種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
598 / 1,095
ヒナ編

魔装の応用

しおりを挟む
ヒナは自分に向かってくる水晶の触手を躱し続け、立ち止まらずに移動し続ける。触手の数は覆いが、速度自体は彼女の動体視力で見きれないほどではなく、足元に風の魔力で形成した車輪を作り出して避け続ける(闘人都市でも使用した「風輪」と同じ移動術)。


ドバァアアアアッ……!!


嵐属性の車輪が泥をまき散らしながら移動を行い、上、横、前方、後方からの触手を高速移動で躱す。彼女が使用している「風輪」は元々は足元が雪で覆われた北部山岳で造りだした移動術であり、このような足元に踏ん張りが効かない土地でこそ効果を発揮する。


ズドドドドッ……!!


先端が尖った触手が降り注ぎ、攻撃を避けながら作戦を考える。ヒナが現時点で扱えるのは風輪と瞬脚のみであり、ソフィアの時と違ってある程度の嵐属性の魔法が扱えるのは便利である。


(さて……どうするかな)


魔鎧を発動中は右腕に意識が集中するため、他の部位に嵐属性の魔法を発動させることは難しい。この風輪を発動させたまま右腕に魔鎧を纏わせることは不可能であり、状況は不利になる一方だった。

先ほどの瞬脚のような一瞬だけ嵐属性の魔法を発動させるだけならば魔鎧も魔装も維持できるが、この不安定な土地で触手を躱し続けるのは風輪だけであり、解除すればすぐに無数の触手が彼女の身体を拘束するだろう。


(ゴンちゃんたちの援軍は期待できないし……)


ゴンゾウたちは樹木の中に隠れて待機しており、ヒナが合図を出すまで決して出てこない様に厳命している。彼らは大人しくそれに従い、木陰からヒナとスライムの戦闘の様子を伺っている。

ポチ子やゴンゾウが心配そうな視線を向ける中、冒険者たちは頭を抑えて小さくなっており、何でこのような事に巻き込まれたのかと後悔している。彼らはつい最近に入団したばかりの新参者であり、どちらも普通のギルドの冒険者として過ごすよりはテンペスト騎士団の方が金銭的に余裕があると判断して入団したのだ。

王国側も先の剣乱武闘で騎士団にも大きな被害が及び、未だに入院している者も多い。そのため、今回の放浪島での遺跡調査には一般冒険者からも募集を行い、テンペスト騎士団の入団条件を和らげて大勢の人間を招き入れたのだ。



――先の剣乱武闘で問題を起こした「ロスト・ナンバーズ」さらには連絡が取れない「人魚族」と「魔人族」を警戒し、王国は各領地に大量の兵を配置させている。他にもフェンリルに対抗するために軍を再編成しているという理由もあり、この放浪島に送り込まれたテンペスト騎士団の団員の少数は一般人の出でもある。



「くそぉっ……金が良いからって、こんな仕事引き受けるんじゃなかった……」
「帰りてぇ……」
「素直に実家を継いで、畑でも耕していたら良かった」
「……お前達、何しに来た?」


ぶつぶつと愚痴りながら木陰に隠れて動こうとしない冒険者たちにゴンゾウは首を傾げるが、彼の隣でポチ子とコトミが並んで泉の様子を確認する。


「わうっ……このまま見てていいんでしょうか?」
「……合図があるまで、じっとしているように言われた」
「そうでした!!合図があるまで、じっとしてます……でも、1つ気になるんですけど……合図って何の合図ですか?」
「……聞いていない」


ヒナがどのような行動を起こしたら合図と判断していいのか分からず、コトミとヒナは不安そうにお互いの耳(コトミの場合は癖っ毛)をぴこぴこと動かし、ゴンゾウに振り返るが彼も首を振る。

よくよく考えれば誰もヒナの合図の動作を確認しておらず、彼女がどのような動作を行ったら合図と判断すればいいのか分からず、困惑していた。


「……あっ、止まった」
「え?」
「何?」


コトミの言葉にポチ子とゴンゾウが泉に視線を向けると、作戦が決まったのかヒナが風輪を解除して立ち止まり、ブルースライムに向けて視線を向けていた。


ドシュッ!!ドシュッ!!


スライムの肉体から十数本の触手が蠢かせ、そのどれもが棘のように先端部が尖っており、液体状の触手とはいえ、突き刺さればヒナの肉体もただでは済まない。


ボウッ……!!


彼女は右腕を前に差し出し、一魔鎧を発動させて触手に構える。しかし、触手の数があまりにも多く、右腕だけでは防ぎきれないだろう。



(さて……上手く行くか)



ヒナは青く光り輝く炎を纏わせた右腕を構えながら、掌に握りしめた魔石を確認する。事前にアルトから渡された物であり、本来ならば部隊長であるヒナにも一級品の魔石を用意されるはずなのだが、彼女自身が魔石無しでも簡単に魔法を発現出来るため、必要ないと勝手に他の部隊長たちが第四部隊に渡されるはずの魔石を押収したという。

隠密部隊であるカゲマルを除き、他の第一部隊と第二部隊の隊長たちの独断行動であり、どちらも現在はアルトやジャンヌとは別々の地域で捜索中のため、問い質す事も出来ない。

この魔石はアルトがリーリスの魔の手から救ってくれたお礼として手渡した物であり、魔石の使い方も丁寧に教えてくれた。



――王国側が最新の製造方法で製造された魔石は非常に扱いやすく、魔術師以外の一般冒険者も愛用している。魔石の使用方法は掌で握りしめ、放出する方向に構えて魔石に封じ込められた「魔法名」を口にするだけである。通常の魔術師の魔法と違い、詠唱を必要としない。



だが、通常の魔石よりも非常に費用が掛かるため、この王国側の魔石は限られた数しか生産できない。そのため、大切に扱うように申し付けられているが、今が使い処だろう。


「さて……どうなるか」



ゴォオオオオッ……!!



右の掌で握りしめた魔石から風属性の魔力が放出され、アルトに魔石を渡された時からある考えが思い抱いていた。魔装はあらゆる物体を強化させる事が出来る技術だが、仮に魔鎧で魔石に魔槍術を施した状態で魔法を発現した場合はどうなるのか。



ズドドドドッ……!!



危険を察知したのかスライムは先端部を鋭利に尖らせた触手を彼女に向けて放つが、既に準備を終えているヒナは魔石を向け、



「スラッシュ!!」



魔石に封じられている「魔法名」を発現した途端、彼女の掌に握り締められている石が光り輝き、「蒼炎」を纏わせた三日月の形をした刃が放出される。アルトから渡されたのは初心者でも扱えるレノの「乱刃」と酷似した風属性の魔法が封じ込められただけの魔石だが、風の刃が「蒼炎」を纏いながらスライムに向けて放たれる。



ズバァアアアァッ……!!



向い来る触手を全て「蒼炎の刃」が薙ぎ払い、スライムの本体に目掛けて接近する。先ほどの棒は本体が穴を形成して避けたが、今回は軽く3メートルを越える刃が放たれ、スライムが回避行動に移る前に到達した。



ドパァァアアンッ!!



まるで水中に大きな岩でも投げ込まれたような音が響き渡り、ヒナが放出した砲撃魔法がスライムの身体に命中し、一気に蒸発させる。やがてスライムは縮小化し、遂には周囲に無数の欠片を放出させながら四散した。



「ふうっ……実験成功かな」



掌を確認すると、そこには砕け散った灰色に変色した魔石だけが残っており、役割を果た魔石はもう二度と使い物にならない事は事前に聞いている。それらを地面に置くと、彼女は唖然とした表情でこちらを見つめるゴンゾウたちに顔を向けると、何かを思い出したようにはっとした表情を浮かべる。


「……ごめん、合図を出すの忘れてた。ていうか、合図決めてなかった……」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...