種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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闘人都市編

彼女との契約

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「……くそっ……」


ジャラララッ……


足元に鎖を引きずりながら、レノは魔方陣の中で横たわる。既に魔方陣に閉じ込められてから2日が過ぎており、闘人都市の「剣乱武闘」は既に開始されている。

当初の目的ではアイリィと共に既に地下迷宮から脱出し、彼女の転移魔方陣で闘人都市に戻るつもりだったが、その肝心のアイリィの姿が見当たらない。少なくとも1人で先に帰ったという事は無いだろう。


カランッ……


「……邪魔だな」


右腕に地面に横たえた「カラドボルグ」が触れ、剣を別の場所に移動させる。触れただけで膨大な魔力を感じ取り、間違いなくこれがアイリィの目的である聖剣であることは間違いない。


「……はあっ……」


何度もこの魔方陣の外に出ようとしたが、身体に巻き付かれた銀の鎖がそれを許さない。また、身体の方も回復しきっていないのか、レノはずっと横たわっているばかりだった。この2日間、レノは睡眠ばかりで食事を行っていない。だが、身体の方は着実に回復しており、痛みも和らげば魔力も取り戻したが、あれから上手く魔法を発動できない。



――何よりも気にかかる事は背中に存在したはずの「反魔紋」の消失だ。



「……どうなってるんだ」


ボウッ……!


一番最初にビルドから教えられた呪文を呟き、掌に風の魔力で形成された球体が誕生する。これは無詠唱で発動させたわけではなく、詠唱魔法で発現させた。何時もならば呪文を口にするだけで全身に電流が流れ込むはずだが、今は解除されている。

他にも記憶のある限りの教わった詠唱魔法を唱えるが、何度行っても背中にあるはずの「反魔紋」は発動せず、身体中に電流が流し込まれる気配は無い。長年苦しめていた魔方陣の消失は喜ばしいことだが、同時にレノは「雷」を操る事が出来なくなる――はずだった。


「……撃雷」


――バチィィイイイッ!!


右手にいつも通りに嵐の魔力を螺旋状に纏わせ、同時に「雷」を迸らせる。どういう訳か、「反魔紋」が無くなったにも関わらずにレノは「雷属性」の魔法を使用できる。

しかも雷を放出しても身体には何の異変も無く、いつもの激痛は走らない。間違いなく、これはレノの体内から作り出された電撃であり、本来なら種族的に習得できるはずがない雷属性を習得したことに違いない。

理由は不明だが、まるで反魔紋の発電能力が自分の体内に吸収されたような感覚だ。激痛が走らないのはいいことだが、違和感は拭えない。


「……何が起きてるんだよ……」


何もない場所でずっと1人きりなど、この島の北部山岳で慣れていたと思っていたが、前回と今回では状況が違う。あの時は助けてくれるものは誰一人居なかったが、今回は明らかにレノは生かされている。

この地下迷宮に入ってから随分と時間が経つが、未だに甲冑の騎士以降は生物の姿が見えない。この広い場所で魔物らしきものは見当たらず、無数の武具が突き刺さっているだけだ。

魔方陣の中に居るだけで身体の回復が早く、それに結界の類でも張られているのか、内側から手を伸ばしても見えない「壁」のように阻まれる。これでは鎖が無くても逃げ出すことは出来ない。

いつまでこの六芒星の魔方陣が展開されるのかは不明だが、抜け出す術はない。武器はどれも使い物にならず、内側から破壊する事は難しい。数ある「防御魔法陣(プロテクト)」の中でも最上位の魔法陣であり、これを破壊するには「聖痕」の所有者ぐらいだろう。


「……残されたのは……これだけか」


魔方陣の上に転がっている「カラドボルグ」を見つけ、溜息を吐く。この聖剣を使えば例え六芒星の魔方陣だろうが破壊できるだろうが、あの甲冑の騎士が腕を融解させながら使用していたのを思いだし、両腕を確認する。

長年の反魔紋の使用で、並大抵の電撃の耐性は着いているが、流石に伝説と謳われたカラドボルグの電圧に耐えられるとは考えられない。


――だが、脱出の唯一の手段はこの剣しかない。


「……やるか」


覚悟を決めて、カラドボルグを拾い上げ、柄を握りしめる。そして、ゆっくりと刀身を抜くと、


ゴォオオオオオッ……!!


「くっ……!!」


少しだけ鞘から抜き放っただけで、刀身から衝撃波が放たれ、魔方陣の見えない「壁」を震わせる。地面に落としそうになるが、それでも何とかこらえて鞘を握りしめ、ゆっくりとカラドボルグを完全に引き抜く。


――ビュオォオオオオオオッ……!!


「……これが……聖剣……」


刀身から凄まじい衝撃波が放たれ、それだけで魔方陣を取り囲む見えない障壁が振動する。手に持つだけでも聖剣の強い魔力を感じ取り、こんなものを自分が扱えるのかと不安になる。

しかし、予想に反して両手には妙に暖かい感触が広がるだけであり、電流が流されてこない。甲冑の騎士の時は鎧が融解するほどの高熱を発していたはずだが、今のレノには特に反応しない。


RPGゲームではあるまいし、この聖剣に自分が認められたという中二病的な発想も無い。恐らくは本来の所有者である「アイリィ」の仕業だろう。彼女がどこに居るのかは分からないが、有りがたいことだ。


「……こう、か?」


両手で柄を握りしめながら、聖剣を頭上に持ち上げ、刀身から雷を放つ想像を浮かべた。聖剣の使い方は聖爪で慣れているが、規模があまりにも違いすぎる。



――バチィイイイイイイッ……!!



刀身が光り輝き、先端の部分のみに金色の光が灯され、レノは魔方陣の障壁に向けて構える。そして、拳銃を引き抜くように雷を撃ちぬく想像を浮かべ、


ズドォオオオオンッ!!


バリィイイイインッ!!


刀身の先端から一筋の雷光が放たれ、一瞬で障壁を貫き、ガラスが割れたような音が響き渡った。


ジャラララッ……


同時にレノの身体を拘束していたはずの銀の鎖が、力が抜けた様に地面に落ちる。


「くっ……!?」


ゴォオオオオオッ……!!


レノは聖剣の刀身から凄まじい衝撃波が放たれ、危うく手放しそうになるが、何とか地面に横たわった鞘を拾い上げ、


「このっ……戻れ!!」


ジャキィッ!!


無理やりに鞘の中に聖剣を抑え込み、すぐにも衝撃波は消散する。レノは一安心したようにカラドボルグを地面に放置し、片手で鎖を引きずりながら魔方陣の外に出る。


「……ふうっ……」


ドサッ……


やっとの事で魔方陣の脱出に成功し、その場に座り込んだ途端、



ボウッ……!!



「えっ?」


振りかえると、そこには障壁を破壊したはずの六芒星の魔方陣が光り輝き、陣の上に置きっぱなしのカラドボルグごと、徐々に周囲の風景に同化するように掻き消えてしまう。慌てて先ほどまで魔方陣があった場所に駆け込むが、そこには最初から何もなかったように痕跡すら残さず、地面が広がっているだけだった。


「……まあ、いいか」


六芒星とカラドボルグの消失にただ一言だけそう告げると、レノは長い吐息を吐く。魔方陣が消えたことに関しては意図的な物を感じられ、最初から彼が脱出することを見据えて敷かれていたように思える。

但しカラドボルグまで消えたのは予想外だが、あの聖剣は今のレノでは扱いきれない。この六芒星の魔方陣を作り出したのがアイリィだとしたら、聖剣についても問題はないと思いたい。


「……これからどうするかな」


少なくとも、頭が冷静になったことであのアイリィが死んだとはレノは思っていない。先ほどの魔方陣にしろ、自分の左腕の黒衣の包帯にしろ、明らかに彼女が施した物だろう。姿が見えないのは不安だが、よくよく考えれば聖痕を3つも所持しているのだ。例え、あのダークエルフが相手だろうとそう簡単にやられる彼女とは思えない。


「……聖痕か」


自分の左腕を確認し、つい先日までは存在した他の聖痕を「吸収」するはずの紋様が消失しているはずだが、


ボウッ……!


「まだ続けろってことか……」



――右手の甲に存在する見慣れた「紋様」にレノは苦笑いを浮かべる。まだ彼女との契約は残されているのだ。



取りあえず、ここからどう脱出するかは考え込んでいると、


ズシンッ……ズシンッ……!!


「……はあっ……」


地面が揺れ動き、背後から何かが近づいてくる気配と音が聞こえ、振り返るとそこには、


「ゴォオオオオオオオオッ!!」


ビリビリッ……!!


3メートルを超す全身がまるで岩のような皮膚で覆われた「石人形(ゴーレム)」が立っており、明らかにレノに対して敵意を抱いていた。

この二日間、魔方陣の中に居たときは見かけなかった魔物の出現に特に驚きはない。恐らく、あの六芒星の魔方陣はレノの姿を覆い隠す役割を持っており、突然広間に表れた彼に反応してゴーレムが飛び出してきたのだろう。

ゴーレムというのは魔物の中でも特殊な部類であり、どちらかというと人間などの種族が生み出した種が多い。眼の前のゴーレムは恐らくこの島が海上王国と呼ばれた時代に造られた産物だ。レノを侵入者と判断したのか、ゴーレムは巨大な岩の拳をぶんぶんと振り回し、威嚇と思わしき行動を取る。


「……面倒だな」


――バチィィイイイッ!!


右腕に雷を纏わせながら、レノはゆっくりと同じように腕を一度振ると、


「まっ……いつも通りでいいか」


ドォオオオンッ!!


肉体強化を済ませ、レノは大きく足を踏みつけ、拳を振り上げる。同時にゴーレムもその巨大な岩の拳を振り上げ、


ズガァアアアアアッ!!


「ゴォオオオオオオッ!!」
「がぁああああああっ!!」


二つの拳はぶつかり合い、周囲に衝撃波が生まれ、


ドゴォオオオオンッ!!


「ゴウッ……!?」


地面に破壊された無数のゴーレムの瓦礫が散布し、レノはさらに大きく踏み込み、身体全体を回転させて勢いを付けた「弾撃」を、


「らあっ!!」


メキィイイイイッ……!!


「ゴアッ……!?」


がら空きの顔面に目掛けて拳を振り上げ、


「あああっ!!」


ドガァアアアアンッ!!


そのまま横倒しにゴーレムを地面にめり込ませ、そのまま動かなくさせる。


「ゴ……アッ……」
「ふうっ……」


レノは右拳を確認し、軽い痣が残っているが、十分に身体を回復したことを確認し、頭上を見上げる。アイリィが作り上げた大木によって迷宮内は大きく破壊されたはずだが、どういう訳か天井に広がったはずの亀裂は跡形も残っていない。この迷宮が普通の場所ではない事は分かっていたが、まさか自動修復まで行うなど思いもしなかった。

ここまで来るのに上の階から落下したため、レノは上の階層に上がる道は知らない。という事は、地道に上の階に繋がる路を探さなければならないのだが、


「……何とかなるか」


まともな食料も無く、数多くの危険な魔物や死人が行きかう迷宮であるが、レノは何の根拠も無く、生き残れる自信だけは残っていた。こんな危機的状況など、北部山岳で何度も味わっている。
最初の目的はこの迷宮からの脱出ではなく、アイリィの捜索とダークエルフの追跡からであり、上手く作動しない銀の鎖と聖爪を掲げながら、


「行くか」


彼は地下迷宮を煤も事を決意した――



――ここから約1年半後、つまりレノが「15歳」を迎えたときに物語は大きく進展する。
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