種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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闘人都市編

意外な再会再び

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「よおバル!!久しぶりだな!!」
「カイン!!あんたまだ生きてたのかい!?」
「勝手に殺すな!!相変わらずだなおい!!」


一見はビルを思わせる建物の中に入り込み、バルの後に続いて埃臭い階段を降ると、そこには巨大な地下空間が広がっていた。旧世界のフェンスを想像させる鉄柵で覆われた十メートルほどの闘技場が幾つも並んで広がっており、大柄で筋肉質な男たちの集団が集まっていた。中にはレノ達のようにフードやマントで姿を隠した者も多く、魔術士らしき者もいる。

受付の中年男性の名前は「カイン」というらしく、昔バルがお世話になっていた男だそうだ。何処となく、バルの姿を見て彼の頬が赤い気がするのは見間違いではないだろう。


「……そっちの坊主は?」
「ああ、あたしの弟同然の奴さ……どうしてもここの闘技場に参加したいらしくてね」
「……正気かよ、ここが何処だか分かってるのか?」
「余計な心配はいらないよ!こう見えても森人族だからね……半分は」
「あん?」


バルの物言いにカインは首を傾げ、あまりにも唐突な彼女のカミングアウトにレノの方が驚く。「ハーフエルフ」であることを他人に晒すなど、普段の彼女ならば絶対に行わないはずだが。カインはじっとレノの顔を見つめ、不意に口元を歪ませる。それは決して不快な物ではなく、すぐに彼が笑みを浮かべていることに気が付く。


「ハーフエルフか……面白い。こいつは期待できそうだな」
「だろ?優秀な魔術師だから、舐めてかかると痛い目に遭うよ?」
「よ~し……長年の付き合いだ。今回だけ参加料は無料で良いぜ!!」


レノがハーフエルフと知っても特に態度を変えず、むしろ面白気に語るカインに驚きを隠せない。ここまで好意的な反応をしてくれたのはカリナ達以来だ。すぐにカインは参加証の割符を手渡し、レノの試合場は「A(正確には英数字と似た文字)」であり、一番手前の闘技場だった。


「試合はあと前座が三人分終わってからだ。今回はトーナメント方式だからな……時間的にもぎりぎりだったぜ」
「そうなのかい……ちなみに参加者はどれくらいだい?」
「ええっと……だいたい60人くらいだ。つまり、6回勝ち残れば「剣乱武闘」の「金貨(参加賞)」を渡してやる」


にんまりと笑みを浮かべるカインに、バルも同じように笑みを浮かべ、レノを抱き寄せる。


「……優勝者の賭け事もやってるんだろ?掛け金は幾らだい?」
「へっ……最低でも銅貨5枚だぜ?」
「乗ったよ!銀貨1枚こいつに掛けるよ!!」
「はっ!大きく出たな!」


バルは銀貨一枚を受付に放り投げると、カインはそれを受け取り、そのままレノ達は試合場の前に移動する。既にそれぞれの試合場には複数の種族が登っており、人間、獣人、巨人、森人族の四種類の者が立っている。


「はああっ!!」
「ふんっ!!」


ガキィイインッ!!


獣人の剣士と、巨人族の戦士が刀剣を交わわせ、


「アクアショット!!」
「火炎弾!!」


ズガァアアアアンッ!!


詠唱を終え、同時に水と火の魔弾を衝突させる人間と森人族の魔術師も存在し、試合場に派手な爆発と水蒸気が舞い、鉄柵に「防御魔法」でも練り込められているのか、その爆風と煙は外に漏れることは無かった。彼等がトーナメントの前座試合として出場しているにしては相当に魅せる戦いであり、試合観戦していた者達が盛り上がる。


「いけぇ!!やれやれ!!」
「おい、お前に幾ら賭けてんだと思ってんだ!?負けんな馬鹿!!」
「あぁああああああっ!!立て、立てよぉっ!!俺のなけなしの銀貨2枚ぃ!!」


バル以外にも大勢の者が賭け事をしているのか、試合の内容よりも勝敗に熱中している者も多い。その様子に呆れるべきか、それともこんな場所に降り立ってでも金の執着する彼らにある意味感心するべきか、悩みどころだ。


「おい、あんたぁ!!生温い闘いするんじゃないよ!!ぶっ飛ばされたいのかい!!」
「ひ、ひぃいっ……!?」


その集団の先頭に何時の間にかバルが移動しており、試合場の人間の剣士に脅しをかけている。相手は3メートル級の巨人族であり、どう考えても彼に勝ち目は少なそうだが、彼女の脅しに必死に剣を震わせる。

このような時の彼女の行動の速さには時折着いて行けないが、こんな性格だからこそ、周囲の人間達が放って置かずにはいられないのだろう。


「ふうっ……」


レノは試合前の規則が描かれた看板を見つける。規則と言っても、基本的に相手を殺さなければ許される内容だった。急所攻撃で禁止されているのは目つきだけであり、武器の使用は特に禁じられていない。壁側に背もたれしながら、ゆっくりとトーナメントが開催されるまで試合を観戦しようとした時、


「……あれ?レノたん?」
「……え?」


隣で同じように壁に背を預ける白いフードの人間が、レノの顔を見た瞬間にそう声を掛ける。レノも顔向けると、相手はフードから顔を出し、


「ヨウカ!?」
「あ、やっぱりレノたんだ~」


やっほ~と、呑気に手をひらひらとさせる聖導教会の象徴である「巫女姫」ことヨウカが、何故か裏の人間しか訪れる事が出来ない地下闘技場に居た。


「久しぶり~!もう、ずっと会えなくて寂しかったよ~?」
「もがっ!?」


むにゅうぅっ


彼女はレノに抱き付き、その豊満な胸で彼の顔を挟み込む。胸の感触から間違いなく彼女だと判断し、


「な、何でここに……?というか、マザーに殺されるぞ!?」


このような場所にヨウカが居るなど、あの厳格な「ミキ」が許すはずがないと思うが、ヨウカはきょとんとした顔で、


「え?マザーならあそこで……」


彼女は試合場の方を指さし、レノはそちらに顔を向けると、



「そこのあなたぁああああっ!!諦めるんじゃありません!!手足が動き続ける限り、闘い続けなさい!!」
「負けたらぶっ飛ばすぞ、てめぇえええ!!」
「ひ、ひぃいいいいいいいっ!?」



――何故かバルの横で、試合所の人間の剣士を脅す彼女の姿があった。
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