが通路から現れたのは予想に反して変貌したリーリスではなく、全身を黒装束で覆った人物だったという。



「全身を黒ずくめ……?はっ⁉」
「拙者じゃないでござるよ⁉」
「ですけど、私が見た人も貴女のような恰好をしてましたね……」
「カゲマル……かつ丼でも食べながら話を聞こうか(戦闘態勢)」
「だから、違うでござる⁉ 濡れ衣でござる⁉(逃走態勢)」
「……話を元に戻す」


何時の間にか姿を現したコトミに突っ込まれ、一応は最後まで受付員の話を聞くことにする。彼女の話にはまだ続きがあり、地下通路から姿を現した黒装束の人物の右手には「聖剣」らしき長剣が握り締められており、その柄の部分には聖石らしきものが埋め込まれていたという。彼女の記憶では、前日の宝物庫で確認した時には装着されていなかった装飾だという。

その人物は腰を抜かして動けない受付員を確認し、そのまま気にもかけずに立ち去ろうとした時、不意に地下通路の方から黒い触手の様な物が出現したという。

触手が謎の人物に絡みつこうとした時、彼(性別は不明だが、恐らくは背格好から男と判断)の手元に握り締められている聖剣が光り輝き、触手が身体に触れる前に消え去った。だが、更に地下通路から新たな無数の触手が出現し、その都度に聖剣が発光を強めて触手を消滅させるが、その触手の一本が標的を受付員の女性に変えて襲い掛かったらしい。


「私もあの時は駄目かと思ったんですが……その時、ラビット先輩が助けてくれたんです‼」
「ラビット……ああ、なるほど」
「アイリィ殿の偽名でござるな」
「……ぐぅ(長い話に付いていけず、お昼寝タイム)」


一瞬、誰の事を言っているのか分からなかったが、すぐにアイリィが剣乱武闘の解説者として働いていた時の名前だと思い出し、どうやら彼女はアイリィの後輩に当たるらしい。


「あの時、迫りくる触手をとび蹴りで防いでくれた先輩が、そのまま私を抱えて闘技場の外まで運んでくれたことは忘れません……今は何処にいるのか分かりませんが、必ずお礼をしたいと思っています‼」
「あ、そうですか……」


肝心のアイリィは既に成仏(?)しているため、彼女に掛けられる言葉が見つからず、とりあえずは適当に流しながらレノ達は状況を整理する。


まず、最初にリーリスが前回同様に剣乱武闘の優勝賞品を強奪するために宝物庫まで受付員の案内に訪れが、どういう事か既に何者かが先に宝物庫に侵入し、施された罠を突破して聖剣を奪取しており、地下通路内でリーリスと交戦する。


その何者かはオリジナルのカリバーンの力を使用できるらしく、リーリスを退けて通路から脱出に成功。その直後に駆け付けたアイリィが受付員を救助し、時期的に考えてもどうやらその直後に彼女はムメイに捕まったと思われる。


「それにしても……聖剣の力を操作出来るって事は、そいつが聖剣に選ばれたのかな?」
「可能性はあるでござるが……偶然にも盗み出そうとした人間が聖剣に選ばれたとは考えにくいでござる」
「まっ……とりあえずはジャンヌに報告しようか。あ、これ謝礼です」
「あ、どうも……重い⁉」


ずっしりと銀貨が入った小袋を受付員に手渡し、一先ずは集合場所である黒猫酒場にレノ達は帰還する。
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