種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘編

影と炎

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――レノが階段に転移する少し前、試合を終えたホムラが地下通路を歩いており、彼女は背中に背負った「魔槍」を確認しながら、すぐに通路に異変を感じる。最初に通り過ぎたときは灯りが付いていたはずだが、何時の間にか松明が消されており、異様に薄暗い。


「……待て」


前方の通路から音も無く人影が現れ、全身を黒いローブで覆い包んだ人物が現れ、彼はローブを取り払い、そして「影の聖痕」の所持者であるシャドウはホムラを睨み付ける。彼の顔に大きな火傷の跡があり、ホムラを憎々し気に見つめる。


「久しぶりだな……くそがっ」
「……?」
「その顔は俺の事を覚えてないのか?まあ、無理も無いか……あれから随分と時が経っているからな……」
「何の話をしている?」
「ふんっ……てめえは綺麗な顔だよな……あの時から、何一つ変わっていねえ」
「……あの時?」


ホムラは男の口振りに首を傾げ、どうやら過去に出会った事がある口振りらしいが、男の顔に見覚えは無い。自分が単に覚えていないだけなのか、それとも相手の勘違いなのか彼女には分からない。


「お前はなぁっ!!20年前、森の中で少しばかり薬草を摘んだからって、俺の顔をこんなにしやがったんだよ!!思い出したか!?」
「知らん」
「っ……はっ……そうだよな、てめえにとっては……いちいちガキ1人を斬りつけた事なんて、記憶の片隅にすら残すわけがねぇよな……」
「……20年前?」


シャドウの言葉にホムラは彼が見当違いの事を言っている事に気が付き、指摘するのも面倒だが、不意に彼の身体から感じる力に気が付く。


「どうでもいいが……お前、持っているな?」
「……?」


今度はシャドウがホムラの言葉に訝しげな表情を浮かべ、彼女は左腕をまくり、


「これに見覚えは?」
「……っ……そう言う事か……お前も……」



――彼女の左腕には「炎」を想像させる紋様が刻まれており、すぐにシャドウは自分の右手に存在する人型の「影」の形をした紋様を確認する。間違いなく、ホムラもシャドウと同様に特別な力を宿して生まれた存在なのだ。



「はっ……あの男女にしろ、お前にしろ……偶然にしては出来過ぎている気がするな」
「男女……?」
「やっと巡り会えた「同胞」だってのに、どちらも抹殺対象とはな。まあいい……俺は常に1人だ」
「……痛い奴だな」


彼の言動にホムラは溜息を吐き、掌を向けようとした時、先に相手が杖を構える。


「ダークフォース!!」


ズドォオオオオッ!!


嘗て、レノが相対した2人の死人が使用した「漆黒の光線」を放ち、その規模は死霊術で操作していたビルドとは比べ物にならない。


「ほう?」


向い来る漆黒の光線に対し、ホムラは始めて闇属性の魔法に興味を示したが、流石に直撃するのは御免であり、


「焔」


ドゴォオオオオオッ!!


「何ッ……!?」


彼女が向けた掌から瞬時に火球が出現し、一瞬で爆炎となって地下通路に放出され、シャドウのダークフォースを飲み込む。


「くそっ……がぁあああああっ!?」


シャドウの身体が爆炎に飲み込まれ、一瞬で消し炭となり、原型も残さない。やがて爆炎が掻き消えると、ホムラは通路の廊下に山盛りとなった人型の灰を見下ろし、


「……で、気は済んだか?」
「……ちっ、この程度じゃ騙されないか。流石だな」


後方を振り返ると、ホムラの後ろには先ほど焼却したはずのシャドウの姿があり、どうやら隠密の魔法で隠れていたらしい。前方の死骸の灰は、彼が操作して上手く自分に化けた「死人」だったのだろう。

最初からシャドウは通路内で隠れており、自分と瓜二つの容姿の偽物の「死人」を仕込み、攻撃を行わせていた。恐らく、隙を見せたホムラの後方から仕掛けるつもりだったのだろうが、結局は気付かれてしまう。


「まあいい……駒はまだある」


シャドウは自身のローブを振り払い、彼の右手には2つの空き瓶が握られており、その中には無数の黒い何かが蠢いており、すぐに「魔甲虫」だとホムラは勘付く。


「死ね!!」


バリィンッ!!


空き瓶を地面に叩き付けた瞬間、数十の「蜂」の形をした魔甲虫が飛来し、ホムラに放たれる。この虫はシャドウが長年の間、世界各地を回って仕入れた種であり、一刺しでも刺されたら例え「巨人族」であろうと3秒も持たずに苦しみ悶え死ぬ。


ブゥウウウウンッ……!!


無数の「毒蜂」がホムラに接近し、彼女は掌を向けようとした時、


ガシィッ!!


「んっ……?」
「させると思うか?」


唐突に自身の右手が動かず、ホムラは顔を向けると薄暗闇で分かりにくいが、シャドウの足元の「影」から黒い触手のようなものが生み出されており、ホムラの右手に絡みついていた。

恐らく、これもシャドウの聖痕の能力だろうが、無理やり彼女が力ずくで引き剥がそうとしてもびくともしない。ホムラの力で振り解けない辺り、物理的な力では引き剝がす事は出来ないのかもしれない。


「無駄だ!!死ね!!」


ホムラが左手を構える前に毒蜂が彼女の元に到達し、そのまま群がる。シャドウは笑みを浮かべた時、


「失せろ」


ボウッ!!


彼女の身体全体に「火焔」が放出され、一瞬で毒蜂が燃え盛り、1匹残らず灰と化す。それだけではなく、通路全体が炎の熱気に襲われ、シャドウは大きく目を見開く。


「なあっ……!?」
「なるほど……お前の「影」は熱、いや、この場合は光に弱いのか」


右手に巻き付いていたシャドウの足元から放たれた触手が火焔の光によって消え去り、拘束された場合は物理的な力では通用しないようだが、炎に覆われた瞬間に消え去った所、これは炎で焼却したというより、炎の放つ光量でかき消されたように見える。


「中々面白い能力だが……そろそろ終わらせるぞ」
「な、舐めるな!!」


シャドウは杖を振るわせて「六芒星」の防御魔法陣(プロテクト)を書き込み、さらに自分の影を変形させ、無数の触手を生み出す。


「お前はつまらない」
「なっ……むぐっ!?」


だが、ホムラは彼が攻撃が仕掛ける前に動き出し、魔方陣を掻い潜って左手でシャドウの顔を鷲摑み、そのまま持ち上げる。すぐに影の触手が彼女に絡みつくが、驚異的な握力でシャドウを逃さない。


ググググッ……!!


「う、ぎぃいいいっ……!?」
「1つだけ教えておいてやろうか……20年前と言っていたな?それはお前の勘違いだ」
「な、に゛を……いっへぇ……!?」
「私はまだその時は生まれてすらいない。お前が見た者は私の母か、祖母だ。どうやら私の家系は同じような顔の造りの奴ばかりらしいな」
「っ……!!」
「つまり、お前は勘違いで私に挑み、そして死ぬわけだ……どんな気持ちだ?自分の間違いで、わざわざ殺されるというのは」
「お゛まぇええええっ……!!」
「もういい、失せろ」



――ドゴォオオオオオオンッ!!



ホムラの左手が赤く発光し、次の瞬間にはシャドウの肉体が爆炎に飲み込まれた――




※「影の聖痕」は自分の影を利用して相手を拘束したり、あるいは影同士を繋げる事で自分の力を分け与える事が出来ます。ライオネルが「暗闇」でその真価を発揮すると言ったのは、日が登る間は影に制限が出来ますが、夜などの暗闇の空間ならば影に制限はありません。

また、影から生み出される「触手」は物理的な破壊は不可能であり、例えゴンゾウの「鬼人化」の状態でもどうしようもありません。ですが、この「影」は強い光を極端に拒み、触手に何らかの光を当てれば簡単に消え去ります(当然、日の光が当たる場所では使用できず、室内且つ、薄暗闇の場所でなければいけません)。

聖痕の中でも一番使い勝手が悪く、条件が揃わない限りは戦闘向きではありませんが、死霊使いであるシャドウとは非常に相性が良く、彼は影を使って無数の死人を操作して独自の砲撃魔法(ダークフォース)を習得しました。
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