種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
330 / 1,095
テンペスト騎士団編

教会総本部に

しおりを挟む
全員の視線がたまたま黒猫酒場に立ち寄っていたヨウカに集まり、彼女は困惑した風に首を見渡す。


「えっ……わ、私が教会に?」
「お願いします!!友人の命が掛かっているんです!!」
「お、お願いします!!ヨウカさん!!」
「……頼みます!!」
「ちょちょっ……!?や、やめてよ!!頭を上げてよ皆!?」


ヨウカの前でリノン達が不可部下と頭を下げ、ゴンゾウに至っては土下座を行う。慌てふためきながら彼女は皆の顔を上げさせ、少しだけ考える素振りを行うとホノカに視線を向け、彼女も頷く。


「う、うん……そういう事情なら私も力になりたいけどけど、あんまり期待しないでね」
「彼女も複雑な事情があってね……僕も一緒に赴きたいが、流石に盗賊が教会に入るのは拒まれるだろうな」
「俺は……やっぱり問題あるか」


ハーフエルフであるレノが聖導教会に訪れるのは色々と問題があるが、ヨウカが非常に動揺したように彼の手を掴む。


「ええっ!?レノたんは着いてきてよ!!ホノカちゃんもいないのにレノたんまで来てくれないなら、私絶対に泣いちゃうよ!?」
「いや、俺が居たらもっと厄介なことになると思うけど……」


涙目で自分に縋り付くヨウカにレノは頬を搔き、ヴァンパイア同様に聖導教会にとっては粛清対象であるハーフエルフの彼が赴くのは不味い。

前回の時は腐敗竜の討伐の件で事なきを得たが、正式な手続きを行わずにレノがもう一度聖導教会総本部に訪れるのは問題がある。いくら教会の最高権力者である「巫女姫(ヨウカ)」であれど、下手をしたらその座を追われるかねない。


「でもでも……!!2人のどっちかがいないと私心細いよ~……!!」
「そう言われてもね……」
「こっそり着いて行くわけにもいかないし……」
「……大丈夫」


唐突にコトミがひょっこりと顔を出し、彼女はレノが首に下げている王国から授与された「S級冒険者」の証であるペンダントを掴み、


「……これを見せれば中に入れる」
「え?」
「なるほど……その手があったか!!」


リノンが心当たりがあるのか、納得したように声を上げ、レノが彼女に視線を向けると大きく頷いてくる。


「その紋章はただの冒険者の証じゃない。このペンダントを持つ者はバルトロス王国にとって重要な人物の証明だから……もしかしたらこれを身に着けていれば教会にも入れるかもしれない」
「なるほど、王国の立場を利用して入り込むのか……」
「そ、その言い方はあれだが……まあ、問題ないと思う。後で王国側から詰問位は有るかも知れないが……」
「それぐらいなら問題ない」


レノとしてもジャンヌは大切な仲間であり、色々と世話になっている。そんな彼女を見捨てる事は出来ない。


「さて……なら善は急げだ。早く教会に立ち寄って本部に転移した方がいいだろうね」
「わ、分かった……皆、行こう!!」
「「「はい(押忍)!!」」」
「「行ってらっしゃ~い」」


バルとカリナ、さらにはホノカに見送られる形で酒場を出ると、レノ達は闘人都市の聖導教会に向かう――




――そして、教会に辿り着いて早々、巫女姫が訪れたとして慌てて教会側に混乱が起きた。前回に訪れた時は深淵の森のエルフの捕虜を聖導教会総本部の監獄に送り込む際であり、数日ぶりに訪れる事になる。



何時もとは違う真剣な表情のヨウカの登場に慌てて教会側の人間が全員集合し、すぐに出迎えられる。


「こ、これはこれは巫女姫様……今回の用件は?」
「えっと……何だっけ?」
「聖導教会総本部に向けての移動だよ」


教会内の建物内に通され、以前にレノが教会に忍び込んだときにも見かけた猫背の老人が現れる。どうやら彼がこの教会の神父であり、巫女姫を相手に敬語も使わずに話すレノに憎々しげな視線を向けてくるが、レノが軽く睨み返すと怯えた風に顔を反らしてくる。

神父は全身を汗だくでヨウカに頭を下げ、前回に見かけたときも教皇を相手に怖じ怖じとしていたが、今回は教会の代表と言っても過言ではない巫女姫の出現に顔色を真っ青にしている。意外と小心者の性格かもしれない。


「えっと……教会の本部に戻りたいんだけど」
「そ、それは……何か急用でしょうか?」


ヨウカの言葉に明らかに焦りを感じている神父にレノは不審に思い、ヨウカの耳元に囁く。


(教皇に会いたいと伝えて)
「えっと……きょ、教皇さんに会いたくなったかな~」
「何と……それは、そうですか……ですが……」


明らかに動揺を隠せない神父にレノ達は首を傾げ、


「……わ、分かりました。ならば、私達も巫女姫様を全力で支持いたしましょう」
「え?」
「支持?」
「とうとう、ご決心を為されたのですね……ミキ様の遺言に従い、我らも微力ながら力添えを致します」
「え、マザー?……え?」


唐突に頭を下げる神父達にヨウカは何が起きているのか理解できず、説明を求めるようにレノ達に視線を向けるが、彼らとしても状況を理解できない。だが、「ミキ」という言葉にレノはある予想を抱く。

彼女は1年半前、巫女姫であるヨウカの権力を強めるために色々と準備を行っていた事は聞いている。各地を巡回し、儀式を行わせて巫女姫の実力を見せつける事で民衆から支持を得て、教会内の巫女姫の立場を強めるために動いていた。もしかしたらこの教会の人間とも接触していた可能性が高い。


「ミキ様が亡くなってから1年半……やっと覚悟をお決めになったのですね。ヨウカ様がご決心され以上、我らも全力で支援いたします」
「「巫女姫様万歳!!万歳!!」」
「え、え、えぇえええええっ!?」
「わうっ……!?」
「……万歳?」
「い、一体何が……?」
「……面倒くさい」
「……すうっ……」


ただ、ヨウカの力を借りて聖導教会の総本部に転移するはずだったが、またもや面倒事に巻き込まれそうな気配にレノは頭を抱えた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...