種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
137 / 1,095
闘人都市編

浄化の儀式

しおりを挟む
バルの驚き様は決して異常ではなく、裏の人間ならば必ずと言ってもいいほど「死霊使い」という人種は避けては通れない存在である。

死霊使いは「闇ギルド」に所属するいわば用心棒的な存在であり、数は少ないが決して敵に回してはいけない相手として有名だ。死霊と化した死体は胸元の魔道具を破壊しない限りは動き続け、さらには生前の力は残されたまま操られる。

分かりやすく言えば生前が「剣士」だった場合、死霊と化した際には肉体の全盛期の頃の身体能力が復活する。腐敗した肉体から思えぬほどの俊敏さと、腕力を取り戻す。但し、剣術の技量に関しては当てはまらず、あくまでも死体を操作する死霊使いの力量が反映される。

魔術師が死霊と化した場合、生前で最も魔力が高まっていた状態で復活する。先ほどのビルドも恐らくは若かりし頃(冒険者時代)と同じころの魔力を復活させていたのは間違いない(それにしても異様なまでに魔法が強すぎる気がしたが)。


「……こちらの杖の方も調べましたが……どうやらとんでもない物を発見したようです」
「どういう意味だい?まさか、魔剣や聖剣の類だったとは言わないだろうね?」
「それよりも質が悪いですね……」


ミキは手袋をしながらビルドが使用していた杖を握りしめ、バルたちの前に差し出す。見るだけで明らかに得体のしれないオーラを纏っており、ゲームで例えるなら一度装備したら外れ無さそうな呪いの類が掛けられているのは間違いない道具だ。


「……こいつは呪具の類かい?」
「わあ……おどろおどろしいなぁ……」
「気持ち悪い……」


ミキはその杖をベンチでレノに膝枕しているヨウカに差し出し、彼女はきょとんとした顔つきでミキを見上げると、


「ヨウカ様……浄化してください」
「えっ!?」
「浄化?そんな高等魔法までこの嬢ちゃんは出来るのかい?」
「ぬっ……!」
「むっ……!」


ジャキッ……!!


ミキの後方からワルキューレの集団が、巫女姫であるヨウカを「嬢ちゃん」と軽々しく声を掛けるバルに剣を向ける。そんな彼らの反応にバルは訝しげにミキを見つめると、彼女は冷や汗を流しながら視線を反らす。どうやら、彼女にはまだヨウカが巫女姫である事を明かしていなかったらしい。

まあ、巫女姫であるヨウカを連れ込んで裏の闘技場に誘い込んだなど説明出来るわけがなく、実際にヨウカも引き連れてきたワルキューレ騎士団にも、ミキと夜の散歩中に不審者に襲われたとしか説明しておらず、レノとバルについては偶然その場に居合わせた人間だとしか説明していない。


「ふうっ……まあいいよ、詳しい事情は聞かないけど……このお嬢ちゃん1人で浄化なんて出来るのかい?」
「貴様……姫に……!!」
「い、いいのです。下がりなさい!」
「は、はい?」


ヨウカに軽口を立てるバルにワルキューレ騎士団の女騎士は詰め寄ろうとしたところ、慌ててミキが引き留め、彼女達を無理やり下がらせる。バルは一層に訝しい視線を見せてくるが、ヨウカに視線をやると、彼女は全身から汗を流しており、その雫がレノの頬にまで垂れてくる。


「わ、私が?で、でもマザーも浄化魔法使えるよね!?」
「私は先ほどの戦闘で大分魔力を消費しましたので……それにヨウカ様の方が浄化がお得意ではないですか?」
「初耳だよ!?」


良い笑顔で語り掛けてくるミキにヨウカは驚愕の表情を浮かべる。どうやらこの反応では、またミキが彼女に多少無茶な要求を押し付けているのだろう。だが、このまま「杖」を放って置くのは危険な気がする。レノは顔を上げると、ヨウカの肩に手を置き、


「よし……やってやれヨウカ。大丈夫、お前なら出来るさ!!」
「レノたん!?」
「そうですよヨウカ様!!貴女なら大丈夫です!!」
「マザー!?」
「何だか良く分からないけど……あんたなら平気だよ!!」
「バルさんまで!?」


まさかの三方向からの言葉攻めに、ヨウカは涙目で縮こまる。だが、流石にこのまま「杖」を放置するわけには行かない。その後、しばらくの間は彼女の説得のために時間を費やしたが、結局ヨウカが根負けして渋々と「浄化の儀式」を始める。

「浄化」と言っても、特に難しい作業ではなく、内容は呪いが掛けられた道具に聖属性の魔力を送り込むだけでいいのだ。但し、この方法は異様なまで魔力を必要とするので、この場では最も魔力が強いヨウカが最適なのだろう。

地面の上にミキが三角形の魔方陣を描き、杖をその上に置くと簡単な結界(見えない障壁を作り出す)を発動させて杖を取り囲む。


「じゃ、じゃあ行くよ……?失敗しても怒らないでね……?」
「怒りませんよ(ニコリ)」
「当たり前じゃないか~(ニヤリ)
「大丈夫大丈夫(ニヤニヤ)」
「その黒い笑顔は何!?」


3人のプレッシャーを後方から浴びながら、魔方陣に向けて手を翳し、


「すぅっ……はあぁっ……!!」


ボウッ……!!


(へえっ……?)


以前よりも遥かに早く「聖属性」の白い靄のような魔力を放出し、すぐに「杖」に向けて取り囲む。


バチバチィッ……!!


黒い杖から「黒雷」が放出されるが、どんどんと押し寄せるヨウカの魔力に押し潰され、


バチィイイイッ!!


「わうっ!?」


杖から最後の悪あがきとばかりに黒雷が迸るが、すぐにミキが作り出した三角形の結界が発動し、ヨウカの身を守る。結界内で電流が何度もヨウカに向かうが、ミキの作り出した結界は破壊されず、杖の色が茶色に変色し、電流も止まる。


「……浄化成功ですね」
「ふはぁ~……が、頑張ったよ」


ミキの言葉にヨウカは肩の力を抜き、レノ達に疲れた表情でピースを向ける。意外なほどに呆気ない終わり方だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!

ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。 しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

処理中です...