種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
193 / 1,095
腐敗竜編

勇者という存在

しおりを挟む
「くそっ……何処だよあいつ等……役立たず共が……」


アルトたちがオーガと交戦中、ただ一人レッド・スライムを追ったカネキは完全に迷宮内に迷い込んでいた。最初の内は真っ直ぐに通路は進んでいたのだが、気が付いたら無数の道が入り組んでおり、帰り道さえ分からなくなる。

あの赤いスライムは外見では考えられないスピードで逃げ回り、既に見失ってしまった。枯葉悪態を吐きながらも元の場所に戻ろう歩き回るが、一行に見覚えのある景色にはたどり着けない。先ほどから迷宮内では振動が広がり、暗闇で覆われた場所に一人でいる事が無性に恐怖を感じ、彼は冷汗を流す。


「何でこんな目に……ゲームじゃ、こんな場所なかったぞ……」


カネキは周囲を警戒しながら歩み始める。長い間、この世界で過ごしてきたが単独でこのような危険地域に訪れたことは実は数えるほどしかない。


「くそっ……ステータス・オープン!!」


ブンッ――!!


突如、カネキの目の前の視界にゲームでいうところの「ステータスウィンドウ」と呼ばれる画面が出現する。



――最初にこの世界に召喚された勇者達はだけが扱える魔法であり、自分の正確な身体能力や魔力、さらには勇者には「レベル」という特殊な加護が授かれる。



ステータス画面の頭には「レベル:80」と表示されており、彼の頭の中で知っている「MSW(マジック・スキル・ワールド)2」というあるゲームの中では最高レベルだ。

カネキはこの世界に召喚された時、ある違和感を覚えた。それは自分が知っている現実世界の「オンラインゲーム」とよく酷似された世界観であり、その違和感は確信に変わったのは、ゲーム中に出てくるキャラクターやモンスターの存在を確認した時であり、彼は自分たちがゲームの世界に入り込んだと確信した。

ただ、彼の記憶通りとは知っているダンジョンの構造や、世界の地形が大きく違い、特に「M・S・W2」の世界では種族は無数に存在したはずだが、ドワーフや天人族(天使のように羽根が生えた種族)が既に絶滅している事は予想外だった。

それでも彼の知識はだいたい間違いは無く、すぐに経験値の高い魔物を優先的に倒してレベルを上げ続ける。この経験値というのは強い魔物を倒す事だけではなく、単純な鍛錬でも得られるが、彼は地道なトレーニングよりも魔物を倒すことで手っ取り早くレベルを上昇させる。

レベルが上がることに身体能力や魔力が上がり、さらには長い間この世界に居るが自分たちの外見が変化しない。身体は成長も老化もせず、勇者たちは何時までも召喚された状態のままだ。いくら体を鍛えこもうが、筋肉などは成長せず、試しに暴飲暴食をしてみたが体重も変化しない。



――カネキは勇者たちの中では自分が一番この世界に熟知していると思っていたが、どうやら他の面々もこの世界が「Ⅿ・S・W2」というゲームの世界と酷似している事を知っており、それぞれが活躍している。それがカネキが唯一気に入らない事であり、勇者として人々から讃えられるのは自分だけで十分だという歪んだ思いもある。



この世界に召喚された勇者の数は30名ほどであり、ほとんどが十代後半~二十代前半、カネキのように高校生もいれば、大学生や社会人も混じっている。カネキは勇者たちの中では戦士として活躍している事から「戦闘組」と呼ばれており、他にも魔術師として特化した者は「支援組」と呼ばれている。

ちなみに一緒にやってきた「ミカ」は支援組であり、魔術師として様々な魔法を使える。レベルは60後半と聞いており、カネキにとっては外見は好みだが、生意気な学生時代の後輩だった。


「……ちっ……探索魔法ぐらい無いのかよ……」


レベルが上がれば勝手にステータス画面の「スキル」という欄に新しい魔法が追加され、スキルの隣には「熟練度」という数値があり、魔法を使用すればするほど熟練度は上がるシステムであり、威力が上昇する。

彼は「Ⅿ・S・W2」の知識を通して、様々な魔法(スキル)を使用するよりも、一定のスキルを使い続ける事で熟練度を上昇させる方が有利な事を知っていた。だからこそ、カネキは攻撃スキル系を中心に熟練度を強化しており、基本的にステータス上昇や回復系のスキルはあまり習得していない。支援組のミカならば周囲の状況を把握する探索魔法を覚えている可能性はあるが、彼女が自分のために探索魔法を使用してまで探し出すとは期待していなかった。


ズルッ……ズルッ……


「……ん?」


背後から先ほどまで聞き慣れた音が聞こえ、カネキは笑みを浮かべて振り返ると、


「……あ?」


予想に反し、そこには赤いスライムではなく、「銀色」のスライムがゆっくりとこちらに向かっていた。大きさは2メートル級であり、先ほどのレッド・スライムと比べては小ぶりであるが、外見は赤色から銀色に変わった程度である。

カネキの記憶には存在しないタイプのスライムであり、彼は笑みを浮かべて剣を構える。先ほどは油断したが、今度は間違わない様に魔法を使う準備を行う。勇者という存在は1人残らず魔力が多いため、無詠唱魔法を行える。詠唱を行うほうが魔力の消費は減るが、基本的に勇者達は詠唱しないで魔法を発動させる。

カネキは目の前のスライムを確認し、相手は銀色のため、弱点は掴みにくいが、適当に「炎」でも当てればいいだろうと安易な判断を下し、


「火竜円武!!」


ゴォオオオオンッ!!


刀身が炎を纏い、先端部から炎の「輪」が出現して銀のスライムに放たれる。彼の魔法(スキル)の中ではそれなりに熟練度は高いが、


ドガァアアアアンッ!!


炎の輪がスライムの身体に触れた瞬間に爆散し、黒い煙で覆われる。カネキはそれを見て笑みを浮かべるが、


――ズドンッ!!


「……あっ……?」


黒煙から銀色の塊が飛び出し、まるで弾丸のようにカネキの頭部を貫き、


ビシャァアアアッ……!!


夥しい血液を放出しながらカネキは膝を着き、


ドサッ……


その場に倒れこむ。最早、どのような魔法を施そうが既に手遅れの状態だった――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

魔力なしの役立たずだと婚約破棄されました

編端みどり
恋愛
魔力の高い家系で、当然魔力が高いと思われていたエルザは、魔力測定でまさかの魔力無しになってしまう。 即、婚約破棄され、家からも勘当された。 だが、エルザを捨てた奴らは知らなかった。 魔力無しに備わる特殊能力によって、自分達が助けられていた事を。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

黒薔薇王子に好かれた魔法薬師は今日も今日とて世界を守る

綾乃雪乃
恋愛
ミリステア魔王国の巨大城で働く魔法薬師のメイシィ 彼女には1つ困った悩みがあった それは、自国の第三王子、クリードに一目惚れされてしまったこと 彼のあだ名は『黒薔薇王子』 周りにいる側近たちは口をそろえて言う 「彼が病めば――――世界が崩壊する」 今日も《彼》から世界を守れ! 病み王子 × お仕事一筋女子の魔王城恋愛コメディ なろう、エブリスタ、カクヨムにも掲載中

神様のサウナ ~神様修業がてらサウナ満喫生活始めました~

イタズ
ファンタジー
定年を機に、サウナ満喫生活を行っていた島野守。 極上の整いを求めて、呼吸法と自己催眠を用いた、独自のリラックス方法『黄金の整い』で、知らず知らずの内に神秘の力を身体に蓄えていた。 そんな中、サウナを満喫していたところ、突如、創造神様に神界に呼び出されてしまう。 『黄金の整い』で得ていた神秘の力は、実は神の気であったことが判明し、神の気を大量に蓄えた身体と、類まれなる想像力を見込まれた守は「神様になってみないか?」とスカウトされる。 だが、サウナ満喫生活を捨てられないと苦悶する守。 ならば異世界で自分のサウナを作ってみたらどうかと、神様に説得されてしまう。 守にとって夢のマイサウナ、それが手に入るならと、神様になるための修業を開始することに同意したとたん。 無人島に愛犬のノンと共に放り出されることとなってしまった。 果たして守は異世界でも整えるのか? そして降り立った世界は、神様が顕現してる不思議な異世界、守の異世界神様修業とサウナ満喫生活が始まる! *基本ほのぼのです、作者としてはほとんどコメディーと考えています。間違っていたらごめんなさない。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

処理中です...