種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
207 / 1,095
腐敗竜編

新技

しおりを挟む
「……一体どうなってるんだ?」


アルトはやっとの事で土煙から晴れてきた前方に視線をやり、聖剣を掲げたまま動けない。既に十分な魔力は刃に蓄積させてはいるが、攻撃する好機(タイミング)を計れないでいた。

距離はあるが、あのゴーレム・キングの動きならば避けられる心配はないだろう。だが、アルトの最大魔法である「ディバインスラッシュ」は地を這う光の奔流であり、銅体の部分は狙う事は不可能。

ミカはおどおどと彼の様子を伺うだけであり、戦闘に参加する様子は無い。優秀な魔術師であることに違いないが、相方である「カネキ」が死んだにも関わらず、特に衝撃を受けている様子も無い。この迷宮に入ってからずっとアルトの事だけを気にかけていた。そんな彼女を無視し、アルトはレノ達に向けて幾度も拳を振るう伝説の怪物に視線を向ける。


「ゴォオッ!!ゴウッ!!」


ドゴォオンッ!!ズガァアアアッ!!


ゴーレム・キングは拳を振り上げ、地面で動き回っているレノ達に向けて腕を振るう。地面に拳がめり込むたびに大広間に振動が起きるが、力加減を覚えたのか最初の頃と違って地面に陥没しない程度の攻撃を行う。

だが、その間にもゴンゾウとリノンは遠回り気味にゆっくりとゴーレムの側面に近寄り、正面ではレノとジャンヌが肉体強化で何度も跳躍を行って攻撃を避け続ける。しかし、難なく拳を避けるレノに対しジャンヌの方は全身から汗を流しながら必死に避けていた。


「……ルト……アルトさん!!」
「……ポチ子?」


何時の間にかこちらに向かってポチ子が駆け寄ってくるのを視界に入り、彼は彼女に顔を向けると、ポチ子は四足歩行で駆け寄る。彼女は本気で移動するときは四つ足で駆けこむ癖がある。彼女はアルトの前に立ち止まり、事前に教えられた作戦を伝える。


「あの、レノさんが……合図を出したら攻撃してくれって……」
「レノが……?」


聖剣を天に構えた状態のままで話を聞くという不可解な状況だが、ポチ子からレノの計画を聞かされ、彼は目を見開く。


「……本気か?」
「わうっ……皆さんは賛成しました」
「そうか……」


アルトは完全にレノの事を信用した訳ではなく、彼の計画に従うべきかどうか思い悩む。彼については色々と疑問はあるが、ジャンヌとポチ子の命をすくったのは事実であり、出来れば敵ではないと信じたい。

しかし、これまでの出来事が全てレノに仕組まれたのではないかとも考えてしまう。あの銀色のスライムも、目の前のゴーレム・キングも彼の意図に従って出現したようにも思えなくはないが、自分以外の者はミカを除いて信じ切っている。その事がどうにもアルトには気に入らないのも事実だ。


(……いや、今は彼に賭けるしかない)


例え罠だとしても、このままではゴーレムに全員が殺されてしまう。ならば危険を覚悟で彼の案に乗るしかない。


「分かった……やってみよう」
「頑張ってください!!私も応援します!!」
「あ、ありがとう……」


この計画のポチ子の役割はあくまでもアルトに知らせるだけであり、彼女にできる事は何もない。獣耳と尻尾を振りながら、アルトの気が散らない様に下がる。


「……何で、皆そう簡単に信じるんだ……」


簡単にレノを信用するリノンたちにアルトは呟かずにはいられないが、彼からの合図を見逃さない様に前方に視線を向ける。この計画はアルトの腕にかかっていると言っても過言ではない。アルトは色々と思う所はあるが、黙って聖剣を掲げたまま、ゴーレムの左足部分に視線を向ける。



――レノから言い渡された指示は「ゴンゾウ」と共に両足の破壊を行う事。この距離からでも彼の「ディバインスラッシュ」ならば通用し、もう片方はゴンゾウの怪力が頼りだ。



「――そろそろか……っと」


ドゴォオオオッ!!


振り落とされたゴーレムの拳を紙一重で避け、レノは空中に跳躍する。威力は凄まじいが、攻撃速度はそれほどではない。以前のタイプに比べても、今回のゴーレムは動きが鈍重だ。一撃でも当たれば敗北は免れないだろうが、あの「甲冑の騎士」や「白狼」と比べれば十分に対処しやすい。


「ぜぇっ……はあっ……!!」


ジャンヌの方に視線を向けると、彼女は全身から汗を流しながらも、背後から迫った一撃を体勢を低くして躱し、徐々にだがゴーレムに接近する。彼女の狙いはゴーレムの後頭部に突き刺さったままの「巨人殺し(ジャイアント・キリング)」であり、レノは頃合を見計らい、


「雷撃(らいげき)……!!」


ズドォオオオオンッ!!


「えっ……!?」
「なっ……」
「……すごい」


右腕に「雷」の魔力を纏わせ、この1年で新たに開発した「雷槍」の変化形であり、右腕に雷が帯びる。通常の撃雷と違い、電流が周囲に纏うのではなく、腕全体から雷が迸る。これは「アクセル(肉体強化)」と「雷」の魔力付与を利用しており、主に素手での戦闘を行う魔物を相手に生み出した。


「瞬脚!!」


――ドォオオンッ!!


「ゴォオオッ……!?」


空中で足の裏に「嵐」を形成させ、爆風を起こしてそのまま砲弾の如くゴーレムの頭部に目掛けて移動し、そのまま意表を突かれたゴーレム・キングに接近すると、


「いっ……ぱつ!!」


ズガァアアアアッ……!!


「ゴアァアアアアアアアッ……!?」


硬い岩石の皮膚で覆われたゴーレムの額に、レノの「雷撃」で強化された拳がめり込み、


ビキィイイイイッ……!!


拳がめり込んだ個所から激しい亀裂が入り込み、レノはさらにもう一撃とばかりに黒衣の左腕を振り上げ、


ジャララララッ!!


黒衣の間から「銀の鎖」が出現し、そのまま左腕に絡みつく。簡易な「鎖の腕」が完成し、電流を迸らせ、


バチィィイイイッ!!


「撃雷!!」


瞬時に「嵐」と「雷」を合成させ、螺旋状に取り巻く「風雷」を纏わせ、勢いよく鎖を巻き付けた左腕を放つ。


ズドォオオオオンッ!!


「ガァアアアアッ……!?」


――ドガァアアアアアアンッ!!


顔面に広がった亀裂がより一層激しくなり、すぐに顔面の岩石部分が崩壊を始めた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元聖女だけど婚約破棄に国外追放までされたのに何故か前より充実した暮らしが待ってた。

sirokin
ファンタジー
浄化の聖女と謳われた少女、アルルメイヤ・サリエルは魔王討伐を果たしたにも拘わらず、婚約破棄、挙げ句は国外追放を言い渡されてしまう。 そうして未開の森へと流された彼女に待っていたのは、かつて敵対していた魔物たちとの悠々自適な暮らしだった。 魔王討伐の道中、様々な文化に触れ培われた知識を活かし、衣食住の追求をしていく。 彼女の魔術は優しさを抱けば治癒、慈しみを抱けば浄化、憎しみを抱けば消滅の効果を持ち、更には標的となった者の邪悪な意思が強ければ強いほど高い殺傷能力を示す。 人類の脅威にはなり得ないと信じられていた彼女は、実は魔王よりも恐れるべき存在だったのだ。 しかしそれでもなお民衆は彼女を崇拝し続ける。 圧倒的な無自覚カリスマ、豊富な知識、数多の実践経験。 彼女と敵対した国は次々と勝手に破滅していった。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト
ファンタジー
魔王を倒し、邪神を滅ぼし、五年の冒険の果てに役割を終えた勇者は地球へと帰還する。 しかし、遂に帰還した地球では何故か三十年が過ぎており……しかも、何故か普通に魔術が使われており……とはいえ最強な勇者がちょっとおかしな現代日本で無双するお話です。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...