種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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腐敗竜編

迷宮内の異変

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「わうぅっ……は、離してください!!」
「ゲヘヘッ……!!」


ドスンッ!!ドスンッ!!


トロールは自身の肩にポチ子を担ぎながら通路内を駆け抜ける。巨体の割には俊敏であり、相当な速度で移動していた。

最初に持っていた剣は先ほどの広間に落としてしまうが、獲物だけは確保できた事に満足したのか逃走する。方の上でポチ子は必死に暴れるが、腕力ではトロールのほうが数倍以上も上であり、太い腕に抑えられてはどうしようもない。

すぐにアルトたちが追ってくるだろうが、このトロールから何とか逃げ出す術を考えなければならない。ポチ子は必死に身体をくねらせて脱出を計るが、


ギュウゥウウウッ……!!


「かはぁっ……!?」
「グフッ……グフッ……」


巨大な腕に締め付けられ、凄まじい腕力で拘束される。ポチ子は必死に肉体強化の魔力を送り込むが、それでも耐え切れない。遂には骨が軋む音が響き、このままでは内臓破裂を起こして死んでしまう前に必死にポチ子は脱出を試みるが、


「グェッ……!?」
「えっ……!?」


ズザザザッ……!!


突然、トロールの方が急ブレーキをかけて立ち止まり、前方に視線を向けたまま構える。ポチ子は自分を締め付けた血からが弱まったことで楽になるが、すぐに彼女も何とか首を曲げてトロールが見ている方向に視線を向けると、


「……外れか……まあいい、少しは腹の足しになるか」
「わふっ……!?」


そこには銀色の「スライム」が通路を阻むように立ち塞いでおり、あろう事か人間のように喋ったのだ。人語を話せるスライムなど聞いたことが無いが、目前の銀色の液体状の生物はゆっくりと形状を変え、人間の少年のような姿に変わり果てる。


「ふうっ……トロールに獣人か、ご馳走とは程遠いな」
「ご、ご馳走……何を言ってるんですか……!?」
「グゥウウウウッ……!!」


少年の形をしたスライムが何を言っているのかは理解できないが、敵意を向けている事は間違いなく、トロールは得体の知れない相手に対し、本能が目前の敵の危険性を伝えてくる。だが、ポチ子は怯えた事でトロールの力が弱まったことに気が付き、


「ほぁたっ!!」
「グブッ!?」


ドガァッ!!


何とか足を動かしてトロールの顔面に膝を叩き込み、掌から解放されて地面に降り立つ。そして即座にトロールの背後に回り込み、走り出す。


「ガァアアアッ!!」


ブオッ――!!


すぐにトロールは腕を振り上げ、ポチ子の背中に目掛けて掌を伸ばすが、


「よそ見しないでよ、寂しいじゃないか」


ズドォオオオオッ!!


「ウガァッ……!?」
「えっ……!?」


突如、トロールの胸元に鋭利に尖った銀色の突起物が貫き、一撃で心臓を突き刺す。トロールは大きく目を見開かせ、ゆっくりと膝を着くと、


ズゥウウウンッ……!!


巨体が地面に傾き、激しい地響きを鳴らして倒れこむ。


「……ま、こんなものか」


ポチ子の目には腕の部分を変形させ、銀色に光り輝く「槍」を生み出した銀髪の少年の姿があり、腕に付いたトロールの赤黒い血液を舐めとる。その姿にポチ子は全身の肌が震え、獣人の本能が危険を知らせる。


「さて……次は君だ」
「わぅっ……!?」


ダンッ!!


ポチ子はすぐに踵を返して走り込み、通路を後戻りする。犬の獣人である彼女は狼の如く疾走し、一気に距離を開く。


「待ちなよ~」


後ろから呑気な声が欠けられるが、ポチ子は必死に両手両足を地面に叩き付けて走り出す。二足歩行よりも四足歩行の方が移動速度は速く、このまま逃げ切ろうとした時、


「待ちなって」


ドォオオオンッ!!


「えっ……!?」


後方を振り返ると、銀髪の少年は両足の部分を「狼」のように銀色の毛皮で覆われた足へと変化させ、追跡を始める。その速度はポチ子よりも早く、両手を先ほどトロールを殺した「槍」へと変形させて追ってくる。ポチ子はその姿に目を見開き、必死に全力で駆けだす。

だが、ポチ子の必死の疾走にも関わらず、徐々に少年と7の距離は縮まり、やがて5メートルの距離まで詰められると、


「じゃあ……死になよ!!」
「ひぃっ……!?」


ドンッ!!


槍に変形させた両腕を振り上げ、ポチ子の背中目掛けて突き刺そうとした時、


「跳んでください!!」
「ッ!?」


前方からその声を聞いた瞬間、彼女は反射的に空中に跳び上がり、


「フォトン・レイ!!」


ズドォオオオオンッ!!


「なにっ……!?」


前方の通路から凄まじい光を放つ球体が高速で接近し、上空に飛び上がったポチ子の下を通り抜け、そのままスライムの身体に的中する。


ズガァアアアアンッ!!


派手にスライムの身体を吹き飛ばし、四肢を地面に散らばさせる。威力は鳳凰学園に居た頃のアルトの「ディバインスラッシュ」に匹敵するだろう。


「す、すごい……」
「平気ですかポチ子さん!!」


壁に張り付いたままのポチ子の元にジャンヌが駆け寄り、涙目でポチ子は彼女に飛びつく。


「ジャンヌさっ……むぐっ!?」
「あっ……すいません」


ガシィッ……


飛びついてきたポチ子の顔を咄嗟に反応して鷲掴み、彼女の可愛い顔立ちが崩れる。


「平気ですか」
「むぐぐっ……な、なんひょか……」
「そうですか……良かった」
「あ、あのはなひてくらはい……」
「す、すいません……」


彼女の頬を離し、その場に下ろすと、ポチ子は両頬を摩りながら地面に散らばった銀色のスライムに視線をやる。


「し、死んじゃったんですか……?」
「一応は全力で放ちましたが……一体、何者なんですか?」
「す、スライムです……それも、人の姿をした」
「スライムが、人の姿に……?」


じゅるじゅるっ……


通路内の地面に散らばった銀色の液体が一か所に集結し、楕円形の形に変化する。


「痛いなぁ……あんた、楽には死なせないよ?」


そして、すぐに先ほどの銀髪の少年の姿に変形し、ジャンヌは目を見開く。まさか、本当にスライムが人型に変形し、さらに「人語」を発したことに驚きを隠せない。
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