183 / 1,095
闘人都市編
黒衣の包帯
しおりを挟む
「……さて」
眼の前の灰となったアイリィを確認し、その消し炭が風に吹かれて完全に消え去るまで確認すると、ダークエルフは今度は六芒星の魔方陣の上で眠りこけているレノに視線をやる。
完全に反魔紋が解かれた以上、彼は森人族だけではなく、全種族の中でも驚異的な存在へと変わり果てた。再び、魔王のような存在へと変わる可能性があるハーフエルフを純粋な森人族ならば見逃さないだろう。
だが、ダークエルフは目の前のレノに対してどうしても止めを刺せない。最初に出会った時は何の躊躇も無く突き刺したが、今の彼はどうしても「惜しい」ここで殺せば、自分を楽しませる存在が1つ消えてしまう。
現在のレノの傍にはカラドボルグが横たわっており、あの剣も回収する手筈だったが、彼女の目的はゲイ・ボルグだった。聖剣よりも呪われた魔槍の方が、彼女には自分に合っている気がした。
「……お互いに数奇な運命に生まれたな。そこだけは同情してやる」
「ハーフエルフ」に「ダークエルフ」どちらも純粋な森人族ではないという点は同じであり、境遇も似ている。違いがあるとすれば戦闘に特化したのが「ダークエルフ」魔法に才があるのは「ハーフエルフ」と言われている。
だが、目の前のレノは何かが可笑しい。普通のハーフエルフにしては魔力量も多く、何より先ほどの戦闘は彼女も見ていたが、異常なまでの身体能力だ。ダークエルフの血も流れているからという理由では説明がつかない。
――明らかに彼の身体には「何か」が混じっている。それが何なのかは分からないが、少なくとも興味をそそられた。
「命拾いしたな……」
ダークエルフは一言だけ告げると、踵を返して歩み出す。目指す場所は地下迷宮の最下層、魔王ですら手を出さなかった「悪魔」達の住処に向けて移動し、刃が欠けた薙刀を背中にしまい込むと、そのまま歩みだす――
ーー数時間後、レノは瞼を開き、すぐに異変に気が付く。まず、身体中に激痛が走り、すぐに苦しげな表情を浮かべるが、
「えっ……?」
左腕に違和感を感じ、見るとそこにはカラドボルグで撃ち落とされたはずの左腕ではなく、黒い包帯のような物が巻かれている。傷口を止血しているわけではなく、文字通りに包帯が「左腕」の形をしていた。
これが何なのかは分からないが、先の迷宮で目にした「黒衣の騎士」と同じ素材で作られているのは肌触りで分かる。しかし、何故こんなものが巻かれているのか。
「……左腕は……ないな」
黒衣の包帯で形成された「左腕」は、指や腕の部分を動かす事は出来るが、感覚は無い。試しに指の部分の包帯をずらしてみると、
「……風?」
指の部分の包帯を覗き見ると、黒衣の中には風属性の魔力が垣間見えるどうやらレノの身体から放たれる風の魔力が左腕を形作り、包帯が魔力を覆っているようだ。
レノはおぼろげながらに自分が「暴走」し、そしてあの「甲冑の騎士」を倒した時の状況を思い出す。記憶は曖昧だが、確かに「銀の鎖」を左腕代わりに巻き付かせ、鎖の先端の聖爪(ネイルリング)を掌代わりに扱っていたはず。
包帯を戻し、周囲を見渡すと何故か自分が地面の上に書き込まれた「六芒星」の魔方陣の上で寝ていたことを思いだし、
カランッ……
「……?」
すぐ傍に鞘に納められた「カラドボルグ」が転がっている事に気が付き、他にも「銀の鎖」や爪の部分が罅割れた聖爪も発見する。
だが、どちらも随分と酷いありさまであり、鎖に至っては所々が焼け焦げている。聖爪に関しては罅割れが激しく、これ以上の使用は不可能だろう。いつも通りに右腕に巻き付けようとするが、銀の鎖は魔力を送り込んでも反応を示さず、地面に横たわったままだ。
「アイリィ……?」
何とか立ち上がり、彼女の姿を探すが、どういう訳か姿が見当たらない。あの甲冑の騎士も見えないが、嫌な予感が振り払えない。
彼女の目的物である「カラドボルグ」が傍に放置されたまま、肝心のアイリィの姿が見えないことに異様な不安を感じる。周囲を何度も見渡すが、無数の武具が突き刺さった風景が広がっているだけだ。
先の戦闘で形成された地面の陥没や、アイリィが「樹」の聖痕を使用して生み出した巨大な樹木が倒木しているだけであり、他の生物の気配無い。だが、嫌な予感に駆られ、周囲の痕跡を詳しく調べると、
「……えっ……」
地面をみると、何らかの焦げ跡が延々と広がっており、ハーフエルフとして優れた嗅覚から何度か嗅ぎ覚えのある臭いが漂っていた。
――そう、生き物が焼失された臭いだ。
ドクンッ……!!
「……嘘だ……ありえるはずがない」
普通に考えれば彼女がここに居るはずがない、しかし、不気味な確信を抱く。ここには間違いなく、あのダークエルフが立ち寄ったのだ。アイリィの姿が見えないことが急速に不安と恐怖を覚え、彼女を探し出そうと魔方陣の外に飛び出そうとした瞬間、
ジャララララッ!!
「あぐっ……!?」
地面に倒れていた「銀の鎖」がレノの身体に巻き付き、魔方陣の中に押しとどめる。無理やり外そうとしたが、どうしても引き剥がせない。
「離せ……離せ!!」
無理やり外そうとしたが、この鎖の頑丈さはよく知っている。力ずくでどうにかなるものではなく、かと言って魔法を使用にも、どうにも上手く発動できない。消えたアイリィに、先ほどまで居たと思われる「ダークエルフ」何としても追跡をしようと足掻くが、鎖が解かれる様子はない。
「離せぇええええええええっ!!」
レノの咆哮は虚しく大広間に響き渡るだけだった――
眼の前の灰となったアイリィを確認し、その消し炭が風に吹かれて完全に消え去るまで確認すると、ダークエルフは今度は六芒星の魔方陣の上で眠りこけているレノに視線をやる。
完全に反魔紋が解かれた以上、彼は森人族だけではなく、全種族の中でも驚異的な存在へと変わり果てた。再び、魔王のような存在へと変わる可能性があるハーフエルフを純粋な森人族ならば見逃さないだろう。
だが、ダークエルフは目の前のレノに対してどうしても止めを刺せない。最初に出会った時は何の躊躇も無く突き刺したが、今の彼はどうしても「惜しい」ここで殺せば、自分を楽しませる存在が1つ消えてしまう。
現在のレノの傍にはカラドボルグが横たわっており、あの剣も回収する手筈だったが、彼女の目的はゲイ・ボルグだった。聖剣よりも呪われた魔槍の方が、彼女には自分に合っている気がした。
「……お互いに数奇な運命に生まれたな。そこだけは同情してやる」
「ハーフエルフ」に「ダークエルフ」どちらも純粋な森人族ではないという点は同じであり、境遇も似ている。違いがあるとすれば戦闘に特化したのが「ダークエルフ」魔法に才があるのは「ハーフエルフ」と言われている。
だが、目の前のレノは何かが可笑しい。普通のハーフエルフにしては魔力量も多く、何より先ほどの戦闘は彼女も見ていたが、異常なまでの身体能力だ。ダークエルフの血も流れているからという理由では説明がつかない。
――明らかに彼の身体には「何か」が混じっている。それが何なのかは分からないが、少なくとも興味をそそられた。
「命拾いしたな……」
ダークエルフは一言だけ告げると、踵を返して歩み出す。目指す場所は地下迷宮の最下層、魔王ですら手を出さなかった「悪魔」達の住処に向けて移動し、刃が欠けた薙刀を背中にしまい込むと、そのまま歩みだす――
ーー数時間後、レノは瞼を開き、すぐに異変に気が付く。まず、身体中に激痛が走り、すぐに苦しげな表情を浮かべるが、
「えっ……?」
左腕に違和感を感じ、見るとそこにはカラドボルグで撃ち落とされたはずの左腕ではなく、黒い包帯のような物が巻かれている。傷口を止血しているわけではなく、文字通りに包帯が「左腕」の形をしていた。
これが何なのかは分からないが、先の迷宮で目にした「黒衣の騎士」と同じ素材で作られているのは肌触りで分かる。しかし、何故こんなものが巻かれているのか。
「……左腕は……ないな」
黒衣の包帯で形成された「左腕」は、指や腕の部分を動かす事は出来るが、感覚は無い。試しに指の部分の包帯をずらしてみると、
「……風?」
指の部分の包帯を覗き見ると、黒衣の中には風属性の魔力が垣間見えるどうやらレノの身体から放たれる風の魔力が左腕を形作り、包帯が魔力を覆っているようだ。
レノはおぼろげながらに自分が「暴走」し、そしてあの「甲冑の騎士」を倒した時の状況を思い出す。記憶は曖昧だが、確かに「銀の鎖」を左腕代わりに巻き付かせ、鎖の先端の聖爪(ネイルリング)を掌代わりに扱っていたはず。
包帯を戻し、周囲を見渡すと何故か自分が地面の上に書き込まれた「六芒星」の魔方陣の上で寝ていたことを思いだし、
カランッ……
「……?」
すぐ傍に鞘に納められた「カラドボルグ」が転がっている事に気が付き、他にも「銀の鎖」や爪の部分が罅割れた聖爪も発見する。
だが、どちらも随分と酷いありさまであり、鎖に至っては所々が焼け焦げている。聖爪に関しては罅割れが激しく、これ以上の使用は不可能だろう。いつも通りに右腕に巻き付けようとするが、銀の鎖は魔力を送り込んでも反応を示さず、地面に横たわったままだ。
「アイリィ……?」
何とか立ち上がり、彼女の姿を探すが、どういう訳か姿が見当たらない。あの甲冑の騎士も見えないが、嫌な予感が振り払えない。
彼女の目的物である「カラドボルグ」が傍に放置されたまま、肝心のアイリィの姿が見えないことに異様な不安を感じる。周囲を何度も見渡すが、無数の武具が突き刺さった風景が広がっているだけだ。
先の戦闘で形成された地面の陥没や、アイリィが「樹」の聖痕を使用して生み出した巨大な樹木が倒木しているだけであり、他の生物の気配無い。だが、嫌な予感に駆られ、周囲の痕跡を詳しく調べると、
「……えっ……」
地面をみると、何らかの焦げ跡が延々と広がっており、ハーフエルフとして優れた嗅覚から何度か嗅ぎ覚えのある臭いが漂っていた。
――そう、生き物が焼失された臭いだ。
ドクンッ……!!
「……嘘だ……ありえるはずがない」
普通に考えれば彼女がここに居るはずがない、しかし、不気味な確信を抱く。ここには間違いなく、あのダークエルフが立ち寄ったのだ。アイリィの姿が見えないことが急速に不安と恐怖を覚え、彼女を探し出そうと魔方陣の外に飛び出そうとした瞬間、
ジャララララッ!!
「あぐっ……!?」
地面に倒れていた「銀の鎖」がレノの身体に巻き付き、魔方陣の中に押しとどめる。無理やり外そうとしたが、どうしても引き剥がせない。
「離せ……離せ!!」
無理やり外そうとしたが、この鎖の頑丈さはよく知っている。力ずくでどうにかなるものではなく、かと言って魔法を使用にも、どうにも上手く発動できない。消えたアイリィに、先ほどまで居たと思われる「ダークエルフ」何としても追跡をしようと足掻くが、鎖が解かれる様子はない。
「離せぇええええええええっ!!」
レノの咆哮は虚しく大広間に響き渡るだけだった――
0
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる