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闘人都市編
火葬
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上手く浄化が成功し、地面に刻まれた魔方陣の上に置かれたビルドの杖は、先ほどまでの不気味さを纏わせた黒色から、みすぼらしい茶色の杖へと化していた。ミキは慎重に杖を拾い上げ、直接触れる事で「呪詛(呪いの魔力)」が消え去ったことを確認し、すぐに傍に控えさせたワルキューレから木造のケースを受け取る。
「これは……我々が管理しておきます」
「ああ……それが良いだろうね」
「ワルキューレ!!先に戻りなさい!!」
「「はっ!!」」
ケースの中に杖を保管すると、すぐに硝子の戸を閉めてワルキューレに手渡す。決して、下手な真似をしないように厳重に注意させながら彼女達を宿に返す。同時にヨウカも女騎士の護送され、別れ際にレノ達に向けて「じゃあね~」と呑気に手を振りながら、彼女達に運ばれていく。
その場に残ったのはレノ達3人と、腐り果てた無残な姿のビルドのみであり。レノは変わり果てた彼女にどうすればいいのかと、キに視線を向けると、
「……丁重に埋葬したいところですが、既にこの方の身体全身に魔道具の「呪詛」が流れ込まれています。放って置けば、疫病を生み出す可能性がありますね」
「そんな……」
「下手に埋める事も出来ないね……火葬してやるのがいいのかい?」
「いえ……ここまで呪詛が侵攻していると、死体の灰でさえも病気の元になります」
「なら、どうするんだい?まさかお手上げとでも言う気じゃないだろうねぇ……」
「大丈夫です。普通の炎では駄目ですが、我々聖導教会の「聖火」ならば完全に呪詛を振り払うこともできます」
「聖火?」
レノの頭に「オリンピック」という文字が浮かぶが、多分、関係ないだろう。ミキは懐から「小瓶」を取り出し、瓶の中には「青白い火」が燃え盛っている。完全に密封されているはずだが、不思議な事に消える様子は無く、中で何時までも燃え続けている。
彼女は瓶の蓋を開けると、ビルドの死体の上に瓶を逆さにして、中身の聖火を落とす。ゆっくりとビルドの身体に向かって聖火が下降して行き、やがて地面に横たわる死体の肌に触れた瞬間、
ボウッ!!
「うわっ!?」
「っ!?」
凄まじい発火を起こし、そのまま聖火はビルドの身体を青白い炎で包み込むと、徐々に彼女の身体から黒い煙が噴き出していく。ミキは2人を下がらせ、煙を浴びない様に気を付けさせる。
「この煙に触れてはいけません……大丈夫、すぐに掻き消えますから」
ミキの言う通り、煙は数メートルほど上昇すると完全に掻き消え、見えなくなる。数秒ほどビルドの身体に聖火が燃え続けると、やがて火は治まり、ついには人型の灰と化したビルドだけが残される。その変わり果てた姿にレノがじっと見つめていると、ミキが彼の隣に並び、
「……祈りを捧げましょうか」
「いや……それはダメだ」
残酷だが、この世界の死者への祈りは善人だけに限られている。この善人という曖昧な定義は、少なくとも人殺しを行っているかどうかで判断される。
ビルドは直接的ではないにしろ、孤児院に居た頃に何人もの子供達を死に追いやっている。例えば彼女の言う事を聞かない子供や、身体が不自由で上手く孤児院の仕事をやれない子供に対して毎日のように暴行を行い、最低限の食事しか与えない。
そのせいで、まだ精神的にも肉体的にも追い詰められた子供たちが自殺を行う事もあり、その子供の後始末すらも他の孤児院の子供たちにやらせたのだ。どう考えても、彼女が「善人」であるはずがない。しかし、彼女に育てられていなければ今のレノはいない。
「……バル、あんたまだ酒を隠し持っているだろ?金は払うからくれ」
「は?……別にいいけどさ」
「まだ持っていたんですか……?」
先ほどまでべろんべろんに酔っ払っていたにも関わらず、彼女は懐から小さな瓶を取り出し、偶然にもビルドの奴が一番好きな酒だった。レノはそれを受け取り、蓋を開けてミキを見ると、彼女は彼が何をやりたいのかに気が付き、頷いてくれる。
「この人には……これが一番だ」
ジョボボボッ……
人型の死体の灰に上から瓶を零し、中身の酒を振りかけてやる。すぐに酒は灰に飲み込まれていき、やがて瓶の中身を全て流し込むと、
ぶわぁっ……
「わっ……」
強風が吹き溢れ、そのまま灰を遥か上空へと舞い上げる。その光景を三人は見つめながら、
「……しんみりしちまったけど、取りあえず帰るかい?」
「……そうだね」
バルの言葉に頷き、既に夜が明けて、闘人都市に朝日が射していく――
「これは……我々が管理しておきます」
「ああ……それが良いだろうね」
「ワルキューレ!!先に戻りなさい!!」
「「はっ!!」」
ケースの中に杖を保管すると、すぐに硝子の戸を閉めてワルキューレに手渡す。決して、下手な真似をしないように厳重に注意させながら彼女達を宿に返す。同時にヨウカも女騎士の護送され、別れ際にレノ達に向けて「じゃあね~」と呑気に手を振りながら、彼女達に運ばれていく。
その場に残ったのはレノ達3人と、腐り果てた無残な姿のビルドのみであり。レノは変わり果てた彼女にどうすればいいのかと、キに視線を向けると、
「……丁重に埋葬したいところですが、既にこの方の身体全身に魔道具の「呪詛」が流れ込まれています。放って置けば、疫病を生み出す可能性がありますね」
「そんな……」
「下手に埋める事も出来ないね……火葬してやるのがいいのかい?」
「いえ……ここまで呪詛が侵攻していると、死体の灰でさえも病気の元になります」
「なら、どうするんだい?まさかお手上げとでも言う気じゃないだろうねぇ……」
「大丈夫です。普通の炎では駄目ですが、我々聖導教会の「聖火」ならば完全に呪詛を振り払うこともできます」
「聖火?」
レノの頭に「オリンピック」という文字が浮かぶが、多分、関係ないだろう。ミキは懐から「小瓶」を取り出し、瓶の中には「青白い火」が燃え盛っている。完全に密封されているはずだが、不思議な事に消える様子は無く、中で何時までも燃え続けている。
彼女は瓶の蓋を開けると、ビルドの死体の上に瓶を逆さにして、中身の聖火を落とす。ゆっくりとビルドの身体に向かって聖火が下降して行き、やがて地面に横たわる死体の肌に触れた瞬間、
ボウッ!!
「うわっ!?」
「っ!?」
凄まじい発火を起こし、そのまま聖火はビルドの身体を青白い炎で包み込むと、徐々に彼女の身体から黒い煙が噴き出していく。ミキは2人を下がらせ、煙を浴びない様に気を付けさせる。
「この煙に触れてはいけません……大丈夫、すぐに掻き消えますから」
ミキの言う通り、煙は数メートルほど上昇すると完全に掻き消え、見えなくなる。数秒ほどビルドの身体に聖火が燃え続けると、やがて火は治まり、ついには人型の灰と化したビルドだけが残される。その変わり果てた姿にレノがじっと見つめていると、ミキが彼の隣に並び、
「……祈りを捧げましょうか」
「いや……それはダメだ」
残酷だが、この世界の死者への祈りは善人だけに限られている。この善人という曖昧な定義は、少なくとも人殺しを行っているかどうかで判断される。
ビルドは直接的ではないにしろ、孤児院に居た頃に何人もの子供達を死に追いやっている。例えば彼女の言う事を聞かない子供や、身体が不自由で上手く孤児院の仕事をやれない子供に対して毎日のように暴行を行い、最低限の食事しか与えない。
そのせいで、まだ精神的にも肉体的にも追い詰められた子供たちが自殺を行う事もあり、その子供の後始末すらも他の孤児院の子供たちにやらせたのだ。どう考えても、彼女が「善人」であるはずがない。しかし、彼女に育てられていなければ今のレノはいない。
「……バル、あんたまだ酒を隠し持っているだろ?金は払うからくれ」
「は?……別にいいけどさ」
「まだ持っていたんですか……?」
先ほどまでべろんべろんに酔っ払っていたにも関わらず、彼女は懐から小さな瓶を取り出し、偶然にもビルドの奴が一番好きな酒だった。レノはそれを受け取り、蓋を開けてミキを見ると、彼女は彼が何をやりたいのかに気が付き、頷いてくれる。
「この人には……これが一番だ」
ジョボボボッ……
人型の死体の灰に上から瓶を零し、中身の酒を振りかけてやる。すぐに酒は灰に飲み込まれていき、やがて瓶の中身を全て流し込むと、
ぶわぁっ……
「わっ……」
強風が吹き溢れ、そのまま灰を遥か上空へと舞い上げる。その光景を三人は見つめながら、
「……しんみりしちまったけど、取りあえず帰るかい?」
「……そうだね」
バルの言葉に頷き、既に夜が明けて、闘人都市に朝日が射していく――
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