種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

集結

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ヒナが無事に地下施設から帰還し、当初の目的である魔物の資料を入手し、ベータの最後の願いを聞き入れてデルタと呼ばれるアンドロイドを連れて帰ってきた事には誰もが驚愕した。彼が無事だったことを喜ぶ反面、突然に現れた謎の少女に警戒気味だったが、ヒナはデルタの事を適当に「アイリィ」の生き別れの妹として紹介すると、


「ううっ……そうだったんですか」
「ぐすっ……ずっと1人で、寂しかったんだな」
「そうか……お前も見捨て、いや、あいつのせいで……」
「……感動」
「ク~ン……?」


ヒナの隣に座り込んだデルタの周囲には、涙目のポチ子とゴンゾウ、さらには同情の視線を向けるフレイの姿があり、あのコトミですらも同情している。現在部隊は放浪島の中央地帯に集合しており、この島の中では比較的に安全地帯であり、見渡す限りの草原が広がっている。

この場所に放浪島の四方に派遣されたテンペスト騎士団の冒険者たちが徐々に集合しており、既に南部部隊(レノ達も含まれる)、東部部隊、西部部隊のメンバーは調査を切り上げて集結しており、最後の北部山岳に向かったジャンヌ率いる主力部隊が帰ってくるのを待つ状態だった。

草原の周囲には柵が形成されており、無数のテントが張られている。地上に繋がる転移魔方陣を設置されており、王国に帰還する者も多い。ヒナ達は第四部隊の特別製のテントの中でデルタの紹介を行い、時間があれば他の部隊と合流して情報交換を行っていた。既にヒナが回収した資料は提出済みであり、ジャンヌたちが帰り次第に会議が行われる予定である。


「それにしても……デルタさん、あんまりアイリィさんと似てませんね」
「いや、今のアイリィは本当の姿じゃないから」
「そ、そうでした!!確か、幽霊さんでしたっけ?」
「……間違ってはいない」
「幽霊というよりは生霊らしいけどね」


ぷにぷにとコトミがデルタの頬を突くと、彼女はそっとその指を押しやり、ヒナに視線を向ける。


『ヒナ様。間もなく、夕食の時間を迎えます』
「あれ、もうそんな時間?」


ヒナは腕時計を確認し、確かに夕食の時間が迫っていた。この世界にも一応は時計は存在するが、旧世界と比べてあまり普及していない(より正確に言えば腕時計などは貴族などしか扱わない)。この世界の人間は基本的に感覚で時間を判断し、剣乱武闘のようなイベントでもなければ基本的に時間など気にしない。


「本当だ……にしても、もう少し砕けた話し方は出来ないかな?」
『申し訳ありません』
「別にいいんじゃないのか?そんなに可笑しな口調でもないだろ」
「……それより、距離が近い」


コトミはデルタとヒナの間に入り込み、私の物だとばかりに彼女に抱き付くが、当のデルタは彼女の行動に対して首を傾げるだけであり、そんな3人の様子にフレイは眉を顰め、


(ヒナはコトミを妻(勘違い)にしたんじゃないのか?なのにポチ子にもプロポーズ(勘違い)したり、何気にあの聖導教会の巫女姫さんとも怪しいし……あのレミアとかいう将軍にも言い寄られていたり、女に変化してもモテるとは……こういう所はレイア姉と一緒だなぁ)


フレイの姉であるレイアも男女問わずに人を引き寄せる力があり、彼女を慕う者は多かった。どうやらヒナもしっかりとレイアの血を受け継いでおり、苦笑いを浮かべるしかない(厳密に言えばヒナは「クローン」であり、親子関係とは言い難いが)。


「第四部隊の皆さま!!お食事の用意が出来ました!!」
「お、噂をすると……」
「……今日の料理は何?」


テントの外から声が掛けられ、すぐに良い匂いを感じ取り、全員が外に出ると既にテントの傍にある木製の大机の上に料理が用意されていた。。


「おおっ……ちゃんと私の分のサラダも用意されてる」
「俺も、大盛りだ」
「……熱くない」
「辛いのは苦手ですけど……良い匂いです」
「私のは要望通りだな」


ヒナの席にはわざわざもサラダが用意されており、ゴンゾウには巨人族用の大皿で盛り付けられており、猫舌のコトミには少し冷めた料理が置かれ、他の面子も要望通りの食事が用意されていた。


「「「いただきま~す」」」


それぞれが食事を行うが、ヒナだけは寸前でデルタの分が用意されていない事に気が付き、彼女に視線を向けると、


「デル……」
『充電開始』


バタッ……


デルタは少し離れた草むらの上に大の字で倒れ込み、瞼を閉じて微動だにしない。彼女の行動に全員が食すのを止め、唖然とする。


「えっと……何してるの?」
『ソーラー充電です。太陽光をエネルギーに変換中しています』
「そ、そう……」


聞いたところ、デルタの体内には他の姉妹機同様に「コア」と呼ばれる地球の活性化の「エネルギー」を凝縮・収納した特殊な電池が存在し、少なくとも300年は稼働できるという。だが、一応は太陽光を自身のエネルギーに変換する装置も搭載されているらしく、施設内で放出した電流にしろ、他の姉妹機には存在しない機能が多々あるらしい。


「……一応はデルタの分も用意されてるけど」
『私に食事は必要ありません。定期的に充電を行えば稼働するには問題ありません』
「え、ご飯を食べないんですか……?」
「変わってるな……?」
「ていうか、本当に人間なのか?実は魔人族か何かじゃないのか?」
「えっと……ほ、ほら!!アイリィの妹だから、色々と規格外なんだよ!!きっと……」


デルタの発言にゴンゾウたちが訝し気な視線を向けるが、ヒナは慌てて自分でもどうかと思うほどに苦しい言い訳を行うと、全員が首を傾げながらも食事を再開する。


「美味い……けど、辛さがもうちょっとあったらな」
「俺は丁度いい」
「はふはふっ……」
「まだ少し辛いですけど、美味しいです!」
「私のはちょっと果物が多いな……」
「ウォンッ!!」
「ウルはもう少し薄味が好みか~」
「言葉分かるのか!?」



――それぞれが食事を楽しむ中、一足早く食べ終えたヒナは皿を片付け、同様にドックフードを食べ終えたウルを抱き上げ、デルタの横に移動して雑魚寝を行う。



「ふうっ……なんか、久しぶりだなこういうの」
「ウォンッ!」
『…………』


ゆっくりと身体を草むらの上で休めながら、ウルの頭を撫でやりながら空を見上げる。よくよく考えるとこのように身体を休める機会は久しぶりであり、身体を伸ばして存分に休息を楽しむ。


「ガツガツガツッ……!!」
「……急いで食べなくても、おかわりはあるよ?」
「むうっ……ニンジンカ(ニンジンと酷似した野菜)か」
「好き嫌いはいけないぞ?ちゃんと食べないと、大きく……はなってるか」


コトミたちは食べ終わるまで時間が掛かりそうであり、ヒナはそれを尻目にウルのモフモフとした体毛に頭を埋めながら、不意に自分の身体の変化に気付く。


(……戻れる?)


直感だが、今ならば「レノ」の姿に変身出来る事を確信し、ゆっくりと上半身だけを起き上がらせ、ソフィアから変化する要領でレノの姿に変貌しようとした時、


『ストップ』
「わっ!?」


ぼよんっ……


唐突に右後方から身体を引き寄せられ、顔に柔らかい感触が広がる。どうやら横で眠っていたデルタがヒナを引き寄せたようであり、彼女の胸元に顔を挟まれる。男の状態ならば役得な状態なのだろうだが、今のヒナには何事かとじと目で視線を向けると、


『不特定多数の熱源反応が北方向から向かってきます。数は114……その後方から巨大な熱源が感じられます』
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