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腐敗竜編
ミキの遺言
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訓練場の騒動から数時間後、レノ達は聖導教会のワルキューレ騎士団の宿舎に案内される。宿舎と言っても、騎士達1人1人に個室が与えられ、やたらと豪勢な建物だが。建物の内部は天井にシャンデリアが吊るされ、宿舎の裏に存在する武器庫には銀色に統一された刀刃物の類が並んでおり、無数の魔石も収納されている。
現在聖導教会にいるワルキューレ騎士団の団員数は通常時よりも少なく、魔物の活性化の問題は聖導教会も無関係ではなく、各地にワルキューレ騎士団の女騎士の精鋭を送り込んでいる。そのために現在、この聖導教会総本部に駐在しているのは総団長のテンと新人の女騎士達しか存在しない。
そのような警備で教会を守り切れるのかと疑問に思われるかもしれないが、この教会には無数の防衛魔法が施されており、またこの総本部の正確な居場所を悟られないように高度な結界が施されており、基本的にこの教会への移動手段は転移魔方陣しかない。
また、聖導教会には複数の聖遺物を保管しているため、その中にはホノカが所有しているアイギスのように教会の建物を覆い尽くす魔法障壁を生み出す防具も存在する。そのため、聖導教会がまだ魔術教会と呼ばれていた時代を含め、歴史上では一度たりともこの総本部に外部から敵勢力攻め寄せられたことは一度も無い。
――現在、レノ達はワルキューレ騎士団の宿舎の食堂に集められ、無数の騎士達と共に食事を行う。教会と言っても、肉や魚、果てには酒類の類を食することは禁止されておらず、豪勢な食事が机に並んでいた。
「お~い!!肉!!肉もってこい!!」
「ちょ、団長!?まだ治ったばかりなんですから無理しないでください!!」
「な~に、回復魔法でちゃんと治った!!さっさと持ってきな!!」
「「…………」」
横一列に並ぶレノ達4人の前には、肉と酒で統一された食事を机に並べるテンが居り、彼女は治療を終えると、ガツガツと食物を口にする。幾ら魔法で治療したと言っても、普通ならば治療後は身体がなじむまで激痛が走って動けないはずだが、彼女は特に気にした風も無く骨付き肉を頬張る。
「ん?どうした?あんたらも遠慮しないで喰いな!!そこの巨人族の兄ちゃんのように」
「美味いっ!!」
ゴンゾウだけは机に並べられたご馳走を口にし、次々と皿を空にする。慌てて配給係の人間が次々と料理を用意するが、ゴンゾウとテンによって料理がどんどんと減っていく。
「い、頂こうか……」
「わふっ……ドックフードは無いんですか?」
「あ……林檎だ」
顔を見合わせ、残りの3人も意を決して食事を始める。リノンは上品な動作で食事を行い、ポチ子はドックフードを探し回る。レノは果物が山盛りに並んだ皿に手を伸ばし、すぐにあの老人が育てていた「林檎」がある事に気が付く。この1年半の間に、このような場所にまで浸透していた事に驚きを隠せない。
「ああ……変わった果物だろ?結構美味しいんだぜ。滅多に手に入らない逸品だ」
「だろうね」
しゃくしゃくと林檎を齧りながら、テンが自分に向けて視線を注いでいる事に気が付き、彼女に顔を向けると、
「……さて、そろそろ本題に入ろうか」
「本題?」
テンは肉を齧りつきながら、何処からか「短剣」を取り出し、机の上に置く。そのデザインは見覚えがあり、以前にミキから渡された物と同じだ。彼女からレノに渡された短剣はエクスカリバーの欠片が埋め込まれており、あらゆる魔法を無効化する能力があったはずだが、この短剣からは何も感じられない。
「こいつはあの人に憧れて作ったもんでね……師匠は若い頃から凄い人だったよ」
「師匠?」
「ああ……言ってなかったな。私は聖天魔導士のミキの一番弟子だったんだよ」
「聖天魔導士!?」
「ま、まさか……あの時の!?」
聖天魔導士という言葉にリノンとポチ子が反応する。彼女達は「剣乱武闘」の場にいたので、彼女の「最期」を見届けている。レノとしては彼女が死んだことは話でしか聞いていなかったが、聖導教会は華々しくも美しく散った「ミキ」を天使と崇め讃え、彼女の銅像を建てたという。
「あの人……ミキは若い頃から優秀な魔導士でね。それに武芸百般、あらゆる戦場を駆け巡ってその名を大陸に知らしめていたよ。まあ、あまりにも堅物の性格が有名すぎて男も寄り付かなくなったけどね」
「そんな馬鹿な……」
「わふっ……」
テンの最期の「男が寄り付かない」という言葉にリノンとポチ子は冗談と判断したようだが、事情を知っているレノは苦笑いを浮かべる。彼女は男に振られて聖導教会に入ったのはヨウカから聞いている。
「若い頃の私は今よりもやんちゃでね。上司が相手だろうが食って掛かったから、当時の巫女姫様があの人……ミキに頼んで私の指導を行ったんだよ。それで小生意気な小娘だった私はあの人に叩きのめされ、一応は女騎士として最低限は周囲に認められるほどに成長したよ。この短剣は、あの人が持っていた物を真似て鍛冶屋の親父に頼み込んで作ってもらった物さ」
机から短剣を回収し、瞼を閉じて過去を思い出すように点は押し黙り、レノの方に視線を向け、
「……1年半ぐらい前、あの人と「最後」に出会った時にあんたの話を聞いているよ。もしもあんたと出会う機会があったとしたら、その時はあんたの事を気にかけてくれってね……私はそれをミキの遺言だと思っている」
「遺言って……ミキは」
「分かってるよ。別にそういうつもりで言ったわけじゃない事ぐらい……だけど、あんなにハーフエルフ嫌いだった師匠があんたに気に掛けるなんて驚きだったよ。だから、私はあの人の最後の「約束」を果たす。でないと、彼女の弟子の1人として恥さらしだからね」
そう告げると、テンは机越しに手を伸ばし、
「あんたの身は私が守るよ……傍に居る間はね」
伸ばされた手をじっと見つめ、レノは彼女の顔を見る。その表情は今までの陽気な物と違い、真っ直ぐに彼を見据え、
「……ありがとう」
素直に礼を言いながらその手を握り返した。
現在聖導教会にいるワルキューレ騎士団の団員数は通常時よりも少なく、魔物の活性化の問題は聖導教会も無関係ではなく、各地にワルキューレ騎士団の女騎士の精鋭を送り込んでいる。そのために現在、この聖導教会総本部に駐在しているのは総団長のテンと新人の女騎士達しか存在しない。
そのような警備で教会を守り切れるのかと疑問に思われるかもしれないが、この教会には無数の防衛魔法が施されており、またこの総本部の正確な居場所を悟られないように高度な結界が施されており、基本的にこの教会への移動手段は転移魔方陣しかない。
また、聖導教会には複数の聖遺物を保管しているため、その中にはホノカが所有しているアイギスのように教会の建物を覆い尽くす魔法障壁を生み出す防具も存在する。そのため、聖導教会がまだ魔術教会と呼ばれていた時代を含め、歴史上では一度たりともこの総本部に外部から敵勢力攻め寄せられたことは一度も無い。
――現在、レノ達はワルキューレ騎士団の宿舎の食堂に集められ、無数の騎士達と共に食事を行う。教会と言っても、肉や魚、果てには酒類の類を食することは禁止されておらず、豪勢な食事が机に並んでいた。
「お~い!!肉!!肉もってこい!!」
「ちょ、団長!?まだ治ったばかりなんですから無理しないでください!!」
「な~に、回復魔法でちゃんと治った!!さっさと持ってきな!!」
「「…………」」
横一列に並ぶレノ達4人の前には、肉と酒で統一された食事を机に並べるテンが居り、彼女は治療を終えると、ガツガツと食物を口にする。幾ら魔法で治療したと言っても、普通ならば治療後は身体がなじむまで激痛が走って動けないはずだが、彼女は特に気にした風も無く骨付き肉を頬張る。
「ん?どうした?あんたらも遠慮しないで喰いな!!そこの巨人族の兄ちゃんのように」
「美味いっ!!」
ゴンゾウだけは机に並べられたご馳走を口にし、次々と皿を空にする。慌てて配給係の人間が次々と料理を用意するが、ゴンゾウとテンによって料理がどんどんと減っていく。
「い、頂こうか……」
「わふっ……ドックフードは無いんですか?」
「あ……林檎だ」
顔を見合わせ、残りの3人も意を決して食事を始める。リノンは上品な動作で食事を行い、ポチ子はドックフードを探し回る。レノは果物が山盛りに並んだ皿に手を伸ばし、すぐにあの老人が育てていた「林檎」がある事に気が付く。この1年半の間に、このような場所にまで浸透していた事に驚きを隠せない。
「ああ……変わった果物だろ?結構美味しいんだぜ。滅多に手に入らない逸品だ」
「だろうね」
しゃくしゃくと林檎を齧りながら、テンが自分に向けて視線を注いでいる事に気が付き、彼女に顔を向けると、
「……さて、そろそろ本題に入ろうか」
「本題?」
テンは肉を齧りつきながら、何処からか「短剣」を取り出し、机の上に置く。そのデザインは見覚えがあり、以前にミキから渡された物と同じだ。彼女からレノに渡された短剣はエクスカリバーの欠片が埋め込まれており、あらゆる魔法を無効化する能力があったはずだが、この短剣からは何も感じられない。
「こいつはあの人に憧れて作ったもんでね……師匠は若い頃から凄い人だったよ」
「師匠?」
「ああ……言ってなかったな。私は聖天魔導士のミキの一番弟子だったんだよ」
「聖天魔導士!?」
「ま、まさか……あの時の!?」
聖天魔導士という言葉にリノンとポチ子が反応する。彼女達は「剣乱武闘」の場にいたので、彼女の「最期」を見届けている。レノとしては彼女が死んだことは話でしか聞いていなかったが、聖導教会は華々しくも美しく散った「ミキ」を天使と崇め讃え、彼女の銅像を建てたという。
「あの人……ミキは若い頃から優秀な魔導士でね。それに武芸百般、あらゆる戦場を駆け巡ってその名を大陸に知らしめていたよ。まあ、あまりにも堅物の性格が有名すぎて男も寄り付かなくなったけどね」
「そんな馬鹿な……」
「わふっ……」
テンの最期の「男が寄り付かない」という言葉にリノンとポチ子は冗談と判断したようだが、事情を知っているレノは苦笑いを浮かべる。彼女は男に振られて聖導教会に入ったのはヨウカから聞いている。
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机から短剣を回収し、瞼を閉じて過去を思い出すように点は押し黙り、レノの方に視線を向け、
「……1年半ぐらい前、あの人と「最後」に出会った時にあんたの話を聞いているよ。もしもあんたと出会う機会があったとしたら、その時はあんたの事を気にかけてくれってね……私はそれをミキの遺言だと思っている」
「遺言って……ミキは」
「分かってるよ。別にそういうつもりで言ったわけじゃない事ぐらい……だけど、あんなにハーフエルフ嫌いだった師匠があんたに気に掛けるなんて驚きだったよ。だから、私はあの人の最後の「約束」を果たす。でないと、彼女の弟子の1人として恥さらしだからね」
そう告げると、テンは机越しに手を伸ばし、
「あんたの身は私が守るよ……傍に居る間はね」
伸ばされた手をじっと見つめ、レノは彼女の顔を見る。その表情は今までの陽気な物と違い、真っ直ぐに彼を見据え、
「……ありがとう」
素直に礼を言いながらその手を握り返した。
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