種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

実体を持つ霊魂

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「……それで、アイリィのお姉さんが凄い能力を持っていたのが分かったけど、今の話と闘人都市に封印されている大聖遺物がどう関係あるんだ?」
「あの都市に封印されている物は、お姉さまの能力を強化させることが出来ると魔王は思い込んでいるんです。分かりやすく言えば魔法増幅装置とでも言えばいいですかね」
「どんな風に?」
「超分かりやすく言えば、闘人都市に封印されている大聖遺物を利用すれば、あらゆる魔法を超絶的に強化させます。この大聖遺物を使用して魔王は時の聖痕を強化させ、旧世界の時代まで遡ったり、何千年後の未来の世界にも赴く事が出来ると思っています」


アイリィの言葉に数秒ほど沈黙が訪れ、レノはゆっくりと口を開き、


「マジで?」
「マジです」
「ガチで?」
「ガチっすよ」
「ホンマに?」
「ホンマっす」
「嘘でしょ?」
「本当ですって」
「帰っていい?」
「駄目です」


流石に話が壮大過ぎて混乱してしまったが、時の聖痕などという時間を操作する能力が強化されるというのならば有り得ない話ではない。だが、そんな事をして大丈夫なのかという疑問を抱き、旧世界でもタイムパラドックスを題材にした作品は良くあるが、実際に過去の世界に飛んで歴史が変化した場合は今のこの世界はどうなるのかという不安を抱く。

問題なのは魔法を超絶的に強化するという装置であり、闘人都市の地下に封印されている大聖遺物が存在する事は聞いていたが、そんな危険な代物だとは想像さえ出来なかった。


「どうして今まで教えてくれなかったんだ?」
「内容があんまり突拍子もないのでそう簡単に信じてくれるとは思わなかったし、話さなくても問題が解決するのならば一番良いと思っていたので」
「なるほど……けど、それなら尚更なんで今教えたんだ?」
「正直に言えば私にとってもあの女との決着をつける最後の好機だと判断したからです。今後、何らかの理由でレノさんを失ったとしたら、貴男以上の契約者を見つけるとは思えませんし、私としてもレノさんの事が嫌いじゃないですからね。だからこそ隠し事は止めようと思っただけです」
「嬉しい事を言ってくれるけど、他にも色々と隠し事があるだろ」
「ぎくっ……まあ、それはともかく、あの女の目的は自分だけがこの星で最も強い存在であり続ける事です。そのためには今の世界には厄介な敵が多すぎると判断し、いっその事、まだ巨大隕石が降り注いでいない旧世界の時代に転移して、世界を手中に収めようという考えです」
「そんな無茶苦茶な……だいたい敵って誰よ」


リーリスという存在がどれほどの力を持っているのかは不明だが、少なくとも原初の英雄と呼ばれたアイリィとフォルムの肉体を使用して一度は世界征服を果たした存在であり、一体どんな敵がそんな彼女を未だに怯えさせるのかと問い質すと、


「レノさんだって心当たりが居るんじゃないですか?貴女の復讐相手をもう忘れたんですか?」
「……ホムラ?」


確かに言われてみてレノの脳裏にこの世界でも恐らく最強の座に位置するダークエルフの女の顔が浮かび上がり、不覚にも握りしめていた木製のコップが軋む音がする。しかし、確かに彼女は圧倒的な強者ではあるが、世界を征服した相手をそれほどまでに怯えさせる存在なのだろうか。


「ホムラさんは私が知る中でも一番に厄介な人ですからね……しかも、今は魔槍(ゲイ・ボルグ)を装備している今は敵無しですよ。仮に私が全盛期の力を取り戻しても勝てる気はしませんね」
「そんなに凄いのか……けど、ホムラはともかくとして、他にリーリスを恐れさせる存在なんて……いや、いたな」


不意にレノの脳裏に地下迷宮の風景が蘇り、先日地下施設で相対した化物の存在を思い出す。他にも眼の前のアイリィが書き残した地下施設の文献には気になる文章が数多く書かれていた事を思い出し、過去の歴史でも魔王(リーリス)がその存在を恐れて海上王国の島ごとを天空に隔離している。


「地下迷宮(ロスト・ラビリンス)の地下三階層の生物の事か?」
「excellent!!」


やたらと良い発音で指を鳴らすアイリィに深い溜息を吐き、確かにあの地下三階層については未だに謎が多く、レノも地下迷宮で暮らしていた時は一度も近づいていない。しかし、その話が事実ならば色々と思い当たる事がある。

先の放浪島での白狼の探索と地下施設の捜索の際、リーリスは洗脳した部下とレミアを送り込んだが、決してロスト・ナンバーズの幹部を送り込まなかった。これは本能的に彼女が未だに地下迷宮の第三階層に生息する化け物たちを恐れている可能性があり、だからこそ捨て駒同然の洗脳した人間しか送り込まなかった可能性も否定できない。


「私がリーリスに憑依されていた時代、あの女の思考も読み取っていたんですけど、相当にあの島の存在を異常なまでに恐れていましたね。わざわざ貴重な「浮揚石(現在では存在しない貴重な魔石)」を何百何千も使い果たして、わざわざ島ごと天空に隔離したにも関わらずにいつも怯えていましたよ。自分を殺すために島から降りて来るんじゃないかって内心はプルプルと恐怖を抱いていました」
「表現が少し可愛い」
「まあ、その考えは結局杞憂に終わるんですけどね。実際、あの地下施設には私もお姉さまも立ち寄りましたけど、確かに世界で一番兇悪で強大な力をもつ魔物達ばかりでしたけど、彼等がその驚異的な力を発揮できるのはあの場所だけで、地下三階層から抜け出すと力を奪われたように命尽きる存在だとも知らないようです」
「憑依したからって、記憶までは共有するわけじゃないのか……」


アイリィの日記によれば地下三階層の生物は上の階層に移動した時点で弱体化し、1時間も持たずに死亡するとあったが、その話が事実ならばリーリスはとんだまぬけな存在に思える。自分の脅威となる存在が実は外の世界では活動できないと知らずにずっと怯えていた事になるのだ。


「けど、そもそもリーリスって一体何なんだ?違う次元の存在だって言ってたけど……」
「ああ……それは半分本当です。別次元から生まれたというのは少し大げさですけど、あれはこの地上で生まれた存在ではありません」
「というと?」
「厳密に言うなら、リーリスは地下迷宮の三階層から生まれた存在です」
「……薄々は感じていたけど、まさか本当に?」
「はい。それも、三階層の中では非常に力が弱くて、いつも他の生物達に怯えて生き残っていました。実態を持たないガス状の生命体でしたが、こちらの世界でいう霊魂に近い存在です」
「えっ……同類?」
「誰がですか!!私は生霊で、まだ完全に死んだわけじゃありません!!」
「似たような物だろ」
「そこは否定できませんけどっ!!」


憤慨だとばかりにアイリィが怒り狂うが、レノにとっては霊魂も生霊もそんなに大差ない存在だと思うが、


「まあ、リーリスも死んでいる存在とは言い難いですけどね。この世界では霊魂とは死んだ知的生命体から放出させるエネルギーの事を指しますが、リーリスの場合は地下三階層の異様な環境から生み出された言ってみれば実体を持つ霊魂です」
「それって……やっぱり幽(ス)……」
「だから危険な発言は止めてください!?」


とんでもない発言をしようとしたレノの口を塞ぎ、アイリィは溜息を吐きながら説明を続ける。


「あの女に身体を奪われている間、どうやら私の記憶はあいつに読み取られる事はなかったようですが、半ば同化している私の方は薄れゆく意識の中、リーリスがまだ私に乗り移る前の記憶を見る事が出来ました。どうやら、地下三階層の中でも非常に力の弱い存在で、いつも逃げ回っていて餌を得るにしても他の獲物の喰い残しを漁っていたようです」
「霊魂なのに餌なんて食べるの?」
「案外グルメですよ……というのは冗談です。残飯を食い荒らす奴がグルメとかありえません。一応は生物として認識されていますから、最低限の食事を必要としました。もっとも、肉とか骨を貪るんじゃなくて死体に残留した魔力を糧にしていたようですが」


レノの脳裏にふよふよ浮かぶ球体型の人魂が骨付き肉にむしゃぶりつく光景が浮かび、何故だか少しだけ笑えた。
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