種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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テンペスト騎士団編

試験開始

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建物から随分と移動すると、レノとカゲマルは無数の訓練生(テンペスト騎士団の団員だけではなく、王国の兵士も大勢混じっている)の視線を浴びながら目的地に辿り着く。

今回の試験のために大理石の闘技場が用意されており、闘人都市の地下闘技場や地下迷宮の闘技場と似ている。四方には緑色の魔水晶(クリスタル)が埋め込まれた柱が存在し、この柱に埋め込まれている物は「結界石」と呼ばれる特殊な魔石であり、闘技場の周囲に結界を生み出し、緑色の防御壁で覆い囲む事が出来る。

結界で闘技場を取り囲み、退路を遮断してから入団希望者を闘技場に上げ、魔物や試験管の人間を戦わせる趣向なのだろう。


「これがレノ殿に相手をしてもらう魔獣でござる!!」
「……これが?」
「ゴアァアアアアッ……!!」


闘技場に上がり込んだレノの前に鉄製の織が置かれ、中には3メートル級の「サイクロプス」が檻の中で唸り声を上げていた。檻内には食べ物の残骸が散乱しており、先ほどまで食事をしていたのか、サイクロプスは食い足りないとばかりに口元に食べ残しを付着させながら、隙間から両腕を突き出す。

レノとサイクロプスが檻の上に移動すると、すぐに闘技場の周囲には結界石が発動し、薄緑色の障壁が取り囲み、結界が発動しているのは間違いない。カゲマルは念のために何時でも結界を解除できるように指示を与え、レノが試験の最中にサイクロプスに殺される前に自分たちが抑える準備を整える。


「そのサイクロプスはつい先日、拙者が遠征した際に捕まえた森の魔物でござる!!普通の個体と違い、このサイクロプスは非常に獰猛な性格なので捕獲したでござる!!一応は危険な目に遭いそうになったら助けに入るつもりでござるが、その場合は強制的に入団試験は失格でござるよ!!」
「はいはい」
「ウゴォッ……?」


レノは準備体操を行って身体を動かし、サイクロプスの方は不思議そうに檻の前に立つレノに視線を向ける。大抵の相手は自分の姿を見た瞬間に逃げ回るのだが、目の前のレノは恐怖どころか敵対心すら浮かんでいない。

闘技場の下に何時でも救助できるように備えていたカゲマルも、レノのあまりにも余裕な態度に訝しむが、予定通りに試験を開始する。


「それでは試験を始めるでござるよ!!今のうちに魔法を使う準備を行ったらどうでござる!?」


大抵の魔術師は魔石が取りつけられた杖を使用するため、彼女は魔術師として志願したレノも杖を所持していると思い込んでいたが、彼は首を振る。


「問題ない。準備は終わってるでござる」
「その語尾はやめて欲しいござる……本当にいいのでござるか?後悔しても知らないでござるよ?」
「いいよ」
「いいよって……ああもう、なら実戦試験を始めるでござる!!」


ガシャンッ!!


適当に返事を返すレノに呆れながらも、カゲマルはその場で指を鳴らした途端、闘技場に置かれた鉄製の檻の扉が解放される。


「ゴァアアアッ……?」


サイクロプスは開け放たれた鉄柵の檻から抜け出し、ゆっくりとその全貌を表に晒す。


「ゴァァアアアアアアアッ!!」


ドンドンッ!!


まるでゴリラのように胸元を両手で叩き込み、周囲に響き渡る咆哮を上げる。それだけで周囲で観戦していた訓練生たちは震え上がり、何時の間にか観客席に異動していた残りの2人の隊長とリノンは注意深く闘技場を見つめる。


「……何時から騎士団の入団試験の魔物が変更されているんだ?副団長の私の耳に入っていないのはおかしいと思うが」
「さて……何時からでしたかな」
「にゃあも分かんにゃ~い」
「全く……」


2人の隊長に対してリノンは詰問するように視線を向けるが、2人とも涼しげな顔で聞き流す。どうあっても、レノの入団を認める気は無いようだ。普通はサイクロプスの討伐には最低でも冒険者が30名、さらには上級魔術師が3人は必要であり、例え一流の冒険者や騎士であろうと単独で撃破する事は難しい。

また、サイクロプスの身体を覆う鱗は厄介であり、その硬度は鋼鉄よりも固く、さらにはあらゆる魔法に対して強い耐性を持つ。そのため、討伐する際には万全の準備が必要である。

副団長であるリノンやアルトであろうと、単騎では討伐は難しい相手であり、相性が悪いポチ子ではどうしようもない。ゴンゾウならば腕力で負けることはないだろうが、致命傷を与えるのも難しいだろう。

唯一「巨人殺し(ジャイアント・キリング)」や「レーヴァティン」を所持するジャンヌならば撃破できるだろうが、それでも勝負は長引くだろう。それにサイクロプスは知能も高いため、勝てない相手と判断した場合は逃走を行う(実際にレノと共に孤児院に育ったロプスもダークエルフの存在に気付いて逃げ出した)。



「ゴアッ、ガァアアアアアアアッ!!」



ドゴォオオオンッ!!


サイクロプスは大理石製の石板を踏み砕き、レノに顔を向ける。両腕を大きく広げ、威嚇行動に入るが、


(……最初に攻撃してこない辺り、知能は高いな)


野生の魔物は獲物を見つけた場合は後先考えずに襲い掛かるのが普通だが、目の前のサイクロプスは慎重に距離を空けてレノの様子を確認する。


(さて……どうするかね)


適当に「撃雷」や「雷槍」もしくは「乱刃」でも放てば簡単に終わるだろうが、それでは団員達にレノの実力を見せつけるとは言えない。今回の試験はレノにとっても他の団員たちに力を見せつけるいい機会であり、新参者だからと舐められるのも面倒のため、取るべき手段は1つだけだった。


「肉体強化(アクセル)」


ゴォオオオオッ……!!


れのは腕を回転させながら、自身の身体能力を魔力で強化させ、戦闘準備に入る。
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