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ヒナ編
さよなら
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『あ、忘れてました。ヒナさんに最後の頼みごとをしたいんですけど……』
「何?」
まだ何かあるのかとベータに視線を向けると、彼女の瞳が一瞬だけ点滅し、すぐに空中に映し出されている映像を指差し、
『私の妹……デルタをお願いしていいですか?』
「デルタ?」
『この施設内部は焼却する予定ですが、あの子だけは連れて行ってほしいんです。アイリス・システムは搭載していませんが、姉妹機の中では一番に人間に近い素材です』
「そう……分かった。一緒に連れて行く」
ヒナの返答にベータは安心したように笑みを浮かべ、不意に何かを思い出したように掌を叩き、
『あ、そうそう……お別れの前に私からプレゼントがあります』
「プレゼント?」
ベータは自分の胸元を元に戻し、机の上に置かれた漆黒の箱を取り出すと、ヒナに差し出す。彼女は首を傾げて受け取ると、大きさは縦横5センチほどであり、中身を開くと翡翠の形をした「ダイヤモンド」を想像させる宝石が埋め込まれていた。
「うわぁっ……ぷ、プロボーズされたのなんて初めて……幸せにしてね」
『何で乙女の表情で頬を赤らめるんですか、こっちが恥ずかしいじゃないですかもう……それはヒナさんが持っていた武器を解析して用意した物です』
「エクスカリバーの?」
ヒナはホルスターからエクスカリバーの柄を取り出し、良く良く確認するとセンリから受け取ったはずの聖石が何時の間にか取り外されている事に気が付き、さらに柄の部分の聖石を嵌め込む部分が翡翠型に削り取られている。
「これって……」
『ヒナさんの治療を行う際、その武器も調べ上げて見ましたけど、何故か内の会社の製品と似てましてね。名前は「ブレイド」というですが、セカンド・ライフ社の物と比べて随分と高出力でしたから、少しだけヒナさんの宝石に改造を施しました』
「何を勝手に……というか製品?」
セカンド・ライフ社の商品(武器製造も行っていたらしい)にエクスカリバーと酷似した武器が存在したことは驚きだが、ヒナが所持していた聖石が勝手に加工され、これほどまでに美しく輝くとは思いもしなかったが、変化は外見だけではなかった。
「熱っ……!?」
箱から聖石を取り出そうとしたが、掌から感じるその熱量は以前とは比べ物にならず、すぐに箱の中に落としてしまう。
『貸してください。私が装着します』
「あっ」
ベータはヒナから聖剣を取り上げ、加工された翡翠型の聖石も取り上げると、彼女はそのまま柄の部分に嵌め込む。その瞬間、柄が一瞬だけ発光するが、すぐに光は収まった。
『どうぞ』
「ありがとう……おおっ」
聖剣を受け取った瞬間、ヒナはずしりと重みを感じ、変化を肌で感じ取る。試しに光の剣を発現しようとした時、慌ててベータが静止する。
『ちょっ、この場所でその剣の力を使わないで下さいよ!?暴発したら、私はともかくヒナさんが焼却されますよ!!』
「うえっ!?」
彼女の言葉に反応して聖剣に魔力を送り込むのを中断し、すぐにホルスターに装着する。それを確認してベータは安堵の息を吐き、今度はUSBメモリを取り出してヒナに手渡す。
『それでは……今度こそお別れです。さあ、一思いにブスッとやっちゃってください』
「……本当にいいの?」
彼女からUSBメモリを受け取り、胸元を向けてくるベータに最後の確認を行うと、彼女は即座に頷き、
『もう私の役割は全て終えました。もう私も、この施設も必要ありません。ここから先の時代は貴方達の物です』
それだけを告げると、もう語る事は無いとばかりに瞼を閉じる。ヒナはゆっくりとUSBメモリを握りしめ、彼女の胸元の接合口に向けてゆっくりと近づかせ、
「……さよなら」
ガチャンッ――
USBメモリがベータの胸元に挿し込まれ、彼女は口元に笑みを浮かべると、たった一言だけ呟く。
『さよなら』
ベータの身体がゆっくりと倒れ込み、ヒナはそれを支える。外見は華奢だがその重みは人間の物ではなく、ずっしりとした重量感が襲い掛かる。同時に部屋の点灯が赤色に切り替わり、事前に彼女から知らされた情報通りならば施設全体が緊急警戒体制に入り、一部の場所を除いて全ての機能が停止するという。
ヒナは彼女の身体をすぐ傍の手術台の上に横たわらせ、まるで子供の様なあどけない寝顔を思わせる表情を浮かべたベータに視線を向け、ゆっくりと背中を向け、
「ばいばい」
それだけを告げると、扉を掻い潜り、彼女は部屋を後にした――
「何?」
まだ何かあるのかとベータに視線を向けると、彼女の瞳が一瞬だけ点滅し、すぐに空中に映し出されている映像を指差し、
『私の妹……デルタをお願いしていいですか?』
「デルタ?」
『この施設内部は焼却する予定ですが、あの子だけは連れて行ってほしいんです。アイリス・システムは搭載していませんが、姉妹機の中では一番に人間に近い素材です』
「そう……分かった。一緒に連れて行く」
ヒナの返答にベータは安心したように笑みを浮かべ、不意に何かを思い出したように掌を叩き、
『あ、そうそう……お別れの前に私からプレゼントがあります』
「プレゼント?」
ベータは自分の胸元を元に戻し、机の上に置かれた漆黒の箱を取り出すと、ヒナに差し出す。彼女は首を傾げて受け取ると、大きさは縦横5センチほどであり、中身を開くと翡翠の形をした「ダイヤモンド」を想像させる宝石が埋め込まれていた。
「うわぁっ……ぷ、プロボーズされたのなんて初めて……幸せにしてね」
『何で乙女の表情で頬を赤らめるんですか、こっちが恥ずかしいじゃないですかもう……それはヒナさんが持っていた武器を解析して用意した物です』
「エクスカリバーの?」
ヒナはホルスターからエクスカリバーの柄を取り出し、良く良く確認するとセンリから受け取ったはずの聖石が何時の間にか取り外されている事に気が付き、さらに柄の部分の聖石を嵌め込む部分が翡翠型に削り取られている。
「これって……」
『ヒナさんの治療を行う際、その武器も調べ上げて見ましたけど、何故か内の会社の製品と似てましてね。名前は「ブレイド」というですが、セカンド・ライフ社の物と比べて随分と高出力でしたから、少しだけヒナさんの宝石に改造を施しました』
「何を勝手に……というか製品?」
セカンド・ライフ社の商品(武器製造も行っていたらしい)にエクスカリバーと酷似した武器が存在したことは驚きだが、ヒナが所持していた聖石が勝手に加工され、これほどまでに美しく輝くとは思いもしなかったが、変化は外見だけではなかった。
「熱っ……!?」
箱から聖石を取り出そうとしたが、掌から感じるその熱量は以前とは比べ物にならず、すぐに箱の中に落としてしまう。
『貸してください。私が装着します』
「あっ」
ベータはヒナから聖剣を取り上げ、加工された翡翠型の聖石も取り上げると、彼女はそのまま柄の部分に嵌め込む。その瞬間、柄が一瞬だけ発光するが、すぐに光は収まった。
『どうぞ』
「ありがとう……おおっ」
聖剣を受け取った瞬間、ヒナはずしりと重みを感じ、変化を肌で感じ取る。試しに光の剣を発現しようとした時、慌ててベータが静止する。
『ちょっ、この場所でその剣の力を使わないで下さいよ!?暴発したら、私はともかくヒナさんが焼却されますよ!!』
「うえっ!?」
彼女の言葉に反応して聖剣に魔力を送り込むのを中断し、すぐにホルスターに装着する。それを確認してベータは安堵の息を吐き、今度はUSBメモリを取り出してヒナに手渡す。
『それでは……今度こそお別れです。さあ、一思いにブスッとやっちゃってください』
「……本当にいいの?」
彼女からUSBメモリを受け取り、胸元を向けてくるベータに最後の確認を行うと、彼女は即座に頷き、
『もう私の役割は全て終えました。もう私も、この施設も必要ありません。ここから先の時代は貴方達の物です』
それだけを告げると、もう語る事は無いとばかりに瞼を閉じる。ヒナはゆっくりとUSBメモリを握りしめ、彼女の胸元の接合口に向けてゆっくりと近づかせ、
「……さよなら」
ガチャンッ――
USBメモリがベータの胸元に挿し込まれ、彼女は口元に笑みを浮かべると、たった一言だけ呟く。
『さよなら』
ベータの身体がゆっくりと倒れ込み、ヒナはそれを支える。外見は華奢だがその重みは人間の物ではなく、ずっしりとした重量感が襲い掛かる。同時に部屋の点灯が赤色に切り替わり、事前に彼女から知らされた情報通りならば施設全体が緊急警戒体制に入り、一部の場所を除いて全ての機能が停止するという。
ヒナは彼女の身体をすぐ傍の手術台の上に横たわらせ、まるで子供の様なあどけない寝顔を思わせる表情を浮かべたベータに視線を向け、ゆっくりと背中を向け、
「ばいばい」
それだけを告げると、扉を掻い潜り、彼女は部屋を後にした――
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