種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
690 / 1,095
英雄編

雷の雨

しおりを挟む
空中に投擲されたスマートフォンが眩く発光し、身体のほぼ全てが腐敗化したマドカはその光景を黙って見据え、口元に笑みを浮かばずにいられない。この狭い結界内であの魔法を使用すれば誰も助からない。


(悪いね坊主……仲間は裏切れない)


マドカがレノに伝えたスマートフォンの使用方法は虚言であり、そもそも強い衝撃を受けただけで発動する条件ならば最初のキメラの攻撃によって発動していた。より正確に言うならば、あのスマートフォンはマドカと一定の距離を離れると爆破装置が発動する。

彼女の体内にはカノン同様に特殊な人工心臓が埋め込まれており、リーリスに忠誠を誓った際に彼女から植え付けられた物である。カノンとの違いはこの心臓はスマートフォンと伝動しており、仮に一定以上の距離を離れるとどちらも爆発する仕組みになっている。

彼女が魔方陣を発動させて砲撃魔法を行う事や、魔力暴走という能力も得たのもこの心臓が原因であり、スマートフォンに内蔵されている魔水晶が発動する仕掛けだった。その爆発の規模は丁度この学園を飲み込むほどであり、都合がいい事に学園が結界で覆われている以上、必要以上の被害は生み出されない。


「まあっ……悪くない人生だったね」


既に首元まで腐敗化が進み、失われつつある意識の最中、マドカは天空に誕生した巨大な電撃を確認し、自分に向けて降りかかる巨大な落雷に笑顔を浮かべ、最後に自分と供に過ごした恋人(ヒカリ)の姿が思い浮かび、


「今行くよ……ヒカリ」


それだけを告げると彼女は瞼を閉じ、このまま身体が雷に飲み込まれれば腐敗化した肉体は一瞬にして崩壊し、彼女の胸元の心臓部に存在する魔水晶が発動する。先のツインが所持していた「プロミネンス・ノヴァ」よりも規模が大きい「エクスプロージョン・ノヴァ」が発動する手筈だった。

この心臓部の魔水晶が発動する条件は「ノヴァ級」の電力を必要とし、スマートフォンに仕込まれたライジング・ノヴァを敢えて身体に受ける事で心臓部に高圧電流を流し込み、自爆する仕組みが施されていた。



――その爆発規模は5キロ圏内であり、発動と同時に鳳凰学園は跡形も無く吹き飛ぶはずだったが、



ズドォオオオオンッ!!



『オォオオオオオオオッ……!!』



襲い掛かるはずの衝撃が来ない事に疑問を抱き、さらには至近距離から聞こえてくる怪物の咆哮にマドカは瞼を開くと、そこには彼女を覆い隠すように落雷を自身の身体で受け止めるキメラの姿が合った。


「なっ……!?」
『がぁあああああっ……!!』


それは突発的な行動なのか、それとも本能で見抜いたのかは不明だが、キメラは降りかかる落雷を全てその身に受け続け、マドカの身体を覆い隠す。決してその行為は彼女を守るための行動ではなく、体内に存在する彼女の魔道具を発動させないためだ。


「くそっ……ふざけるじゃないよ!!」


必死に逃げ出そうと試みるが、すでに首元以外の感覚は失っており、動くことも出来ない。一方で天空に発現した電気の球体は週一帯に雷を放出させ、あらゆる場所に落雷する。

しかし、怪物は電流による耐性すらも身に着けているのか「ノヴァ級」の落雷を受け続けながらも平然としており、むしろ雷を浴びる度にキメラの身体から電流が迸り、吸収しているように見える。


(まさか……これも勇者の能力なのかい?)


今まで相対してきた勇者達の中には相手の魔法を利用する輩も存在し、恐らくは吸収したキメラには30人の人間の電気耐性と魔法を吸収する能力を所持しており、逆にこの境地を自分の力へと変化しているのだ。


(こんな化物……どうやって殺せって言うんだい!?)


天上から降りかかるカラドボルグ級の雷撃を受け続け、平然とするキメラにマドカは舌打ちし、こんな化け物を生み出したムメイに悪態をつく。このままでは雷を吸収し続け、さらに強化されたキメラは伝説銃に匹敵する化け物へと変化してしまう。


(因果応報ね……全く、ふざけた最期だよ)


しかし、今の自分では何もする事が出来ないマドカは早々に諦め、こちらに向けて右拳を構えるキメラの姿を認識し、今度こそ恋人が待つ天上の世界へと行ける事を願いながら――



――ドゴォオオオオンッ!!



グラウンド全体に広がったのではないかと思わせる地面の亀裂が生じ、無慈悲な一撃によって肉塊と変わり果てた彼女の姿と、残されたのは右拳に返り血を浴びたキメラだけだった。


『……さんだぁばぁすと』


バチィイイイイッ……!!


自身の身体に電流を迸らせながら、充電を終えたキメラは上空に視線を向け、スマートフォンから発言した巨大な電気の塊を確認し、


『だぁくぶらすたぁああああああっ!!』



――ズドォオオオオオンッ!!



砲身から巨大な「黒雷」が放出され、そのまま上空に位置するライジング・ノヴァを貫通し、そのまま結界に衝突する。



ドガァアアアアアアンッ!!



上空に凄まじい放電現象が誕生し、あらゆる衝撃に工程されて形成された森人族のプロテクトドームに大きな波紋が生じ、それを確認したキメラは左腕からさらに砲撃を行う。


『オォオオオオオッ!!』


ズドォンッ!!ズドドドドッ……!!


左腕から何度も漆黒の光線を放出し、結界の波紋が徐々に広まり、地震が生じる。このままでは結界を破壊しかねない勢いだが、その様子を校舎の屋上から確認するソフィアには手出しできない。


(……本当に化物だな)


結界に向けて砲撃を続けるキメラに対し、その足元に転がるマドカだった者の肉塊に視線を向け、眉を顰める。彼としては騙された立場だが、別に彼女に怒りは抱いていない。敵を利用するのも立派な作戦であり、その事に対して恨みはしない。


(それにしても……どうする?)


相手は地下迷宮のキングゴーレムの砲撃を上回る攻撃を行い、しかも魔力が尽きる様子を見せない。恐らくは30人の勇者の魔力だけではなく、腐敗竜の核や先ほどの吸収したライジング・ノヴァの影響もあるだろうが、それでも馬鹿げた出力の攻撃を繰り返している。

ソフィアの予想としてはロスト・ナンバーズがこれまでに摂取した人間達の魔力も利用されており、実際に彼女の予想は間違いではなく、キメラの内蔵には無数の魔水晶が埋め込まれており、膨大な魔力を保有していた。

冗談抜きでキメラは原子炉並のエネルギーを所有する怪物であり、戦闘力は間違いなくホノカに匹敵する。同時にソフィアはある疑問を抱き、仮にそれほどの莫大なエネルギーを所持しているのならばどうやって制御しているのか。


「……やっぱり、あの核か」


キメラの胸元に存在する赤黒く光放つ宝石を確認し、ソフィアはあの「腐敗竜の核」こそが膨大な魔力を呪詛へと変化させている事に気が付き、今までのキメラの砲撃を思い返せば、その全ての攻撃が呪詛によって形成されていたことを思い出す。

膨大な魔力を所持していたとしても、仮にあの核を破壊した場合、少なくとも呪詛の放出は防げる可能性は高く、ソフィアは聖爪を収納していた魔石を取り出し、アイリィが用心のためにと入れていてくれた短剣を取りだす。



――この短剣は元々は闘人都市で開催された剣乱武闘の優勝者の副賞の1つであり、ロスト・ナンバーズの襲撃の際、アイリィがどさくさに紛れて掠め取った「オリハルコン」で造りだされた短剣だった。ソフィアは左腕を確認し、一か八かの賭けに出る事を決意する。



※ちなみにライジング・ノヴァは天属性ではなく、限りなく極限的に高められた雷属性です。仮に天属性の雷撃を喰らえば流石のキメラも無傷では済みません。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...