181 / 1,095
闘人都市編
命乞い
しおりを挟む
「……何で、貴女がここに……」
アイリィは全身から冷や汗を流す。この状況で、最も最悪な存在が目の前に現れたのだ。彼女の事は良く知っている、以前に彼女が所属していたある組織と共に過ごしていた相手であり、ダークエルフは倒れ込んだレノを見やり、口元に笑みを浮かべ、
「こいつには……会うたびに驚かされるな。よく成長している」
「……?」
今の彼女の言葉に奇妙な違和感を感じる。だが、すぐにダークエルフはアイリィに視線を戻し、彼女が掲げている「カラドボルグ」を見やる。間違いなく、この女の目的はこの聖剣だろうが、何故、今更これを求めるのか。
「ちょっとした事情で武器が使い物にならなくってな……代わりの物を探している途中だ」
「……なるほど」
確かにダークエルフが背にしている薙刀の刃は酷い刃毀れを起こしており、最早、鈍器代わりにしかならないだろう。だが、アイリィの記憶が頼りならばあの武器は過去の大戦で作り上げられた聖遺物に匹敵するほどの業物のはずだったが、これでは使い物にならないだろう。
「何を仕出かしたんですか貴女……」
「たいしたことじゃない……砂漠の生意気な小娘に少しばかりな」
「砂漠……」
放浪島に住んでいるアイリィにも「アマラ砂漠」の盗賊王の名前は聞いている。しかし、まさか目の前のダークエルフの武器を破壊できるほどの強力な聖具を所持していたとは予想外だった。間違いなく、カラドボルグに匹敵する「聖遺物」による攻撃を受けたのだろう。アイリィの頭の中に複数の伝説級の武具が浮かび上がるが、どちらにしろ今は確認する暇はない。
眼の前の「最悪」からどうやって逃げ切るのかが重要であり、カラドボルグの力を引き出して戦闘を行う方法もあるが、今のアイリィでは聖剣の魔力を完全に引き出すことは不可能。第一に使用する前に一瞬で殺されてしまうだろう。
「世間話はここまでにしておけ……単刀直入に言おうか?」
「……聞きたくないですね」
「……その剣を寄越せ」
「……これをあげれば黙って引き下がってくれますか?」
「まさか」
ブォンッ――!!
ダークエルフは刃が欠けた長刀を振るいあげ、石突の部分をアイリィの喉元に向ける。殺気は感じられないが、異様なまでの威圧感を感じる。
「生きていたことは驚きだが……首を斬られれば今度こそは生きていられないだろう?」
「それはどうですかね……また首が生えてくるかもしれませんよ」
「なら、八つ裂きにして火葬してやろう」
「冗談が通じないんですか貴女……相変わらず先輩に容赦ないですね」
「……お前には色々と世話になった。だから、一応は忠告してやる。黙って寄越せ」
アイリィはレノを抱えたまま地面に膝を付き、この距離では例え魔力が残っていたとしても逃げ切ることは出来ない。現在所有している聖痕ではダークエルフに対抗する事も難しく、この目の前の女の「聖痕」は最も厄介な能力だ。
フードで身体を覆い隠しているが、ダークエルフの身体には最も強大な力を誇る「聖痕」が刻まれている。全ての聖痕の中でも最も強く、アイリィでさえ完全な制御を出来ない力を、この目の前の女は彼女以上に操っている。
ダークエルフは長刀を上空に掲げ、不意に気絶しているレノに視線をやり、何か考える素振りを見せると、
「……その子とはどういう関係だ?」
「……契約を交わしただけですよ」
「契約、か……ここで殺すのは惜しいな」
「なら見逃してくれませんかね……」
「ふむっ……」
彼女は長刀を降ろし、レノの顔を見つめる。予想外の反応にアイリィは困惑するが、
「いいだろう……その子供だけは見逃してやる」
「え?」
意外な返答にアイリィの方が呆然とするが、ダークエルフは再度、薙刀の石突を構え、
「だが、見逃すのは命だけだ。その後の事までは知らん」
「……どういう意味ですか」
「ここで聖剣を渡さなければ殺すのはお前一人だけだ。その後、こいつが何をしようが知ったことではない」
「まさか、ここに置き去りにする気ですか?……こんな場所に?せめて地上まで連れて行っても……」
「そこまで面倒は見きれん」
最大限の譲歩だとばかりにダークエルフは黙り込み、アイリィは考える。ここで2人とも殺されて「カラドボルグ」を奪われるか、それともレノ1人を助けてもらうべきか。答えは簡単だった。
「分かりました。但し、少しだけ時間を下さい」
――数分後、アイリィは地面に最大の防御魔法陣(プロテクト)である「六芒星」の魔方陣を地面に書き込み、魔力を送り込む。
魔方陣は白い光を発し、その展開した陣の上にレノの肉体をうつ伏せに寝かせると、まずは彼の服の上半身を脱がせ、「反魔紋」を晒させる。
「色々と付き合わせてすいませんね……最後ですから、最大限のプレゼントを上げますよ」
背中に広がる「反魔紋」に両手を翳し、魔方陣の外で観察しているダークエルフの視線を感じながらも、彼女は残された限りない魔力を掻き集めた。
アイリィは全身から冷や汗を流す。この状況で、最も最悪な存在が目の前に現れたのだ。彼女の事は良く知っている、以前に彼女が所属していたある組織と共に過ごしていた相手であり、ダークエルフは倒れ込んだレノを見やり、口元に笑みを浮かべ、
「こいつには……会うたびに驚かされるな。よく成長している」
「……?」
今の彼女の言葉に奇妙な違和感を感じる。だが、すぐにダークエルフはアイリィに視線を戻し、彼女が掲げている「カラドボルグ」を見やる。間違いなく、この女の目的はこの聖剣だろうが、何故、今更これを求めるのか。
「ちょっとした事情で武器が使い物にならなくってな……代わりの物を探している途中だ」
「……なるほど」
確かにダークエルフが背にしている薙刀の刃は酷い刃毀れを起こしており、最早、鈍器代わりにしかならないだろう。だが、アイリィの記憶が頼りならばあの武器は過去の大戦で作り上げられた聖遺物に匹敵するほどの業物のはずだったが、これでは使い物にならないだろう。
「何を仕出かしたんですか貴女……」
「たいしたことじゃない……砂漠の生意気な小娘に少しばかりな」
「砂漠……」
放浪島に住んでいるアイリィにも「アマラ砂漠」の盗賊王の名前は聞いている。しかし、まさか目の前のダークエルフの武器を破壊できるほどの強力な聖具を所持していたとは予想外だった。間違いなく、カラドボルグに匹敵する「聖遺物」による攻撃を受けたのだろう。アイリィの頭の中に複数の伝説級の武具が浮かび上がるが、どちらにしろ今は確認する暇はない。
眼の前の「最悪」からどうやって逃げ切るのかが重要であり、カラドボルグの力を引き出して戦闘を行う方法もあるが、今のアイリィでは聖剣の魔力を完全に引き出すことは不可能。第一に使用する前に一瞬で殺されてしまうだろう。
「世間話はここまでにしておけ……単刀直入に言おうか?」
「……聞きたくないですね」
「……その剣を寄越せ」
「……これをあげれば黙って引き下がってくれますか?」
「まさか」
ブォンッ――!!
ダークエルフは刃が欠けた長刀を振るいあげ、石突の部分をアイリィの喉元に向ける。殺気は感じられないが、異様なまでの威圧感を感じる。
「生きていたことは驚きだが……首を斬られれば今度こそは生きていられないだろう?」
「それはどうですかね……また首が生えてくるかもしれませんよ」
「なら、八つ裂きにして火葬してやろう」
「冗談が通じないんですか貴女……相変わらず先輩に容赦ないですね」
「……お前には色々と世話になった。だから、一応は忠告してやる。黙って寄越せ」
アイリィはレノを抱えたまま地面に膝を付き、この距離では例え魔力が残っていたとしても逃げ切ることは出来ない。現在所有している聖痕ではダークエルフに対抗する事も難しく、この目の前の女の「聖痕」は最も厄介な能力だ。
フードで身体を覆い隠しているが、ダークエルフの身体には最も強大な力を誇る「聖痕」が刻まれている。全ての聖痕の中でも最も強く、アイリィでさえ完全な制御を出来ない力を、この目の前の女は彼女以上に操っている。
ダークエルフは長刀を上空に掲げ、不意に気絶しているレノに視線をやり、何か考える素振りを見せると、
「……その子とはどういう関係だ?」
「……契約を交わしただけですよ」
「契約、か……ここで殺すのは惜しいな」
「なら見逃してくれませんかね……」
「ふむっ……」
彼女は長刀を降ろし、レノの顔を見つめる。予想外の反応にアイリィは困惑するが、
「いいだろう……その子供だけは見逃してやる」
「え?」
意外な返答にアイリィの方が呆然とするが、ダークエルフは再度、薙刀の石突を構え、
「だが、見逃すのは命だけだ。その後の事までは知らん」
「……どういう意味ですか」
「ここで聖剣を渡さなければ殺すのはお前一人だけだ。その後、こいつが何をしようが知ったことではない」
「まさか、ここに置き去りにする気ですか?……こんな場所に?せめて地上まで連れて行っても……」
「そこまで面倒は見きれん」
最大限の譲歩だとばかりにダークエルフは黙り込み、アイリィは考える。ここで2人とも殺されて「カラドボルグ」を奪われるか、それともレノ1人を助けてもらうべきか。答えは簡単だった。
「分かりました。但し、少しだけ時間を下さい」
――数分後、アイリィは地面に最大の防御魔法陣(プロテクト)である「六芒星」の魔方陣を地面に書き込み、魔力を送り込む。
魔方陣は白い光を発し、その展開した陣の上にレノの肉体をうつ伏せに寝かせると、まずは彼の服の上半身を脱がせ、「反魔紋」を晒させる。
「色々と付き合わせてすいませんね……最後ですから、最大限のプレゼントを上げますよ」
背中に広がる「反魔紋」に両手を翳し、魔方陣の外で観察しているダークエルフの視線を感じながらも、彼女は残された限りない魔力を掻き集めた。
0
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる