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テンペスト騎士団編
猿
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「まあ、挨拶はそれくらいでいいだろう?それよりこっちもあいつら罠の攻略を考え付いたよ」
「え、もう?」
「ほう……」
バルの発言に全員が視線を向け、彼女は傍の椅子に座り込み、カリナに命じて深淵の森の周辺地域の地図を用意させる。この地図はバルが自ら作成した物であり、長年の時を掛けて生み出した代物らしい。
「あいつらの森に近づくのはこっちも命賭けだからね……まあ、ところどころ抜けてる部分もあるかも知れないけど、これがあの森の周辺の地図だよ」
「おおっ……思ったよりも広いでござるな」
深淵の森の中央部は森人族の結界で姿を隠されているが、それでも結界の外にある森林がここ数年で成長して規模を広げているという。これも活性化の影響なのか、それとも単に森人族が行っているのかは不明だが、厄介なことに森の中には無数の魔獣が生息している。
だが、時期的には「腐敗竜」が出現する報が世界中に広がった10日ほど前から、森の中に異変が起きている。あそこの森の近くを通り過ぎた旅商人や冒険者の話によると、最近どういうわけか魔獣の姿が激減したという。
「あいつらが魔獣を操っているのかは不明だけど……十中八九は魔水晶の罠が関係しているね」
「え?あの罠って森の外の侵入者にだけ反応する物じゃないんですか?」
「違うね、正確に言えば魔獣達はあんた達も引っ掛かった魔水晶の罠の中に閉じ込められてるんだよ。あんた達が脱出できたのは正直運がいいとしか言えないね」
「無差別に生物に反応して隔離するとは……厄介な物を仕掛けているでござるな……」
森の中を歩き回る生物ならば無差別に隔離する罠に今更ながらに背筋が凍る。もしもレノがいなけばポチ子たちは永久にあの空間の中に閉じ込められていたかもしれない。
「わぅうっ……こ、怖いです……」
「……レノのお蔭で、助かった」
「まあ……あの森は基本的に立ち入り禁止だからね……人的被害が出ていないとは思うけど」
「それでも一応は注意をしておくべきでござらぬか!?間違って入った者が罠に引っ掛かっていたとしたら……!!」
「あたしに言われても困るよ……それにあそこは森人族共の領域でもあるんだよ?不用意に近づく馬鹿なんているわけないだろ」
「「はうっ……」」
さり気なく馬鹿呼ばわりされたレノ達が奇妙な声を上げ、これからは事前に入念な調査を行ってから行動しようと再認識すると、
「あの……それでは森人族の方はどうやって罠を潜り抜けてここまでやってきたんですか?」
すぐにレミアの発言に全員が頷く。無差別に生物を結界内に取り込むというのなら、結界内に住んでいる深淵の森のエルフ達も森の外へ出る事も出来ないように思われるが。
「考えられるとしたら、あいつらには罠が発動しないように細工されている。もしくは、罠を潜り抜ける方法を知っているかの二つだね」
「成程……ですが、その方法を見破る手段はあるのですか?」
「拷問したって吐かない連中だからな……」
現在、拘束したエルフ達は彼等の身体に仕込まれた怨痕が発動しないようにこの都市の聖導教会の人間たちに任せている。以前にレノが忍び込んだ教会でもあり、巫女姫であるヨウカに頼んで彼等に協力してもらった。
だが、彼らとしては遠方の土地に追いやった巫女姫から急な命令に対し、渋々とだが従っているだけであり、これ以上の協力は望めないだろう。現在のヨウカは微妙な立場であり、いくら聖導教会の最高権力者の巫女姫であろうが、これ以上の行動は彼女の身が危ない。
「むむむっ……なんか面倒くさいっすね。兄貴……じゃなくて姉貴がズドーン!!という感じ飛んで、一網打尽に出来ないんすか?」
「私が死ぬわ」
「安心しな。あいつらがどうやって罠を潜り抜けたのは実は見当が付いている……というより、これしか考えられないね」
「ぴょんぴょんと木の上を飛び回って移動してるっす!!」
「ちょ、先に言うんじゃないよ!?」
「……お猿さん?」
カリナがバルの台詞を奪い、即座にコトミが首を傾げるが、確かに今の説明では森人族が猿のように木々を駆け巡る姿しか思い浮かばない。
「……正確に言えばあいつらは枝の上を渡り歩いているようなもんだよ。直接地面に足を触れず、木々の間を跳躍しながら移動しているのが一番可能性が高いね」
「本当に猿みたいだな……」
「というか、地面を歩かないだけで作動しないのか……」
「それなりに高性能なのかとは思っていたが……案外単純な手で突破できるですね……」
ホノカの発言に全員が頷き、同時にすぐにある問題が浮かび上がる。
「……その方法だと、ゴンちゃん無理じゃね?」
「……むうっ……」
いくら深淵の森の木々が普通の森の比べても大木で形成されていると言っても、彼の重量を支え切れる樹木が存在するはずがなく、ゴンゾウは渋い表情を浮かべる。
「え、もう?」
「ほう……」
バルの発言に全員が視線を向け、彼女は傍の椅子に座り込み、カリナに命じて深淵の森の周辺地域の地図を用意させる。この地図はバルが自ら作成した物であり、長年の時を掛けて生み出した代物らしい。
「あいつらの森に近づくのはこっちも命賭けだからね……まあ、ところどころ抜けてる部分もあるかも知れないけど、これがあの森の周辺の地図だよ」
「おおっ……思ったよりも広いでござるな」
深淵の森の中央部は森人族の結界で姿を隠されているが、それでも結界の外にある森林がここ数年で成長して規模を広げているという。これも活性化の影響なのか、それとも単に森人族が行っているのかは不明だが、厄介なことに森の中には無数の魔獣が生息している。
だが、時期的には「腐敗竜」が出現する報が世界中に広がった10日ほど前から、森の中に異変が起きている。あそこの森の近くを通り過ぎた旅商人や冒険者の話によると、最近どういうわけか魔獣の姿が激減したという。
「あいつらが魔獣を操っているのかは不明だけど……十中八九は魔水晶の罠が関係しているね」
「え?あの罠って森の外の侵入者にだけ反応する物じゃないんですか?」
「違うね、正確に言えば魔獣達はあんた達も引っ掛かった魔水晶の罠の中に閉じ込められてるんだよ。あんた達が脱出できたのは正直運がいいとしか言えないね」
「無差別に生物に反応して隔離するとは……厄介な物を仕掛けているでござるな……」
森の中を歩き回る生物ならば無差別に隔離する罠に今更ながらに背筋が凍る。もしもレノがいなけばポチ子たちは永久にあの空間の中に閉じ込められていたかもしれない。
「わぅうっ……こ、怖いです……」
「……レノのお蔭で、助かった」
「まあ……あの森は基本的に立ち入り禁止だからね……人的被害が出ていないとは思うけど」
「それでも一応は注意をしておくべきでござらぬか!?間違って入った者が罠に引っ掛かっていたとしたら……!!」
「あたしに言われても困るよ……それにあそこは森人族共の領域でもあるんだよ?不用意に近づく馬鹿なんているわけないだろ」
「「はうっ……」」
さり気なく馬鹿呼ばわりされたレノ達が奇妙な声を上げ、これからは事前に入念な調査を行ってから行動しようと再認識すると、
「あの……それでは森人族の方はどうやって罠を潜り抜けてここまでやってきたんですか?」
すぐにレミアの発言に全員が頷く。無差別に生物を結界内に取り込むというのなら、結界内に住んでいる深淵の森のエルフ達も森の外へ出る事も出来ないように思われるが。
「考えられるとしたら、あいつらには罠が発動しないように細工されている。もしくは、罠を潜り抜ける方法を知っているかの二つだね」
「成程……ですが、その方法を見破る手段はあるのですか?」
「拷問したって吐かない連中だからな……」
現在、拘束したエルフ達は彼等の身体に仕込まれた怨痕が発動しないようにこの都市の聖導教会の人間たちに任せている。以前にレノが忍び込んだ教会でもあり、巫女姫であるヨウカに頼んで彼等に協力してもらった。
だが、彼らとしては遠方の土地に追いやった巫女姫から急な命令に対し、渋々とだが従っているだけであり、これ以上の協力は望めないだろう。現在のヨウカは微妙な立場であり、いくら聖導教会の最高権力者の巫女姫であろうが、これ以上の行動は彼女の身が危ない。
「むむむっ……なんか面倒くさいっすね。兄貴……じゃなくて姉貴がズドーン!!という感じ飛んで、一網打尽に出来ないんすか?」
「私が死ぬわ」
「安心しな。あいつらがどうやって罠を潜り抜けたのは実は見当が付いている……というより、これしか考えられないね」
「ぴょんぴょんと木の上を飛び回って移動してるっす!!」
「ちょ、先に言うんじゃないよ!?」
「……お猿さん?」
カリナがバルの台詞を奪い、即座にコトミが首を傾げるが、確かに今の説明では森人族が猿のように木々を駆け巡る姿しか思い浮かばない。
「……正確に言えばあいつらは枝の上を渡り歩いているようなもんだよ。直接地面に足を触れず、木々の間を跳躍しながら移動しているのが一番可能性が高いね」
「本当に猿みたいだな……」
「というか、地面を歩かないだけで作動しないのか……」
「それなりに高性能なのかとは思っていたが……案外単純な手で突破できるですね……」
ホノカの発言に全員が頷き、同時にすぐにある問題が浮かび上がる。
「……その方法だと、ゴンちゃん無理じゃね?」
「……むうっ……」
いくら深淵の森の木々が普通の森の比べても大木で形成されていると言っても、彼の重量を支え切れる樹木が存在するはずがなく、ゴンゾウは渋い表情を浮かべる。
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