種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

異変発覚

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レノ達は宿屋の外に飛び出し、自分たちの目で鳳凰学園の異変を確認する。宿屋の場所は鳳凰学園から300メートルしか離れておらず、十分に視認できる距離ではあるが、どういう事か学園全体に黒色の膜のような物で覆われており、間違いなく森人族のプロテクト・ドームだと判明する。

しかし、つい先ほどまでは結界は不可視であったにも関わらず、現在は黒色に染まっており、少しずつではあるが色の密度が強まっていく。この場に最も森人族に詳しいと思われるアイリィに視線が集中し、彼女は神妙な顔つきで頬から冷汗を流す。


「……結界内の呪詛が強まって、外部からでも視認できるほどに影響が出ているんだと思います。この様子だと、だいたい1時間ほどで勝手に結界が崩壊して、学園都市全体に呪詛が広がりますね」
「そんな……!?」
「ま、待ってくれ!!呪詛が結界内に充満しているのなら、勇者やロスト・ナンバーズだってただでは済まないはずだろう!?」
「ここまでの事を仕出かした相手ですよ?何の対策も無く、結界内に残っているわけないじゃないですか……多分、聖石でも装備して呪詛を振り払ってるんじゃないですか?」
「そんな馬鹿な……聖石は聖導教会で厳重に保管されているはずです!!」
「その教会の総本部に何度あの人たちが侵入してきたんですか?当の昔に余分に回収していても可笑しくはありませんよ」


アイリィの言葉に全員の顔色が変わり、このままでは作戦を考えている暇はない。ジャンヌとアルトは聖剣を握りしめ、今にも鳳凰学園に駈け出しかねないが、レノは鳳凰学園の結界を確認し、自身のエクスカリバーを確認する。

聖剣の力なら呪詛を浄化できると聞くが、鳳凰学園の敷地全体を覆う呪詛を浄化するには相当な時間と出力も必要だろう。アルトとジャンヌと違い、まだ聖剣の力を制御できないレノには同じ芸当は出来ない。そもそもエクスカリバーは刀身の部分が存在しないため、完全な力は引き出せない。


「あいつらが結界の外に逃走した可能性は?」
「それは絶対にありません。あの人たちの力は独特ですからね……結界内から抜け出したなら私が感知できます。間違いなく、今現在も結界内に残っています」
「そうか……」
「……すまない皆、僕は行くぞ!!」
「私も……!!」
「ま、待ちなさい!!」


アルトはデュランダルを振り上げ、ジャンヌもレーヴァティンを掲げて駆け抜ける。慌ててセンリが引き留めようとしたが、2人はそれを振り切って学園へ向かい、


「ほぁたっ!」


ガシィッ!!


「うわっ!?」
「あうっ!?」


突然、2人の足元から植物の蔓が飛び出し、足元に絡みついて派手に転んでしまう。すぐにアイリィが樹の聖痕の力を使用して植物を操作して2人を止めたらしい。


「こ、これは一体?」
「あ、アイリィさんの仕業か?こんな魔法、見た事が無い……!?」
「はいはい、驚くのは後にしてください」


足首に絡みついていた蔓が外され、2人は何故止めたのかと見上げると、彼女はそんな2人の額に両手を近づけ、デコピンをかます。


ベチィッ!


「「あいたぁっ!?」」
「全く……先走らないで下さい。時間が無いのは解りますけど、こんな時こそ冷静にならないと人の上に立てませんよ?」
「す、すいません……」
「冷静さを失ってました……」


まるで子供に叱りつけるように注意するアイリィに2人は頭を下げ、レノは鳳凰学園に視線を向け、先ほどよりも結界の色が濃くなっている事に気付く。呪詛の恐ろしさは腐敗竜との戦闘で知っており、あの時はカラドボルグの力で対抗できたが、今は肝心なカラドボルグも手元にない。


「それで、何か作戦は考え付いた?」
「私に頼り過ぎじゃないですか?まあ、1つだけありますけど……」
「その話、聞かせてもらおうか」


後方から男の声が掛けられ、そこには装備を整えたギガノとリノンが立っており、どうやらやっと宿屋から出てきて状況を理解したらしい。


「この様子では住民にも異変が伝わっているのは間違いない……こうなった以上、隠し通す事は出来ん。王国の兵士たちに避難活動を行わせる」
「それは拙者たちに任せてほしいでござる」


何処からともなくカゲマルが姿を現し、彼女の配下と思われる黒装束の集団も後ろに付いている。こんな街中で唐突に出現した黒装束の集団に視線が集中するが、今は気にしていられない。


「住民の避難は拙者たちが行うでござるよ。幸いにも、既に都市に待機しているテンペスト騎士団の皆も動き出しているでござる。部隊長の2人とポチ子殿と教会から帰ってきたコトミ殿もいるでござる」


この都市には現在、内密に集められた王国の兵士やテンペスト騎士団の精鋭が集まっており、彼等は鳳凰学園の結界を崩壊後に援軍として待機させていたのだが、この状況では致し方ない。


「ていうか、コトミも着てたの?」
「割と早く帰ってこられたようでござるが、任務中という理由でレノ殿には会えなかったことに不満気味でござる……お蔭で拙者達が代わりに相手をしていたのでござるが、中々に自由奔放な人物でござるから、拙者たちの包囲網を抜け出して何度もレノ殿に会いに行こうとしたでござる……」
「うちの子が色々とすいません」


頭を下げるレノにこんな状況でもどことなく余裕が感じられる態度に気を抜かれ、全員が鳳凰学園の方向に視線を向ける。


「こうなった以上、結界を崩壊させるわけにはいかなくなりましたな……下手に結界石を破壊すれば呪詛が広がってしまう」
「しかし……このまま放置するわけにもいきません。少なくともあの結界が保っていられるのはせいぜい1時間……いえ、こうして話している間にも時間は削られていきます。一刻も早く何とかしなければなりません」
「だが、どうする?あの中に入れば、俺達は、死ぬかもしれない」
「……確かに何の対策も無いまま入れば私とゴンゾウ、ギガノ将軍でさえもひとたまりもないな」


呪詛を直に浴びた経験があるリノン達だからこそ、呪詛の恐ろしさを理解している。あの時は事前に渡された聖属性の魔石のお蔭で一時的に耐性が付いていたからこそ戦えたが、今回は何の準備も行っていない。

センリに顔を向けるが、彼女は首を振り、聖属性に関わる聖具は一切持ち合わせていないらしい。この場に巫女姫であるヨウカがいれば彼女の肉体に宿る聖属性の魔力で一気に浄化を施す「広域浄化魔法」で何とか出来るかも知れないが、現在の彼女は聖導教会の総本部で待機中であり、転移して呼び出すにしても時間が掛かる。


「やはり、ここは僕たちが先行するしか……」
「待ってください王子!!貴方まで居なくなられたら、王国はどうなるのですか!?」


聖剣の所持者であるアルトも結界内に入れるのは間違いないが、当初の作戦では呪詛の蔓延していない結界内にギガノも同行して侵入する手筈であり、彼等だけで進ませるにはあまりにも危険が大きすぎる。国王が不在であり、王位継承者であるアルトさえも失うと、長きにわたるバルトロス王国が崩壊し兼ねない。そのため、ギガノは何としても引き留めようとするが、彼の手を振り払い、



「僕は王子だ……やがてはこの国の頂点に立ち、人間という種の代表に立つ立場だとは理解している。しかし!!それでも!!今ここで民を見捨てるような行為など出来るかぁっ!!」



アルトは真正面からギガノに怒鳴り付け、その姿は若かりし頃のバルトロス国王の姿と被り、今までにない覇気を纏っていた。気付けば無意識にギガノは膝を着いており、彼に頭を下げていた。
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