434 / 1,095
剣乱武闘編
王の苦悩
しおりを挟む
レノがコトミと再開した頃、闘人都市の最も有名な宿である「白帝」と呼ばれる建物には、剣乱武闘の観戦のために世界中の重要人が集まっており、その中には六種族の代表の1人である「バルトロス13世」も含まれていた。
彼は宿の中でも最高級の部屋を指定し、長年彼に仕えている大臣と共に書類を纏めていた。今回、この都市に訪れたのは剣乱武闘のためではあるが、一国の王である彼は常に多忙であり、書類の処理に明け暮れていた。
「ふうっ……」
「王……どうかお休みください。もう3日も真面に寝ておられないではないですか」
「ああ……いや、この分まで目を通してから休もう」
「そうですか……」
バルトロス国王は机の上に置かれた書類の山に目を通すが、どうにも疲労で頭が回らず、目頭を抑える。この疲労の原因は仕事だけではなく、自身の後継者である「アルト」と「リオ」が関係している。
――王位の第一位継承者と第二位継承者、この2人の「後継者」に対してバルトロス13世は平等に2人を扱っており、優秀なアルトには期待を抱き、我が娘であるリオには愛情を注いでいた。
しかし、つい最近になってこの2人との関係が狂い始め、アルトは日増しにリノンとの婚約を認めるように迫り、リオもふらふらと王城の外にふらついては新しい護衛を雇おうとする。特にアルトに関しては異常であり、彼は剣乱武闘で優勝する事で六種族の勢力図を「人間」に傾けると宣言し、その代わりにリノンとの婚約を認めてほしいとバルトロス13世に直訴してきた。
国王としては個人的にはリノンの事は気に入っており、彼女が没落貴族だからと言って差別はせず、リノンの実力を認めてテンペスト騎士団の副団長の座に付けている。だが、現実に彼女とアルトを結婚させることを認められるはずが無い。
自分も若い頃は普通の町娘の女性と恋に落ち、そして「カルト」が生まれた。その事に後悔は無いが、アルトも自分と同じ道を辿らせるわけには行かない。あの時、先代の王「バルトロス12世」は彼が途轍もない過ちを犯したと嘆き、血の繋がった自分の息子を殺そうとまでしてきた。だが、多くの家臣の反対と跡継ぎが1人だけしかいなかったのが功を差し、命だけは助かった。
――アルトが王位に付くことは既に周囲も認めていおり、唯一反対していたハナムラ侯爵家もセンチュリオンとの繋がりが発覚し、既に侯爵家は取り壊されている。だが、もしもアルトが平民であるリノンを王妃として迎える場合は流石に他の家臣達も黙っているはずがない。
国王はリノンを好ましく思っていても、王国貴族の大半は没落貴族の彼女の存在を快く思っておらず、もしも彼女がアルトと婚約などした場合、彼らもここぞとばかりに王位をリオに継がせるように国王に進言するだろう。
一応はリオ自身も王家の血を継いでおり、王位継承の権利は彼女にも存在する。母親は一般庶民の出自ではあるが、彼女の他に妥当な後継者はいないため、貴族達がこのままアルトがリノンとの決行を諦めなかった場合、彼女を後押しするのは目に見えている。
普通ならば没落したとはいえ、貴族の血筋を継いでいるリノンとアルトが結ばれる方が問題ないように思えるのかもしれないが、重要なのはリオがバルトロス国王の家系という事であり、古くから彼に仕えている家臣の間でも国王がどちらに愛情を深く注いでいるのかは理解出来た。
それに肝心の問題の中心となっているリノンに関しても、それとなくバルトロス国王がパーティの際に彼女と接触したが、アルトに対してどう思っているのか尋ねると、
『そうですね……一番付き合いも長く、信頼できる友人です』
とだけ返されてしまい、リノン自身は特にアルトに想いを抱いているわけではない。にも関わらず、どうしてアルトが唐突に彼女との婚約の話を持ち出したのか。
「……のう、ホルン大臣」
「はっ」
「最近のアルトが何をしているか知っておるか?」
「アルト様ですか……?はて、我々と共に外交に励んでいる以外は特に……」
「そうか……なら、少し探ってくれぬか?」
「王?」
バルトロス国王が何を言いたいのか分からず、ホルン大臣は不審げに彼に視線を向けると、王は随分と年老いたように感じられ、
「……調査の結果によっては、アルトを王位継承権から外す」
「そんな……国王!!」
「待て、あくまでも調査の後に判断する事だ。仮にアルトに不審な点が見つからなければ……奴の言い分も聞こう」
「それは……リノン嬢の事に関する事ですか?」
「そうだ。何故、彼女の気持ちも考えずに婚約等と言い張ったのか……以前のアルトならばもう少し冷静な判断が出来た。少なくとも、私を相手に取引を持ち込むような真似などしない……」
「という事は……」
「……アルトのこれまでの行動を調べ上げろ」
ドンッ!!
机を叩き付け、書類を周囲に振るい落としながらも、バルトロス国王は大臣に指示を出す。その姿は先ほどまでとは打って違い、覇気に満ちていた。
彼は宿の中でも最高級の部屋を指定し、長年彼に仕えている大臣と共に書類を纏めていた。今回、この都市に訪れたのは剣乱武闘のためではあるが、一国の王である彼は常に多忙であり、書類の処理に明け暮れていた。
「ふうっ……」
「王……どうかお休みください。もう3日も真面に寝ておられないではないですか」
「ああ……いや、この分まで目を通してから休もう」
「そうですか……」
バルトロス国王は机の上に置かれた書類の山に目を通すが、どうにも疲労で頭が回らず、目頭を抑える。この疲労の原因は仕事だけではなく、自身の後継者である「アルト」と「リオ」が関係している。
――王位の第一位継承者と第二位継承者、この2人の「後継者」に対してバルトロス13世は平等に2人を扱っており、優秀なアルトには期待を抱き、我が娘であるリオには愛情を注いでいた。
しかし、つい最近になってこの2人との関係が狂い始め、アルトは日増しにリノンとの婚約を認めるように迫り、リオもふらふらと王城の外にふらついては新しい護衛を雇おうとする。特にアルトに関しては異常であり、彼は剣乱武闘で優勝する事で六種族の勢力図を「人間」に傾けると宣言し、その代わりにリノンとの婚約を認めてほしいとバルトロス13世に直訴してきた。
国王としては個人的にはリノンの事は気に入っており、彼女が没落貴族だからと言って差別はせず、リノンの実力を認めてテンペスト騎士団の副団長の座に付けている。だが、現実に彼女とアルトを結婚させることを認められるはずが無い。
自分も若い頃は普通の町娘の女性と恋に落ち、そして「カルト」が生まれた。その事に後悔は無いが、アルトも自分と同じ道を辿らせるわけには行かない。あの時、先代の王「バルトロス12世」は彼が途轍もない過ちを犯したと嘆き、血の繋がった自分の息子を殺そうとまでしてきた。だが、多くの家臣の反対と跡継ぎが1人だけしかいなかったのが功を差し、命だけは助かった。
――アルトが王位に付くことは既に周囲も認めていおり、唯一反対していたハナムラ侯爵家もセンチュリオンとの繋がりが発覚し、既に侯爵家は取り壊されている。だが、もしもアルトが平民であるリノンを王妃として迎える場合は流石に他の家臣達も黙っているはずがない。
国王はリノンを好ましく思っていても、王国貴族の大半は没落貴族の彼女の存在を快く思っておらず、もしも彼女がアルトと婚約などした場合、彼らもここぞとばかりに王位をリオに継がせるように国王に進言するだろう。
一応はリオ自身も王家の血を継いでおり、王位継承の権利は彼女にも存在する。母親は一般庶民の出自ではあるが、彼女の他に妥当な後継者はいないため、貴族達がこのままアルトがリノンとの決行を諦めなかった場合、彼女を後押しするのは目に見えている。
普通ならば没落したとはいえ、貴族の血筋を継いでいるリノンとアルトが結ばれる方が問題ないように思えるのかもしれないが、重要なのはリオがバルトロス国王の家系という事であり、古くから彼に仕えている家臣の間でも国王がどちらに愛情を深く注いでいるのかは理解出来た。
それに肝心の問題の中心となっているリノンに関しても、それとなくバルトロス国王がパーティの際に彼女と接触したが、アルトに対してどう思っているのか尋ねると、
『そうですね……一番付き合いも長く、信頼できる友人です』
とだけ返されてしまい、リノン自身は特にアルトに想いを抱いているわけではない。にも関わらず、どうしてアルトが唐突に彼女との婚約の話を持ち出したのか。
「……のう、ホルン大臣」
「はっ」
「最近のアルトが何をしているか知っておるか?」
「アルト様ですか……?はて、我々と共に外交に励んでいる以外は特に……」
「そうか……なら、少し探ってくれぬか?」
「王?」
バルトロス国王が何を言いたいのか分からず、ホルン大臣は不審げに彼に視線を向けると、王は随分と年老いたように感じられ、
「……調査の結果によっては、アルトを王位継承権から外す」
「そんな……国王!!」
「待て、あくまでも調査の後に判断する事だ。仮にアルトに不審な点が見つからなければ……奴の言い分も聞こう」
「それは……リノン嬢の事に関する事ですか?」
「そうだ。何故、彼女の気持ちも考えずに婚約等と言い張ったのか……以前のアルトならばもう少し冷静な判断が出来た。少なくとも、私を相手に取引を持ち込むような真似などしない……」
「という事は……」
「……アルトのこれまでの行動を調べ上げろ」
ドンッ!!
机を叩き付け、書類を周囲に振るい落としながらも、バルトロス国王は大臣に指示を出す。その姿は先ほどまでとは打って違い、覇気に満ちていた。
0
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる