種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

意外な因縁

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「変な夢を見た」
「え、あ、そうですか……」
「ごめん、今の忘れて」


昼過ぎにレノは起床して様子を見に来てくれたセンリに対し、会って早々に妙な言葉を漏らしてしまう。彼女はどう反応すれば困惑し、その様子を見たレノは頭を下げる。


「その、部屋が悪かったのでしょうか?身体の疲れを取れましたか?」
「う~ん……疲れは無いけど、左腕がまだ馴染んでないかな」
「左腕……?失礼ですが、レノ様は隻腕なのでは?」


レノの発言にセンリは訝し気な視線を向け、彼女に言われてまだ自分が左腕に黒衣を纏っている事を思い出す。すぐに黒衣に手を回し、包帯を外して彼女に見せつけると、センリの目が大きく見開かれる。


「まさか……そんな、その腕は!?」
「説明すると長くなるけど、生えた」
「そんな馬鹿な!?い、一体どんな手を使って!?」


彼女は動揺しながらもレノに詰め寄り、左腕を掴んで本物の腕だと確認すると、よろよろと後ずさる。この世界の聖属性は治療に関しては現実世界よりも進んでいるが、それでも完全に消失してしまった肉体の損失を再生させるほどではない。

センリはその場に倒れ込み、すぐに気を取り直したようにレノに縋りつき、一体どのような方法で肉体の再生をしたのかを問い質す。歴代の巫女姫でも不可能な医療技術に、是非ともその奇跡を起こした人物の事を聞きたいが、


「ごめん……俺の腕を治してくれた人はもう死んだよ。それに治療方法については説明が難しすぎて理解出来ないと思うし……」
「そ、そんな……それほどまでの医学を知る人ならば、我が聖導教会で丁重におもてなしをしたのに……!?」
「世間とは掛け離れた場所に住んでたし、それに俺もただで治してもらったわけじゃないから……」


確かにあの放浪島の地下施設の医療技術は凄まじい物だが、ベータ曰く、元々あの施設自体がエネルギー不足で長持ちできず、その中には医療設備も含まれている。彼女が自爆を放棄していたとしても、時間が経過すればいずれ施設は機能を失う。

ちなみに地上の部分は地下の施設とは別の動力源が存在し、もうしばらくの間は稼働し続けるとの事。だが、ベータの自爆の際に殆どの設備は停止しており、役立ちそうなものは全て王国側に回収されている。


「それにしても……見事なまでに再生されていますね。この左腕、まるで最初から何事も無かったかのよに……」
「原理は説明すると難しいんだけど、俺の細胞を採取して元々のDNAを検査した後、左腕をクローン技術で造りだしたとか何とか……」
「い、言っている意味は分かりませんが……途轍もない御方に治して貰ったんですね」
「でも、説明するのも色々と面倒だから、これからも黒衣を纏っているけどね」


左腕が再生した後もレノは黒衣の包帯を纏い続け、世間一般では隻腕の魔術師として過ごしている。一応は共に行動していたゴンゾウたちにも同じ説明を行ったが、彼等もセンリ同様に驚愕し、最初の内は質問責めにあった。


「それよりどうしたの?わざわざ起こしに来てくれるなんて」
「あ、はい……実はレミア様が意識を取り戻され、カノン将軍と共にバルトロス王国へ帰還する時間が訪れたので、お疲れのところ悪いのですが護衛役としてご同行下さい」
「あ~……なるほど」


病み上がりとはいえ、2人の大将軍を相手に襲い掛かる輩などいるとは思えないが、ロスト・ナンバーズの件もあり、レノはセンリの案内の元で部屋から出る。昨日の夜とは違い、使用人らしきメイドや執事の姿もあり、彼等はセンリの顔を見ると仰々しく頭を下げる。


「この人たちも聖導教会の人?」
「はい。この屋敷は一般人の立ち入りを禁止されているので、彼等の殆どは聖導教会の修道女と兵士です」
「そう言えばこの教会ってワルキューレ騎士団以外の兵士も多いよね」
「お亡くなりになられた教皇様の案で、聖導教会も他種族の対立に巻き込まれる事を予想し、大幅に教会の兵士を増員しました。結果としては確かに正しい判断でしたが、先日の教皇様が乗っ取られた件もあり、大幅なリストラが実行されましたが」
「そう。というかリストラって……」
「ああ、何故か我々の間では兵士を解雇する際はそのような言葉を使います。起源は分かりませんが、昔から教会の伝統事として伝わっています」
「そう言えばコトミも英語混じりの言葉を使っているような……」


時折、コトミが英語を想像させる言葉を発していたのは聖導教会からの習わしであり、どういう訳なのかこの教会内では旧世界の言葉が部分的に残っている。


「聖導教会もフェンリル討伐に協力してくれるの?」
「はい……とは言え、我々は後方支援のみで戦線に立つことはありません。テンはワルキューレ騎士団を率いて援軍に赴きたいと進言しましたが、ロスト・ナンバーズの件がある以上は我々も貴重な戦力を手放せません」
「オルトロスの封印を守るためにも?」
「……その通りです」


聖導教会は国家と違って領土の類は所有していないが、それでも守護しなければならない土地が複数存在する。その中でも一番の重要な場所はこの聖導教会総本部であり、地下深くには伝説獣の一体であるオルトロスが封印されており、今の時期に警備を減らせない。

ロスト・ナンバーズは何度もこの総本部内に侵入し、オルトロスの封印を解く方法を模索していたのは事実であり、教会側も重要な戦力を手放す訳にはいかない。


「実は聖堂教会はロスト・ナンバーズと何度か交戦があったようなのです。調べた結果、ナンバーズの1人であるマドカと呼ばれるハーフエルフはヴァルキリー騎士団の先代団長を殺したことで粛清の対象として認定されていたようなのです」
「ヴァルキリー騎士団?」
「今のワルキューレ騎士団の基となった、数十年前は大陸最強と言われた騎士団の名前です。先代の団長とは私もミキも世話になり、彼女の死後はミキが継ぎ、ワルキューレ騎士団に改名された後はテン総団長が引き継ぎました」
「となると、大分昔からあの性悪女と関わりがあったのか……」


あのマドカがそれほど昔から聖導教会と因縁があるのは驚きだが、長寿である森人族の血が流れるハーフエルフの彼女ならば可笑しくはない話だ。


「私が直接対面したのは闘人都市が初めてですが、テンは何度も交戦していたようです。ここ十数年の間は姿を眩ましたていたので本人も疑問を抱いていました」
「……ツインについては何か情報を掴んだ?」


レノの言葉にセンリは立ち止まり、ゆっくりと首を振り、


「あの子の情報は未だに掴んでいません……闘人都市で目撃して以来、何の情報もありません。ですが、私は覚悟を決めました」
「覚悟?」
「あの子は……取り返しのつかない過ちに加担しました。大勢の人間を犠牲にし、さらに種族間の交友関係を乱した罪は見過ごせません……あの子は私の手で……!!」


険しい表情で掌を握りしめるセンリの姿にレノは何も言えず、仮に彼女がアルト同様にリーリスの黒蛇の怨痕に操られていたとしても、自分の手で彼女を討つことを決意したのだろう。


「他のメンバーについては心当たりは?」
「……ケンキと呼ばれる男は巨人族代表のダンゾウ様と関係があるようですが、詳しい事は彼が目覚めるまでは問い質せません。他の面子に関しては特に有力な情報はありませんね……」
「そう言えばここに入院してるんだっけ?」


巨人族の代表であるダンゾウは現在は旧世界で言う所の植物人間の状態として聖導教会の病棟で入院しており、獣人族の代表の獣王はつい先日に退院して自分の領地に帰還した。リハビリが完全に終わってはいないが、獣人族を纏めるためにもこれ以上は休んではいられない。
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