種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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闘人都市編

命乞い

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「……何で、貴女がここに……」


アイリィは全身から冷や汗を流す。この状況で、最も最悪な存在が目の前に現れたのだ。彼女の事は良く知っている、以前に彼女が所属していたある組織と共に過ごしていた相手であり、ダークエルフは倒れ込んだレノを見やり、口元に笑みを浮かべ、


「こいつには……会うたびに驚かされるな。よく成長している」
「……?」


今の彼女の言葉に奇妙な違和感を感じる。だが、すぐにダークエルフはアイリィに視線を戻し、彼女が掲げている「カラドボルグ」を見やる。間違いなく、この女の目的はこの聖剣だろうが、何故、今更これを求めるのか。


「ちょっとした事情で武器が使い物にならなくってな……代わりの物を探している途中だ」
「……なるほど」


確かにダークエルフが背にしている薙刀の刃は酷い刃毀れを起こしており、最早、鈍器代わりにしかならないだろう。だが、アイリィの記憶が頼りならばあの武器は過去の大戦で作り上げられた聖遺物に匹敵するほどの業物のはずだったが、これでは使い物にならないだろう。


「何を仕出かしたんですか貴女……」
「たいしたことじゃない……砂漠の生意気な小娘に少しばかりな」
「砂漠……」


放浪島に住んでいるアイリィにも「アマラ砂漠」の盗賊王の名前は聞いている。しかし、まさか目の前のダークエルフの武器を破壊できるほどの強力な聖具を所持していたとは予想外だった。間違いなく、カラドボルグに匹敵する「聖遺物」による攻撃を受けたのだろう。アイリィの頭の中に複数の伝説級の武具が浮かび上がるが、どちらにしろ今は確認する暇はない。

眼の前の「最悪」からどうやって逃げ切るのかが重要であり、カラドボルグの力を引き出して戦闘を行う方法もあるが、今のアイリィでは聖剣の魔力を完全に引き出すことは不可能。第一に使用する前に一瞬で殺されてしまうだろう。


「世間話はここまでにしておけ……単刀直入に言おうか?」
「……聞きたくないですね」
「……その剣を寄越せ」
「……これをあげれば黙って引き下がってくれますか?」
「まさか」


ブォンッ――!!


ダークエルフは刃が欠けた長刀を振るいあげ、石突の部分をアイリィの喉元に向ける。殺気は感じられないが、異様なまでの威圧感を感じる。


「生きていたことは驚きだが……首を斬られれば今度こそは生きていられないだろう?」
「それはどうですかね……また首が生えてくるかもしれませんよ」
「なら、八つ裂きにして火葬してやろう」
「冗談が通じないんですか貴女……相変わらず先輩に容赦ないですね」
「……お前には色々と世話になった。だから、一応は忠告してやる。黙って寄越せ」


アイリィはレノを抱えたまま地面に膝を付き、この距離では例え魔力が残っていたとしても逃げ切ることは出来ない。現在所有している聖痕ではダークエルフに対抗する事も難しく、この目の前の女の「聖痕」は最も厄介な能力だ。

フードで身体を覆い隠しているが、ダークエルフの身体には最も強大な力を誇る「聖痕」が刻まれている。全ての聖痕の中でも最も強く、アイリィでさえ完全な制御を出来ない力を、この目の前の女は彼女以上に操っている。

ダークエルフは長刀を上空に掲げ、不意に気絶しているレノに視線をやり、何か考える素振りを見せると、


「……その子とはどういう関係だ?」
「……契約を交わしただけですよ」
「契約、か……ここで殺すのは惜しいな」
「なら見逃してくれませんかね……」
「ふむっ……」


彼女は長刀を降ろし、レノの顔を見つめる。予想外の反応にアイリィは困惑するが、


「いいだろう……その子供だけは見逃してやる」
「え?」


意外な返答にアイリィの方が呆然とするが、ダークエルフは再度、薙刀の石突を構え、


「だが、見逃すのは命だけだ。その後の事までは知らん」
「……どういう意味ですか」
「ここで聖剣を渡さなければ殺すのはお前一人だけだ。その後、こいつが何をしようが知ったことではない」
「まさか、ここに置き去りにする気ですか?……こんな場所に?せめて地上まで連れて行っても……」
「そこまで面倒は見きれん」


最大限の譲歩だとばかりにダークエルフは黙り込み、アイリィは考える。ここで2人とも殺されて「カラドボルグ」を奪われるか、それともレノ1人を助けてもらうべきか。答えは簡単だった。



「分かりました。但し、少しだけ時間を下さい」



――数分後、アイリィは地面に最大の防御魔法陣(プロテクト)である「六芒星」の魔方陣を地面に書き込み、魔力を送り込む。


魔方陣は白い光を発し、その展開した陣の上にレノの肉体をうつ伏せに寝かせると、まずは彼の服の上半身を脱がせ、「反魔紋」を晒させる。


「色々と付き合わせてすいませんね……最後ですから、最大限のプレゼントを上げますよ」


背中に広がる「反魔紋」に両手を翳し、魔方陣の外で観察しているダークエルフの視線を感じながらも、彼女は残された限りない魔力を掻き集めた。
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