種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
349 / 1,095
聖導教会総本部編

勇者達の異変

しおりを挟む
勇者達が部屋の中で雑談をしていると、扉がゆっくりと開かれ、両手に飲み物が乗せられたトレイを握り締める加藤が現れる。その姿に全員が少し驚いた表情を浮かべ、彼はそのまま部屋の中に入り込む。


ガチャッ……


「お、おう……お帰り。随分と早かったな」
「何ですかそれ?わざわざ飲み物貰いに行ったんですか?珍しく気が利きますね……」
「……ああ」


加藤は机の上にトレイを置くと、そのまま人数分のグラスに飲み物を注ぎ、彼等の方に手渡す。いつもより妙に優しい彼の態度に全員が顔を見合わせ、様子が可笑しいことに疑問を抱く。


「あの……どうかしたんですか?顔色悪いですよ」
「何かあったのか」
「別に……」


そのまま彼は壁に背中を預けて黙り込む。そんな彼に不審に思いながら勇者達は彼が注いだグラスを手に取り、口に含む。だが、この葬式にアルトが参加していると聞いて駆け付けた「ミカ」だけは不審に思い、グラスを口元の直前で止める


「ん?」
「あれ……」
「まずっ!」


すぐに美香以外の全員が飲み物を口に含んだ瞬間に苦い表情を浮かべ、トレイを運んできた加藤に視線を向け、彼が水差しの飲料に何か仕組んだのではないかと疑う。


「ちょっと先輩!!何を貰ってきたんですか?」
「……飲んだか?」
「は?」
「何を言って……ぅえっ?」


ぼたぼたっ……


ミカ以外の男達の鼻から鼻血が溢れ、妙に身体が熱く感じる。その様子を加藤は確認すると、笑みを浮かべて扉の向こう側に声を掛ける。


「……もういいです」
『はいは~い』


バタンッ……


「え……」


すぐにも加藤が扉を開くと向こう側からミカにも見覚えのある少女が姿を現す。しかし、何故ここに彼女が居るのかと疑問を抱く。


「……ジャンヌ……さん?」
「あれ?」


ミカの言葉にジャンヌと瓜二つの容姿であるカトレアは意外そうな声を上げ、すぐに壁際にいる加藤に視線を向けて溜息を吐き出す。


「もう……女の子も居るのなら先に教えてよ~」
「申し訳、ありません……」
「まあ、いっか。それじゃあ、皆ぁ?私の目を見てね~」
「え、え?」


前回に会った時とは別人のような態度を取るジャンヌ(実際はカトレア)にミカは困惑の表情を浮かべるが、他の面々は声を掛けられて彼女に視線を向ける。



「――私のお願い聞いてくれるよね?」



ボウッ……!!


彼女の紅い瞳が怪しく光り、同時に男たちに異変が起きる。まるで立ち尽くしたまま意識が途切れた様に硬直し、ミカは何が起きているのかが理解できなかった。


「え、何……どういう事……?」
「う~ん……やっぱり、女の子には効きにくいな~」


ミカだけは他の面々と違い、特に何の反応も起こさない事にカトレアは困った風に腕を組むと、すぐに何かを思いついたように両の掌を合わせ、



「――なら、死んでもらおうかな」



ドンッ!!


「えっ……!?」


ミカの目の前で一瞬にしてカトレアの姿が掻き消えたと思うと、そのまま彼女が体勢を低くして自分の足元にまで接近している事に気が付き、


「とりゃっ」
「げふっ!?」


ズゥンッ!!


カトレアの右手の貫手がミカの腹部に刺しこまれ、彼女は激痛が走って防衛魔法が発動できない。勇者達は魔法を発動させるための詠唱を行わずに魔法を発動できる無詠唱魔法を扱えるが、あくまでも魔法名を口にしない限りは彼等も魔法を発動できない。

この世界では事前に「詠唱」を行い、魔法を発現させる通常の方法。もしくは詠唱を抜きに魔法の名前だけで発動させる「無詠唱魔法(レノが得意とする魔法もこれに含まれる)」さらには口に出さず動作だけで魔法を生み出す「完全無詠唱」の三つに分かれている。

勇者達は召喚された段階でこの「無詠唱魔法」を行えるが、彼等の場合は「スキル(魔法)」を口にする事で魔法を発現する。だからこそ、カトレアはミカが何らかの魔法(スキル)を発動させる前に口を封じたのだ。


「げほっ!!ごふっ……!!」
「ごめんね~……出来れば女の子には優しくしたいけど、これも任務だから~」
「な、にを……がはっ!?」


バキィッ!!


そのまま跪いたミカの横っ面にカトレアは平手を喰らわし、彼女が倒れるのを確認すると、同時に男たちが虚ろな瞳でゆっくりと動き出す。部屋の中に残っていた三人の男たちも加藤のように彼女に付き添い、倒れ込んだミカに視線を注ぐ。


(この女……!!一体何を……!?)


この部屋に案内される際に杖以外の所持品の類は回収されているため、今のミカは回復薬も転移結晶も所持していない。


「あん、だめだよ~?抵抗しちゃね」
「あうっ!?」


ドンッ!!


杖を使って立ち上がろうとした美香にカトレアは容赦なく背中に右足を押し付け、床に這いつくばらせる。


「あ、そうだった。ねえ君ぃ」
「はい!!」


思い出したようにカトレアが加藤に顔を向け、何事か命令を与える。ミカは必死に逃れようともがいていため、何を話しているかまでは聞こえなかった。


「あとはお願い」
「はっ!!」


加藤はカトレアの言葉に返事を返すと、そのまま勢いよく部屋の外に飛び出す。彼を見送るとカトレアはミカの方に顔を向け、掌を向ける。


「じゃあね~」
「ひっ……!?」


ボウッ……!!


カトレアの掌から風属性の魔力で形成された球体が出現し、ミカは恐怖の表情を浮かべる。すぐに助けを求めるように他の勇者達に視線を向けるが、彼らは冷たい視線を向けるだけで黙って見下ろしてくるだけだった。

カトレアに何かをされたのか分からないが、このままでは殺されてしまう。ミカは「魔法(スキル)」を発動しようとするが、まだ腹部を貫かれた痛みで上手く発音できない。


「い、やぁっ……!!」
「ばいば~い」


カッ!!



そして、一際カトレアの掌の魔力が拡散し、部屋の中に強風が舞い込んだ――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!

ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。 しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...