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テンペスト騎士団編
結界
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「よし、行って来いポチ子!!」
「わぅんっ!!」
レノに指さされ、ポチ子は前方の林の中に目掛けて疾走する。獣人である彼女ならば森の中でも駆け回る事は可能であり、無数に並ぶ樹木の中に姿を消す。そして彼女が消え去ってから数十秒後、前方の草むらが揺れ動き、四つん這いで駆けだすポチ子の姿が現れ、咄嗟にレノは彼女を受け止める。
「わうっ!?」
「おっとと」
正面からポチ子を抑え込み、彼女の身体を抱きしめながら、
「高い高~い」
「わふぅっ♪」
いつも通りに彼女の身体を持ち上げる。成長しても精神面は変わっておらず、ゴンゾウに優しく見守られながら一通りポチ子を振り回すと、
「……で、どうだった?」
「わうっ……真っ直ぐ突き進んでたはずなんですけど……」
「何時の間にか戻っていたか……典型的なパターンだな」
ポチ子本人によれば真っ直ぐに進んでいたようだが、本人が気づかぬうちに方向を転換し、レノ達のいる場所まで戻っていたらしい。この調子ではどの方角を走り込もうが、知らぬ間にこの場所へと戻る可能性が高い。
森人族の「結界」と言っても複数の種類があり、例えば「人除け」と呼ばれる種類の結界は近づこうとする人間が無意識にその場所を避けたり、唐突に用事を思い出して引き返す。他にも見えない壁のような物を生み出して侵入者を遮る「障壁」空間そのものを捻じ曲げる「異空間」など、様々な種類がある。
今回レノ達を閉じ込めているのは森人族が生み出したと思われる結界は、以前にレノが地下迷宮内で延々と同じ通路を往復していた「空間」をそのものを捻じ曲げる類であり、結界から脱出しようと試みるたびに何時の間にか内部に移動してしまう。
「転移魔方陣も使えないな……」
「前にジャンヌさんが結界内では一部の魔法は使えないって言ってました」
「へえ……」
地下迷宮の通路に閉じ込められたときに転移魔方陣を試そうとしたが(あの時は壁抜けを行う死人に邪魔されて行えなかったが)、脱出は難しかったようだ。レノは掌に竜巻を形成し、普通の魔法は扱える事を確認し、すぐに周囲の様子を確認する。先ほどまで見張っていたはずの魔獣達の姿が無く、何時の間にか結界が存在する場所に誘導されていた可能性もあった。
「仕方ない……歩くか」
「そうですね……狼さんたちも何時の間にか居なくなってますし」
「了解」
3人は立ち上がり、周囲に警戒をしながら移動を始める。レノ達を結界内に閉じ込められた事は間違いないが、結界を生み出した相手は未だに姿を現さない。
この結界内でもレノの五感は研ぎ澄まされており、薄暗闇の中でも特に不安は抱かない。森の中にいるせいか、いつも以上に肉体も軽く、魔力も満ちている気がする。森人族の血を半分継いでいる事が関係しており、普段よりも体調が良い。
「くぅ~ん……どこに行けばいいんですかね?」
「……地図も、頼りにならない……」
「そうだな……」
結界内に閉じ込められた瞬間に地形も一変しており、樹木もまるで取り囲むように密集している。これでは移動する事も困難だが、結界を作り出した者が現れない限りはどうしようもない。魔法で力ずくにも道を切り開くという強硬策もあるが、それだけは何としても避けたい。半分は森人族であるレノにとっては故意に自然を破壊するという行為は苦痛でしかない。
「あ、こっちの方が空いてます!!」
ポチ子が周囲の密集した樹木から隙間を発見し、まるであからさまに誘っているように木々の間が開いており、獣道のように広がっている。
「罠か?」
「だろうね……」
ゴンゾウの言葉に頷くが、このままここで待機しているわけにもいかない。ここは敢えて罠を承知で進むしかない。
「……よし、行きますかね」
「わうっ……尻尾が震えます」
「2人とも……いざとなったら俺の背に隠れる」
武器を構えながら、3人は移動を開始する。開け放たれた樹木の隙間を通り抜け、その場を離れる。
ガサガサッ……
「あ、足が……わうっ!?」
「……俺の背に乗る」
林に足が絡みとられるポチ子を見かね、ゴンゾウが彼女の身体を持ち上げて肩に乗せる。レノの方にも視線を向けるが、彼は難なく林道を移動している。
「ゴンちゃん大丈夫?」
「問題、ない……と思いたい」
「頑張って下さい!!ゴンさん!!」
巨人族であるゴンゾウが樹木の隙間を抜けて進むのはかなり困難であり、彼は全身を汗だくにしている。それでも強がりを吐くだけの余裕はあり、そんな彼に笑みを浮かべらも前方に視線を向ける。
獣道は延々と続いており、ハーフエルフの優れた視界でも樹木の終わりは見えない。このまま進んでいてはゴンゾウの体力が尽きてしまうだろう。
(結界を解く方法は……)
以前にレノが地下迷宮で通路に閉じ込められた際は、突然現れた壁抜けの能力を持つ「死人」が現れた際に解除されていた。あの結界を生み出したのがあの「死人」がどうかは分からないが、少なくともレノ自身が何かを行って結界を解除したわけではない。
(参ったな……)
転移魔方陣も使用できない以上、結界を解く方法は不明であり、この結界を生み出した者を探し出すしかない。
「わぅんっ!!」
レノに指さされ、ポチ子は前方の林の中に目掛けて疾走する。獣人である彼女ならば森の中でも駆け回る事は可能であり、無数に並ぶ樹木の中に姿を消す。そして彼女が消え去ってから数十秒後、前方の草むらが揺れ動き、四つん這いで駆けだすポチ子の姿が現れ、咄嗟にレノは彼女を受け止める。
「わうっ!?」
「おっとと」
正面からポチ子を抑え込み、彼女の身体を抱きしめながら、
「高い高~い」
「わふぅっ♪」
いつも通りに彼女の身体を持ち上げる。成長しても精神面は変わっておらず、ゴンゾウに優しく見守られながら一通りポチ子を振り回すと、
「……で、どうだった?」
「わうっ……真っ直ぐ突き進んでたはずなんですけど……」
「何時の間にか戻っていたか……典型的なパターンだな」
ポチ子本人によれば真っ直ぐに進んでいたようだが、本人が気づかぬうちに方向を転換し、レノ達のいる場所まで戻っていたらしい。この調子ではどの方角を走り込もうが、知らぬ間にこの場所へと戻る可能性が高い。
森人族の「結界」と言っても複数の種類があり、例えば「人除け」と呼ばれる種類の結界は近づこうとする人間が無意識にその場所を避けたり、唐突に用事を思い出して引き返す。他にも見えない壁のような物を生み出して侵入者を遮る「障壁」空間そのものを捻じ曲げる「異空間」など、様々な種類がある。
今回レノ達を閉じ込めているのは森人族が生み出したと思われる結界は、以前にレノが地下迷宮内で延々と同じ通路を往復していた「空間」をそのものを捻じ曲げる類であり、結界から脱出しようと試みるたびに何時の間にか内部に移動してしまう。
「転移魔方陣も使えないな……」
「前にジャンヌさんが結界内では一部の魔法は使えないって言ってました」
「へえ……」
地下迷宮の通路に閉じ込められたときに転移魔方陣を試そうとしたが(あの時は壁抜けを行う死人に邪魔されて行えなかったが)、脱出は難しかったようだ。レノは掌に竜巻を形成し、普通の魔法は扱える事を確認し、すぐに周囲の様子を確認する。先ほどまで見張っていたはずの魔獣達の姿が無く、何時の間にか結界が存在する場所に誘導されていた可能性もあった。
「仕方ない……歩くか」
「そうですね……狼さんたちも何時の間にか居なくなってますし」
「了解」
3人は立ち上がり、周囲に警戒をしながら移動を始める。レノ達を結界内に閉じ込められた事は間違いないが、結界を生み出した相手は未だに姿を現さない。
この結界内でもレノの五感は研ぎ澄まされており、薄暗闇の中でも特に不安は抱かない。森の中にいるせいか、いつも以上に肉体も軽く、魔力も満ちている気がする。森人族の血を半分継いでいる事が関係しており、普段よりも体調が良い。
「くぅ~ん……どこに行けばいいんですかね?」
「……地図も、頼りにならない……」
「そうだな……」
結界内に閉じ込められた瞬間に地形も一変しており、樹木もまるで取り囲むように密集している。これでは移動する事も困難だが、結界を作り出した者が現れない限りはどうしようもない。魔法で力ずくにも道を切り開くという強硬策もあるが、それだけは何としても避けたい。半分は森人族であるレノにとっては故意に自然を破壊するという行為は苦痛でしかない。
「あ、こっちの方が空いてます!!」
ポチ子が周囲の密集した樹木から隙間を発見し、まるであからさまに誘っているように木々の間が開いており、獣道のように広がっている。
「罠か?」
「だろうね……」
ゴンゾウの言葉に頷くが、このままここで待機しているわけにもいかない。ここは敢えて罠を承知で進むしかない。
「……よし、行きますかね」
「わうっ……尻尾が震えます」
「2人とも……いざとなったら俺の背に隠れる」
武器を構えながら、3人は移動を開始する。開け放たれた樹木の隙間を通り抜け、その場を離れる。
ガサガサッ……
「あ、足が……わうっ!?」
「……俺の背に乗る」
林に足が絡みとられるポチ子を見かね、ゴンゾウが彼女の身体を持ち上げて肩に乗せる。レノの方にも視線を向けるが、彼は難なく林道を移動している。
「ゴンちゃん大丈夫?」
「問題、ない……と思いたい」
「頑張って下さい!!ゴンさん!!」
巨人族であるゴンゾウが樹木の隙間を抜けて進むのはかなり困難であり、彼は全身を汗だくにしている。それでも強がりを吐くだけの余裕はあり、そんな彼に笑みを浮かべらも前方に視線を向ける。
獣道は延々と続いており、ハーフエルフの優れた視界でも樹木の終わりは見えない。このまま進んでいてはゴンゾウの体力が尽きてしまうだろう。
(結界を解く方法は……)
以前にレノが地下迷宮で通路に閉じ込められた際は、突然現れた壁抜けの能力を持つ「死人」が現れた際に解除されていた。あの結界を生み出したのがあの「死人」がどうかは分からないが、少なくともレノ自身が何かを行って結界を解除したわけではない。
(参ったな……)
転移魔方陣も使用できない以上、結界を解く方法は不明であり、この結界を生み出した者を探し出すしかない。
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