566 / 1,095
闘人都市崩壊編
最悪と最強の邂逅
しおりを挟む
――闘技場の観客席には1人の少女が座り込み、事の顛末を見守っていた。そして、自分が召喚した隕石を破壊したレノの姿を確認し、ゆっくりと立ち上がる。カラドボルグが消えた途端に肉体が変化しており、彼が「ハーフエルフの禁忌」を犯した存在だという事をすぐに理解できた。
「……カラドボルグか、忌々しい」
リーリスは先ほどレノが発現させた「雷光の剣(カラドボルグ)」は、アイリィの身体を乗っ取った跡でも使用した事がない聖遺物であり、彼女は立ち上がる。
聖剣とは所有者の魂に反応する仕組みであり、例えリーリスがアイリィの肉体を乗っ取ったとしても彼女を所有者とは認めない。だが、試合場の中心部で倒れているレノは所有者でも無く聖剣を使用した事に疑問を抱き、リーリスはゆっくりと試合場に向けて歩み、
「ふむっ……」
レノの右手の甲に刻まれた紋様を確認し、アイリィの魔力が感じられる。彼女の肉体に過ごしたことがあるリーリスだからこそ、間違えるはずが無い。原理は不明だが、この右手を通してカラドボルグの力を使用しているのだろう。
「この右腕ごと切り落とせば……」
リーリスはゆっくりと倒れ込んだレノに近寄り、掌を伸ばすと、
――ズゥンッ!!
「……何?」
突然、彼女の腹部から見覚えがある「真紅の槍」が出現し、すぐに背中からこの槍が貫かれたことを理解する。リーリスは冷静に槍の形状を確認し、どうしてこの状況で嘗て自分が愛用した「魔槍」が存在するのかと疑問を抱いた時、
「ほうっ……ただの一般人じゃなさそうだな」
「……お前は……」
後方には何時の間にか1人の美しいダークエルフが立っており、ここまで接近されておきながら気付けなかった事にリーリスは驚く。彼女自身が油断をしていた事もあるが、相当な実力者である事は間違いない。
「……この槍で貫かれて、生きているところ、生物とは信じ難いな」
「ふんっ……なるほど、そう言う事か」
リーリスは自分を貫いた世界最強の魔槍「ゲイ・ボルグ」を確認し、彼女がアイリィの身体を乗っ取った時に最も愛用していた武器だ。遥か昔、アイリィの身体が限界を迎えたときに放浪島の地下迷宮の奥深くに封じ込めたはずだが、どうやらこのダークエルフに回収されたようだ。
ダークエルフの顔を確認し、アクアを演じたときに大会の本戦で出場していた事を思いだし、名前はホムラと名乗っていた事を思い出す。
「ふんっ」
「がはっ……」
ホムラはゆっくりと槍を抜き取り、リーリスの腹部にぽっかりと大きな穴が開かれる。これは魔槍の刃に秘められた「消滅」の力で抉られた傷であり、空間そのものが消滅したのだ。
全ての聖遺物の中でも異質な能力を持ち、このゲイ・ボルグに関してはリーリスも使用する際は禁じ手としており、魔王として過ごした生涯では数回ほどしか使用していない。
「……お前、その身体」
「ふっ……」
ホムラはぽっかりと空いたリーリスの腹部を確認し、その中身に顔を顰める。空いた「穴」から骨や内臓の一部も見えない。ゲイ・ボルグが消滅させたのかと一瞬思ったが、それにしては血液が一滴も漏れないのは異常だ。
「ふむっ……この身体もそろそろ限界か」
「そうか……人形か」
すぐにホムラは目の前の相手が死霊使いが操作する「死人」の類だと判断し、
「なら、用は無い」
――ズドォオオオオンッ!!
一瞬にして槍を頭上から振り落し、リーリスの身体が左右に真っ二つに引き裂かれ、
「……お前の顔は覚えたぞ――」
ドサッ……
彼女の身体が地面に倒れ込み、ホムラは一瞥するとすぐに倒れ込んだ彼女の「亡骸」を確認し、外見は普通の少女だが、中身は空洞だった。精巧に造られた人形の表面に本物の人間の皮膚を張りつけて行動していたらしい。
いつからこの人形とすり替わっていたのか、大会で実況やアクアとして過ごしていた時から人形だったのかは分からないが、彼女にとってはどうでもいい事だ。
「さて……どうするかな」
直接対面するのは3度目であるレノの姿を確認し、ホムラは少し悩んだ風に彼を見つめる。ここで殺すのは容易いが、それではつまらない。
「ふむっ……大分魔力を消費しているな」
彼女がこの都市に戻ってきたのは少し前であり、レノのカラドボルグが隕石を破壊した光景を確認する。ホノカが使用した魔水晶は、一時的に遠距離に転移を行わせ、時間差で元の場所に戻るという変わった魔石だった。
結局、ホムラはホノカを殺すにまで至らず、決着は着けられなかったが楽しみは後に取る事にする。今はこの倒れているレノをどうするかを思案し、ここで始末するという選択肢は無い。
「……罪深き存在か……」
ダークエルフの殆どは魔人族と森人族のハーフであり、レノとホムラは同じ存在だ。だからこそ、幼少に出会った時に同族であるレノが「禁忌」を犯し、性別変化出来る存在だと知った時、彼のこれからの人生に同情して命を絶とうとしたが、それでも彼は生き延びた。
「あと一度だけ見逃してやる……だが、次が最後だ」
そう告げると、ホムラは踵を返してレノが倒れこむ試合場を立ち去る。次に邂逅した時、レノがまた一回りも二回りも大きく成長して姿を現す事を確信し、彼女は笑みを浮かべながらその場を後にした――
「……カラドボルグか、忌々しい」
リーリスは先ほどレノが発現させた「雷光の剣(カラドボルグ)」は、アイリィの身体を乗っ取った跡でも使用した事がない聖遺物であり、彼女は立ち上がる。
聖剣とは所有者の魂に反応する仕組みであり、例えリーリスがアイリィの肉体を乗っ取ったとしても彼女を所有者とは認めない。だが、試合場の中心部で倒れているレノは所有者でも無く聖剣を使用した事に疑問を抱き、リーリスはゆっくりと試合場に向けて歩み、
「ふむっ……」
レノの右手の甲に刻まれた紋様を確認し、アイリィの魔力が感じられる。彼女の肉体に過ごしたことがあるリーリスだからこそ、間違えるはずが無い。原理は不明だが、この右手を通してカラドボルグの力を使用しているのだろう。
「この右腕ごと切り落とせば……」
リーリスはゆっくりと倒れ込んだレノに近寄り、掌を伸ばすと、
――ズゥンッ!!
「……何?」
突然、彼女の腹部から見覚えがある「真紅の槍」が出現し、すぐに背中からこの槍が貫かれたことを理解する。リーリスは冷静に槍の形状を確認し、どうしてこの状況で嘗て自分が愛用した「魔槍」が存在するのかと疑問を抱いた時、
「ほうっ……ただの一般人じゃなさそうだな」
「……お前は……」
後方には何時の間にか1人の美しいダークエルフが立っており、ここまで接近されておきながら気付けなかった事にリーリスは驚く。彼女自身が油断をしていた事もあるが、相当な実力者である事は間違いない。
「……この槍で貫かれて、生きているところ、生物とは信じ難いな」
「ふんっ……なるほど、そう言う事か」
リーリスは自分を貫いた世界最強の魔槍「ゲイ・ボルグ」を確認し、彼女がアイリィの身体を乗っ取った時に最も愛用していた武器だ。遥か昔、アイリィの身体が限界を迎えたときに放浪島の地下迷宮の奥深くに封じ込めたはずだが、どうやらこのダークエルフに回収されたようだ。
ダークエルフの顔を確認し、アクアを演じたときに大会の本戦で出場していた事を思いだし、名前はホムラと名乗っていた事を思い出す。
「ふんっ」
「がはっ……」
ホムラはゆっくりと槍を抜き取り、リーリスの腹部にぽっかりと大きな穴が開かれる。これは魔槍の刃に秘められた「消滅」の力で抉られた傷であり、空間そのものが消滅したのだ。
全ての聖遺物の中でも異質な能力を持ち、このゲイ・ボルグに関してはリーリスも使用する際は禁じ手としており、魔王として過ごした生涯では数回ほどしか使用していない。
「……お前、その身体」
「ふっ……」
ホムラはぽっかりと空いたリーリスの腹部を確認し、その中身に顔を顰める。空いた「穴」から骨や内臓の一部も見えない。ゲイ・ボルグが消滅させたのかと一瞬思ったが、それにしては血液が一滴も漏れないのは異常だ。
「ふむっ……この身体もそろそろ限界か」
「そうか……人形か」
すぐにホムラは目の前の相手が死霊使いが操作する「死人」の類だと判断し、
「なら、用は無い」
――ズドォオオオオンッ!!
一瞬にして槍を頭上から振り落し、リーリスの身体が左右に真っ二つに引き裂かれ、
「……お前の顔は覚えたぞ――」
ドサッ……
彼女の身体が地面に倒れ込み、ホムラは一瞥するとすぐに倒れ込んだ彼女の「亡骸」を確認し、外見は普通の少女だが、中身は空洞だった。精巧に造られた人形の表面に本物の人間の皮膚を張りつけて行動していたらしい。
いつからこの人形とすり替わっていたのか、大会で実況やアクアとして過ごしていた時から人形だったのかは分からないが、彼女にとってはどうでもいい事だ。
「さて……どうするかな」
直接対面するのは3度目であるレノの姿を確認し、ホムラは少し悩んだ風に彼を見つめる。ここで殺すのは容易いが、それではつまらない。
「ふむっ……大分魔力を消費しているな」
彼女がこの都市に戻ってきたのは少し前であり、レノのカラドボルグが隕石を破壊した光景を確認する。ホノカが使用した魔水晶は、一時的に遠距離に転移を行わせ、時間差で元の場所に戻るという変わった魔石だった。
結局、ホムラはホノカを殺すにまで至らず、決着は着けられなかったが楽しみは後に取る事にする。今はこの倒れているレノをどうするかを思案し、ここで始末するという選択肢は無い。
「……罪深き存在か……」
ダークエルフの殆どは魔人族と森人族のハーフであり、レノとホムラは同じ存在だ。だからこそ、幼少に出会った時に同族であるレノが「禁忌」を犯し、性別変化出来る存在だと知った時、彼のこれからの人生に同情して命を絶とうとしたが、それでも彼は生き延びた。
「あと一度だけ見逃してやる……だが、次が最後だ」
そう告げると、ホムラは踵を返してレノが倒れこむ試合場を立ち去る。次に邂逅した時、レノがまた一回りも二回りも大きく成長して姿を現す事を確信し、彼女は笑みを浮かべながらその場を後にした――
0
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!
ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。
しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる