種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
642 / 1,095
英雄編

片翼の魔導士

しおりを挟む
ゴォオオオオオッ――!!


まるで暴風を思わせる突風が魔方陣から発生し、レミアの身体が白く光り輝く。それは聖属性の放つ魔力の光であり、徐々に彼女の身体に変化していく。髪の毛の色が黒色に変化していき、肉体も変化を始め、背中から服を破って「天使」を想像させる光の翼が生えてくる。

レノは知らないが、その姿にセンリは目を大きく見開き、ヨウカも片翼だけ誕生した光の翼を見た瞬間、闘人都市で自分の命と引き換えに巨大隕石から大衆を守った彼女の最後の姿を思い出し、ゆっくりとレミアに憑依した女性が振り返り、


「……上手く行ったようですね」


その声音を聞いた瞬間、全員が儀式が成功したことを悟る。随分と若返っているが、間違いなくその声はミキであり、彼女は自分の姿を確認する様に両の掌を握りしめ、服装を確認すると眉を顰める。


「むっ……困りましたね。主人の服を破ってしまいました……」


自分の背中に生えている羽根を確認し、溜息を吐くとミキと思われる美女はレノ達に顔を向け、すぐに目を大きく見開く。


「まさか……!?貴女はセンリですか!?」
「え、ええ……お久しぶり、というべきでしょうか」


ミキは驚いた表情を浮かべながらも3人の元に歩み寄り、年老いた自分と同世代の魔術師の姿に動揺しながらも、何かを思い至ったように頭を抑える。


「そういう事ですか……私が知る時代より、随分と時が経っているのですね。恐らく、40年ほど……」
「その通りです。流石に察しが良いですね……貴女は何処まで覚えていますか?」
「……正直に言えば記憶自体はおぼろげです。自分が死んだ理由は何処となく覚えていますが……その他に関する事は霞がかかったように思い出せません。この年齢に至るまでの記憶も曖昧ですし……」
「そうですか……ですが、その羽根を見るのは随分と久しぶりに感じますね」
「そうなのですか?」


センリと話しこむミキの姿にヨウカとレノは顔を見合わせ、予想はしていたが、2人の知っている老婆のミキとは微妙に府に気が違う。言葉遣いは同じだが、今の彼女からは覇気というか、威圧感らしき物を感じとり、ヨウカはレノの後ろに隠れる。


「……そのお二人は?何処かで見覚えのあるような……貴女のお孫さんですか?」
「いえ、私は結婚していません。このお二人は……」
「えっ!?け、結婚してないんですか!?」


結婚していないという単語にミキは驚愕してセンリの言葉を遮る。それほどまでに意外だったのかとレノとヨウカは不思議そうに視線を向けると、


「きょ、教皇様とはどうなったのです!!私の知る限り、お二人は愛し合っていたではないですか!?」
「ち、違います!!私が教皇様はそんな関係では……!?」
「何を言うのです!!教皇様から頂いたネックレスを後生大事に身に纏っていたではないですか!?さては自分が教皇様に相応しくないと勝手に判断して、告白の時期を逃したのですね!?」
「あ、貴女だって言い寄る男は山ほどいたのに、ずっと振られた男の事が忘れられずに未練がましく頂いた指輪を手放さなかったではないですか!?」
「わぁあああああっ!?何で言うんですか!!べ、別に私は振られた事を引きずってたわけじゃありませんから!!物を大事にしないのは私の信念に反するだけで……」
「あ、あの~……」
「話についていけない……」


言い争いを始める2人にレノ達は着いて行けず、とりあえずは若い頃のミキも何処となく抜けているというか、完璧なように思えて妙に抜けており、逆にそれが人間味があるように思えて奇妙な親近感を抱く。


「だいたい貴女は奥手すぎなのです!!あれほど私達が後押ししたのに、結局何の進展も無かったんですか!?」
「だから私は教皇様に抱いていたのは尊敬であって、恋愛感情は無いと何度言えば!!」
「いい加減にしろ」
「「あいたっ!?」」


パシンッ!!


2人の頭を軽く叩くと、驚いた表情を浮かべて2人がレノに視線を向け、どちらも歴代の中では腕利きの聖天魔導士でありながら、あっさりと接近されて自分の頭を打たれた事に対して驚きを隠せない。


「どうでもいいけど、俺はともかくヨウカの事まで無視するな」
「えっ、ちょっ、わあっ!?」
「ヨウカ?」


背中に隠れているヨウカをレノは突き出し、2人の前に差し出すとセンリは慌てた風に彼女に頭を下げ、ミキは不思議そうに彼女の顔を覗き込み、センリに顔を向ける。


「センリ……この方はどちら様ですか?」
「っ……!?」
「……やっぱりか」


予想していたとはいえ、やはり眼の前のミキはヨウカの事を覚えておらず、彼女の顔が一瞬だけ悲し気な表情を浮かべるが、すぐに気を取り直したように笑みを浮かべ、


「は、はじめまじて……みごびめのヨヴカでずっ……!!」
「ど、どうしました!?わ、私何かお気に障るようなことを!?」
「う、うわぁああああんっ!!」
「……我慢できなかったか」


無理をして平然を取り繕うとしたらしいが、ミキの言葉に我慢できずにヨウカはレノの胸元に抱き付き、泣きじゃくる。その姿に事情を知らないミキは困惑した風にセンリに視線を向けるが、彼女も頭を抱えて視線を逸らす。


「覚悟はしていましたが……やはり覚えていませんでしたか。ミキ、この御方は今代の巫女姫様です」
「えぇえええええっ!?」


巫女姫という単語にミキは驚愕し、慌てて服が汚れるのも構わずに跪き、レノに抱き付くヨウカに土下座ばりの勢いで頭を下げ、


「も、申し訳ありません!!知らなかったとはいえ、失礼な態度を!!」
「びぇええええんっ!!マザーが、マザーじゃないよぉおおおおっ!!」
「マザー!?」
「あの、ミキ……あちらで話をしましょう。ちゃんと事情を説明しますので……」



――それから数分後、やっと落ち着いたヨウカの頭を撫でまわしながら、センリから話を聞いたミキが気まずそうな表情で近付き、



「そ、その……ヨウカ様」
「ふんだっ……私を忘れたマザーなんて嫌いぃっ……」
「うっ……何故でしょう。凄く罪悪感が沸きます」
「だろうね……」


どうやらミキはヨウカとの記憶を全て失っていたわけではなく、ヨウカの事を完全に忘れた訳ではないようだ。が、それでもレノ達が知っている老婆のミキとは違いがあり、ヨウカは「がるるるっ……!」とポチ子のように威嚇する。


「と、ところで巫女姫様……そちらの男性は?その、も、もしかして恋人の方ですか?」
「こ、恋……!?ち、違うよ!!レノたんはその、えっと……あううっ……もう、やだなぁ……えへへっ」
「大親友です」
「そ、そうですか……」


頬を真っ赤に染めて照れるヨウカを尻目に、レノは真面目な表情で適当な言葉で答えると、ミキは納得したようだが同時に彼に視線を向け、耳が異様に細長く伸びている事に気が付き、


「まさか……貴方はダークエルフですか!?」
「え、いや……俺はハーフエルフ――」
「っ……!?レノ様!!」


レノは自分の種族名を告げた途端、何かに気付いたようにセンリが走り寄ろうとした時、



ズドォオオオオンッ!!



次の瞬間、レノの右頬に一筋の光線が放たれ、後方に設置されていた天使を模した石像に激突して土煙が舞う。


「――ハーフ、エルフと言いましたか?」


光線を放った張本人でる「ミキ」は自分の右の掌をレノに向けており、あろう事か、彼女は杖や媒体も使用せず、さらに魔法名も口にしない完全な無詠唱で魔法を発現させたのだ。


「え、え!?ま、マザー……!?」
「いけない!!逃げてください!?」
「……急に何のつもり?」


レノは自分の右頬に手を当てながら、ミキに視線を向けると、彼女は今までに見せた事も無い虚ろな瞳で睨み付けており、


「お下がり下さい……巫女姫様」
「ど、どうしたのマザー……!?」
「下がれヨウカ」


彼女を庇うようにレノがヨウカの身体に触れた瞬間、ミキの目が大きく見開き、



「その人に、触るなぁあああああっ!!」



カッ!!



裏庭全体を覆いつくすほどの光が放たれ、直後に爆撃音が鳴り響いた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...