種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

決戦前日

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――レノ達が無事に地下迷宮から帰還してから三日が経過し、大雨期も治まり始める。未だに大陸中に雨が降り注ぐが、それでも勢いは最初の頃と比べても大分弱まっており、明日以降には完全に大雨期も終わりを迎えると予想される。その一方で六種族は大船を作戦海域に集結させ、リバイアサン討伐のために「船島作戦」の準備を行う。

作戦海域に向けて大陸の各港から無数の大船を集結させ、特にその中でも巨人族が造り上げた巨大船「アルカディア号」は凄まじい規模だった。

巨大な体躯の巨人族が乗るだけはあり、船というよりも戦艦を想像させる巨大船アルカディア号を中心に船を終結させ、すぐに準備が始まる。人魚族の中でも腕利きの魔術師が300人、さらには大陸中の森人族の族長がアルカディア号に集まり、儀式を始める。


「――やれ‼」
『はっ‼』


森人族の代表であるレフィーアの号令の元、エルフたちが杖を掲げ、森人族だけに許された魔法を発動させる。次の瞬間、アルカディア号に異変が訪れ、船のあちこちから新芽が芽吹く。



「「「神樹よ‼ 我等に力を‼」」」



エルフ達が抱えているのは森人族が管理している神木で造りだされた特別な杖であり、彼等が魔力を注ぎ込む度にアルカディア号に芽吹いた植物が急速に成長し、やがては色を変え、大木へと変化する。



ドォオオオオンッ……‼



アルカディア号から伸びた無数の大木、というよりは巨大な「枝」が周囲を取り囲む船に絡みつき、伝染するかのように拘束した船にも異変が生じ、アルカディア号同様に船の至る所に巨木が誕生する。

六種族が集結させた100を超える大船がアルカディア号の大樹の「枝」によって固定され、全ての船同士が接合する。続けて空中に浮き上がっていた人魚族の集団が分散し、海面に向けて両手を構えて詠唱を行う。



『アイシクルカノン』



――ビュオォオオオオオッ……‼



全ての人魚族が海面に向けて魔法の力で生み出した氷塊を放ち、続けざまに次々と海面を氷結させる。一つ一つの魔法の規模は小さいが、それでも海面に触れた瞬間に凍結させ、やがて周囲一帯の海面が見事に氷の大地へと変化させる。まるで巨大な氷塊の上に無数の船が乗り上げたような光景であり、これで最終準備を整えたことになる。



「す、凄い……」
「流石は魔法に長けた森人族と人魚族、か」
「うむ……」



アルカディア号の甲板からその光景を確認したアルト、獣王、ダンゾウは息を飲み、作戦を立案した立場とはいえ、本当に全ての船を大木で固定し、周囲一帯を凍結させた両種族に驚きを隠せない。


「ふうっ……これでいいのか人間の王よ」
「は、はい……お疲れ様です」
「ふぃ~……ちゅかれた~」
「……頭に乗るな」


頬に汗を流しながらも、決して偉そうな態度を止めないレフィーアに対し、ミズナはぐったりとした様子でダンゾウの頭の上に乗りかかる。アクアの件から考えても、もしかしたら人魚族と巨人族は案外相性が良いのかもしれない。

リバイアサン討伐のための「船島作戦」の準備を全て整え、後は魔人族が転移魔方陣でこのアルカディア号に「海王石」を運び出すだけであり、ここから先はリバイアサンの討伐のためにそれぞれの船に兵士を配置し、レノ達の到着を待つしかない。


「それで、レノ……いや、王国の主力部隊とあの女はいつ到着する?」
「先ほど連絡が届いたんですが、どうやら既に飛行船が交易都市から出発してこちらに向かっているようです。レノ達もそれに搭乗しているので、到着は恐らくは明日の早朝かと……」
「そうか……我々は魔力を使いすぎた。あまり、戦力として考えるな」


それだけを告げるとレフィーアは振り返り、アルカディア号の甲板でへたり込む森人族のエルフの魔術師達を確認し、全員が相当に魔力を消費している。


「も、申し訳ありません……」
「我等ではもう……」
「気にするな……無理を言ってすまない」
「そんな……大族長が謝る事では……」


このアルカディア号に集められたのは老人のエルフばかりであり、彼等は世界各地のエルフが治めるの森の族長として長い間君臨してはいるが、その殆どが既に全盛期を当の昔に超えており、魔力が回復するまでに想像な時間を必要とする。どうしてレフィーアがわざわざ年若いエルフではなく彼らを呼び出したのかというと、今回使用した樹木の成長を促す魔法は非常に難易度が高く、数十年、下手をしたら数百年生きている熟練のエルフでなければ使用できないからである。

以前にレノが戦ったアルファが樹木を操作出来たのは「樹の聖痕」の存在が大きく、聖痕が存在しない彼では到底植物を操作することなど不可能であり、今回の作戦にはどうしても熟練の戦士である高齢のエルフたちの力が必要不可欠だった。だが、この様子では作戦決行日には彼等の力は期待できず、同じような芸当はもう頼めない。


「私達も大分疲れちゃったな~」


人魚族も同様であり、態度はいつも通りに装っているがミズナも大分疲れた表情を浮かべており、金魚鉢の中でぐったりと身体を丸めている。他の人魚族もアルカディア号の上で休んでおり、やはり氷属性の魔法を連発させた事が相当に応えたらしい。

この様子では二つの種族は船島作戦の決行日には戦力としては期待できず、残りの四種族だけで何とかするしかない。だが、正直に言えばどの種族も海戦の経験は皆無に等しく、陸上のように上手く戦えるのかは分からない。

唯一の希望があるとすれば聖剣の所有者であるレノ達と、盗賊王が所持している二つの飛行船であり、それでもリバイアサンに確実に勝利できるという保証はない。相手は無数の魚人を従えており、決して油断はできない。それでも事前に用意できる準備は全て整えた以上、後は戦う覚悟を決める。


「人間の王よ。この作戦を提案したのはお前だ。失敗した場合は……分かっているな?」
「……分かっています」


レフィーアの言葉にアルトは頷き、そんな彼の態度が気に入らないのか彼女は首を反らし、獣王とダンゾウは相変わらず人間嫌いな彼女に溜息を吐く。大事な決戦を前に仲間割れを起こされるのは御免であり、すぐに話題を変えるために獣王が話しかける。


「ところで、魔人族の王は何処に行った? 先ほどまで居たはずだが……」
「ああ、彼なら船酔いを起こして部屋の中で寝込んでいるよ……全く、あの状態で戦えるのか?」
「ま、まあ……船を固定したことで大分揺れも収まっていますし、きっと大丈夫でしょう」


ライオネルは実は乗り物酔いしやすい事が発覚し、船に乗って早々に船酔いを起こしてしまい、そのまま船内の一室で横たわっている。こんな調子で本当に戦えるのかと不安に思うが、いざとなれば聖導教会が販売している酔い止めの薬に頼むしかない。


「しかし……この氷は大丈夫なのか? 溶けたりしないのか?」
「むぅ~失礼な……私達が造り出した氷なら2、3日は消えないよ~」
「そうか……しかし、奴が2、3日の内に現れるとは限らん。その場合はどうする?」
「あ、そっか……まあ、溶ける寸前に魔力を注ぎ込めば何とかなるよ~」
「話はそこまでだ……どうやら来たようだぞ」


ダンゾウの言葉に全員が上空を見上げ、そこにはある意味では聖遺物に匹敵する巨大なサメの形を模した飛行船が近づいていた。
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