105 / 1,095
聖痕回収編
黒猫酒場
しおりを挟む
「隠れ家って……ただの廃れた酒場じゃないか?」
「馬鹿にするんじゃないよ!!まあ……開店にはもうちょい時間がかかるけどね」
都市の中心街に存在する小さな「酒場」に馬車は立ち止まり、すぐにレノ達は中に入り込む。外見は少し寂れた酒場だが、中の方は意外と掃除されており、女盗賊たちは積み荷を運び出す。
今回運んでいた物は以前の「アジト」に放置していた資材(主に家具)であり、何とかまだ使えそうなものだけを回収したらしい。レノも彼女たちの手伝いをしようとしたが、バルがそれを遮ってカウンター席に彼を座らせる。バルはカウンターに飾っている葡萄酒を取り出し、コップを2つ机に置く。
「まずは久しぶりの再会に乾杯といこうか……酒は飲めるんだろうね?」
「葡萄酒なら平気だよ……たぶん」
とぷとぷとコップに葡萄酒を注ぐ彼女に、レノは土産代わりに背中の荷物から「林檎(リンゴ)」を取り出し、彼女の前に差し出す。
「何だい、これは?」
「林檎(リンゴ)だよ。見たことは……あるわけないか」
「ああ……初めて見る果物だね。どこの地方の物なんだい?」
「ええっと……そんなには遠くないかな」
場所については老人から口外しない様に言われているので、適当にぼかすとレノはすぐに林檎(リンゴ)の皮をナイフで「兎型」の形にして、バルが用意した皿の上に置く。
シャクッ……
「んっ……味も悪くないけど、しゃくしゃくした食感が堪らないね!!」
「でしょ?」
この世界の果実というのはどうも味はともかく、蜜柑のように食感が柔らかい物ばかりなのだ。そのため、リンゴのような物はかなり珍しいのか、バルはすぐに他の女子も呼び出して食べさせる。
「うわっ、すごくおいしい!!」
「美味いね~」
「すごいっ……こんなの初めて」
美味しそうにリンゴにむしゃぶりつく女部下達に、レノは笑みを浮かべながらもすぐにバルに視線を向け、
「ところで……聞きたいことがあるんだけど」
「うん?何だい?」
「ここ最近、センチュリオンがここいらに現れた噂は聞いてる?」
「ああ……あいつ等かい。最近はよく耳にする犯罪者集団だろ?」
バルは眉をしかめながら、新たにコップに葡萄酒を注ぎ込み、
「センチュリオンがこの街に現れたってのは聞いたことは無いね……けど、最近ここいら周辺で有り得ない「魔獣」や「魔物」が出現しているのはよく聞くね」
「魔獣……」
先ほどの古井戸の中で死んでいた「狼男」の死骸を思いだし、少なくとも3年前はあのような魔獣は出現したことは無い。
これも魔物活性化のせいなのか、それとも何らかの組織が魔獣達をこの地方に放出しているのかは定かではない。しかし、専門家によるとどうも魔獣が自然発生しただけとは考えられず、後者の可能性も否定できないとの事。
「うちのアジトも幾つかやられてね……そのせいで、こんな街中に堂々と新しいアジトを作り出さなきゃいけなくなったんだよ」
「相変わらず大胆不敵だな……盗賊が酒場をやるって……」
「あたしらはよく酒場に立ち寄るからね……買う方から売る方に変わるとは思いもしなかったけど」
お蔭で随分と金を使い果たしたよ、と愚痴るバルは、商品である酒をまた新たに開くと、新しくコップに注ぎ込む。相変わらず酒に強い彼女にレノは呆れてしまう。
「姉御~……荷物運び終わったよ……」
「あ~?ご苦労さん、今日は自由にしていいよ」
「やた!街に行ってくるね!」
「失礼します」
「行って来ます!」
女部下3人は酒場を飛び出し、バルとレノはそれを手を振りながら見送ると、不意に思い出したようにレノは腰に付けた「短刀」を机の上に置く。
「……何だいそのみすぼらしい短剣は?」
「聖剣だよ、エクスカリバーの欠片入りさ」
「はっ、あの伝説の?馬鹿言うんじゃないよ!!」
大声で笑い声を上げるバルにレノは連られて笑いながらも、すぐに真剣な表情で彼女を見つめる。バルはそれを見て、レノが嘘をついてない事を悟り、
「……マジで?」
「マジだよ」
「マジかい……幾らぐらいで売れるかね」
「生憎と非売品だ……それに誰もこれが聖剣の類何て信じないだろ」
恐る恐る手を伸ばしてくるバルから、すぐにも短剣を取り上げて腰に戻す。金目の物なら何でも盗み取る彼女だからこそ、先にこの短剣に金銭的価値は低いことを示す。バルはじっとレノの短剣を見つめるが、すぐに首を振って「そんなもん、取りゃしないよ……」と呟きながらも、ちらちらと見つめてくる。
そこから先は久しぶりの雑談と、バルルが今日の夕方頃に訪れるという話を聞き終え、レノは酒場の2階にあるバルたちの住み込み部屋へと上がる。部屋は無数に余っており、その中の1つの鍵を渡され、中に入り込むむと既に先ほどの女部下たちが持ち込んだ家具が放置されており、その中の1つに布団を見つける。
「よいしょっと……」
ここ最近、野宿続きだったためにレノはすぐに布団の上に寝転がると、即座に睡魔に襲われた――
「馬鹿にするんじゃないよ!!まあ……開店にはもうちょい時間がかかるけどね」
都市の中心街に存在する小さな「酒場」に馬車は立ち止まり、すぐにレノ達は中に入り込む。外見は少し寂れた酒場だが、中の方は意外と掃除されており、女盗賊たちは積み荷を運び出す。
今回運んでいた物は以前の「アジト」に放置していた資材(主に家具)であり、何とかまだ使えそうなものだけを回収したらしい。レノも彼女たちの手伝いをしようとしたが、バルがそれを遮ってカウンター席に彼を座らせる。バルはカウンターに飾っている葡萄酒を取り出し、コップを2つ机に置く。
「まずは久しぶりの再会に乾杯といこうか……酒は飲めるんだろうね?」
「葡萄酒なら平気だよ……たぶん」
とぷとぷとコップに葡萄酒を注ぐ彼女に、レノは土産代わりに背中の荷物から「林檎(リンゴ)」を取り出し、彼女の前に差し出す。
「何だい、これは?」
「林檎(リンゴ)だよ。見たことは……あるわけないか」
「ああ……初めて見る果物だね。どこの地方の物なんだい?」
「ええっと……そんなには遠くないかな」
場所については老人から口外しない様に言われているので、適当にぼかすとレノはすぐに林檎(リンゴ)の皮をナイフで「兎型」の形にして、バルが用意した皿の上に置く。
シャクッ……
「んっ……味も悪くないけど、しゃくしゃくした食感が堪らないね!!」
「でしょ?」
この世界の果実というのはどうも味はともかく、蜜柑のように食感が柔らかい物ばかりなのだ。そのため、リンゴのような物はかなり珍しいのか、バルはすぐに他の女子も呼び出して食べさせる。
「うわっ、すごくおいしい!!」
「美味いね~」
「すごいっ……こんなの初めて」
美味しそうにリンゴにむしゃぶりつく女部下達に、レノは笑みを浮かべながらもすぐにバルに視線を向け、
「ところで……聞きたいことがあるんだけど」
「うん?何だい?」
「ここ最近、センチュリオンがここいらに現れた噂は聞いてる?」
「ああ……あいつ等かい。最近はよく耳にする犯罪者集団だろ?」
バルは眉をしかめながら、新たにコップに葡萄酒を注ぎ込み、
「センチュリオンがこの街に現れたってのは聞いたことは無いね……けど、最近ここいら周辺で有り得ない「魔獣」や「魔物」が出現しているのはよく聞くね」
「魔獣……」
先ほどの古井戸の中で死んでいた「狼男」の死骸を思いだし、少なくとも3年前はあのような魔獣は出現したことは無い。
これも魔物活性化のせいなのか、それとも何らかの組織が魔獣達をこの地方に放出しているのかは定かではない。しかし、専門家によるとどうも魔獣が自然発生しただけとは考えられず、後者の可能性も否定できないとの事。
「うちのアジトも幾つかやられてね……そのせいで、こんな街中に堂々と新しいアジトを作り出さなきゃいけなくなったんだよ」
「相変わらず大胆不敵だな……盗賊が酒場をやるって……」
「あたしらはよく酒場に立ち寄るからね……買う方から売る方に変わるとは思いもしなかったけど」
お蔭で随分と金を使い果たしたよ、と愚痴るバルは、商品である酒をまた新たに開くと、新しくコップに注ぎ込む。相変わらず酒に強い彼女にレノは呆れてしまう。
「姉御~……荷物運び終わったよ……」
「あ~?ご苦労さん、今日は自由にしていいよ」
「やた!街に行ってくるね!」
「失礼します」
「行って来ます!」
女部下3人は酒場を飛び出し、バルとレノはそれを手を振りながら見送ると、不意に思い出したようにレノは腰に付けた「短刀」を机の上に置く。
「……何だいそのみすぼらしい短剣は?」
「聖剣だよ、エクスカリバーの欠片入りさ」
「はっ、あの伝説の?馬鹿言うんじゃないよ!!」
大声で笑い声を上げるバルにレノは連られて笑いながらも、すぐに真剣な表情で彼女を見つめる。バルはそれを見て、レノが嘘をついてない事を悟り、
「……マジで?」
「マジだよ」
「マジかい……幾らぐらいで売れるかね」
「生憎と非売品だ……それに誰もこれが聖剣の類何て信じないだろ」
恐る恐る手を伸ばしてくるバルから、すぐにも短剣を取り上げて腰に戻す。金目の物なら何でも盗み取る彼女だからこそ、先にこの短剣に金銭的価値は低いことを示す。バルはじっとレノの短剣を見つめるが、すぐに首を振って「そんなもん、取りゃしないよ……」と呟きながらも、ちらちらと見つめてくる。
そこから先は久しぶりの雑談と、バルルが今日の夕方頃に訪れるという話を聞き終え、レノは酒場の2階にあるバルたちの住み込み部屋へと上がる。部屋は無数に余っており、その中の1つの鍵を渡され、中に入り込むむと既に先ほどの女部下たちが持ち込んだ家具が放置されており、その中の1つに布団を見つける。
「よいしょっと……」
ここ最近、野宿続きだったためにレノはすぐに布団の上に寝転がると、即座に睡魔に襲われた――
0
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!
ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。
しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる