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テンペスト騎士団編
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レノ達が聖堂内と隣接する通路を移動する中、1人だけ別行動中のコトミはワルキューレの訓練場に辿り着き、テンと無事に再会を果たす。
「……団長、久しぶり」
「ああ……相変わらず敬語は使わないねあんたは」
「……団長の事は、お母さんだと思ってるから」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないかい」
テンはコトミの頭を撫でるが、その力強さに彼女は少し嫌がり、そのまま2人は彼女に訓練場の建物に移動する。その途中でコトミはワルキューレ騎士団の女騎士達の姿が見えない事に気が付き、
「……人が少ない?」
「ああ……まあ、色々と遭ってね。その辺の説明もするよ」
テンは建物内の自分の部屋にまで移動し、周囲を注意深く確認してからコトミを室内に招き入れる。そんなテンの行動に彼女は首を傾げるが、特に気にせずにソファに座り込む。
向い側の席にテンが座り込むと、机の上に置いてある果物に手を伸ばし、コトミも同様に果物に手を伸ばそうとしたが、テンが彼女を制止して刃物で果物を切り取り、皿の上に乗せて彼女に手渡す。
「さて……任務の方はどうだい?」
「……問題ない」
「そうかい……ちゃんと関係は進展してるのかい?」
「……可愛がられている」
「ならいいよ」
――実を言うと、コトミはテンからレノの護衛以外に彼に関するある重要な任務を与えていた。それはレノとの距離を縮め、テンはコトミが2人が恋仲の関係になる事を望んでいる。
これはテンの独断であり、誰でもいいのでレノが聖導教会の者と繋がりを持つ事を望む。カラドボルグの所有者である彼と関係を持つことは現聖天魔導士のセンリからも進められているので、テンは適当な相手をワルキューレの若手から選出し、彼女を選んで送り込んだ。
選考基準は種族差別を行わず、かつ温厚な性格の持ち主であり、出来れば長寿の者が良いという事からコトミが選ばれた。「腐敗竜」の一件以来、レノはこの聖導教会でも有名のため、意外と人気があったが彼女が一番の適任だと判断された
どんな時代でも「聖剣」に選ばれた者は膨大な魔力、もしくは特殊な能力の持ち主である事が多く、そのため彼らの子孫は高確率で親の能力を受け継ぐ。教皇としてもハーフエルフの子供は管理したいところであり、教育によっては聖導教会の力となる存在になる可能性もあり、仮にレノが何らかの理由でカラドボルグを放棄したとしても、聖剣に選ばれたという「素質」はあるため、彼の子孫が聖剣に選ばれる可能性も高い。
問題なのは選ばれたコトミがレノの事をどう思っているかだったが、この様子では本人も満更では無く、先ほどの発言から彼との関係も良好のようでテンは内心安堵する一方、もう一つの本題に入る。
「さて……着て早々に何だけど、あんたらは帰りな」
「……?」
「こっちも色々と忙しくてね……説明している暇はないんだよ」
テンは手紙を取り出し、コトミに手渡す。彼女が受け取りながら不思議そうに視線を向けると、
「それはレノの奴に渡してやりな。こんな状況じゃ、あいつが一番の頼りだからね……」
腐敗竜の一件以来、テンはレノがテンペスト騎士団の誰よりも強いことを承知済みである。カラドボルグの所有者という事もあるが、あれほどの膨大な魔力を扱う者は彼女は見たことが無かった。
生まれたときから魔力容量が多い魔術師というのはそれほどまでに珍しい物ではない。だが、例え魔力を有り溢れていたとしても、その魔力を完全に扱え切れる者は少ない。歴史に名を残した魔術師達の多くは膨大な魔力を完全に制御した人間だけである。
レノの場合は魔力が常人の数十倍、いや下手をしたら数百倍に匹敵するほどの魔力容量であり、いくら全種族の中で最も魔力要領が多い傾向のハーフエルフという種族とは言っても、レノは異常なまでに魔力容量が多すぎる。
だが、彼は膨大な魔力を用いながらも無駄に魔力を消費せしない魔法を行い、さらには「魔力供給」などという特殊技術まで身に着けている。何としても彼を敵に回すわけには行かない。だが、今回は「ジャンヌ」の問題を解決する事が先決であり、彼に強力を仰がないといけない。
「すぐにレノと巫女姫様を連れて……」
テンが言葉を言い切る前にまたもや慌ただしく扉が開かれ、女騎士が入ってくる。
「だ、団長!!」
軽い既視感(デジャウ)を感じながら、テンはまた厄介ごとでも持ち込んできたのか入室してきたと女騎士に視線を向けると、
「み、巫女姫様がハーフエルフ達に人質に取られました!!」
その報告にテンが舌打ちし、状況が悪化したことは間違いなく、彼女に視線を向けて詳細を尋ねる。
「……どういう事だい?」
「そ、それが……教皇様の命令で、聖堂内に侵入したハーフエルフ達を拘束せよと」
「聖堂?」
あの聖堂に入れるのは教皇と一部の者達であり、例えワルキューレの騎士団だろうと無闇に入る事は決して許されない聖域である。そんな場所を選んで立て籠もったとしたら中々の作戦だが、逃げ場はないはず。
「教皇様が何としても巫女姫様を救いだし、そしてハーフエルフを捕えよと……」
「……なんだいそりゃ?だいたい、どうして人質を取られるような状況に陥ったんだい?」
「それが……私も捕まえるように命令されただけで……」
「……レノ達が、危険?」
「待ちな!!」
コトミが手紙を懐に仕舞い込み、ソファから立ち上がって駈け出そうとすると、慌ててテンが彼女を引き止める。
「……私が出向く。他の奴等は待機しているように命じな!!」
「……団長、久しぶり」
「ああ……相変わらず敬語は使わないねあんたは」
「……団長の事は、お母さんだと思ってるから」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないかい」
テンはコトミの頭を撫でるが、その力強さに彼女は少し嫌がり、そのまま2人は彼女に訓練場の建物に移動する。その途中でコトミはワルキューレ騎士団の女騎士達の姿が見えない事に気が付き、
「……人が少ない?」
「ああ……まあ、色々と遭ってね。その辺の説明もするよ」
テンは建物内の自分の部屋にまで移動し、周囲を注意深く確認してからコトミを室内に招き入れる。そんなテンの行動に彼女は首を傾げるが、特に気にせずにソファに座り込む。
向い側の席にテンが座り込むと、机の上に置いてある果物に手を伸ばし、コトミも同様に果物に手を伸ばそうとしたが、テンが彼女を制止して刃物で果物を切り取り、皿の上に乗せて彼女に手渡す。
「さて……任務の方はどうだい?」
「……問題ない」
「そうかい……ちゃんと関係は進展してるのかい?」
「……可愛がられている」
「ならいいよ」
――実を言うと、コトミはテンからレノの護衛以外に彼に関するある重要な任務を与えていた。それはレノとの距離を縮め、テンはコトミが2人が恋仲の関係になる事を望んでいる。
これはテンの独断であり、誰でもいいのでレノが聖導教会の者と繋がりを持つ事を望む。カラドボルグの所有者である彼と関係を持つことは現聖天魔導士のセンリからも進められているので、テンは適当な相手をワルキューレの若手から選出し、彼女を選んで送り込んだ。
選考基準は種族差別を行わず、かつ温厚な性格の持ち主であり、出来れば長寿の者が良いという事からコトミが選ばれた。「腐敗竜」の一件以来、レノはこの聖導教会でも有名のため、意外と人気があったが彼女が一番の適任だと判断された
どんな時代でも「聖剣」に選ばれた者は膨大な魔力、もしくは特殊な能力の持ち主である事が多く、そのため彼らの子孫は高確率で親の能力を受け継ぐ。教皇としてもハーフエルフの子供は管理したいところであり、教育によっては聖導教会の力となる存在になる可能性もあり、仮にレノが何らかの理由でカラドボルグを放棄したとしても、聖剣に選ばれたという「素質」はあるため、彼の子孫が聖剣に選ばれる可能性も高い。
問題なのは選ばれたコトミがレノの事をどう思っているかだったが、この様子では本人も満更では無く、先ほどの発言から彼との関係も良好のようでテンは内心安堵する一方、もう一つの本題に入る。
「さて……着て早々に何だけど、あんたらは帰りな」
「……?」
「こっちも色々と忙しくてね……説明している暇はないんだよ」
テンは手紙を取り出し、コトミに手渡す。彼女が受け取りながら不思議そうに視線を向けると、
「それはレノの奴に渡してやりな。こんな状況じゃ、あいつが一番の頼りだからね……」
腐敗竜の一件以来、テンはレノがテンペスト騎士団の誰よりも強いことを承知済みである。カラドボルグの所有者という事もあるが、あれほどの膨大な魔力を扱う者は彼女は見たことが無かった。
生まれたときから魔力容量が多い魔術師というのはそれほどまでに珍しい物ではない。だが、例え魔力を有り溢れていたとしても、その魔力を完全に扱え切れる者は少ない。歴史に名を残した魔術師達の多くは膨大な魔力を完全に制御した人間だけである。
レノの場合は魔力が常人の数十倍、いや下手をしたら数百倍に匹敵するほどの魔力容量であり、いくら全種族の中で最も魔力要領が多い傾向のハーフエルフという種族とは言っても、レノは異常なまでに魔力容量が多すぎる。
だが、彼は膨大な魔力を用いながらも無駄に魔力を消費せしない魔法を行い、さらには「魔力供給」などという特殊技術まで身に着けている。何としても彼を敵に回すわけには行かない。だが、今回は「ジャンヌ」の問題を解決する事が先決であり、彼に強力を仰がないといけない。
「すぐにレノと巫女姫様を連れて……」
テンが言葉を言い切る前にまたもや慌ただしく扉が開かれ、女騎士が入ってくる。
「だ、団長!!」
軽い既視感(デジャウ)を感じながら、テンはまた厄介ごとでも持ち込んできたのか入室してきたと女騎士に視線を向けると、
「み、巫女姫様がハーフエルフ達に人質に取られました!!」
その報告にテンが舌打ちし、状況が悪化したことは間違いなく、彼女に視線を向けて詳細を尋ねる。
「……どういう事だい?」
「そ、それが……教皇様の命令で、聖堂内に侵入したハーフエルフ達を拘束せよと」
「聖堂?」
あの聖堂に入れるのは教皇と一部の者達であり、例えワルキューレの騎士団だろうと無闇に入る事は決して許されない聖域である。そんな場所を選んで立て籠もったとしたら中々の作戦だが、逃げ場はないはず。
「教皇様が何としても巫女姫様を救いだし、そしてハーフエルフを捕えよと……」
「……なんだいそりゃ?だいたい、どうして人質を取られるような状況に陥ったんだい?」
「それが……私も捕まえるように命令されただけで……」
「……レノ達が、危険?」
「待ちな!!」
コトミが手紙を懐に仕舞い込み、ソファから立ち上がって駈け出そうとすると、慌ててテンが彼女を引き止める。
「……私が出向く。他の奴等は待機しているように命じな!!」
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