242 / 1,095
テンペスト騎士団編
決意
しおりを挟む
「ま、待ってくれゴンゾウ!!」
「ご、ゴンさん……」
「ゴンゾウ……どういう事だ……!?」
すぐに長年の付き合いであるリノンたちがゴンゾウの後を追いかけ、レノは残されたダンゾウの方に顔を向ける。彼は黙ってゴンゾウの後姿を見送り、その表情は何を考えているかは分からないが、
「……すまん」
ほんの一言だけ、恐らくはハーフエルフの聴覚を持つレノにだけ聞こえる声量で呟くと、すぐに会場の隅に移動して座り込む。一応は巨人族の体表としてパーティーに参加しているため、勝手に会場を出ていくわけにもいかないのだろう。
レノはそんな彼に視線を向け、どうするべきか考え込む。ゴンゾウとダンゾウの関係性は気にかかるが、このままリノンたちのようにゴンゾウの後を追うべきか、それともダンゾウに直接問いただすべきかは悩みどころだ。
(……父親ね)
以前にゴンゾウから「病に伏せた父」がいるとは聞いていたが、どう見ても目の前のダンゾウが何らかの病気を負っているように見えない。それに先ほどはっきりと彼は「父親じゃない」と告げた。
(養父か何かか……?)
レノの予想に過ぎないが、恐らくはゴンゾウが語る父親とは彼の本当の父親ではなく、血の繋がっていない巨人族の男性かもしれない。ダンゾウが過去に何らかの理由でゴンゾウを手放し、後々に彼が父親と語る人物に引き取られたのではないか。
あくまでも予測の域に過ぎないが、どちらにしろ確かめるにはどちらか2人に問いただすしかない。
(どうでもいいかな)
だが、別に詳しい話を聞いたところでレノがゴンゾウに対する人物像が変わるわけじゃない。彼の過去に何があろうと、ゴンゾウはレノにとって自分の種族を気にしない数少ない友人なのだ。
彼の家族関係に興味はあるのは事実だが、だからと言って自ら進んで調べる気は起きない。仮に彼にとって他人に知られたく事情だとしたら、これからの関係に影響が出る可能性が高い。本人が語る分には問題は無いが、自分からゴンゾウの過去を調べる事は彼に対して失礼な気がした。
(……にしても、本当に何時まで続くんだ?)
ダンゾウとゴンゾウの一件で盛り下がっていた会場だが、すぐに活気を取り戻す。今回の英雄であるリノンたちは居なくなったが、それでも会場内には腐敗竜を討伐したジャンヌが残っており、アルト達がいなくなったため、自然と彼女の元に人が集まってくる。
「ジャンヌ殿!!どうか某の酒を飲んでくれ!!」
「ジャンヌ様!!今度、私の息子と会ってくれないか!?」
「ジャンヌさん!!私もテンペスト騎士団に入団させてください!!こう見えても魔術に自信はあります!!」
「は、はあ……」
有名な騎士や貴族、あるいは高名な冒険者が彼女の周囲に纏わり付き、ジャンヌは困り顔でレノに視線を向ける。助けてほしそうな表情を浮かべる彼女に対してレノは笑み浮かべて、
(がんばっ!!)
ビシッ!
親指を上げて良い笑顔を浮かべると、ジャンヌは口元の笑みを歪め、
(白状者……!!)
視線でそのように訴えかけてくるが、かといってハーフエルフであるレノが表立って動くわけにもいかない。いくらバルトロス国王から「S級冒険者」の証を貰ったとしても、それでも完全にハーフエルフに対する差別が消えた訳ではない。
レノはS級冒険者の証である紋章をペンダントを取り出し、これからの行動をどうするかを考える。
――第一の目標は「センチュリオン」が独占している「聖痕」の回収。放浪島で地下迷宮に入る前にアイリィから残りの聖痕の居場所を聞き出した際、彼女は闘人都市から感じられる2つの聖痕(ジャンヌの「聖」の聖痕を含む)以外の反応は感じられなかったという。
恐らく、レノが次々と「聖痕」を回収しているの気付かれた可能性が高く、他の聖痕所持者は何らかの方法で自分の聖痕の反応を隠している可能性もある。聖痕を隠す方法は実際に存在するらしく、例えば現在レノが所持している「黒衣」のような特殊な素材で作られた魔道具で聖痕の部分を覆い隠せば正確な居場所は把握できないとの事。
仮にアイリィから100キロ圏内に聖痕所持者が存在する場合はどのような方法で隠蔽しても聖痕の反応を掴めるらしいが、生憎と当の本人が消えてしまったため、探し出す方法ない。だが、恐らくは嘗て闘人都市にいた「聖痕所持者」もセンチュリオンの可能性があり、残りの5つの聖痕所持者は全てセンチュリオンの手先である可能性も否定できない。
(行き詰まりだな……)
今まで単独で聖痕を集めてきたが、それでもアイリィやミキなどの助力があったからこその成果であり、ここから先はレノ1人であの兇悪なセンチュリオンを相手にしなければならない。
(……上等だ)
いい加減にセンチュリオンとは決着を付けなければならないのは前々から考えており、ここまで来るまでに色々と煮え湯を飲まされているため、さらに言えば世話になった「ミキ」が彼等に殺されたに等しい。そのせいで巫女姫であるヨウカもその座を追われかけており、決して許すことはできない。
(アイリィからの手掛かりも無し、確実に勝てる保証も無しか……)
たった1人で「センチュリオン」に勝てる可能性など皆無に等しい。さらには聖痕を掴む方法も無いが、
「やってやる……」
ダークエルフに辿り着くためならば、余計な障害は全て排除する。その過程で「ミキ」の敵討ちを果たし、センチュリオンを叩き潰す。当面の目標は自分の戦闘方法の見直しと、聖痕所持者の捜索であり、そのどちらの目的を達成する方法は1つだけ。
――表向きは魔物活性化を目的に作り出された「テンペスト騎士団」しかし、その裏では「センチュリオン」対策のために作り出された討伐部隊であり、レノは騎士団に入団する事を志願した。
「ご、ゴンさん……」
「ゴンゾウ……どういう事だ……!?」
すぐに長年の付き合いであるリノンたちがゴンゾウの後を追いかけ、レノは残されたダンゾウの方に顔を向ける。彼は黙ってゴンゾウの後姿を見送り、その表情は何を考えているかは分からないが、
「……すまん」
ほんの一言だけ、恐らくはハーフエルフの聴覚を持つレノにだけ聞こえる声量で呟くと、すぐに会場の隅に移動して座り込む。一応は巨人族の体表としてパーティーに参加しているため、勝手に会場を出ていくわけにもいかないのだろう。
レノはそんな彼に視線を向け、どうするべきか考え込む。ゴンゾウとダンゾウの関係性は気にかかるが、このままリノンたちのようにゴンゾウの後を追うべきか、それともダンゾウに直接問いただすべきかは悩みどころだ。
(……父親ね)
以前にゴンゾウから「病に伏せた父」がいるとは聞いていたが、どう見ても目の前のダンゾウが何らかの病気を負っているように見えない。それに先ほどはっきりと彼は「父親じゃない」と告げた。
(養父か何かか……?)
レノの予想に過ぎないが、恐らくはゴンゾウが語る父親とは彼の本当の父親ではなく、血の繋がっていない巨人族の男性かもしれない。ダンゾウが過去に何らかの理由でゴンゾウを手放し、後々に彼が父親と語る人物に引き取られたのではないか。
あくまでも予測の域に過ぎないが、どちらにしろ確かめるにはどちらか2人に問いただすしかない。
(どうでもいいかな)
だが、別に詳しい話を聞いたところでレノがゴンゾウに対する人物像が変わるわけじゃない。彼の過去に何があろうと、ゴンゾウはレノにとって自分の種族を気にしない数少ない友人なのだ。
彼の家族関係に興味はあるのは事実だが、だからと言って自ら進んで調べる気は起きない。仮に彼にとって他人に知られたく事情だとしたら、これからの関係に影響が出る可能性が高い。本人が語る分には問題は無いが、自分からゴンゾウの過去を調べる事は彼に対して失礼な気がした。
(……にしても、本当に何時まで続くんだ?)
ダンゾウとゴンゾウの一件で盛り下がっていた会場だが、すぐに活気を取り戻す。今回の英雄であるリノンたちは居なくなったが、それでも会場内には腐敗竜を討伐したジャンヌが残っており、アルト達がいなくなったため、自然と彼女の元に人が集まってくる。
「ジャンヌ殿!!どうか某の酒を飲んでくれ!!」
「ジャンヌ様!!今度、私の息子と会ってくれないか!?」
「ジャンヌさん!!私もテンペスト騎士団に入団させてください!!こう見えても魔術に自信はあります!!」
「は、はあ……」
有名な騎士や貴族、あるいは高名な冒険者が彼女の周囲に纏わり付き、ジャンヌは困り顔でレノに視線を向ける。助けてほしそうな表情を浮かべる彼女に対してレノは笑み浮かべて、
(がんばっ!!)
ビシッ!
親指を上げて良い笑顔を浮かべると、ジャンヌは口元の笑みを歪め、
(白状者……!!)
視線でそのように訴えかけてくるが、かといってハーフエルフであるレノが表立って動くわけにもいかない。いくらバルトロス国王から「S級冒険者」の証を貰ったとしても、それでも完全にハーフエルフに対する差別が消えた訳ではない。
レノはS級冒険者の証である紋章をペンダントを取り出し、これからの行動をどうするかを考える。
――第一の目標は「センチュリオン」が独占している「聖痕」の回収。放浪島で地下迷宮に入る前にアイリィから残りの聖痕の居場所を聞き出した際、彼女は闘人都市から感じられる2つの聖痕(ジャンヌの「聖」の聖痕を含む)以外の反応は感じられなかったという。
恐らく、レノが次々と「聖痕」を回収しているの気付かれた可能性が高く、他の聖痕所持者は何らかの方法で自分の聖痕の反応を隠している可能性もある。聖痕を隠す方法は実際に存在するらしく、例えば現在レノが所持している「黒衣」のような特殊な素材で作られた魔道具で聖痕の部分を覆い隠せば正確な居場所は把握できないとの事。
仮にアイリィから100キロ圏内に聖痕所持者が存在する場合はどのような方法で隠蔽しても聖痕の反応を掴めるらしいが、生憎と当の本人が消えてしまったため、探し出す方法ない。だが、恐らくは嘗て闘人都市にいた「聖痕所持者」もセンチュリオンの可能性があり、残りの5つの聖痕所持者は全てセンチュリオンの手先である可能性も否定できない。
(行き詰まりだな……)
今まで単独で聖痕を集めてきたが、それでもアイリィやミキなどの助力があったからこその成果であり、ここから先はレノ1人であの兇悪なセンチュリオンを相手にしなければならない。
(……上等だ)
いい加減にセンチュリオンとは決着を付けなければならないのは前々から考えており、ここまで来るまでに色々と煮え湯を飲まされているため、さらに言えば世話になった「ミキ」が彼等に殺されたに等しい。そのせいで巫女姫であるヨウカもその座を追われかけており、決して許すことはできない。
(アイリィからの手掛かりも無し、確実に勝てる保証も無しか……)
たった1人で「センチュリオン」に勝てる可能性など皆無に等しい。さらには聖痕を掴む方法も無いが、
「やってやる……」
ダークエルフに辿り着くためならば、余計な障害は全て排除する。その過程で「ミキ」の敵討ちを果たし、センチュリオンを叩き潰す。当面の目標は自分の戦闘方法の見直しと、聖痕所持者の捜索であり、そのどちらの目的を達成する方法は1つだけ。
――表向きは魔物活性化を目的に作り出された「テンペスト騎士団」しかし、その裏では「センチュリオン」対策のために作り出された討伐部隊であり、レノは騎士団に入団する事を志願した。
0
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!
ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。
しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる