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テンペスト騎士団編
黒猫酒場の異変
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「……これって……」
「レノさん……ですよね?」
「あんの女ぁ……」
3人の目の前には大きく改装された酒場が広がっており、以前よりも建物の大きさが増築されている。それでいながらも古風な雰囲気は残っており、まだ昼時だというのに随分と活気に満ちており、多くの獣人族の客が訪れていた。
だが、一番の問題は看板の横に立て掛けられた木札であり、等身大の羊皮紙が貼り付けられていた。それは1年半前のレノの容姿が書き込まれており、ご丁寧に「探し人」という文字が頭上に刻まれている。まるで現実世界の「迷い犬(猫)を探しています」という広告を見たような感覚に陥り、無意識に額に青筋が立つ。
(バルの奴め……)
アイリィに手紙を渡して事の詳細を教えたはずだが、どうやら半分は悪ふざけでやっているようだ。それでも彼女なりにレノ事を心配して貼り付けているのは間違いなく、賞金まで付けられている。レノは溜息を吐きながら羊皮紙を掴み上げ、
「ていや」
「「あっ」」
バチィイイイッ!!
容赦なく、右手の掌を向けて「紫電」を放ち、器用に羊皮紙だけを焼却する。そして、何事も無い風に黒猫酒場の玄関に向い、ポチ子とコトミは顔を見合わせ、黙って彼の後に続く。
「はいよ!!チャーハン定食お待ち!!」
「三番テーブル!!黒ビールをおかわり!!」
「ちょっと!!誰っすか今お尻触ったの!?」
入って早々に見覚えのある女子3人組が現れ、この1年半で大きく成長しており、久しぶりに再会するバルの女部下たちがウエイトレスを行っていた。
彼女達は忙しなく店内の客達の相手を行い、前と比べれば随分と接客業も手馴れてきている。それぞれが以前よりも身体つきは成長しており、男性客達からちょっかいを掛けられている。
「いい加減にするっす!!」
「げふっ!?」
が、しつこくお尻を触ろうとする中年男性に対し、容赦なく1人が手刀を繰り出してテーブルに叩き付ける。それを見た者たちは笑い声を上げ、特に咎めはしない。どうやらこのようなことは日常茶飯事らしい。
「えっと、お客さんたち?そこで立ち止まられると困るんだけど」
レノ達の前に1人のメガネをかけた小柄のウエイトレスが現れ、新しい客と判断したのか立ち止まる3人に声を掛ける。レノの記憶の中にはいない人物であり、どうやらこの1年半の間に新しく入ってきた子だろう。
「バル……じゃなくて店長は居る?」
「はい?……失礼ですが、どなたですか?」
「どしたのガーネ?」
バルの名を出すと訝しげに見つめてくるウエイトレスに、すぐに女部下3人組の1人が気が付き、レノに視線を向けた瞬間、
「ん?んん……何処かで見覚えがあるような……」
「え、お知り合いなんですか先輩?」
「知り合いって言うか……あっーーーー!?」
完全に思い出したのか、店内に驚愕の声が浮かび上がり、酒場に居る全員が耳を塞ぐ。特に客のほとんどは獣人のため、耳が良い者ばかりであり、全員が恨めしげに視線を向けてくる。彼女は慌てて口元を抑え、レノの顔を再確認すrと、
「ちょ……兄貴ぃっ……今まで何処に行ってたんすか?」
「えっと……」
すぐに彼に接近してぼそぼそと話しかけ、レノはどう返せばいいのか分からない。というより、実を言うと目の前の女部下の名前が思い出せない。確かに一緒に働ていた少女ではあるが、どうしても思い出せない。
「……それより、バルの奴はいる?」
「姉御っすか?今はお宝の鑑定中で自分の部屋に居ると思いますけど……」
「今、大丈夫?」
仕方なく、強引に話を変えてバルの居場所を聞き出し、すぐにこの酒場に残っている事が分かると、会いたいことを伝える。
「ガーネ、あんた姉御の所まで案内してやるっす」
「はあ……分かりました」
不思議そうにレノ達に視線を向けながらも、ガーネと呼ばれた少女は言われたとおりに3人を酒場の奥へと案内する。後方から「後でお話聞かせてくださいね~」という呑気な声を耳にしながらも、レノ達はガーネに連れられるままにバルが待っている部屋へと移動する。
店の構造も大きく変わっており、前は二階に従業員たちの部屋と事務室があったはずだが、現在は3階まで増築されており、そこにある倉庫にバルがいるという。
この3階にある「倉庫」というのが、裏で行っている盗賊家業で手に入れた財宝の管理を行っており、倉庫には隠し部屋が存在し、今はそこでバルが盗み出したお宝の鑑定を行っているとの事。
コンコンッ……
「店長~……お会いしたいという方がいます」
「はあっ……?そういうのは適当に相手して返してって言ってるだろ?」
ガーネが倉庫の扉に向けてノックを行うと、すぐに面倒気な返事が返ってくる。よく聞き覚えのある声であり、レノは口元に笑みを浮かべ、
「相変わらず人使いが荒いな……」
――バタァンッ!!
別にそれほど大声を上げたつもりはないが、レノが声を発した直後に大きく扉が開かれ、倉庫の中からぼさぼさの髪に垂れた獣耳の猫型の獣人が現れ、レノの姿を見た瞬間に大きく目を見開き、
「……レノ?」
「久しぶり……バル」
1年半ぶりに再会する彼女の姿だった。
「レノさん……ですよね?」
「あんの女ぁ……」
3人の目の前には大きく改装された酒場が広がっており、以前よりも建物の大きさが増築されている。それでいながらも古風な雰囲気は残っており、まだ昼時だというのに随分と活気に満ちており、多くの獣人族の客が訪れていた。
だが、一番の問題は看板の横に立て掛けられた木札であり、等身大の羊皮紙が貼り付けられていた。それは1年半前のレノの容姿が書き込まれており、ご丁寧に「探し人」という文字が頭上に刻まれている。まるで現実世界の「迷い犬(猫)を探しています」という広告を見たような感覚に陥り、無意識に額に青筋が立つ。
(バルの奴め……)
アイリィに手紙を渡して事の詳細を教えたはずだが、どうやら半分は悪ふざけでやっているようだ。それでも彼女なりにレノ事を心配して貼り付けているのは間違いなく、賞金まで付けられている。レノは溜息を吐きながら羊皮紙を掴み上げ、
「ていや」
「「あっ」」
バチィイイイッ!!
容赦なく、右手の掌を向けて「紫電」を放ち、器用に羊皮紙だけを焼却する。そして、何事も無い風に黒猫酒場の玄関に向い、ポチ子とコトミは顔を見合わせ、黙って彼の後に続く。
「はいよ!!チャーハン定食お待ち!!」
「三番テーブル!!黒ビールをおかわり!!」
「ちょっと!!誰っすか今お尻触ったの!?」
入って早々に見覚えのある女子3人組が現れ、この1年半で大きく成長しており、久しぶりに再会するバルの女部下たちがウエイトレスを行っていた。
彼女達は忙しなく店内の客達の相手を行い、前と比べれば随分と接客業も手馴れてきている。それぞれが以前よりも身体つきは成長しており、男性客達からちょっかいを掛けられている。
「いい加減にするっす!!」
「げふっ!?」
が、しつこくお尻を触ろうとする中年男性に対し、容赦なく1人が手刀を繰り出してテーブルに叩き付ける。それを見た者たちは笑い声を上げ、特に咎めはしない。どうやらこのようなことは日常茶飯事らしい。
「えっと、お客さんたち?そこで立ち止まられると困るんだけど」
レノ達の前に1人のメガネをかけた小柄のウエイトレスが現れ、新しい客と判断したのか立ち止まる3人に声を掛ける。レノの記憶の中にはいない人物であり、どうやらこの1年半の間に新しく入ってきた子だろう。
「バル……じゃなくて店長は居る?」
「はい?……失礼ですが、どなたですか?」
「どしたのガーネ?」
バルの名を出すと訝しげに見つめてくるウエイトレスに、すぐに女部下3人組の1人が気が付き、レノに視線を向けた瞬間、
「ん?んん……何処かで見覚えがあるような……」
「え、お知り合いなんですか先輩?」
「知り合いって言うか……あっーーーー!?」
完全に思い出したのか、店内に驚愕の声が浮かび上がり、酒場に居る全員が耳を塞ぐ。特に客のほとんどは獣人のため、耳が良い者ばかりであり、全員が恨めしげに視線を向けてくる。彼女は慌てて口元を抑え、レノの顔を再確認すrと、
「ちょ……兄貴ぃっ……今まで何処に行ってたんすか?」
「えっと……」
すぐに彼に接近してぼそぼそと話しかけ、レノはどう返せばいいのか分からない。というより、実を言うと目の前の女部下の名前が思い出せない。確かに一緒に働ていた少女ではあるが、どうしても思い出せない。
「……それより、バルの奴はいる?」
「姉御っすか?今はお宝の鑑定中で自分の部屋に居ると思いますけど……」
「今、大丈夫?」
仕方なく、強引に話を変えてバルの居場所を聞き出し、すぐにこの酒場に残っている事が分かると、会いたいことを伝える。
「ガーネ、あんた姉御の所まで案内してやるっす」
「はあ……分かりました」
不思議そうにレノ達に視線を向けながらも、ガーネと呼ばれた少女は言われたとおりに3人を酒場の奥へと案内する。後方から「後でお話聞かせてくださいね~」という呑気な声を耳にしながらも、レノ達はガーネに連れられるままにバルが待っている部屋へと移動する。
店の構造も大きく変わっており、前は二階に従業員たちの部屋と事務室があったはずだが、現在は3階まで増築されており、そこにある倉庫にバルがいるという。
この3階にある「倉庫」というのが、裏で行っている盗賊家業で手に入れた財宝の管理を行っており、倉庫には隠し部屋が存在し、今はそこでバルが盗み出したお宝の鑑定を行っているとの事。
コンコンッ……
「店長~……お会いしたいという方がいます」
「はあっ……?そういうのは適当に相手して返してって言ってるだろ?」
ガーネが倉庫の扉に向けてノックを行うと、すぐに面倒気な返事が返ってくる。よく聞き覚えのある声であり、レノは口元に笑みを浮かべ、
「相変わらず人使いが荒いな……」
――バタァンッ!!
別にそれほど大声を上げたつもりはないが、レノが声を発した直後に大きく扉が開かれ、倉庫の中からぼさぼさの髪に垂れた獣耳の猫型の獣人が現れ、レノの姿を見た瞬間に大きく目を見開き、
「……レノ?」
「久しぶり……バル」
1年半ぶりに再会する彼女の姿だった。
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