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テンペスト騎士団編
再び地下酒場へ
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「いらっしゃい……って、ワルキューレ!?」
「あっ、やべっ……」
「……?」
薄暗い店内に相変わらず化粧の濃い女が1人座っており、ワルキューレの服装姿のコトミが入ってきたことに彼女は目を見開く。そんなコトミの隣にいるソフィアにも視線を向け、今度は首を傾げる。
「あんたは……何処かで見た事あるね」
「へえっ……記憶力は高いね」
「こういう職業柄だからね……思い出した、あの時のお嬢ちゃんだね」
1年半前に1度立ち寄っただけだが、女性はすぐに思い出したように頷き、同時に訝しげにコトミの方に視線を向ける。
「……あんた、ワルキューレの手先に成り下がったのかい?」
「まさか……まあ、敵対はしていないよね」
「……護衛」
ハーフエルフであるため聖導教会からは危険視されているが、少なくともテンやミキを敬愛しているワルキューレ騎士団は彼に敵意を抱いていない。
だが、その事を全てを説明してる暇も無く、ソフィアは懐から財布を取りだす。こんな時のために王国側から給付金を貯金しており、普通の金貨を2枚取り出して店主に向けて放り出す。彼女は慌てて受け取るが、
「おっとと……今更入り方の説明の必要はないね。但し!!ワルキューレの女騎士の方は出入り禁止だよ!!」
「は?」
「そいつらは私達にとって天敵なんだよ!!とんでもない奴を連れてきやがって……」
「……?」
首を傾げるコトミに女店主は敵意を露わにしながら、彼女の出入りを頑なに拒む。一体闇ギルドとワルキューレ騎士団にどんな因縁があるのかは分からないが、一時的にとは言え王国を崩壊寸前まで追い込んだ闇ギルドの人間にここまで警戒されるなど、相当な事を仕出かしたのは間違いない。
「一体何をしたんだよ?」
「……さあ」
「ちょっと、入るなら早くしな……あんたはだめだよ!!外で大人しく待ってな」
「むうっ……」
地下の酒場に向かおうとしたソフィアの後に自然に続こうとしたコトミに対し、女店主は彼女の服を掴んで引き止める。どうあってもコトミを酒場に入れる事を拒否し、仕方なく彼女はここで待機してもらうしかない。
ソフィアは地下に続く階段を降り、前に来た時よりも少しだけ構造が変化している事に気が付く。そして、全身をフードで覆い隠し、久しぶりの地下酒場に訪れる。
「……ほう、今日は偉い別嬪さんがやってきたな」
「あんたか……」
「ん?」
扉を開けて早々に禿げ頭の中年が顔を現し、ソフィアの顔を見て口笛を吹く。だが、すぐに彼女の顔をじろじろと確認し、
「……何処かで会ったか?」
「まあ、それが普通の反応だよね」
普通、1年半の間に1度会っただけの人物を覚えているはずがない。出入口の女店主が記憶力が良いだけなのか、それとも目の前のギルドマスターが一年半前に出会ったソフィアの事など気にも留めなかったのかは不明だが、今は都合が良い。
「人を探している」
「ほう……誰を?」
金貨を差し出して問いただすと、ギルドマスターの男の瞳が怪しく光る。どうやら仕事人としての顔つきになったらしいが、特に気圧されることは無く質問する。
「さっきこの酒場に入った男のエルフが居るはずだけど……」
「……この酒場の規則は知っているか?下手な詮索はご法度だぜ」
「知ってるよ。だから、あんたに聞いてる」
「たくっ……金で売れってか」
ギルドマスターは金貨を受け取り、しばらく考絵込み、にんまりといやらしい笑みを浮かべ、
「あと10枚追加してくれたら、口が滑るかも知れないぜ」
「8枚にまけてよ」
「……可愛げのない女だな……あいだっ!?」
さり気なく、ソフィアの尻に手を回そうとしたギルドマスターの手を捻り、彼女から8枚の金貨を受け取って痛めた腕を摩ると、
「……あいつは壁際の方にいる。俺が教えられるのはそれだけだ」
「壁際……」
酒場の中を見渡すが、壁際に存在する人物など数多く居る。だが、ギルドマスターはある方向に視線を向け、彼の視線の先には不審そうに壁際でうろうろと辺りを見渡す人物がいた。
「あんたの知り合いならさっさと引き取ってくれ……多少の荒事なら目を瞑る」
「そっちも迷惑してるのか……」
「元々、常識が無いエルフはご法度なんだがな……あんたは人間相手でも丁寧だな」
「だから尻に手を回すな」
ぎりぎりとギルドマスターの執拗に尻元を狙ってくる右手を捻り、ソフィアは壁際の相手に視線を向ける。未だに周囲を警戒しているのかしきりに首を動かしており、まだこちらに気づいている様子はない。
(まだ元に戻れないけど……最小限の力で抑えられるか?)
この状態での力加減は難しいが、相手が1人だけなら何とかできる。酒場の人間達に迷惑をかけないよう、最短で終わらせる必要がある。
「さて……と」
不用意に近づけば気付かれる可能性は高い。周囲を見渡して何か使えそうな物がないかと確認すると、近くの机に空のワインとグラスを見つけ、
「これ……貰える?」
「あん……?やらかす前に一杯やるのか?随分と余裕だな」
「酒じゃない……グラスの方だ」
「は?」
ソフィアは金貨を1枚渡し、グラスを持ち上げると、まるで野球投手のように振りかぶり、
「トルネード!!」
「はっ!?」
ギルドマスターの前で身体全体を捻らせ、所謂トルネード投法でグラスを振りかぶり、投擲する。
「えっ……ぶふっ!?」
バリィイイイインッ!!
酒場内にガラスが割れる音が響き渡り、壁に向けて頭部を激突させるエルフの姿があった。
「あっ、やべっ……」
「……?」
薄暗い店内に相変わらず化粧の濃い女が1人座っており、ワルキューレの服装姿のコトミが入ってきたことに彼女は目を見開く。そんなコトミの隣にいるソフィアにも視線を向け、今度は首を傾げる。
「あんたは……何処かで見た事あるね」
「へえっ……記憶力は高いね」
「こういう職業柄だからね……思い出した、あの時のお嬢ちゃんだね」
1年半前に1度立ち寄っただけだが、女性はすぐに思い出したように頷き、同時に訝しげにコトミの方に視線を向ける。
「……あんた、ワルキューレの手先に成り下がったのかい?」
「まさか……まあ、敵対はしていないよね」
「……護衛」
ハーフエルフであるため聖導教会からは危険視されているが、少なくともテンやミキを敬愛しているワルキューレ騎士団は彼に敵意を抱いていない。
だが、その事を全てを説明してる暇も無く、ソフィアは懐から財布を取りだす。こんな時のために王国側から給付金を貯金しており、普通の金貨を2枚取り出して店主に向けて放り出す。彼女は慌てて受け取るが、
「おっとと……今更入り方の説明の必要はないね。但し!!ワルキューレの女騎士の方は出入り禁止だよ!!」
「は?」
「そいつらは私達にとって天敵なんだよ!!とんでもない奴を連れてきやがって……」
「……?」
首を傾げるコトミに女店主は敵意を露わにしながら、彼女の出入りを頑なに拒む。一体闇ギルドとワルキューレ騎士団にどんな因縁があるのかは分からないが、一時的にとは言え王国を崩壊寸前まで追い込んだ闇ギルドの人間にここまで警戒されるなど、相当な事を仕出かしたのは間違いない。
「一体何をしたんだよ?」
「……さあ」
「ちょっと、入るなら早くしな……あんたはだめだよ!!外で大人しく待ってな」
「むうっ……」
地下の酒場に向かおうとしたソフィアの後に自然に続こうとしたコトミに対し、女店主は彼女の服を掴んで引き止める。どうあってもコトミを酒場に入れる事を拒否し、仕方なく彼女はここで待機してもらうしかない。
ソフィアは地下に続く階段を降り、前に来た時よりも少しだけ構造が変化している事に気が付く。そして、全身をフードで覆い隠し、久しぶりの地下酒場に訪れる。
「……ほう、今日は偉い別嬪さんがやってきたな」
「あんたか……」
「ん?」
扉を開けて早々に禿げ頭の中年が顔を現し、ソフィアの顔を見て口笛を吹く。だが、すぐに彼女の顔をじろじろと確認し、
「……何処かで会ったか?」
「まあ、それが普通の反応だよね」
普通、1年半の間に1度会っただけの人物を覚えているはずがない。出入口の女店主が記憶力が良いだけなのか、それとも目の前のギルドマスターが一年半前に出会ったソフィアの事など気にも留めなかったのかは不明だが、今は都合が良い。
「人を探している」
「ほう……誰を?」
金貨を差し出して問いただすと、ギルドマスターの男の瞳が怪しく光る。どうやら仕事人としての顔つきになったらしいが、特に気圧されることは無く質問する。
「さっきこの酒場に入った男のエルフが居るはずだけど……」
「……この酒場の規則は知っているか?下手な詮索はご法度だぜ」
「知ってるよ。だから、あんたに聞いてる」
「たくっ……金で売れってか」
ギルドマスターは金貨を受け取り、しばらく考絵込み、にんまりといやらしい笑みを浮かべ、
「あと10枚追加してくれたら、口が滑るかも知れないぜ」
「8枚にまけてよ」
「……可愛げのない女だな……あいだっ!?」
さり気なく、ソフィアの尻に手を回そうとしたギルドマスターの手を捻り、彼女から8枚の金貨を受け取って痛めた腕を摩ると、
「……あいつは壁際の方にいる。俺が教えられるのはそれだけだ」
「壁際……」
酒場の中を見渡すが、壁際に存在する人物など数多く居る。だが、ギルドマスターはある方向に視線を向け、彼の視線の先には不審そうに壁際でうろうろと辺りを見渡す人物がいた。
「あんたの知り合いならさっさと引き取ってくれ……多少の荒事なら目を瞑る」
「そっちも迷惑してるのか……」
「元々、常識が無いエルフはご法度なんだがな……あんたは人間相手でも丁寧だな」
「だから尻に手を回すな」
ぎりぎりとギルドマスターの執拗に尻元を狙ってくる右手を捻り、ソフィアは壁際の相手に視線を向ける。未だに周囲を警戒しているのかしきりに首を動かしており、まだこちらに気づいている様子はない。
(まだ元に戻れないけど……最小限の力で抑えられるか?)
この状態での力加減は難しいが、相手が1人だけなら何とかできる。酒場の人間達に迷惑をかけないよう、最短で終わらせる必要がある。
「さて……と」
不用意に近づけば気付かれる可能性は高い。周囲を見渡して何か使えそうな物がないかと確認すると、近くの机に空のワインとグラスを見つけ、
「これ……貰える?」
「あん……?やらかす前に一杯やるのか?随分と余裕だな」
「酒じゃない……グラスの方だ」
「は?」
ソフィアは金貨を1枚渡し、グラスを持ち上げると、まるで野球投手のように振りかぶり、
「トルネード!!」
「はっ!?」
ギルドマスターの前で身体全体を捻らせ、所謂トルネード投法でグラスを振りかぶり、投擲する。
「えっ……ぶふっ!?」
バリィイイイインッ!!
酒場内にガラスが割れる音が響き渡り、壁に向けて頭部を激突させるエルフの姿があった。
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